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旅の終わり編

205 ヨルグの街

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 あっという間に半月が過ぎ、千尋達一行がザウス王国アルテリアへと出発する日がやってきた。

 これまで観光ついでに買ったお土産を大量に荷台に詰め込み、ゲートに移動してあるヘリオスの前でクリムゾン幹部達と向き合う。
 その背後には多くの人々。
 この日も朱王が出発する時と同じように大勢のクリムゾンメンバーが見送りに集まってくれたようだ。

「皆さん、いろいろとお世話になりました。とても楽しい時間を過ごせました。また来た時はよろしくお願いします!」

 ミリーが代表して簡単な挨拶をする。

「いつでもお待ちしてます。我々クリムゾン一同はミリー様の、皆様の明るい未来を願っております」

 ダンテがミリーに対して挨拶を返し、それに続いて誰もが「お元気で」「お気を付けて」と声をあげている。

「イアンにはこれを。千尋とリゼが作ってくれた魔剣ルインだ。精霊を移して使ってくれ」

「鞘は店のオーダーメイド品だけどねー」

「大事に使ってよね!」

 蒼真がイアンに手渡したのは両手直剣の魔剣だ。
 サイズとしては普段使っている一級品のミスリル剣とほぼ変わらない。
 ただその装飾と輝きは一級品をも遥かに凌ぐ。
 オーダーメイドの鞘も魔剣に合わせて豪華で美しい作りとなっているようだ。

 受け取ったイアンは鞘を払って魔剣を見つめ、その美しさに感動を浮かべる表情をしている。

 蒼く着色された剣身には金色の装飾が施され、薄く研ぎ澄まされた刃を金に輝く。
 グリップの後端側は濃紫となり、剣身へ向かうにつれてグラデーションとなっていて美しく妖艶な雰囲気を醸し出す。
 ガード部分は厚みを抑えてはいるが幅を広くとられた翼のような形状をしており、こちらも濃紫に金色の装飾がこれでもかという程に施されている。
 ポンメルは金色単色となり、その中央には宝石状のデザインが七色の着色とその上から蒼く色を重ねてブルーオパールのような輝きを放っている。

 しばらく見つめるイアンと幹部達。
 我に返ったイアンが魔剣を鞘に納めて姿勢を正して礼を言う。

「これほどまでに美しい剣を…… ありがとう。魔剣ルインはオレの生涯の宝となるだろう」

「ん? いや、それ使えよ!? お前もバルトロさんと同じような事言ってるからな!?」

「む…… いや、しかしな」

 イアンも聖騎士長バルトロにだいぶ毒されてるなと思う蒼真達。
 バルトロも魔剣を受け取った時には家宝にすると言い、使用を始めてしばらくは他の聖騎士の剣と斬り結ぶとマジギレする程大事にしていた。
 実際は強化した魔剣は傷も刃こぼれもそうそうする事はないのだが。

「使わないなら持って帰るけど? オレの三本目の魔剣にする」

「わ、わかった!! ありがたく使わせてもらう!」

 焦ったイアンはすぐに擬似魔剣を外し、腰に魔剣を提げる事にした。

 車の前席に千尋、蒼真、アイリ、後部座席にはミリー、リゼ、エレクトラが乗り込む。

「じゃあ皆んな! まったねー!!」

「またのお越しをお待ちしております。道中、お気を付けて」

 千尋の雑な挨拶にダンテが丁寧に返して一礼すると、クリムゾンの全ての者達が礼をする。
 魔力球を飛ばしてゲートを起動させて出発だ。



 真っ暗なトンネルに明かりが灯されていき、南へと向けて車を発進させる。
 少し乗り心地は悪くはあるが、これまでより広い車内はとても快適だ。

 トンネルを抜けて隠し通路が閉じるのをまた見届け、農道を南門街へと向かって走り出す。

 少しずつ暖かくなってきた事もあり、村人が畑を耕す姿や種を撒く姿などが見受けられ、そのうち農作業もやってみるのもいいなと話しながら見える風景を楽しむ。
 もちろん後部座席では映画を観ながらお菓子を食べてと好き勝手過ごしているのはいつもの事。



 南門街はそこそこに大きい街となっているのだが、お土産は各国やゼス王国で大量に購入している為要らないだろうと、今回も寄り道する事はない。

 ゆっくりと街中を進んで行き、門の前では衛兵に冒険者証を見せて通り抜けた。
 これは国王の許可を持つ朱王であれば顔パスとされるのだが、朱王の関係者としてはわかったとしても身分証明の提示は本来必須となる為だ。



 今回、ゼス王国からザウス王国までであればおよそ八時間もあれば到着できるのだが、途中にヨルグという街があるのでここに一泊する予定だ。
 以前千尋達が出会ったヨルグのゴールドランク冒険者パーティーにまた会ってみたいと思っている。

