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異世界での生活

016 サイクロプス亜種

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 精霊魔術士となってその実力を試したい一行。

「もう一週間以上も高難易度クエストありませんよー」

「今日も難易度6かぁ」

「金は相当貯まったな」

「普通の冒険者はこんな毎日クエストしませんからね! 」

 クエストボードを見終わり、待合室でぶーぶー言う三人。



「ミリーさん。高難易度クエストを待ってるんですよね? 」

 突然声をかけられて振り返るミリー。
 受付のカリファだ。
 いつも大量の魔石を処理してくれる、千尋達の専属の受付みたいになっている女性だ。

「そうなんですよー。全然出ないんですね」

「そうそう高難易度クエストなんてありませんよ。いっぱいあったらとても危険な街になっちゃいますからね!」

「確かにそうですねっ」

「ところがですねぇ、クエストにはなってないんですけど…… 強力な魔獣モンスターはこの街の近くにもいるんです」

「どこにいるの!?」

「教えてほしい」

 食い付く千尋と蒼真。

「ミリーさん達のパーティーであれば倒せるとは思うんですが…… クエストではない為賞金が出ないんですよ」

「全然構わないよね?」

「強ければいい」

「この二人は戦闘狂なので問題ないです」

「行く途中の魔獣を倒せばそちらのクエストは出てますけど…… やりますか?」

「そのクエストを受けて強い魔獣も狩れば良いな」

「カリファさん、そのクエストお願いしてもいいですか?」

「魔獣の情報もほしいなー」

「ではまずクエストを受けて頂いて、そのあと所長からお話をお聞きください」



 クエストを受注して所長室に案内される。

 所長のアブドルと挨拶をして話を聞く。
 話によると、まだその魔獣による被害が出ていないとの事。
 魔獣の根城は判明しているが、人間がその場所を通っても襲って来るわけでもない。
 そしてアルテリアと隣街のナルビスの中間部に根城があり、どちらの街でクエストを発注するか判断し兼ねているとの事。
 魔獣の強さを考えると賞金もある程度高額になる為、どちらの街も慎重になっているそうだ。

 今回のこの魔獣討伐をクエストとした場合、一体でもクエスト難易度は9になると言う。
 その魔獣は三体確認されているとの事。
 ミノタウロスより少し強いくらいかとガッカリする千尋だったが、アブドルは否定する。
 ミノタウロス等難易度8のクエストであればパープルランクのパーティーでも受注できる。
 しかし、難易度9となれば、シルバーランクのパーティーを推奨とされるクエストとなる。

 魔獣はサイクロプス。
 通常のサイクロプスであれば難易度8となるが、今回のは他の魔獣の魔石を食った亜種。
 様相も化け物じみており、亜種である事は間違いないと言う。
 亜種は通常の魔獣よりも遥かに強く、他種の能力が継承されるらしい。

 とりあえずサイクロプスは三体いる。
 一人一体相手にできると千尋と蒼真はご機嫌の様子。

 呉々も気をつけるようにとアブドルから念を押され、所長室を後にする。





 アルテリア北部街道を行く三人。

「結構遠いですね」

「弁当買って来たけど足りるかな?」

「片道三時間はかかるな」

 いつも通りこの道は千尋のサイレントキラーを発動している。歩く程に貯まっていく魔石。

「このクエストもまぁまぁ稼げそうだね」

 クエスト内容:イビルビースト討伐
 場所:アーテリア北部街道沿い
 報酬:一体につき50,000リラ
 注意事項:頭上から突然襲って来る
 報告手段:魔石を回収
 難易度:5

「頭上から襲って来るという事は鳥とかの魔獣でしょうかね?」

「以前倒した鳥系のがいたからあれじゃないか?」

「あれか。じゃあ襲って来たら倒そう」





 二時間ほど歩いて早めの昼食を摂ることにした。
 サイクロプスと戦う直前に食べるより良いだろうという事でそうした。
 ここまでイビルビーストは六体ほど襲って来たのみだった。
 ところがご飯を食べ出したところで急に襲って来る数が増える。
 次から次へと襲ってくるイビルビーストに、千尋が銃で応戦。

「オレの弁当が狙いだな!?」

 などと言いながら銃を撃っている。
 食べ続ける蒼真とミリーは弁当を狙われていると思っているわけではない。
 千尋がやるだろうとご飯を食べ続けているだけだ。
 十二体倒したところでイビルビーストも居なくなり、千尋もご飯を食べ始めた。





