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強化編

039 配達クエスト

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 オーガ討伐をしてからおよそ一ヶ月。
 この日もクエストボードの前に立つ蒼真とミリー。

「蒼真さん、今日はこれ受けてもいいですか?」

 クエスト内容:配達
 場所:アルテリア北部森林
 報酬:30,000リラ
 注意事項:街道で魔獣が出現する
 報告手段:受け取り主のサイン
 難易度:2

「これミリーと初めて受けたクエストだな」

「そうです! このクエストは私がよく狙ってたんですよ!」

「報酬少ないけどいいのか?」

「報酬じゃないんです。以前よくお世話になったクエストなのでまた受けたいなーと」

「まぁいいか。今日は散歩がてら配達としようか」

 クエストを受注し、荷物と配達先の地図、受領書を受け取る。

「この送り先の名前…… スオウ?」

「スオウって何ですか?」

「スオウって、周防とかオレ達のいた国でも聞く名だなと思ってな」

「以前お届けした時はそうですねぇ、蒼真さんや千尋さんに似た感じがしましたよ? 黒髪でしたし」

「…… だとするとオレ達と同じ日本人かもしれないな。少し興味が出てきた」

「それなら早く行きましょう!」



 アルテリア北部から街道を少し行くと森林に入る道がある。
 そこから先へ進むと一軒の家が建っている。
 街道にいる魔獣モンスターを倒しながら特に足止めを食うこともなく森林内の家にたどり着いた二人。

