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強化編

054 千尋vs朱王 そして告白!

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 千尋やリゼも作業を終え、今日は面だしと磨き込みを行なっていたようだ。
 加工の早さと正確さ、全てにおいて優れている朱王に、千尋は自分の魔力の低さを気にし始める。

「ねぇ朱王さん。朱王さんの魔力量てどれくらい?」

「はて? 知らないな。測った事がない」

 ガクッとする千尋。

「だいたいで把握できないかな?」

「うーん、朱雀丸に魔力を満たしてもあまり減った感じはしないからねぇ。10万ガルド以上はあると思うけど……」

「「「10万!?」」」

「もっとあると思いますよ……」

 少し顔を引攣らせるミリーはだいたい把握できているようだ。

「オレの魔力量が低くてさぁ、レベルも上がらないし困っちゃったよ」

 珍しく千尋が悩んでいる事のようだ。
 リゼは朱王に戦いを挑んだ次の日にはレベルが上がっていた。
 朱王相手とはいえ全力で挑み、ほとんどの魔力を撃ち込んだ事が原因だろう。

「もしかして蒼真君も魔力が低いのかな?」

「オレはレベル8で35,000ガルドほどだ」

「地球から来たにしては低いね。千尋君と蒼真君が一緒にこの世界に来たとしたなら、双子と同じような成長をするのかもしれないね」

「双子? 双子だとどうなるの?」

「普通魔力の成長は、レベル4以降は大きく魔力量が成長するんだ。例えばそうだね。アイリはレベル4の時に6,000ガルドほど。5で17,000、6で28,000だったかな? 大人になってからはほぼ定量なんだ」

「朱王様…… 私のそんな事まで覚えててくれたんですか?」

 感激するように朱王を見るアイリ。

「それでこの世界ではほとんど居ないけど、双子の場合はレベルが上がる度におよそ二倍になる」

 ピシャリと言い切る朱王。

「確かに約二倍になってるな」

「うん。バラつきがあって気にしてなかったけどね」

「君達の場合は双子ではないからね。必ずしも二倍にはならないんだろう」

「それなら納得。んん? このままいくとレベル10で14万ガルドを超えるんじゃない!?」

「うん。そうだろうね」

「レベル上げたいけど上がらないんだよなぁ……」

 チラチラと朱王を見る千尋。

「千尋君の戦いを見た事がないけどね。聞いた話だと君は苦戦する事がないんだろう? たぶん危機感が足りないんだと思うよ」

「危機感…… 千尋には無縁の言葉だな」

「相手が何でも楽しんでるわよね」

「千尋さんてそんなに強いんですか!?」

 アイリも千尋の戦いを見た事はない。

「素手で大概倒せる」

「朱王様みたいですね」

 朱王はこれまで拳や蹴りだけで何でも倒していた。
 アイリが初めて朱王と会った日。
 商人の娘として生まれたアイリは、両親と共に隣町へと商品を運んでいた。
 そこに現れたのは大型の魔獣モンスター
 両親ともに血を流しながら倒れ、アイリに襲いかかろうというところで朱王が現れた。
 襲い来る魔獣モンスターを一撃の蹴りで真っ二つにした朱王。
 すぐに両親を応急処置して魔力で保護。
 荷車に乗せてゼスの王宮へ向かい、王宮魔法医に頼んで回復してもらった。
 おかげで今も両親ともに元気に働いている。

「少し稽古をつけてくれないかな?」

「良いよ。千尋君の戦いも見てみたいからね」

 自分と似たところのある千尋の戦いに朱王も興味があるようだ。



 西の岩場は訓練場所として定番となりつつある。
 最近では他の冒険者達も時々来て訓練しており、今日はハウザー達も訓練に来ていた。

「よお! 千尋達も訓練か?」

「あはは。今日は朱王さんに稽古つけてもらうよー」

「マジかよ!? 千尋と朱王さんか…… これは見なきゃ損だな!」

 自分達の訓練をやめて、千尋達の観戦をする事にしたハウザーパーティー。



 素手で構える千尋。

 魔力を練り、風を纏う。
 黄色いオーラのように千尋を覆っている。

 朱王は両足を肩幅に開き、左掌を顔の高さに正面を向け、右掌を地面に向けて魔力強化のみ。
 どこかで見た構えだ。

 ボッ! という音とともに土煙を上げて朱王に詰め寄る千尋。
 右の掌底を朱王の腹部めがけて打ち込む。
 瞬間、視界の端に映る朱王の脚。
 左腕を全力で魔力強化してガードするが、30メートル以上も吹っ飛ばされる千尋。
 転がりながらも立ち上がり、朱王の方を見るがそこにはいない。
 直後、目の前に再び蹴りが向かって来る。
 左に体を捻って回避。
 そのまま回転して朱王の背中に掌底を叩きつける。
 が、朱王は振り上げた脚を戻して千尋の右脇腹を蹴る。
 再び転がっていく千尋は、腹部を押さえながら立ち上がる。