 三十分ほど歩いたところで目的地に着く。
 ここはルミールの森林という場所らしい。
 ルミールの森林の少し入ったところに岩場になっている場所があり、そこにサイクロプスが居座っているという。
 この場所はもともと魔獣も多く、サイクロプスの餌場となっているようだ。
 この森林に入ってきた時点で魔獣と遭遇しなかった事から、サイクロプスに粗方食われてしまった事が予想される。

「あれ? 居ませんね」

「ここで間違いないはずだけどね」

「もしかして餌を取りに行ってるのか?」

「でもさ、こういうパターンってさ……」

「後ろからか……」

 言ってすぐに振り返る!
 …… が、いない。

 直後ズドーン! という音とともに背後に何かが着地する。
 そこにいたのは一つ目の巨大な魔獣、サイクロプス。
 色は赤黒く右手には鋼鉄製の斧を持ち、左腕は地面につく程に肥大化している。

 巨大な拳がミリー目掛けて襲いくる。
 拳に合わせて蒼真が横薙ぎに刀を振るうが、力に押されて弾き飛ばされる。
 ミリーもメイスに爆破を乗せてガードするがそのまま殴り飛ばされてしまう。

 千尋は突如右方向から飛び出してきたサイクロプスに地属性魔法で落とし穴を作って転倒させる。

「ミリー! 蒼真! 大丈夫か!?」

「痛ったー…… もぅ! この赤いの私がやりますよ! 最初から私を狙ってくれましたからね!」

「くそ…… 硬いな。ミリーがそれやるならオレは向こうでこっち見てるあの黒いのをやるか」

「じゃあオレはこの青いシマシマのこれやるねー」

 それぞれ自分のターゲットに向かい合う。



「よし、来なさい! サイクロプス!」

 斧を振りかぶり、ミリー目掛けて振り下ろされる。
 ミリーはメイスで爆破して斧を打ち返すが、左の拳がまたミリー目掛けて飛んでくる。

「こんのぉーーー!!! 」

 メイスを振り回して左拳に全力の爆裂魔法を打ち込む。
 爆発の威力に押され、サイクロプスが拳を弾かれて蹌踉めいた。
 ミリーが追い討ちをかけようとしたところで再度斧が横薙ぎに向かってくる。
 再びメイスで弾くがその瞬間炎を吐き出すサイクロプス。

「ホムラ! 」

 ミリーの全身をサイクロプスの炎が襲うが、ホムラの炎の壁がそれを遮る。

「むぅ。思ったより強いですね……」

 サイクロプスの左右の攻撃にミリーはメイスのみで耐えられているが、火を吐くとあっては対応しきれない。
 ホムラの援護が無ければ全身火だるまになっていただろう。
 それならばとミリーはサイクロプスに向かって走り出す。

 先程と同じパターン。
 斧での一撃を弾き返し、左の攻撃も全力で打ち返すと、ここで顔面目掛けてジャンプする。
 サイクロプスは再び炎を吐き出そうと口を開くがその瞬間、ミリーの肩に掴まっているホムラがブレスを放つ。
 目を瞑って怯むサイクロプス。
 ミリーはジャンプしたままメイスを頭目掛けて振り下ろす。
 爆裂魔法が直撃! と思ったが斧でガードされてしまった。
 そして着地と同時にミリーは腹を目掛けてメイスを打ち込む。
 グボォア! と悲鳴を漏らしながららもサイクロプスは左腕を突き出してくる。
 攻撃に合わせて向かって来た左腕に反応しきれず殴り飛ばされるミリー。
 爆裂魔法で威力を軽減したがダメージは大きい。
 ミリーは歯を食いしばって立ち上がり回復魔法をかけるが、サイクロプスがそうはさせまいと襲いかかる。
 同じパターンで斧、左フックを繰り返す為、メイスでなんとか受けきる事はできる。
 しかし執拗に攻められて少しイライラしてきたミリー。

「こぉぉぉんのぉ!! しつこいんですよ!!」

 斧を弾いて左拳が向かってくる間にサイクロプスの右膝目掛けて全力の爆裂魔法。
 悲鳴をあげて倒れ込むサイクロプス。
 頭が下がったのを見てミリーはメイスを叩き込む。
 左腕で頭を必死にガードするサイクロプスだが、痛みに耐えているのか唸り声をあげる。