 扉をノックするミリー。

「こんにちわー! 役所からお届け物を持って来ましたー!」

 すると家の中から「はーい!」という返事が返ってくる。

 出て来たのは見た目二十代前半と思われる男。
 目つきは鋭いが、落ち着いた雰囲気の男性だ。
 黒髪赤目だが髪や目はキラキラと輝き、幻想的にも見える。

「配達ありがとうごさいますー」

「これお荷物です! サインお願いします!」

 サインを書き込む受取人の男。

「あのー…… 私はスオウといいますが、もしかしてあなたは日本人じゃないですか?」

 蒼真を見て問いかけてくるスオウ。

「そうです。四ヶ月ほど前に神奈川からこの世界に来ました」

「やはりそうなんですね!? 私はもう五年になるかな。日本では宮城に住んでいました。朱色の王と書いて朱王です」

 驚いた表情のあと、少し苦笑いで名乗る朱王。

「何故こんな森林に住んでるんですか?」

「えーと…… 立ち話もなんだし時間があるなら中でお話ししませんか?」

 朱王に家に招かれ、ソファに座って少し待っていると紅茶とお菓子を出してくれた。

「うわっ!? なんですかこれ!? すっごく美味しいです!! 甘くてトローっとしてます!」

 驚きながらも笑顔を見せるミリー。

「お口に合いましたか? ガトーショコラといって私は甘いものが好きでよく作るんですよ」

「すごくうまい。こっちの素材でもここまで再現できるとは…… ああ、オレも甘党なので驚きました」

 朱王の視線に気付いて言葉を正す蒼真。

「蒼真さんにしては珍しい話し方ですね?」

「日本では目上の人には敬語で話すのが基本だからな」

 真顔で言う蒼真。
 この世界の人間に対しては普段通りに話すが、ここにいる朱王は日本人。
 歳上の朱王に敬語を使うべきと考えた。

「お互い敬語はやめようか。私もあまり得意じゃなくてね。こっちの世界ではあまり気にしなくていいと思うよ」

 苦笑いしながら言う朱王。

「じゃあ朱王さん。冒険者じゃないようだがこんなところで何をしてるんだ?」

 周りに魔獣がいるにもかかわらず、街から離れたところに家を建てて住んでいる朱王に疑問をぶつけてみる。

「あはは。確かにこんな森に住んでたら誰だって不思議に思うよね。んー、そうだな。街に迷惑がかからないように、かな?」

「迷惑をかけるんですか?」

「もしかしたらね。でも街から遠すぎる場所では生活もできないからね。止むを得ずここに家を建てたってわけさ」

 また苦笑いで答える朱王。

「何か訳ありのようだがオレも同じ日本人だし、出来ることであれば協力する」

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

 空いた皿を見るミリーに気付いた朱王は、立ち上がって紅茶と新しい皿を持ってくる。

 皿に盛られたその形は……

「なんですかこれ?」

「プリンだよ。良ければ食べてみて」

 スプーンで掬って口に運ぶ蒼真に習い、プリンを掬って食べるミリー。

「うわぁ! 口の中でトロけますね! 味も濃厚で美味しいです!」

「焼きプリンにしてあるのか。これもまた美味いな」

「もしかして料理人さんですか!?」

「料理人ではないんだ。君達も使ってくれてるみたいだけど、私はそれでお金を稼いでいるんだよ」

 ミリーの首元を指差す朱王。

「んん? これですか?」

 カラーチェンジペンダント【ドロップ】を摘むミリー。

「そう。それを作って販売してるんだよ」

「ええ!? この世の女性が必ず持つとさえ言われるこのドロップを作ってるんですか!?」

「うん。王族や貴族にもお客さんがいるよ。ミリーさんのそれは…… 一年前に限定発売したラビットシリーズだよね。五種類を十個ずつしか販売されなかったのによく買えたね!」

「そうです! あまりの可愛さに全財産叩いて買っちゃいましたよ! 他にも欲しいシリーズあったんですけどね。冒険者としてまだ全然稼げてなかったので手に入れられなくて……」

「ふむ。愛用してくれてるみたいだし、そうだな…… 今貴族用の限定品試作を作ったのがいくつかあるから欲しいやつあげようか?」

「貴族用!?」

「試作品だから世界で限定一個だよ」

「ふぉぉぉお!! 貰って良いんですか!?」

「今日は君達に会えて嬉しかったからね。プレゼントするよ。少し待ってて!」

 奥の部屋に取りに行く朱王。

「ミリー嬉しそうだな」

「蒼真さんにはこれの価値はわからないでしょうね! このラビットシリーズは女性達の間ではすごく人気が高いんです! それはもう喉から手が出る…… と怖いですけど欲しくなる一品なんです!」

「ソーナノカ」

「それに今朱王さんが取りに行ったのは貴族用の限定品ですよ! しかも試作品! 試作品という世に出なかった幻の品々は、伝説の逸品と呼ばれて本にも載っています! つまり私が今ここで貰える一つは伝説の逸品と呼ばれる物なんですよ! 限定品は数量を限定して作られるのに、試作品はたった一つなんです! まさに伝説の逸品!」

「スゴイネー」

 どうでもいい蒼真だった。

 戻って来た朱王はテーブルに五つ並べる。

「どれでも欲しいのを選んでね。全て私が満足のいく仕上がりだし貴族用にするのもどれでもいいから」

 恐る恐る手に取りながらも慎重に選ぶミリー。

 五分ほどで二つのどちらにしようか迷い始めた。

「これはどちらも捨て難いですね…… 捨てたりしませんが捨て難いですね……」

 意味のわからん事を言いながら悩むミリー。

「その二つをあげるよ。この五つも本に載るから今後わかる人にはわかるかもね」

「ええ!? 二つもいいんですか!? でもどうしよう。どっちを使おう…… 使わない方は可哀想ですよね」

「それなら誰かにあげたらいいよ」

「リゼさんにあげたら喜びますかね…… あ! でもリゼさんは色変えないから意味ないですね……」

 両方を見比べながら話すミリー。

「今回の貴族用の限定品には別の魔石も組み込んであるんだ。色の魔石も入るけどそのまま使っても効果があるんだよ」

「どんな効果ですか?」

「光の当たり方で髪や目がキラキラと煌くんだよ。あまりギラギラさせると下品だからね。ほんの少しだけ煌くようにしてあるんだ。私も自分で試しているんだけどわかるかな?」