 スタスタと歩み寄る朱王の恐ろしいほどのプレッシャー。
 ビリビリと空気が震える。

「リク!」

 千尋は精霊魔法で肉体の地属性強化を高める。
 さらに魔力球を複数引き寄せて拳に纏い、腕のミスリルウォーマーを操作して加速を狙う。

 再び肉薄する千尋と朱王。
 千尋の攻撃が先程よりも速い。
 しかし朱王の攻撃にも何とか耐えられるが長くはもちそうにない。
 魔力球を次々と消費していく。
 消費される魔力球を再生産するが、このままでは生産が追いつかないだろう。
 爆発を利用して距離をとる千尋。

 エンヴィとインヴィを抜いて宙に浮かせ、魔力球を双剣に集めて風を纏わせる。
 朱王も刀を抜いていつも通り強化のみ。

 一瞬で間合いを詰める千尋の攻撃を防ぐ朱王。
 左右の風を纏った剣は目にも止まらぬ速さと言える。
 朱王は最小の動きで全て受けきるとともに、反撃も繰り出す。
 さらにリクによる地属性魔法を発動する千尋。
 頭大の石を浮かせ、攻撃に利用する。
 手数を増やしているのに朱王に当たらない。
 刀で弾かれ、石を破壊されて徐々に押され始める。

 朱王の横一閃。
 左右の剣で受けても耐えられない衝撃に、再び弾き飛ばされる千尋。



「あの千尋がここまで一方的にやられるなんて……」

「千尋は今まで器用さで戦って来たからな。地力の差がもろに出ているんだろう」

「朱王さん強すぎねぇ? そろそろ止めろよ! 千尋ももう限界だろ!?」

「でも珍しく朱王様に笑顔がないです! これはかなり集中してるはずですよ!」

「もう…… 気を張り詰めてないと私が倒れそうなんだけど!?」

 アニーだけではない、ハウザーやベンダー、リンゼも拳を握りしめている。
 朱王の放つプレッシャーは並みの魔族を遥かに凌ぐ。



「千尋君は面白い魔力の使い方をするね。ほんと油断できないよ」

「そう? でもさぁ、もうそろそろ魔力も尽きそうなんだよねー」

「そうか。それなら最後は本気で来てみなよ。私も魔法で受けるから」

「後悔しないでね!」

 全ての魔力をエンヴィとインヴィに流し込み、2,000ガルドを超える魔力が剣を覆う。
 残りの魔力球を火球とし、双剣を覆った魔力は炎を放つ。
   


 ベルゼブブを抜き朱王に向ける千尋。

 朱王も魔力を練り上げる。
 刀を逆手に持ち、左脚を前にして構える。
 右手を後ろに引き上げ、背後に横になるように刀を構える。
 緑色の魔力が放出され、千尋の攻撃を待つ。

「あ、あれは……」

「蒼真知ってるの!?」

 千尋が放つ銃弾とともにエンヴィとインヴィを覆う火球も発射される。
 総魔力量15,000ガルドを超える火属性魔法の大爆発。

 迎え撃つ朱王の剣技。

「◯◯◯…… ストラーーーッシュ!!!」

 大量の魔力を乗せた剣の一振り。
 千尋の一撃とぶつかり合い、大地を揺るがす程の爆発が起こる。

 物凄い威力の爆発に、ハウザー達がひっくり返る。



「やはりな……」

 蒼真は爆発を見ながらポツリと呟く。

「さっきのは何!? ◯◯◯ストラッシュってなんなのよ!?」

「私も聞きたいです!!」

「とある勇者の必殺技だ」

「「「え!?」」」

「最初の構えも見た事あると思ったんだよな…… まさか天◯◯◯の構えとはな」

「何ですか!? その◯地◯◯の構えって?」

「大魔王の構えだ。朱王さんには相応しい構えと言える」

「ふぉぉぉお!! それはすごいですね!?」

「さすが朱王様です」

「絶対ふざけてやったわよね……」

「疑うのか? 朱王さんのあの真剣な表情を見ただろう?」

 そう言う蒼真も聖騎士戦で試したのは天◯◯閃。
 左脚を前にした居合切りは思ったよりやりづらかった。
 また、抜◯術、抜き身の方が剣速は速いという事がわかった。





 土煙が消え、立ち尽くす朱王。
 強化してあったとはいえ普通の服の為、ところどころが焼け焦げていた。
 千尋は仰向けに倒れているが動いているところを見ると無事なようだ。

