戦国征武劇 ~天正弾丸舞闘~

阿澄森羅

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第五章

第29話 「何にせよ、全ては一矢万矢が片付いた後だの」

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「雲ひと――ふた――みっ――えぇと、あんまりない青空だ!」
「結構、雲が出とるの」

 早朝の空を見上げた弥衛門やえもんの前向きな発言を、孫三郎まござぶろう一蹴いっしゅうする。

「雨が降らなきゃ、それでいい」
「降られると銃使いは役立たずじゃからな」

 静馬しずまの発言に、ユキが半笑いで乗っかってきた。
 それに対し、同じく銃を使う孫三郎が反論する。

「ワシは刀と槍と弓も使いこなせるが」
「俺の銃は土砂降りでもなければ撃てるぞ、それに、印地いんじ(投石)や手裏剣も得意だ。多分、アトリよりも上手い」
「私だって狙いは六割方外しません。三間(約五メートル半)までの距離なら」
「その近さなら百発百中を狙わぬか」

 ユキの言葉に、一同から乾いた笑いが上がる。
 アトリの場合、至近距離なら三歩進んで殴りつけるのが最強の攻撃だと思うが、本人は忍具にこだわりがあるようなので、静馬はそこには触れずにおく。

「敵は、総勢で何人くらいかの」
「情報源によって数はバラバラでしたが……最も少なくて三十四か五で、最も多くて三百を超えるとのこと」

 孫三郎からの問いに、アトリは十倍近い開きがある数字を並べる。

「幅があり過ぎだの」
「信憑性が高い筋からの情報では、六十弱というのと七十程度となっていました。おそらくは、この辺りが正解でしょう」

 その数字が盗賊団の人数として多いか少ないか、静馬には判別がつかない。
 とりあえず、五人――いや四人半で挑むには多過ぎるというのはわかる。
 少なからぬ緊張を覚えていると、孫三郎がいつもの調子で言う。

「なぁに、全員が手練れでもあるまい。六十七十と集めたところで、人並み以上に使えるのは恐らく十かそこら、精々が十五といった辺りだろうて」
「そうかも知れんが、数をたのんだ連中は本来の力を超えた動きを見せもする。油断は禁物じゃ」

 孫三郎の楽観論をユキが真顔で牽制けんせいする。

「いくら下手糞でも、五人六人の集団が銃を撃ってきたら、かなり危なっかしいね」
「そういう時は逃げる、無理なら隠れる、ですよ」

 弥衛門の危惧に、アトリが大雑把おおざっぱな対処法を教える。

「とりあえずは、奇襲によって数を減らすのを第一、そして集団を作らせず分断して各個――おい静馬、何を笑っておるのじゃ」
「いや、何でもないんだ。続けてくれ、ユキ」
「むぅ……分断して各個撃破を狙うのが第二。息の根を止めるよりも、深手を負わせて戦闘力を奪う。これが第三じゃな」

 ユキが戦闘の方針を説明していると、弥衛門が疑問の声を上げた。

「第三にはどういう意味が?」
「目を潰せば狙いは定まらず、脚が折れたら動けなくなり、腕を斬られたなら武器は持てん。戦場でそうなるは討ち死にと同じことだの。そして、傷を負った仲間を助けようとする者がおれば、それだけ攻撃の手数も減る」

 ユキに代わって、孫三郎が端的に答える。
 そんなやりとりに、静馬はどうしても唇が緩んでしまう。
 戦いにおもむく高揚感に包まれながら、皆が冷静にそれをぎょしている様子は、見ていると自然に笑みが込み上げてくる。
 負ける気がしない、とはこういう気分なのだろうか。

 起伏の激しい山道を移動し続けた前回と比べると、平坦で整備された道を行く今回の旅は格段に楽だった。
 途中には町も宿も多く、食事や水の確保にも困らない。
 それでも歩き続けていれば疲れるので、時々は休憩を挟みながら東へと進む。

「静馬、お主は『射貫いぬき』を知っておるか」

 その日、昼食を終えての休憩中、不意に孫三郎が切り出してきた。
 静馬が首を傾げると、孫三郎は一発の弾丸を懐から取り出し、それを放り投げてくる。

「それが射貫だ。普通の鉛弾との違いはわかるか?」
「色が違う……混ぜ物か。普通の弾よりも僅かに軽い気もする」
「最も違うのは硬さだの。名前の通り、甲冑かっちゅうをも射貫いぬく程の代物だ」
「へぇ、そんなにか」

 静馬は手の中で射貫を転がしてみる。

「決戦に備えて、そいつの作り方を伝授してやろう」
「ん、それは有り難い」

 ユキ達三人は、訓練がてら狩りをすると言って、近くの森に入ったまま帰って来ない。
 そんな手持ち無沙汰ぶさたなのもあって、静馬は孫三郎に弾丸作りを教わることにした。

「では静馬、弾作り用の道具一式と、北ノ庄で買った鉛とすずを用意せい」

 言われるままに荷から鍋と鉛ひしゃくと弾型、そして鉛と錫の小板を取り出す。
 炊事に使ったカマドを再利用して火を焚き、弾作り用の鍋を火にかける。

「作り方は至って簡単でな。普通に弾を作りつつ、鉛をかす時に錫を一緒に融かすだけだ。ただ、錫の方が融け難いので注意がいる。分量はまぁ……こんなものかの」

 孫三郎はテキパキと作業を進め、融けた銀色を弾型に流し込んでゆく。

「流石に手馴れている」
「何十年もやっとるでな。ワシほど経験を積んでおれば……そうだな、静馬の使うそいつが銃身の短さ故に威力に難がある、なんてのもわかるぞ」

 静馬は反射的に腰の銃に手を当て、溜息交じりにかぶりを振る。

「……かなわんな、お主には」
「この間の有田との一戦で、そんな弱点が見えたのが気になっておったのだ。まぁ、あんな怪物じみた筋骨の持ち主はそうおらんし、鎧武者を相手にする場面もそうなかろうが、イザという時への備えはあっても困らんしの」

 くすんだ銀の弾丸が二十発も出来上がった頃、三人が森から戻ってきた。
 ユキは手に弓、弥衛門は藤城ふじしろ達と戦った後で拾った、銃身が短めの古びた銃。
 そしてアトリは、きじの他に見慣れない何羽かの鳥をブラ提げている。

「静馬! 雉を撃ったぞ、雉!」
「おお、でかいな」

 雉は飛ぶより走る方が得意な鳥だし、狩るのはそう難しくもない。
 だが弥衛門の上達する速度は中々のものだ、と静馬は感心する。

「ふむ、あの子は筋が良いな」
「俺よりもお主が稽古を付けてやった方が、もっと上達するのではないか?」
「何にせよ、全ては一矢万矢が片付いた後だの」

 孫三郎の言葉に、静馬は黙って頷いた。
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