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ノーリス王国編

129 ノーリスの幹部

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 国王から聖剣を預かって邸へと帰る千尋達。
 代替えには以前カミンが使っていた片手直剣を置いてきたので問題ない。
 サフラが使っていた両手直剣もあるが、ノーリスの聖剣は片手直剣なので同じ片手剣を置いてきた。
 ちなみにこのサフラが使っていた両手直剣も朱王の手によって改造済みで、鏡面仕上げの白銀の剣身に、装飾は金と緑色で仕上げてある。
 さらに宝石のように作った部分には七色魔石で着色し、見る角度によって様々な色を放つ宝石擬きも美しく輝く。



 今夜から幹部達が邸に集まるという事だしロビーにて各々自由に時間を潰して待つ。
 蒼真は暖炉にあたりながら本を読み、朱王は脳内でデータの処理、リゼとミリー、アイリは千尋に習ってビリヤードを勉強中。

 十七時に差し掛かろうというところで五人の幹部達が邸に到着する。

「お招き頂きありがとうございます」

 とオルネスとワイアットはすでに挨拶を済ませているので残りのメンバー。

「はじめまして、クリムゾン緋咲ノーリス支店店長、兼社長のルシェと申します。よろしくお願いします」

「はじめまして、クリムゾンノーリス支部マネージャーのシャルムと申します」

「はじめまして、クリムゾンノーリス支部施設長のターニャと申します」

 千尋達も同じように挨拶を返し、まずはいつものように酒を持って風呂に入ろう。
 外は寒かっただろうし風呂で温まってもらうのが一番だ。



 ノーリスにも露天風呂はなく、男女別々に大浴場があるのみだ。
 しかし全面ガラス張りの外の絶壁側が見渡せる為、景色はとてもいい。
 すでに薄暗くなりつつある空だが、キラキラと輝きだした星空と眼下に広がる山々の景色は楽しめそう。
 体を洗って湯船へと浸かる。
 桶をお盆がわりに酒の入ったコップを浮かべ、冷たいエールで乾杯だ。
 オルネスやワイアットも酒を飲みながら朱王との昔の話に盛り上がる。

 ワイアットは元奴隷でかなり悲惨な生活を送っていたらしく、身体能力の高いミミ族の大人達と同じだけの仕事を常に与えられていたそうだ。
 仕事が終わるまでは食事を与えられず、いつも冷え切った食事をしていたとの事。
 しかしそのおかげもあってワイアットは否が応にもその身体は強くなったという。
 足りない栄養は野山で小型の魔獣を狩り、奴隷達で分け合って食べる事もよくあったそうだ。
 そして朱王の奴隷制度撤廃により、食事と教養、まともな人間としての生活を与えられた。

 オルネスはゼス王国で奴隷をしていたらしく、クリムゾン立ち上げ当初からいるメンバーだそうだ。
 隊長として任されるだけの能力を持ち、誰よりも責任感の強い男だったからこそここノーリスでも受け入れられるのが早かったのだろう。
 歳が同じにも関わらずワイアットもオルネスを尊敬しており、オルネスもワイアットの事を心から信頼している。
 千尋と蒼真のような関係を築けた二人だ。
 朱王も安心してノーリス王国のクリムゾン組織を任せておけるというもの。
 ハキハキとした暑苦しい性格なのは仲が良い証拠ともいえる。