 千尋の元へと集まり、ミリーは千尋の回復をする。
 朱王に怪我は無いようだ。

「…… まさか◯◯◯ストラッシュとはね」

「一度は真面目にやってみたかったんだよ」

 嬉しそうに言う朱王。

「ああ…… わかる……」

 理解を示す千尋と頷く蒼真。
 リゼだけが微妙な表情をしている。

「今度◯◯◯め波を試してみよう……」

 言って千尋は気を失った。

「どの属性を放つか迷うよきっと……」

 遠い目をして空を見上げる朱王。

「オレには◯◯◯め波は撃てない……」

 真剣な表情で落ち込む蒼真だった。

「ところで千尋君の魔石はあるかい? このままだと明日まで起きないよ?」

 千尋のポケットから魔石を取り出すリゼ。
 銃弾と飴と魔石が入っていた。

 魔石を朱王に渡して様子を見る。
 千尋の額に魔石を当て、指からポゥッと光を出すと魔石が千尋に吸い込まれる。

 意識が戻る千尋。

「あれ…… オレ寝てた?」

「そうだよ。お腹空いただろう?」

「うん、すっごくお腹空いてる!」

 ポケットから飴を取り出して口に含む千尋。
 回復を終えたミリーは手を差し出していたが飴はもらえなかった。



「朱王様! 私の剣も試したいです!」

 嬉しそうにサーベルを抱えるアイリ。

「いいよ。本気で来るといい」

 魔力を練ってクラウ・ソラスに流し込む。
 蒼真に習ったように風を纏って駆け出すアイリ。
 紫色の魔力となったアイリは朱王より数メートル手前でサーベルを振り上げる。
 特大の風魔法を助走をつけて飛ばして来る。
 朱王はアイリの攻撃に驚きながらも、強化した剣を叩きつける。
 朱王の強化のみの一撃でなんとか相殺できるほどの攻撃はアイリの上達を意味する。
 まだまだ技術的には甘いものの、魔力の練度も相まって相当な強さを持っている。

 全て打ち払いアイリの前に立つ朱王。
 アイリの頭を撫でて笑顔を見せる。

「強くなったねアイリ。新しい剣は使いやすいかい?」

「はい! もうすごいです!! 私も訓練したらもっと強くなれますか!?」

「もちろんだ。今だって驚いているんだよ」

 嬉しそうに朱王に寄るアイリ。
 アイリが朱王に近付いてもミリーはもう平気のようだ。



 時刻は十七時を過ぎたところ。

 エイルに戻って、とりあえず各々シャワーやお風呂の時間だ。
 千尋は空腹の為、お風呂前にレイラからパンを貰って食べていた。

 夕食前にはいつものブロー魔法。
 千尋だけでなく朱王も手伝う。

「蒼真さんもできるんですか?」

 問いかけるアイリ。

「ストレートならできる」

 アレンジはできない蒼真。

「じゃあ私のお願いできますか?」

 アイリはサラサラのストレートなので蒼真にブロー魔法をかけてもらう。
 今日のヘアオイルはフローラル系。
 バラのような花の香りをほのかに放つ。



 今日の夕食も盛り上がり、朱王の戦闘を目の当たりにしたハウザー達もどうしたら強くなるかとあーだこーだと騒いでいる。

 今日はお酒は無し。
 千尋が疲れ切っている為早めに夕食もお開きとなる。





  部屋に戻ったリゼはミリーに耳打ちをする。
  赤面したミリーはベッドに飛び込んで潜り込む。

「千尋もレベル上がっただろうし、私も少し進展するといいな……」

 毛布から顔を出したミリーはリゼの顔を覗き込む。
 少し顔が赤いリゼ。
 毛布から這い出してリゼを抱きしめるミリー。
 それを見てアイリもミリーに抱きつく。
 ミリーが少しお姉さんのようだ。



 夜も更けて灯りを消す。
 明日から千尋の魔剣作りだ。
 ミリーはリゼの為にも頑張ろうと思った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝からは朱王とミリーは千尋の魔剣作り。
 千尋の魔剣はデザインがすでに決まっている為、朱王はミスリルに線を描いていく。
 ミスリルの魔力の流れを確認しながら正確に描く。
 ミスリルを削っていき、リゼの作る剣に合わせてバランスをとっていく。