 朱王の髪は角度を変えると輪郭がキラキラと輝く。
 目も見る角度によって色味が少し変わって見えるのだ。

「すごく素敵ですね! 私なんかには勿体無いですよー!」

「ミリーさんは綺麗だからすごく似合うと思うよ! 是非とも使って欲しいね」

 ボッと顔を赤くするミリー。
 可愛いとは蒼真や千尋に言ってもらうことができたが、綺麗だと言われた事はなかった。

「お、お、お、お世辞でもありがとうございます!」

「お世辞ではないんだけどねー。ああ、それと君達は冒険者だろ? 貴族用はミスリル製だから防御力も少しだけ上がるかもね」

「朱王さんもミスリルを加工できるんだな。助手とかいるのか?」

「これは私一人で作っているよ」

「すごいな、一人で作ってこれか…… 千尋並みの精巧さだ」

 ドロップを手に持って見る蒼真。

「千尋? 他にも日本人の知り合いがいるのかな? 蒼真君はミスリルの日本刀を持っているようだけど、もしかしてその千尋さんて人が作ったのかな?」

 蒼真もミリーもソファに腰掛けている為、武器を立てかけてある。

「私のメイスも千尋さんが作ったんですよ」

 メイスに頬擦りをするミリー。

「少し見てみたいけどダメかな?」

「はい。どうぞ」

 ミリーがメイスを差し出す。

「へー。ミスリルもしっかり選んでるね。魔力も溜められる量も多いし良い作りだ。私以外にもミスリルの性質を知る人がいるとはね……」

「なっ!?」

 驚く蒼真。

「ただ私の場合は一人だから武器は作ってないけどね」

「助手がいれば魔剣を作れるって事か?」

「魔剣? 魔剣…… あー、魔法を放てる強い武器だから魔剣て呼ぶのか。うん! 作れるよ!」

「今度千尋に会わせてみたいな」

「千尋さんと気が合いそうですね!」

「うーん。来週…… 五日後かな、買い物をしに街に行くんだけど」

 今日の配達物は注文書。
 注文書を受け取った事で、遠出の準備をしなければならない為だ。

「え!? それなら会えるかもしれませんね!」

「まぁ街に行くのも手紙を出すのと食料の買い出しだから時間も問題ないよ」

「じゃあ五日後の十時頃に宿屋エイルに来れますか?」

「えーと…… あの西側にある大きな宿屋かな?」

「そう、そこに宿をとっている。千尋の工房もすぐ近くなんだ」

「じゃあお土産を持って伺うとするよ」

「お土産? もしかしてさっきのお菓子ですか!?」

「うん。材料がたくさんあるけど来週には遠出しないといけなくてね。気に入ってくれたみたいだから作って持って行くよ」

「やったー!!」

 相当お気に召したようだ。

「あれは美味しかったからな。皆んな喜ぶと思う」

 甘党蒼真も顔が綻ぶ。



 気付けばお昼を過ぎていた。
 蒼真がそろそろ戻ろうかとミリーと話し、朱王の家を後にする。

「今日は時間を取らせてしまって悪かったね。おかげで楽しい時間を過ごせたよ。またこっちに来る時は寄って行ってね」

 笑顔で見送る朱王。

「こちらこそ美味しいお菓子に伝説の逸品まで戴いてしまって! ありがとうございました!」

 ペンダントに興奮しているのだろう。
 顔を紅潮させてお礼を言うミリー。

「また配達の依頼があったら来よう。今日は来てよかった」

 別れの挨拶をして去って行く蒼真とミリー。
 少し寂しげな表情で見送る朱王だった。





 帰り道の蒼真とミリー。

「結局なんであそこに住んでるのかわからなかったな」

「街に迷惑がかかると言ってましたけどすごくいい人そうですよね?」

「アルテリア襲撃の時は朱王さんはどうしてたんだろうな……」

「そういえばあの家の周りには魔獣が居ませんでしたね?」

「…… ミリー。さっき貰ったドロップ貸してくれ」

 ドロップを開いて中にある魔石を見る。

