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第2章

第18話、ソウルリストへの希望

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「ちょっとあんた、いつまでヌリヌリしてるのよ! 」

「……えっ? 」

 指摘をしたのは、クロさんへのヌリヌリが始まってから手を離していたアズである。
 ……そうか、俺は至近距離にあり自身のスカートを摘む腕が時折上下するため、見えたり見えなかったりするクロさんのデルタゾーンを意識しないため、別の考え事に集中していたのだ。
 結果ぬりぬりのしすぎ、オーバーぬりぬりをしてしまっていたわけだ。

「クロさん、すみませんでした」

 謝る俺に対してクロさんは言葉を発する代わりに、首を何度か素早く横に振る。
 俺は無事終わった治療にほっとしながら、先ほどの考え事の続きを行う。

 ソウルリスト、俺はどうやら今まで初心者的な活用の失敗、捉え方の間違いをしてしまっていたようだ。
 と言うのも、クロさんが倒した人形のソウルリストには『脚削ぎ』という言葉が含まれていた。
 そのため脚だけへの攻撃に注意しなければいけないと思ったわけなんだけど、実際には普通に他の箇所である、首へも攻撃をしようとしていた。

 ちなみにこの人形のソウルリストについては少し考えれば納得なのだけど、例えば毎朝挨拶をしている人に『挨拶をしている』的な何かソウルリストがついたと考えてみよう。
 そこでたまたま挨拶を忘れた日があったとしたら、はたしてその直後にソウルリストが変更されるのか?
 それはされないだろう。
 おそらく挨拶をパタリとやめてそれからある程度の月日が経過したり、挨拶をする事を覆す程の行動をしない限り変更、上書きはされないはずだ。

 その裏付けに俺のソウルリストも、まだ日が浅いとはいえかなり回復魔法を使ったと言うのに、全くの変更なしである。
 つまり見えたソウルリストをそのまま鵜呑みにしては危険だと言う事で、先の部屋のフォークやお皿に対しては、戦闘中で記憶があやふやだけど、真琴に対して危険な指示をしていたような気がする。
 情報の共有化。
 この気付いた事柄に関して、早急に真琴へも話しておく必要があるな。

 そこで新たな疑問が生まれてくる。
 そう言えば、ソウルリストって変更される時、もしかして部分的にだけ変更されたりするのだろうか?

「クロさん、ソウルリストについてなんですけど、変わる時って一気に変わるものなんですか?
 それとも部分的に変わるものなんですか? 」

「その質問の答えなんですけど、可能性としては両方です。
 ただし一般的には今あるソウルリストをベースに名前などの名詞が追加されたりする事の方が多いです。
 逆に稀に様々な条件が揃えば全文が一気に変わる、と言った感じで捉えて頂ければ大丈夫かと」

 なんだと!
 ……だとすると、例えば今ある俺のソウルリストに俺の名前が追加された日には、『超絶倫のユウト』になってしまうわけだ。
 いや、それならまだあまり変わらないのかもしれない。
 俺が真に恐るべきは、この回復魔法の色なんかがなにかの拍子に追加された時だ。

 白濁の超絶倫。

 これはかなりの鬼畜なソウルリストだ。
 なんてったって、白濁の超絶倫である。
 これを目の当たりにした女性は、俺のおいなりさんをソフトボール並みに大きいと誤解をしたり、視線が合うだけで指さされ近くで治安維持などに当たっている衛兵さんたちに助けを求められてしまうかもしれない。

 しかし俺からこの回復魔法を取ってしまうと、……本当に何も残らないんだよね。

 ……俺はどうすれば。
 いちるの望みをかけ、クロさんに聞いてみる。

「稀にある条件ってどんなのがあるのですか? 」

「えと、私も詳しくはわからないですけど、一番確実なのは私みたいに迷宮核に触れる事だと思います」

 いや、その、迷宮核触った事ありますし、故意ではないですけど破壊までしちゃった事ありますから!
 そう、絶望的な事実が述べられた瞬間であった。

 ……ふぅ。
 行き詰まった事だし、この考えについては目を背ける事にしよう。

「ユウトさん、ちょっといいですか? 」

 アズが再度俺の手を握ってきたところでクロさんから声がかかる。
 視線を上げると、クロさんが周囲の警戒を行ないながらも顔を紅潮させ、身体をもじもじさせている。

「その、私が受けた回復魔法は、もしかしてベ・イヴベェだったりするのですか? 」

「そうですけど? 」

 するとクロさんは驚いた表情を見せた後にハッとなり、虚空に向かって小刻みに何度か頷いてみせる。

「新人らしからぬ回復魔法の使い手ですけど、お嬢様や真琴さんのパーティーメンバーであると考えるなら妥当なのでしょうね。
 なるほど、それにベ・イヴベェなら、冒険者になりたてでも使えるわけで——」

 そこでクロさんが微笑む。

「ユウトさんは優しいですから、回復力の高さも納得です」

「いえいえ、自分は普通ですよ」

 するとクロさんが苦笑した。

「ユウトさん、人は普通、他人の痛みになんて気付かない生き物だと思います。
 でも傷ついた本人にしか見えないモノが、ユウトさんの瞳には常に映り込んでいる。
 ……ユウトさんは今まで、多くの苦労をされてきた、とかですか? 」

 今までの苦労って、小さい頃にダークエルフと呼ばれてイジメられそうになったぐらいで、あとは親の脛を齧りながら食うにも困らずのうのうと生きてきております。

「いえ、苦労なんて苦労はしていないと思いますよ」

「それならやっぱり、ユウトさんは根っからの優しい人なのですね」

「そんな事言われると照れますけど、俺は本当にそんなんじゃないですよ」

「ユウトー」

 真琴である。真琴は駆けてくる勢いのまま俺の身体に飛び込んできた。

「このボクが部屋に潜んでいた脅威を、全部振り払ったからね」

 そして腕に抱きつくと、俺を挟んで反対側に位置し同じく俺の腕に密着しているアズをキッと睨みつける。

「真琴、ケンカはダメだからね」

 諭すように話していると、不意に真琴の目が見開かれる。
 どうしたのかと思っていると、アズが握る方の俺の指に、なにかねっとり纏わり付いてくる暖かな感触が——
 見てみるとアズがその小さな舌先で、俺の中指をチロチロと綺麗にしている最中であった!?
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