 この日一日で装飾まで手をかける朱王だった。

 リゼはすでに装飾をし始めている。
 千尋も今日レベルが上がっている事を実感しているようでとても嬉しそうだ。
 朱王の作業を見た甲斐あってかリゼの加工も以前より早い。
 魔力の使い方を少し調整したようだ。
 わずか一日で装飾を終え、明日は刃付けと装飾の磨き込みだ。



 まだ完成前だが、鞘が必要という事でリゼの作る剣を持って注文しに行く。
 作りかけとは言えその作りは素晴らしく、店の店主も専用の鞘を作りたいと申し出た。
 型を取ってもらって、対になる二つの鞘をお願いした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 千尋の魔剣が完成したのは二日後の昼。

 鞘も今朝には届けられている。

 魔剣を受け取った千尋。
 千尋の魔剣エクスカリバー、魔剣カラドボルグ。
 朱王は作った剣にエクスカリバーと名付けた。
 リゼのを見て作った事とかけて、リゼが作った方をエクスカリバーの原型とされるカラドボルグと名付けた。
 理由を聞いてリゼも納得だ。

 魔力量はどちらも4,500ガルドほど。
 今後の魔力量の成長を考えても充分だろう。





「オレさ、リゼより強くなれるかな……」

 リゼも自分が強くなりたいと思う以上に、千尋にも強くなって欲しいと思っている。
 戦わなければ確認のしようがないのだが……

「まぁ戦いにも相性というのがあるけどね。本気でやり合えば千尋君の方が強いよ」

 コーヒーを啜りながら言う朱王。

 唖然とするリゼとパァっと喜ぶ千尋。
 魔剣を持てば千尋は自分よりも強くなると、待ちに待った瞬間だったのだが魔剣がなくても強かったと言う。

「千尋とリゼは二人で昼食を摂ってくれ」

「邪魔しちゃ悪いですからね!」

「行ってきますね、リゼさん!」

「なんで二人を置いて行くのかな?」

 よくわからない朱王もついて行く。
 蒼真が千尋とリゼに気をつかってくれたようだ。





二人残された千尋とリゼ。

「オレはリゼの事が好きなんだっ。結局リゼの好きな人が誰かはわからなかったけど、オレは負けないよ!」

 自信を持って言う千尋は、キリッとしていていつもよりもカッコよく見える。

「もぉっ! 私が好きなのは最初から千尋よ! なんで全然気付かないの!?」

 赤面しながら大きな声で言うリゼ。

「…… え。あれ? だって、リゼは誰を見てるんだろうと思ったけど鋭くて……」

「私は誰を見てたの!?」

「オレの視線に気付いてたんじゃないの!?」

「ずっと見てたのよ!!」

「…… オレを見てたのか!!」

 ポンッと手鎚を打つ千尋に、力が抜けて肩を落とすリゼ。



 笑顔で見つめる千尋は今日も可愛らしい。
 リゼは千尋の顔をまじまじと見つめる。
 普段はこっそりと見つめているのだが、今日は正面から見つめている。
 自分の頬が少し熱を持っているようだがもう気にしない。

「千尋!」

「なぁに?」

「可愛いー!」

「んなっ!?」

 リゼの褒め方は千尋には少し納得がいかない。

「男に可愛いって言っても喜ばないんだよ?」

「褒めてるのに!」

「カッコよくなりたい……」

「真剣な千尋はカッコいいよ」

 嬉しそうに笑顔を見せる千尋はやはり可愛らしい。

 ここ数日のミリーの話を聞いていたせいか、千尋の口元に視線がいくリゼ。
 チラチラと視線が動くリゼには千尋もさすがに気がつく。

 ガタリと立ち上がる千尋。
 千尋を見つめるリゼ。

 千尋に引かれて立ち上がると、そっと抱き寄せられるリゼ。
 リゼは千尋の腰に手を回し、お互いの唇が触れ合う。

 むふふとニヤケ顔が収まらないリゼは千尋の顔を見れない。
 というより今のこの顔はちょっと見せられない。
 俯いたリゼを見て、恥ずかしいのだろうと判断した千尋は手を引いて歩き出す。

「ご飯食べに行こっ!」

「うんっ!」

 戸締りをして手を繋いだまま高級料理店へ向かう。
 なんとも初々しい二人だった。





 朱王が自宅へ帰ったのは翌日。

 この日の夕食中に明日帰ると言い、名残惜しそうなミリーがずっと朱王にくっ付いていた。

 それを見ていたリゼやアイリ。
 バイクもあるしいつでも会いに行けると言うと喜んでいた。

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