「これ…… 魔獣の魔石なのか? 千尋のとよく似てる気がするが……」

「少しだけ黒っぽいですね。千尋さんのは無色透明でしたけど」

「あとで千尋にも見てもらうか……」

「蒼真さん何が言いたいんですか?」

「うーん…… もしかしたら朱王さんも魔石を作れるんじゃないか?」

「んなっ!? 朱王さんもですか!?」

「可能性はあるだろ。これだけの細工をできるって事は魔力制御も相当なものなはずだ」

「そうですね。千尋さんにも劣らない作りですもんね……」

「また今度聞いてみよう」

 クエストを報告して千尋の工房に向かう。



「ただいま帰りました!」

「あらお帰り。今日は早かったわね」

「今日は簡単なクエストにしたんですけどね。これ!! 見てくださいリゼさん!」

 ペンダントを渡すミリー。

「え? これってもしかして!? 」

「そうです! ドロップの今期伝説の逸品です!」

 興奮しながら言うミリー。

「すごい!! 初めて本物を見たわ! でもこれどうしたの? 正規ルートでは絶対に手に入らない物なのに! しかも二個も!?」

 リゼも以前愛用していた為、ドロップには詳しい。
 使用していた頃は伝説の逸品には心を奪われていたようだ。

「それの製作者に今日会って来たんだ。貴族用の限定品って言ってたな」

「そうなんです! リゼさんどっちがいいですか? 私決められなくて!」

 リゼの目の前に差し出すミリー。

「でも…… 今は私色変えてないから貰っても意味ないわよ?」

「ふっふっふっ。それがですねぇ、これは色以外のキラキラ効果があるんですよ! だからどっちか選んでください!」

「うーん…… でもどっちもいいわね。私もなかなか選べないのよねー」

「ん? じゃあリゼはこっちでミリーはこっちかなー。二人のイメージに合うとしたらだけどね」

 千尋が覗き込んで言う。

「おお! 千尋さんが言うなら間違いなさそうですね!」

「じゃあ私こっち貰ってもいいの?」

「もちろんです! 私が二つ持ってても使い道無いですし!」

 リゼに片方手渡すミリー。

「すごい細工ね。素材もミスリルみたいだし千尋に負けないくらいの技術を持ってるわね……」

「五日後にそれをくれた朱王さんて人が訪ねて来るんだ。オレ達が勝手に千尋に合わせてみたいと申し出たんだがいいか?」

「うん! オレもその人に興味があるよっ!」

「それとドロップに入ってる魔石を見てくれ。もしかしたら彼も魔石を作れるのかもしれないと思うんだが……」

 千尋とリゼがドロップの中の魔石を見つめる。

「少し黒っぽいけど確かに似てるね」

「そうね。ほぼ同じに見えるけど……」

 三人の話しをよそにミリーはドロップに魔石をセットして首元に下げる。
 魔法が発動してミリーにふんわりとした煌めきが発生する。
 色の魔石はそのままだが、煌めき用の魔石の効果だけが反映される。

「皆さんどうですか!?」

「すごく綺麗ね! 少し動くとキラキラするみたい」

「キラキラしてるー! ドロップもなんか宝石みたいに見えるよー!」

「良いじゃないかミリー。貰って良かったな」

「えへへー。褒められるのはやはり良いですねぇ!」

 嬉しそうに頬を染めるミリー。

「私も付けてみようかな!」

 リゼも付けてみて満足する。
 キラキラと煌めく髪はブロンドの髪と相まって神秘的な雰囲気さえ漂わせる。
 これで街を歩けば道行く人々が振り返る事は間違いない。
 リゼとミリーはお互いを見合った後に千尋を見る。
 不思議そうに首を傾げる千尋だったがリゼとミリーは同じ事を考えていた。

 千尋の分も欲しかったなと。
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