「クリム達は死んでないだろうな?」

「いや、あのパーティーだってゴールドなんだよ? 無茶してなければ生きてるよ」

「その方達はそれほど強くはないパーティーなんですか? ゴールド冒険者であれば相当な実力はあると思うのですが」

 アイリは会った事がないのでクリム達の事を知らないのだ。

「パーティーでオーガに勝てないくらいだからな。ゴールドとしては力不足と思う」

「そうだよねー」

 と語る蒼真と千尋に、アイリは少し困った表情を向ける。
 蒼真が言うオーガにパーティーで勝てないというのは何も不思議な事ではなく、それがゴールドランクの冒険者であってもそうそう倒せるような魔獣ではない。
 それこそ王国の聖騎士が部隊を率い、魔術師団に協力を仰いだ上で戦わなければならない程の強力な魔獣なのだ。
 それを冒険者パーティーのみで討ち倒す事ができるとすれば、王国内でも英雄とされるような冒険者達と言えるだろう。

「ええと…… それでも役所からきちんとした実力を認められてゴールドになった方々ですし、もしかしたら不意打ちとかあったのではないですか? 善戦できるだけの実力はあるかもしれません」

 適当な事を言ってみるアイリだが、普通オーガはゴールドでも倒せませんよなどと言っても理解してもらえないだろう。
 一応フォローするように話してみたようだ。

「確かに! オーガは不意打ちしてくるかも!」

「そうだな。多少頭も回るはずだしな」

 二人共感覚が大きくずれているので理解してもらえないかとも思ったのだが、なるほどと納得してくれたらしい。

「じゃああの四人も強化してやろーっと」

「魔力練度次第だがな」

 またいつもの強化をする事を決めたようだ。



 昼前には街道から左に少し逸れた位置にあるヨルグの街に到着し、一度車から降りて街の景色を眺めてみる。

 ヨルグの街の背後には広い川が流れており、その奥側は山になっている。
 街道側は鬱蒼とした林になっていて、この街の周辺には様々な魔獣がいることだろう。

 再び車に乗り込んで走り出し、衛兵に冒険者証を見せてからそのまま車を進め、街人達が驚愕の表情で車を見ているが気にせず役所へと向かう。

 役所の前に車を停車させると、役所の中からは複数の冒険者達が武器を手に出てきていたようだ。
 その表情には驚きと怯えが見てとれるが、それも気にせず車から降りる一行。
 役所の方を向くと二十人程の冒険者達と役所そばには職員さんが四人が立っており、冒険者達の中に見覚えのある顔があった。

「あっ! クリム見ーっけ!」

「なっ!? オレ!? む…… ん、ああ!! 千尋か!! それと蒼真!? リゼ!? それとミリー!? ……だと思うが獣耳なんて生えてたかな?」

 首を傾げながら前に出て武器を納めるクリム。
 それに続いて前に出てきたのはランカとレンジア、カミーリアだ。

「久しぶりだな。生きてたようで安心した」

「勝手に殺さないでくれよ。それより君達は…… とんでもない登場の仕方するな」

「あははー。車なんてこの世界じゃ見る事ないだろうからねー」

「くるま? よくわからないがその乗り物? の事かは知らないがまぁいい。せっかく会いに来てくれたんだし話しがしたい。酒場に行こう」

「おっけー。車はここに置いててもいいよね? オレ達の魔力じゃなきゃドアも開かないしこのままでもいいか」

 と、役所の真ん前ではあるが車をそのまま停めて酒場へと移動する。
 あとで宿のそばに移動すればいいだろう。



 まだ昼前という事で、酒場ではあえて果実のジュースを注文して昼食もオススメを食べる事にした。
 やはりヨルグの料理は少し辛めの味付けで、これはこれで美味しいと食事の手もどんどん進む。

 クリム達からあのオーガ討伐依頼以降の話なんかも聞きながら、千尋達は今回のこの旅での話をいろいろと話し、久しぶりの再会に酒も飲んでいないのに大いに盛り上がった。

 その話の内容から、クリム達の実力はそれほど悪くはなく、難易度8程度であればソロでも達成が可能なのではないだろうかと思われる。
 普段からパーティーで行動している為、ソロでのクエストはした事がないそうだが、充分な実力を感じさせる話方だった。
 本当はやってはいけない事なのだが、四人にその場で魔力球を放出してもらい、魔力練度が充分である事を確認してから武器の強化を決める。



 魔法の練習をしてもいい場所にという事で、街から川沿いに1キロ程離れた位置まで移動した。

「武器の強化とはどういう事だ?」

「強化すんのになんで街から出る必要あるんだよ。普通は鍛治師…… ミスリルだから切削職人のとこにでも行くんじゃねーのか?」

 クリムとランカだけでなくレンジアやカミーリアも意味がわからないと首を傾げている。

「んじゃオレから説明するとして、この武器の強化でみんなには精霊魔導師になってもらうよ」

 これまで各国でしてきたように、クリム達のミスリル武器も擬似魔剣化して魔法陣を組み込み、精霊と契約してもらってあっという間に精霊魔導師が完成した。

 精霊魔導師となったクリム達には性能を試してもらい、その精霊魔導の威力に満足してもらえたようだ。
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