 女風呂もガラス張りの絶景が楽しめるよう同じ作りだ。
 体を洗って湯船に飛び込む獣耳ミリーはご機嫌だ。
 こちらでも桶をお盆がわりに酒盛りを始めるのだが、酒は甘くてシュワシュワなスパークリングワインのようなものを用意してある。
 ルシェは獣耳だが、シャルムとターニャは獣耳なしの普通の人間だ。
 シャルムとターニャは奴隷だったらしく、やはり扱いは酷かったのだという。
 力のない女の子の奴隷であれば水周りの仕事を与えられ、この寒いノーリスで、冷たい水を使っての洗い物を毎日させられていたそうだ。
 寒い冬には氷が張るほどの水で洗濯をしなければならない為、強化の能力も高くなったとの事。
 ルシェは両親を亡くしてからは親戚の家で生活をしていたが、扱いはシャルムやターニャと変わらないものだったそうだ。
 暖かいものは何一つ与えられず、凍える毎日を過ごしていたのだと言う。
 体を洗うには冷たい水を絞った布で拭くだけで、冬場など体の芯から冷えてしまう。
 日差しの暖かい日中に体を拭き、しばらくうずくまる事で体温を維持していたのだそうだ。
 その後奴隷制度撤廃により朱王達に引き取られ、暖かい服に暖かい食事を与えられた事で満たされ、そして施設に作られたお風呂に入った時は涙が止まらなかっと今語りながらも涙を浮かべる。
 この国はとても寒い。
 痛い程の寒さを実感したばかりだ。
 それを思うとこの子達がどれだけ辛い思いをしてきたかと想像するだけで胸が痛む。

「でも私達は今幸せなのです。朱王様に救われた事で私達の心は暖まり、満たされました」

 ルシェだけでなく、シャルムもターニャも今は満たされていると笑顔を見せてくれた。
 だが本当に彼女達が満たされているのか少し疑問に思うミリー。
 リゼやアイリも同じ気持ちだ。
 自分達がノーリスにいる間は共に楽しい時間をすごそうと思うし、まだあるよとも思っている。
 とりあえずお風呂をあがったら楽しい食事の時間だ。

「さぁ! 皆さん行きますよ!!」

 ミリーの掛け声とともにお風呂をあがり、バスタオルを巻いて全員に瓶を手渡す。
 蓋を開けて腰に手を当てて、一気にコーヒー牛乳を飲み干す!

「「「「「「っぷはぁ!!」」」」」」



 風呂あがりのロビーにて。
 千尋達のブロー魔法でサラッサラのふわっふわのツヤッツヤのいい香りに仕上げてもらう女性陣。

「どうですか!?」



 夕食では、朱王の食の魔石で新しい料理を作り出した一流料理人のメルヴィン。
 味の違いはあるものの、その再現度の高い料理に舌鼓を打つ。
 そして他国から運んできた酒を飲み、デザートにはチョコレートのタルトとマカルォンを食べる。
 朱王のガトーショコラが食べたいミリーだが、作らないといけないので今日は我慢。
 美味しい料理と美味しいお酒、甘くて美味しいデザートに満足しないはずはない。

「どうですか!?」



 そしてお腹を満たした後は映画鑑賞会。
 昨夜のうちに朱王がモニターを完成させているので、この日から映画を観る事ができるんです。
 蒼真さんはムルシエさんからコーンを受け取って朱雀とともにポップコーンを大量に作ってます。
 今日の鼻孔をくすぐるこの香り…… スパイシーなカレー風味で作っているようですね。
 リゼさんとアイリさんは甘い炭酸水を作り、千尋さんは果物を絞ってジュースにしていきます。
 そして実況はこの私、ミリーでした!

 一人ずつジュースとポップコーンを持って映画部屋へと向かい、それぞれ席について映画を楽しんだ。
 幹部の女性達は映画を観るのが初めてで、使用人達と一緒に驚きの声をあげてからその物語にのめり込んでいた。

「どうですか!? 満たされましたか!?」

「もう…… すごい感動しましたぁ!!」

「とても面白かったです!!」

「最高です! 今すっごく幸せですぅ!!」

「ふふん、そうでしょう。満たされるっていうのはこういう事なんですよ!」

 三人の言葉を聞けてミリーも満足そうだ。
 ブロー魔法も料理も映画も、ミリーは何一つ携わっていないのだが、何故か誰よりも自慢気だった。
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