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ウェストラル王国編

189 国王と王子王女

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 旅を楽しむはずのウェストラル王国も、結局は仕事をする事となってしまったが仕方がない。

 反乱のあった翌日は国王が他の貴族達に仕事を割り振る為に走り回っているだろう。
 丸一日は暇がある。
 千尋とエイミー、朱王とウルハは昨日と同じく魔剣作りに作業小屋へと向かう。



 残された蒼真達はどうしよう。
 だが昨日見たカミンの戦いを思い返し、今後の自分達の強化について意見を出し合いながらイメージを固める事とした。

「カミンさんはウィンディーネを取り込んで悪魔の姿になったんだよな? オレ達もやろうと思えば変身ができるって事だ」

「ミリーの場合も出来るのかしら。爆炎竜化はホムラを着るイメージなんでしょ?」

「まぁカミンさんやゼス国王様のとは違いますね。あくまでも巨大化したホムラを着る感じです」

 しかし巨大化した精霊を着るという行為は蒼真達他のメンバーも出来ない。
 シルヴィアとの訓練中に何となく試した事があったのだが、ただ覆い被さるだけだった。

「二精霊と契約してたらどうなるのでしょう。私はイザナギとイザナミの雷精霊ですけど、リゼさんは水精霊と氷精霊ですし」

「だが水と氷は同系統だと思うがな」

「ねぇラン。精霊の事教えてくれない?」

『なぁに? なにが聞きたいの?』

 全員と会話が出来るようになった上級精霊ランであれば、いろいろと教えてくれるのではないか。

「ランは蒼真を精霊化できたりするの?」

『ん? 蒼真は人間であり精霊でもあるわよ?』

 最初から意味わからん回答をしてきた。
 蒼真が精霊でもあるとは一体どういう事なのか。

「オレが精霊ってなんなんだ?」

『私の力をそのまま使えるから』

「それでなんでオレが精霊なんだ?」

『風だから?』

 ランもよくわかっていないのかもしれないが、蒼真が精霊であるランと同じ魔法を発動できるという事は、精霊と同等の力を持つのは当然だ。
 そして精霊とは属性の持つ力そのものが具象化した姿、そこに自我が芽生えたのが精霊となる。
 蒼真は人間としての自我を持ち、精霊と同じ力が使えるとすれば精霊と呼んでもいいのだろう。

「ランの力をそのまま使える、風そのものがオレ…… それが精霊…… ふむ。まあわからんでもない」

 なんとなくだが理解した蒼真はとりあえず納得する。
 聞くだけ無駄だと判断した可能性もあるが。

「もしオレが精霊化するとしたら出来るのか? 昨日リルフォンで見たカミンさんの変身みたいに」

『んー、魔法陣があれば出来るかも! わたしと蒼真が一つになれる!』

 上級魔法陣の事だろう。
 蒼真のエアリアルを発動した精霊魔導は、全てを斬り裂く断空だ。
 しかしながらその性質は攻撃のみに特化したものであり、刀で受ける以外防御には全く利用出来ない難点がある。
 以前のデヴィル戦でも身体能力の補助以外に、防御に使われる風魔法は発動しなかった。
 もしかしたら精霊化はその欠点を補ってくれる可能性もあるだろう。
 蒼真は自分のイメージを固める為に目を閉じて集中し始めた。



「ねえラン。私の精霊は水と氷の二精霊なんだけど、同じように精霊化って出来るのかしら」

『さぁ? リゼのイメージ次第だと思うけど?』

 よくわからないらしい。
 だがイメージ次第という事であれば出来ないわけでもないのでは?
 水と氷、温度の違いだけだとすれば同質の精霊と考えてもいいと蒼真も言う。
 やはりイメージが大事なのだろう。
 リゼも頭の中にイメージしたシズクとリッカを見つめながらよく考える事にした。



 アイリもランに問いかける。

「私は雷属性の二精霊なんですけど精霊化出来ると思いますか?」

『んん? みんな精霊化しないといけないの? なんで? なんで精霊化したいの?』

「私は今よりも強くなりたいんです!」

『うん。強くなればいいじゃない。それでなんで精霊化したいの?』

 おや? と首を傾げる事になったのはアイリだけではない。
 集中している蒼真やリゼは聞こえていないかもしれないが、ミリーやエレクトラは不思議に思う。
 ランの言い方だと精霊化と強さがイコールでは繋がらないような口振りだ。

「精霊化すれば強くなれるのではないのですか?」

『んー、強くなるけど弱くもなるかも。精霊化だけが強さじゃないし、あなたが雷精霊をどうしたいかじゃないの?』

 アイリの戦い方は雷狼を顕現させて、強力な一撃を浴びせる単発式の戦闘方法だ。
 雷狼のチャージの間は迅雷による雷撃を放つ事が可能だが、全てが一撃必殺の技ではない。
 精霊化するだけが強さではないとすれば、また他にも強くなる方法はあるのだろう。
 アイリも少し考えてみる事にした。



