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クイースト王国編

074 いざクイースト王国

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 朝六時。
 今日は全員早起きだ。
 この街の朝を満喫して街を出る事にする。

 千尋の魔力操作はいつも通り。
 蒼真とアイリは屋上から見る景色を楽しみながら昨日の話しをしているようだ。
 リゼとミリー、朱王はコーヒーを飲みながら朝日に照らされる山々を眺めている。

「朱王さん。今日は地底湖を見てから出発しないか? アイリから聞いたんだが絶対に見ておいた方が良いと思う」

 蒼真から提案し、アイリも後ろで拳を握りしめてウンウンしている。

「アイリは蒼真君と一緒に見たいの?」

「はい! 是非蒼真さんにも見てほしいです!」

 たぶん朱王の意図はアイリに伝わっていないが、嬉しそうに言うアイリの笑顔がとても眩しい。

「じゃあ皆んなで地底湖を見てから行こうか」

「わーい!! 昨夜リゼさんからも聞いてて行きたかったんですよー!!」

 とミリーが叫ぶ。
 カルハからクイーストまでは五時間程で着く。
 午前中に地底湖を見て昼頃に出発すれば問題はないだろう。

 朝食を食べてチェックアウト。
 弁当を購入し、車にお土産を大量に積んで出発だ。





 車での移動はやはりとても速い。
 昨日一時間以上も歩いた距離を数分で着いてしまった。
 車を降りて弁当とジュースを持って地底湖を目指す。

 青白い光に包まれた空間を全員で進んでいく。
 雰囲気もあって期待が高まる。



 拓けた空間に広大な湖。地底湖がそこにあった。
 千尋や蒼真も息を呑むほどの美しさ。
 朱王やミリーも魅入っている。

 神秘的、幻想的な空間。青白く輝く世界に透き通った湖。太陽光が差し込む湖はエメラルドグリーンに輝き、ゴツゴツとした岩壁は白く輝く。
 圧倒的な美しさをもつ景色に言葉を失う一行。

 千尋の目を見て連れて来て良かったと思うリゼは、手を繋いで一緒に景色を見つめる。
 この景色を見て千尋はどう感じているのか気になるところではあるが、今はこの時間を楽しもうと思うリゼ。

 蒼真の表情を見て嬉しく思うアイリ。
 アイリの知らない事をたくさん教えてくれた蒼真。
 この景色を見て何を思っているのだろう。
 普段見せる事のない蒼真の表情を見れてアイリも満足だ。

 ミリーは無意識で朱王の腕を掴む。
 目の前に広がる景色に感動した。ミリーもこんな気持ちになるのは初めてだった。
 美しい景色を大切なパーティーで一緒に見る。
 そして自分の隣には朱王がいて、言葉にはできない感動に涙も浮かぶ。

 全員がしばらくこの景色を楽しんだ。



「すげー感動したよ。こんな景色を見られてほんと良かった」

 三十分程も見つめていただろうか。千尋が口を開いた。
 リゼやアイリの目には涙が浮かび、ミリーはボロボロと涙を零していた。
 千尋はリゼを抱きしめ、リゼは喜びのあまり叫びそうになるのをグッと堪える。
 朱王は涙を流すミリーの頭を撫でる。
 アイリが蒼真を見つめると、フイっと目を逸らして少し荒くアイリの頭を撫でる蒼真。
 アイリはなんだか嬉しい気分になった。

 そして朱雀。
「綺麗じゃのー」と皆んなが満足するまで大人しく景色を見ながらお菓子を食べていた。



 その後は皆んなでいろいろな角度からこの地底湖の景色を楽しみ、最後に少し早めの弁当を食べた。
 やはりこの美しい景色を見ながら食べる弁当は格別だった。
 なんといってもミリーの大好きなお肉の弁当。
「美味しいーーーー!!!」と叫んで、響き渡る声に皆んなで笑った。
 お菓子を食べて再び叫ぶ朱雀だったが。

 最後に記念撮影…… とは言っても記憶に焼き付けるだけだが。
 できることなら全員で写したいが不可能だ。
 朱王が他の誰かの記憶と織り交ぜて記憶の動画を作ってくれる事を期待しつつ順番に入れ替わる。
 地底湖であるため背後の太陽光が強くて顔が暗く見えてしまう。
 仕方なく光の魔石を使用して顔を照らす。
 はっきりとした全員の表情を記憶に焼き付けていく。
 まぁこんなやり取りも記憶に残るので動画に残すのも悪くない。