「ほんっと硬いですね! こうなったら範囲内の魔力全部をメイスでぶち込んでやりますよ!」

 粉塵爆発の時のように魔力を範囲内に広げるミリー。
 なんとか立ち上がったサイクロプスだか右足のダメージが大きく、右腕の斧でバランスをとって立っている。

「これだけ魔力があれば足りるでしょう…… ふっふっふっ。覚悟してくださいよコノヤロー」

 不敵な笑みを浮かべながら徐々に足を速めて近づいて行く。
 ホムラは魔力の高まったメイスに飛び込む。
 左腕を振りあげるサイクロプスの拳に合わせてミリーもメイスを振りかぶる。
 振り下ろされる拳に合わせて火炎を纏ったメイスを振り抜く。
 ズドーーーーン!! と、地響きがするほどの爆音が鳴り響きサイクロプスの左腕が弾け飛んだ。
 メイスから放たれた炎はサイクロプスを焼き、ぐらりと崩れ落ちる。
 しかしミリーも打ち勝ったとはいえ反動は大きい。
 腕が赤黒く、内出血しているようだ。
 腕の痛みも構わず、トドメとばかりに頭目掛けてメイスを振り下ろす。





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 落とし穴に嵌って転ぶサイクロプス。
 青い縞模様をしたサイクロプスは、体毛があり爪が恐ろしく長い。
 口からは牙が生え、四足歩行のように歩き回る。
 猛獣の魔石でも食ったのか、サイクロプスというよりネコ科の生物のような動きだ。

 千尋が魔力を練り出すと同時に突進してくるサイクロプス。
 千尋は地面を魔法で突き上げるが前に出て回避される。
 千尋の左腕に噛みつこうとするサイクロプスの顔面に右掌底と爆破。
 一瞬怯むが構わず爪で攻撃してくるサイクロプス。
 千尋は右に飛んで回避したが、後ろにあった木が切り倒された。このサイクロプスは爪で風魔法を発生させるようだ。

 顔を目掛けて撃ち込んだ弾丸をサイクロプスは首を捻って目を避ける。顔に当たったがやはりダメージが少ない。
 千尋は魔力を練ってリクへと渡し、頭大の石を複数浮かび上がらせる。
 左爪で攻撃してくるサイクロプスに石を叩きつけて爪を防ぐ。
 間をおかず右爪が千尋を襲う。
 再び顔目掛けて銃を発砲するが、サイクロプスは銃を向けた瞬間に飛び退っていた。
 今度は十個ずつ左右に石を浮かび上がらせながらサイクロプスに接近する千尋。
 両手で爆破と石の連撃を繰り出すも強靭な爪で防がれる。そのままどこまで耐えられるのかひたすら攻め続ける千尋。
 次第にサイクロプスは捌き切れなくなり、ダメージ覚悟で打ち合いになる。

 ここでズドーーーーン!!と盛大に爆発音が響く。
 ミリーの戦闘が終わったようだ。
 爆発音がした方向から右奥の方では激しい光が見える。蒼真が戦闘中のサイクロプスだろう。

「さて、次はどうしようか……」

 サイクロプスが体勢を立て直し、千尋を警戒しながら睨んでいる。

 今度は左右の爪を振り回して風の刃を幾重にも重ねて飛ばしてくる。
 石の弾幕で受け、サイクロプスとの距離を詰める為に駆け出す千尋。





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 蒼真はランの風を纏い刀を抜く。
 黒いサイクロプスは頭の角や爪が黄色く発行している。
 鉄の巨大な斧を持っているが、人間が作ったものであろうと思われる精巧な造りだ。
 サイクロプスの角や爪が激しく光り、斧を地面に叩きつけると蒼真の足元が爆発。
 魔力を感知して飛び退いていた為ダメージはなかった。

 斧を左薙ぎに振るサイクロプス。
 斧の先端から風魔法が放たれ、蒼真目掛けて飛んでくる。
 蒼真も刀を振り、ランの風刃で風魔法を相殺する。
 蒼真は距離を詰めるべく全速力で駆け出した。

 再び斧が地面に叩きつけられて蒼真の足元が爆発。
 素早く左に回避してサイクロプス目掛けて飛び上がる。
 サイクロプスは斧を振り上げて蒼真の脇腹を狙って振り下ろす。
 蒼真は魔力を高めた風刃を放ち、打ち付けられた斧の刃ごと斬り落とした。
 刀を振り切って無防備となった蒼真に、サイクロプスの口から炎が吐き出される。
 直撃して炎の勢いに飛ばされる蒼真。
 着地すると同時に水魔法を発動して炎を払う。