 ミリーとエレクトラもランの言葉から精霊化以外の強さについて考える。

 真っ先に思いついたのはミリーの爆炎竜化だろう。
 変身せずに着るという方法もまた強さの一つだ。
 しかし爆炎竜化は普段のミリーとは違う部分もあり、範囲の魔力が使えなくなるのだ。

 エレクトラの風精霊ルーシーは、綺麗な女性型の精霊で鳥の羽根のような羽毛の翼を持つ小さな天使のような姿をしている。
 このパーティー内にいればまだまだ自分が強くなれる事もあり、今後必要となれば精霊化を視野に入れていくのもいいだろう。



 しばらくして目を開いた蒼真は、ちょっと一人で試してくると空へと飛び立ち、それからリゼもまた海へと向かって飛んで行った。

 アイリは考えがまとまらずに塞ぎ込む。
 精霊化を考えていたはずなのに精霊化以外の強さと言われてもすぐに思いつくものでもない。
 蒼真とリゼがどこかへ向かったのであれば、何かイメージ出来るものが見つかったのだろう。
 また蒼真との差が開いてしまうと思うと落ち込むアイリだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日からは朱王は王宮で政務の手伝いだ。
 一介の商人が国の政務に携わるなど、国王の判断としては正気の沙汰とは思えないのだが、貴族連中も朱王を取り込みたいという国王の狙いも何となく察して、特に何も言う事はないようだ。

 王宮で王子や王女達を前にして、今後行う政務についての説明を国王から受ける朱王。
 そして朱王は国王の言葉から思う事がある。
 王子達への罰を何故私も受けなければならないのかと。
 要請されれば協力すると言った手前、渋々ではあるが協力はするのだが。

 この日の午前中は、国王が訓練を予定している三日間の朱王と王子達の仕事について説明を受ける事となっている為、各所を回って仕事を覚えていく。
 朱王はただ説明を受けるだけだが、真面目な王子王女達はメモを取りながら真剣に国王の説明を聞いている。

 本来の国王の執り行う政務だけに限らず、投獄された公爵、侯爵達の仕事も熟さなければならない為、その仕事の量は半端なものではない。
 朱王でさえこんなにあるのかと頭を抱えたくなる程には仕事が多い。
 この仕事量を朱王と王子達の六人で分担して行うとすれば、通常の作業では時間が掛かり過ぎる。
 王子達にはまだリルフォンを渡していなかった為、仕事を円滑に進める為渡しておく。

「これ耳に付けて操作方法を脳内ダウンロードしてね。それと今から自動計算プログラム作るからちょっと待っててくれるかな……」

「これはリルフォンですね!? 国王様と聖騎士達が受け取っていたので羨ましく思っていたんです! ありがとうございます!」

「「「「ありがとうございます朱王様!」」」」

 ノーラン王子が礼の言葉を告げると他の王子王女も続く。
 こうして見るとどの王子も王女も仲の良さそうな兄妹のようだ。



 朱王が自動計算プログラムを作っている間に、王子達はリルフォンの使用方法を脳内ダウンロードし、それぞれ通話やテレビ通話、メール機能や撮影機能など、様々な機能を楽しんだ。

 自動計算プログラムは数分後には完成し、王子達はリルフォンにプログラムをインストール。
 数値と計算式がイメージするだけで構築され、脳内視野にその情報が書き込まれると同時に答えが算出される優れもの。
 国王にもインストールしてもらって今後有効活用してもらおう。
 ちなみに計算速度は朱王の脳とリンクしているわけではない為、その個人の知能に大きく左右される部分がある。
 間違った答えは算出されないものの、計算速度に個人差は出てくるのが難点だ。
 今後ある程度データを溜め込んで、元々ある答えから問題と解答を繋ぐ事で計算速度も上昇するので問題はないはずだ。
 そして慣れてくると視覚から数値データを取り込むだけで、計算式を構築しなくとも必要な解答が算出される事となる為、使用者の必要に応じて成長するプログラムとなるのだ。

 国王も王子達もこれまでの仕事が遥かに効率的に処理できるようになると、この便利な機能に驚きが隠せない。
 朱王としては自分が処理する仕事量を減らしたいが為に作ったプログラムなのだが。
 国王達に思った以上に喜んでもらえたので、朱王は各国の国王にも自動計算プログラムを送信。
 役立ててくれれば良いなーと送っただけだが、すぐに感謝のメールが大量に届く事となった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 午前中の国王による説明が終わり、昼食を朱王邸で摂る事にした。
 千尋達もノーラン王子とストラク王子とは多少接した事はあるが、ルイン王女とエイラ王女、ルファ王子とは王宮で見ただけの為、食事を摂りながら少し仲良くなってもらえばいいだろうと考えた為だ。
 朱王の食の魔石から多くのインスピレーションを得たベイロンは、地球の料理を再現してみたり新たな料理を生み出してみたりと様々な料理を作ってくれる。
 王子達が知らない味、それも美味しい食事に打ち解けるのも早いだろうと言うのはベイロンからの提案だ。
 やはり見た事も食べた事もない味に満足した王子も王女も、楽しそうに千尋達と会話をする。
 ベイロンの狙い通り少しは打ち解ける事が出来ただろう。
 そして有りもしない噂が流された事で誤解もあっただろう王子達も、国王からの話によりこれまでの噂がジェイソンの手の者によると説明して、誤解を解くと同時に兄妹仲をまた取り戻せたかもしれない。