 朱王は現在魔石のイメージを紙に転写する方法を模索中。
 千尋の魔石と朱王の魔石を組み合わせ、条件をうまく出せれば写真を作る事も可能だろう。
 クイーストに着いたら販売をも見越してカメラを作ろうと決める朱王だった。



 昼食後はいつも通りお菓子を食べながらくつろぎ、昼を過ぎたところで地底湖を後にする。
 名残惜しいがまた来ようと心に決めて車に乗り込む。

 蒼真が運転席に乗って出発し、女性陣は朱雀も交えて前回同様映画を楽しんでいる。
 この日の流れる音楽は蒼真が用意したものだ。
 一番最初に演歌が流れてびっくりしたが、蒼真の祖父が好きだった曲を入れたそうだ。
 どうやら蒼真は爺ちゃん子らしい。

 しばらく草原の道を走り続け、竜車とすれ違う際はゆっくりと走りながら手を振る。
 驚愕する御者さんと乗り合いの人々の表情が印象的だった。



 一時間程で山の麓まで辿り着き、ここからは山道を走る事になる。
 四輪駆動のオフロード車は山道でもグイグイと進んでいく。山道も竜車が通りやすいよう広く平らに整備されている。
 舗装路ほどではないが、地属性魔法で均された道は快適に走る事が可能だ。
 急ではない坂道をどんどん登り、高度が高くなるにつれて後部座席の女性陣が騒ぎ出す。

「なんか耳がパーンてします!!」

「はい、パーンてします!」

「そうね、音も聞こえ辛いし嫌な感じ」

 朱雀は平気そうだが。
 地球にいれば車で山道を走る事も多々あるが、アースガルドで走る車はこの一台のみ。
 竜車での走行であればゆっくりと山道を登るためこんな症状は起こらない。

「唾かジュースを飲んだら治るかもよー」

「それでも治らないなら鼻を摘みながら鼻から息を出すようにするといいよ」

 各々試して良くなったようだが、また映画を見始める女性陣。
 少しは景色を楽しんだら良いんじゃないかと思うが、時間の潰し方は人それぞれだ。



 千尋と運転を交代して再び走り出す。
 緑豊かな自然の中をゆっくりと進んでいく。



 空へと続く山道をどれだけ登っただろう。
 雄大な山々と眼下に広がる絶景。
 映画に夢中になっている後部座席組にも見てもらいたい。
 ある程度平で道幅の少し広くなった場所で車を停めて景色を楽しもう。

 車から降りて息を大きく吸う。
 大自然の中の空気はやはり美味しい。
 胸いっぱいに息を吸って深呼吸をする。

 美しい景色と眩しく輝く太陽。
 夏だがカラリとした空気はそれ程暑さを感じさせない。
 魔力で強化されているせいもあるのだが、照りつける日差しも暖かくて心地いい。

 車で飲むジュースも良いが少しここでお茶にしようと、コンロと魔石をセットしてポットの水を温める。

 テーブルや椅子を車から出してコーヒーや紅茶を飲みながらお菓子を食べる。
 やはり綺麗な景色を見ながら飲むコーヒーや紅茶は美味しい。

 ミリーやリゼ、アイリは景色を見ながらも映画トークを繰り広げている。
 朱雀も両手にお菓子を握りしめて話しに混ざっているが、本当に精霊かと思う程に馴染んでいる。

「クイーストってどんな国なの?」

 千尋も蒼真も知らずに向かっていたので聞いてみる。

「クイーストは魔法の国と呼ばれているよ。土地柄かは知らないけど遠距離魔法を得意とする人達が多くてね。日々魔法を研究している国だよ。魔石の研究や魔道具なんかも作られているね。私達の生活必需品も多くがクイーストで作られているよ」