 サイクロプスの方を向き直ったがそこにはいない。
 直後蒼真の真上から半壊した斧が振り下ろされた。
 上空に飛んで蒼真を追って来ていたようだ。
 蒼真はランに大量の魔力を渡して斬り上げ、特大の風刃を放ってサイクロプスに深い傷を負わせて吹っ飛ばす。

 地面に叩きつけられたサイクロプスは震えながらも立ち上がり、険しい表情を蒼真に向ける。
 そして角を光らせて斧を何度も地面に叩きつける。直後地面から複数の爆発が起こり蹌踉よろける蒼真。
 そこに飛んでくる風魔法だったが蒼真は刀を薙いで相殺する。

 ズドーーーーン!! という爆発音が聞こえるとそちらを見つめるサイクロプス。

「グアウアウアガグガガア! 」

 言葉にならない声を発し、角や爪がこれまでにない程激しく光を発する。
 光を発しながらも一点を見つめる黒いサイクロプス。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ミリーがトドメを刺し、赤いサイクロプスは魔石に還る。

 直後、光を発していた黒いサイクロプスが、叫び声とともに斧を振り上げ地面に打ち付ける。
 数十メートルに渡って地面が爆発し、全員体勢を崩す。

 再び蒼真が黒いサイクロプスに目を向けるとそこにはいない。

 ミリーは魔石を拾おうとしたところで地面が爆発したため油断して転んでしまった。

 立ち上がろうとしたところで黒い影に気づく。
 目の前に黒いサイクロプスの足。
 そして手には赤いサイクロプスの魔石が握られている。

(え!?)と思った時には斧で地面を叩きつけていた。



 黒いサイクロプスの一撃で千尋の足元が爆発するが走り出していた為当たらなかった。

 青いサイクロプスは千尋ではなく、何故か黒いサイクロプスの方を見ている。
 千尋は隙ができたサイクロプスの目に銃弾を撃ち込むと、脳に達したのかあっさりと絶命した。

 不思議に思いつつも魔石へと還す千尋。

 直後に巨大な斧が飛んで来て、千尋はジャンプして躱す。

 そこに黒いサイクロプスが駆け寄り魔石を拾い上げる。



(((なんだ!?))))

 三人がそう思った瞬間、黒いサイクロプスは二つの魔石を飲み込んだ。

 耳を劈くつんざくような悲鳴。

 そしてサイクロプスの身体に変異が起こり始める。
 両腕が膨れ上がり鋭い爪が長く伸びる。
 そして身体に黒い体毛とグレーの縞模様が浮きあがり、口からは黄色の牙が生える。

 変異が終わると咆哮。
 手のひらを地面に叩きつけるサイクロプス。

 再び地面が爆発し、千尋の左側から襲いくる黄色の爪。
 地面の爆発に千尋は体勢を崩すことはなく伏せる事で爪を回避。
 魔力を練り、砕かれた地面から大量の石を浮かび上がらせる。
 千尋と向かい合うサイクロプスの頭上から飛び上がった蒼真が斬り込む。
 上を振り向いて爪を薙ぐサイクロプス。
 お互いの風魔法がぶつかり合い相殺される。

 そこに駆け込んだミリーだったが、炎を吐かれてホムラの炎の壁で防ぐ。
 蒼真はミリーのそばに着地、千尋は石を叩き込んでサイクロプスと距離をとる。

「同族の魔石食うと発狂するんじゃないっけ?」

「他種の魔石を食べた亜種だから平気なんでしょうか?」

「あれは狂ってるんじゃないか?」

 サイクロプスを見ると、炎を吐き出しながら爪を振り回し、さらに地面を叩いてそこら中を爆発させている。

「これは三人でやろうか!」

 という事で連携して倒す事にする。

 サイクロプスが地面を叩いて暴れているところに蒼真の斬撃。
 ランに多めの魔力を渡して遠距離からの風刃だ。
 サイクロプスも爪で風魔法を乗せてくるが、蒼真の一撃はサイクロプスの肩口から腹部にかけて深く斬りつける。
 ミリーもそれに合わせてメイスを振るう。
 範囲内魔力ごと爆裂魔法を叩き込むと、サイクロプスは右の爪を三本折られて悲鳴をあげる。
 千尋は三十以上もの火球を作り出し、悲鳴をあげているサイクロプスに全弾撃ち込むと爆発と共に燃え上がる。