 食事を終えると朱王は王宮へと向かって一人で政務に就き、国王と王子達は千尋達の特訓を受ける事となる。

 その前に王子達の武器を強化しなければいけないと、それぞれの持って来た直剣に各エンチャントと精霊を契約をしてもらった。
 全員が貴族用ドロップを使用している為、上級魔法陣を組み込んだ。

 ちなみにルイン王女は火属性を選択し、エイラ王女は風属性、ルファ王子は雷属性と全員が違う属性を選択した。
 水の国であるウェストラル王国で、水属性以外を選択するというのは王座を狙ってはいないのか。
 今後国王となるのは誰なのかと疑問に思うが、ノーラン王子はストラク王子を推薦すると語る。
 欲のない長男だなと思うが、言葉数の少ない自分は国王には向いていない。
 ストラク王子は人望もあり、良き国王になるだろうと言うあたり本気で言っているのだろう。
 そして自分は国王を守る剣となるのだと少し顔を赤くして言っていた。
 それならば強くならないといけないなと、ノーラン王子を気に入ったらしい蒼真が直々に特訓をしてくれるそうだ。
 喜ぶノーラン王子とは裏腹に、アイリや他のメンバーは王子を可哀想にと思う。



 強化が終わるといつもの訓練場所へと飛び立つ一行。

 この日から精霊魔導師となった王女王子達には属性を気にせず担当者を割り振る。

 ルファ王子には見た目的に近い朱雀が担当し、丁寧な教え方と加減の上手さから楽しそうに訓練していた。

 ルイン王女にはエレクトラが担当し、年齢が近い事とお互いに王女という事で仲良くなり、友人として今後付き合っていくようだ。

 エイラ王女を担当するのは同じ年齢のリゼ。
 使用人達からの嫌がらせを受け続けたエイラ王女は、どうしても他人に対しての警戒心が強い。
 そこを気にせずズカズカと歩み寄れるのがリゼである為、余計に警戒心を強めるエイラ王女。
 しかし怯えるエイラ王女に嗜虐心が刺激されたリゼはグイグイと歩み寄り、ついには泣き出してしまった。
 仕方なく千尋が慰める。
 すると優しそうな千尋にはエイラ王女も警戒を解き、今度はリゼが追い詰められる事になっていたが。
 結局は千尋と交代して、リゼは国王の訓練相手となって少し涙目になっていた。

 ノーラン王子の訓練に付き合うのは約束通りに蒼真だ。
 精霊魔導に慣れていないとはいえ、全力で振るう分には蒼真の方がその出力に合わせてくれる為、強力な魔法戦闘となる。
 王子として英才教育を受け受けているのだろう、剣術の腕はなかなかのもの。
 あとは精霊魔法がノーラン王子の意思に沿って放てるかが問題となる。
 ノーラン王子は蒼真に全力で挑み、体力が尽きる度にミリーによる回復を施され、何度も何度も歯を食いしばって立ち上がる。
 思った以上に根性がある王子に蒼真も嬉しそうな表情を浮かべている。

 ストラク王子はアイリが稽古をつける。
 水や氷属性と雷属性とでは相性が悪いのだが、アイリの魔力量を抑える事で問題なく戦闘訓練ができる。
 ノーラン王子同様に剣術の腕は立つはずだが、双剣には慣れていないのかそれ程剣速が速くはない。
 まずは精霊魔導に慣れるべきだろうと一振りの剣で訓練をする事にした。

 国王の相性をする事になったリゼは、渋々ながらも国王と向かい合う。
 ところがハロルド国王の魔法陣を発動したウィンディーネはリゼの思うような水精霊ではなく、巨大な化け物のような精霊だ。
 これは自分にも得られるものがあるだろうと意識を切り替える。
 巨大な化け物と化したコーアンを、水魔法で覆ったルシファーで切り刻み、精霊魔導で挑むハロルド国王を圧倒するリゼ。
 しばらくはリゼの振るうルシファーに翻弄されてしまうハロルド国王だが、その性質を見極めて数時間後にはリゼの精霊魔法に対抗できるまでになっている。
 慣れない精霊魔導とはいえ、高い魔力練度がコーアンの成長を加速させているようだ。
 超高速のリゼの乱舞に倒れながらも、ミリーの回復を受けて何度も挑むハロルド国王はさすがノーランの父といったところだろう。
 攻撃特化のリゼが相手では、ハロルド国王も反撃一つできないのだが。

 そのまま夕方十六時まで訓練は続いた。
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