「アースガルドでオレ達が生活に困る事なかったのはクイーストのおかげって事なんだねー」

「研究してるところも見学しに行きたいな」

「それなら私のコネで見学に行こうか。研究所の人も君達と話してみたいだろうし歓迎してくれると思うよ」

 朱王も多くの知識を持つが、千尋や蒼真は変わった知識、偏った知識も多く持つ為研究者も興味があるだろう。

「見学や観光もするけどまたクエストもするよね?」

「クイーストの冒険者はどんなもんだろうな。強い冒険者がいれば高難易度も少ないかもしれないし」

「王都じゃないけどデンゼルという街にすごく強い冒険者がいるって噂だよ。うちの血の気の多い子が喧嘩売って返り討ちにあったって話だった」

 カラカラと笑いながら言う朱王。
 ここ二年ほどクイーストを訪れていない為、その強い冒険者には会った事がない。

「そのうちデンゼルにも行ってみるか」

「会ってみたいよねー」

 コーヒーを飲み干してテーブルや椅子を片付け。
 車に乗り込んで再び走り出す。



 山を下り始めたところで、遠くにクイースト王国が見えてきた。
 下りの景色も楽しみながらゆっくりと山道を進む。

 二時間程で山道も終わり、草原の道を走り出す。
 三十分程走るとクイースト王国の市民街へとたどり着く。
 そのまましばらく走り続け、王国の城門は審査もせずにゆっくりと手を振りながら素通りする。
 城門の兵士はバタバタと車の横に集まり、朱王に一礼していた。

 ゆっくりと進んでいく車。

「ここから貴族街になるけどまず今日から泊まるとこに向かうね。車を置きたいし先に頼んであったんだ」

「どんなとこだろう。楽しみっ!」

「朱王さんなら良い所をとってそうだしな!」

 街人が驚愕の表情で見ているが朱王は気にした様子もない。



 着いたのは宿ではなく豪邸だった。

「でっかーーー!!」

 千尋が叫ぶ程度には大きな建物で、ロナウドの邸に匹敵する大きさだ。
 門を抜けて右に曲がると扉付きの車庫があった。
 扉の前には執事服を着た男と使用人の女性二人が立っており、朱王に一礼して扉を開く。
 車庫に車を停めて全員降りる。

 再び一礼する執事服の男。

「お久しぶりです朱王様。長旅お疲れ様でした。お連れの皆様。はじめまして、執事のカミンと申します。こちらの二人はメイサとマーリンです。今日からご滞在の間、皆様の身の回りのお世話させて頂きますのでなんなりとお申し付けください。後程、他の者も含めて挨拶させて頂きますのでよろしくお願い致します」

 メイサとマーリンは紹介とともに一礼する。

「久しぶりだねカミン。元気そうで良かったよ。一ヶ月ほど滞在するつもりだからその間よろしく頼むよ。メイサとマーリンもよろしくね」

「はい。それでは邸の方へご案内致します。どうぞこちらへお越しください」

 カミンに続いて邸へと歩き出す。
 メイサとマーリンが荷物を運んでくれるとの事で、車庫にある台車に荷物を積んでいる。



 邸の前に広がるのはとんでもなく大きなプール。
 夕日を浴びてキラキラと輝くプールはとても美しい。

 そして玄関を開くと広々としたホール。
 ガラス窓が大きくとられ、外の光が差し込んで明るい。
 吹き抜けとなった天井は二階どころか三階もありそうなほど高い。
 頭上には見たこともないような大きなシャンデリア。
 左右に階段があり、二階の部屋へと繋がっている。
 壁や床は白い石で覆われ、手すりや各扉や装飾は焦茶色の木製となる。
 焦茶色のソファやテーブルも置かれており、調和がとれていて美しい。

「一階の部屋は私共、使用人が利用させて頂いております。また、一階の右手には食堂が、左手には朱王様から指示されて用意しましたミスリルの板がある部屋となります。トイレは左右どちらにも御座います。二階のお部屋はお好きなお部屋をご利用ください。魔力鍵による施錠も可能となります」

 そんなわけで各々自分の部屋を選んでいく。
 千尋は右側の玄関に近い部屋を、リゼは千尋の隣の部屋を選択し、その奥にはアイリ。
 左側の部屋は手前から蒼真、ミリー、朱王となった。

 部屋の魔力鍵登録をしてまたホールに戻る。
 メイサとマリーンが運んできた荷物を受け取って部屋へと持っていく。
 朱王はカルハで買ったお土産を使用人に渡す。

 夕食の際に使用人や料理人の挨拶があり、千尋達も全員挨拶をした。
 基本的に身の回りの世話をするのがカミン、メイサ、マーリンとなり、他の者は掃除や片付けなどをするそうだ。
 何かあれば申し付けるのは誰でも良いとの事。

 夕食で出された料理はとても美味しく、王宮お抱えの料理人なのだとか。
 やはりクイーストならではの味で、香りや味付けなども違いがあった。
 ザウス王国よりも少し薄い味付けで、香り豊かな料理だった。

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