 サイクロプスが炎に耐えている間に千尋はベルゼブブの銃弾をミスリル弾に詰め替える。

「ミリーは少し休んでろ」

 蒼真が言うとミリーは頷く。

 二人は魔力を練り上げる。
 千尋はリクに大量の魔力を渡して百以上もの石を浮かせ、蒼真はランの作り出した小さな竜巻を刀に宿す。

 爆発と共に炎をかき消したサイクロプスに、蒼真が距離を詰める。
 サイクロプスの左爪と蒼真の刀が交錯する。

 左爪から放たれた風の刃を払い除け、逆風にサイクロプスを斬り上げる。
 爆風がサイクロプスを中心に吹き荒れ、その巨体を浮かび上がらせる。
 宙に浮いて身動きのとれなくなったサイクロプス千尋のミスリル弾が炸裂する。

 サイクロプスは百を超える石の弾丸に叩き潰されて絶命した。



「「お疲れ様! 」」

 お互いに言ってサイクロプスを魔石に還して回収する。

「ミリーもお疲れ様。腕は大丈夫か?」

「ほぼ回復終わりました! お二人も回復しますね!」

 蒼真の火傷と千尋の切り傷も順に回復する。

 お礼を言って一休み。



 持って来た水筒で喉を潤したが、やはり戦闘で魔力を消費したのが原因であろう空腹が襲ってきた。

「街まで三時間…… この空腹に耐えるの?」

「水じゃ空腹は満たせないしな……」

「ふっふっふっ。こんなこともあろうかとお菓子を用意してましたよ!」

 袋からお菓子を取り出しながら言ったミリーが腹を鳴らして赤面していた。
 人数分用意してくれていたようで、同じ物を千尋と蒼真ももらって食べる。
 今後はお菓子を持って冒険に出ようと思う千尋と蒼真だった。





 帰路はやはり長く、街に着く頃には喋る気力すら無くなっていた。

 街に着いてすぐに一番近くにあった店で食事をする。
 普段であれば可もなく不可もなくといった味の料理なのだろうが、この日はとても美味しいと感じた。



 役所に向かう途中で屋台の甘い物を買い食いする。
 疲れた体に甘いものが染み渡る。
 実は千尋も蒼真も甘党だ。
 普段あまり表情を見せない蒼真も、この時ばかりは顔が綻んだ。



 役所に着いてクエストの報告とサイクロプス討伐の報告をする。

 クエストの報酬

 ・イビルビースト十八体で900,000リラ
 ・街道の魔獣三十五体で210,000リラ

 計1,110,000リラとなった。



 所長室でサイクロプスの報告をする。

「サイクロプスは計三体。いずれも別の魔石を食べて違う能力を持ってました」

「ふむ、めったに魔石を食べるモンスターはいないんだがね…… その三体の特徴を教えてくれるかな?」

「私が戦ったのは赤いサイクロプスで左腕が肥大化してました。左腕がとても硬いのと火を吐くのでなかなか倒せませんでしたね」

 サラサラとメモをとるアブドル。

「次にオレが戦ったのは青い縞模様の入ったサイクロプスだねー。牙と爪が長くて、風魔法を使ってきたよ! サイクロプスなのに四足歩行で動きがとても速かったっ!」

「ふーむ、サーベルタイガーの魔石でも食べたんだろうか……」

 メモを取りながら顎に手を当てて考える。

「あとはオレが戦ったのは黒いサイクロプスだ。地面を爆発させる魔法と風魔法、炎も吐いてきたんだが、赤と青のサイクロプスの魔石を食って最終的には化け物になったな」

「サイクロプスが魔石を食べる事で強化される事を理解しているという事か!?」

 さすがに驚くアブドル。
 魔獣がそれを知って亜種が増えるような事があれば並みの冒険者では敵わない。

「偶然魔石を食べて知ったか、または誰か人間が魔石を食べさせたか……」

「もし後者だとすれば何が狙いなんだ?」

「あのサイクロプスはオレ達を襲うだけでなく観察してたからな…… 多少知能があるのかもしれないし確証はない」

「ふむ。では回収した魔石はあるかね? 少し調べてみたいのだが」

「これです。普通の魔石とは違って綺麗な形ではないんです」

 サイクロプスの魔石を机に置く。

「私もこんな魔石は初めて見るよ。これをしばらくの間借りたいんだがどうかね?」

「何か調べるのでしたらどうぞ」

 魔石を預けて所長室を後にする。



 その後、魔力測定だけさせてもらって帰る事にした。

 千尋:レベル7 魔力量7,219ガルド
 蒼真:レベル7 魔力量7,964ガルド
 ミリー:レベル7 魔力量18,861ガルド

 まだ魔力が回復していないがレベルは上がっている事を確認できた。

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