上 下
26 / 72

26

しおりを挟む

「ケイン、申し訳ないのですが今日ユーマ様は来られなくなりました」

 今日はユーマと会うはずだった日。いつもの時間いつもの場所にユーマは来なかった。代わりに来たのはいつもユーマと一緒に来ているレンとカイトの2人だけ。

 「ユーマどうしたの?大丈夫?」

 レンの言葉にいままで床に座っていた僕は立ち上がりレンに詰め寄る。

 「ユーマ様は体調を崩されてて今は外出できる状態じゃないんだ。しばらくはここにも来られないと思う」

 レンに詰め寄っていた僕をカイトがそっと肩を掴んで離した。

 「体調崩したってどうしたの、いつもあんなに笑顔で元気そうだったのに。いつ元気になるの」
 「ユーマ様は眠ると悪夢を見るようであまり眠れていないんだ。そのせいで体調が悪くなっている」

 カイトは落ち着いた声で説明してくれる。僕はなんでそんなに落ち着いてるんだ、って思ったけどよく見ると2人とも顔色が悪く疲労がみえる。当たり前だけど2人もユーマのことが心配なんだよな。
 冷静になってきた。

 「悪夢を見る......」
 「寝たと思ったら叫び声をあげて起きるのを繰り返してあまりぐっすり眠れていないようで」

 レンがユーマの姿を思い出したのか泣き出した。カイトがレンを抱きしめて慰めている。それでも泣き止まない。それどころか激しく泣き出した。

 「ユーマ様にはなんとか安眠してもらおうと薬湯を飲んでもらったりしているんだけど今の所効果がないんだ。お医者様も原因が分からないと言っているし。今俺達にはできることは何もない。ケインも気になると思うからたまに様子を言いに来ようと思っているけど、ここには来るよな?」
 「僕は毎日ここにいるよ。ユーマの様子気になるから絶対知らせに来てよ」

 カイトは僕の言葉に頷くと泣いているレンを連れて帰って行った。
 2人には何も言わなかったけどユーマの症状に心当たりがあった。

 「魔法の副作用」

 僕はカイト達が居なくなった後小さく呟いた。
 それについて書いてある本がなくそれがあることしか知らないけど『魔法には使い続けると副作用がある』という一文が魔法を知った本に書いてあった。
 副作用でどんなことが起こるのか、それがいつまで続くのか、どうやったら治るのかが、全く書いてないから分からない。
 ユーマの症状が魔法の副作用とは限らないけどあんなに元気だったユーマが悪夢に悩まされるような原因なんて魔法の副作用としか考えられない。

 「ユーマが苦しんでるのは僕のせい」

 僕がユーマに魔法を教えたせいでユーマが苦しんでいる。自分が嫌になりそうだ。
 僕には副作用らしき症状はない。出やすい人出にくい人がいるんだろう。
 ユーマが苦しんでいる今後悔ばかりしていては駄目だ。今僕にできることをしなきゃ。
 僕はすぐに図書館から家に帰って、今まで読んできた本をもう一度出してきて読み始めた。
 寝食忘れて本ばかり読んでいる僕に家族は今まで以上に変な顔をしている。でもそんなこと気にしていられない。
 副作用について書かれている所がないか必死に探す。読んだことのある本ばかりだが読み飛ばしている所や忘れていることはないか必死に読み直す。
 昼間はカイト達がユーマの様子を知らせに来てくれるかもしれないから図書館に開館時間から閉館時間まで滞在していた。

 「なんでなにも書いてないんだよ」

 僕は目の下に色濃い隈を作っていた。睡眠時間を削るだけ削って調べているのになにも分からない。
 元々魔法について書いてある本が少ないのにその中でももっと少ない副作用について書いてあるものを探すのは無理だったのか。
 今日もふらふらになりながら図書館で必死に探しているけど見つからない。
 最近は図書館の5階の扉の前にいる騎士にも心配されるようになった。

 「ユーマ」

 僕は苦しんでいるだろうユーマを思い泣きたくなった。

 「ケイン!」

 静かなはずの部屋にレンの声が響く。それに注意しつつも自身も声が大きいカイトの声も聞こえる。2人ともなにかいつもより興奮している。

 「ケイン、ユーマ様の状態が落ち着きました。ケインに会いたいと言っていますよ。明日ここに来ますからね」

 レンのその言葉を聞いて僕の表情が一気に明るくなった。

 「ユーマここに来れるくらい元気になったんだ。よかった。よかったよぉ」
 「ケイン泣かないで」

 僕は嬉しすぎて泣いてしまっていた。僕の涙が移ったのかレンも泣いていた。2人して大泣きしている。カイトが泣きすぎてしゃっくりをしている僕達の背中を優しく撫でてくれていた。それでも僕達はなかなか泣き止めずにいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然ですが私とんでもない世界に転生したようです…!

ルル
恋愛
日本生まれの日本育ちの私が転生した先は男女比20:1の女性が圧倒的に生まれにくい異世界だった。それだけでもビックリなのに更に驚くべきことにこの世界男性だけ美醜逆転してるみたいで、日本人的…というより地球人の一般的美的感覚を持つ私では正直なかなか受け入れられない事が山盛りです。 そんな私がとある男性と知り合って関わっていくうちになんだかんだありながらも結局幸せになるまでのお話。 ※主人公が幼女の時から始まるので恋愛要素はある程度成長するまで薄いかもです。 ※R18要素は最後の方になるかも?R18の場合は*をつけます。 ※タグは今後追加する可能性あります。 ※更新はゆっくりな予定です。 ※ご都合主義&作者の自己満足の為、合わないなと思われましたらそっとページを閉じて下さい。 ※主人公はまだ未定ですが、今後作中に一妻多夫の表現が出てくると思われるのでタグを付けておきました。

異世界では総受けになりました。

西胡瓜
BL
尾瀬佐太郎はある日、駅のホームから突き飛ばされ目が覚めるとそこは異世界だった。 しかも転移先は魔力がないと生きていけない世界。   魔力なしで転移してしまったサタローは、魔力を他人から貰うことでしか生きられない体となってしまう。 魔力を貰う方法……それは他人の体液を自身の体に注ぎ込んでもらうことだった。 クロノス王国魔法軍に保護され、サタローは様々な人物から魔力を貰うことでなんとか異世界を生き抜いていく。 ※アホ設定なので広い心でお読みください ※コメディ要素多め ※総受けだけど最終的には固定カプになる予定

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

処理中です...