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第1章

第28話、真琴にぬりぬり

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 多くは吸収されたのだけど大量に白濁液を塗ったため、真琴の足首付近には多少の粘着液が残っていた。
 これってもしかして。

「どう? 」

「痛み、引いたみたい」

 やっぱりそういうことか。
 この魔法って回復が必要な箇所に触れると吸収されて、もう必要なくなれば吸収されずに対象を濡らすだけになるようだ。

 そうとわかれば、よし、頑張るぞ!

 そうして俺は、床にお尻をついている真琴のつま先から踵、脛、ふくらはぎ、膝、そして外もも、内ももと、塗っていく箇所を上へと移動させていく。
 ちなみに塗ってる最中、くすぐったいのか、真琴は口を真一文字に結んでいる。

「あと痛むところはある? 」

「その、実は腰と脇腹のあたりもちょっと——」

「わかった」

 そこで真琴に一度立ってもらう。
 そして服の上から塗ろうと試みたのだけど、服を濡らすだけでいっこうに吸収される気配がない。

 なんでなんだろう?
 真琴が痛いと言ってる以上、なにかしら怪我をしているはずなのに。
 ……いや、まてよ。

 どうやら白濁液は触れた生地を綺麗にしているだけで、布を通り抜けその先にある真琴の身体にまでは届いていないようである。

 つまりこれって、直接じゃないとだめってことでは?
 でも服には染み込んでるわけだし、どうにかしてその先の肌にいかないものかな。
 そのあと何度も服の上から試してみるけど、やっぱり服に邪魔されているようで効果が出ない。

 そこで真琴も気づいたようで、おずおずといった感じで口を開く。

「直接塗らないとダメなのかな? 」

「……そうかも」

 すると真琴は、お腹のあたりのカッターシャツを掴むと引っ張り外へと出す。
 そして両手で摘まむと、身体とカッターシャツの間に隙間を作った。

 そこで俺と目があった真琴が、目を逸らしながらに言う。

「……お願い……します」

「わっ、わかった」

 俺は白濁球の中に手首まで突っ込むと、大量の白濁液をその手に掬った。
 そして真琴を見やる。
 しかし真琴はなおも視線を逸らしたままである。
 これは待っているのだ、塗られるのを。

 そこで俺は意を決する。
 カッターシャツの中へヌチョヌチョに濡れたその両手を入れると、まずはお腹に触れる。

「……あっ」

 冷たかったのか、俺の手が肌に触れた瞬間真琴が僅かに声を上げた。
 俺もその声に思わず手を止めてしまったけど、気を取り直して塗り込みを再開させる。
 しかし腹部のほうは脚ほど痛めているわけではないようで、一時塗っているとすぐに潤ってきた。

 それでも痛めているのには変わりない。
 新たに掬ってしらみ潰しに塗るか。

 お腹から始まった塗り込みは、おへそ、腰へと順調に移動していく。
 えーと、この感じだとたぶんここも痛めてるよね?
 思いきっておへその方からショートパンツの中にも指を入れてみた。

「ちょっ、そこは」

 真琴がなにかを言ったような気がしたが、指先に意識を集中させていた俺は、かまわず下腹部にどんどん塗っていく。
 そうしてショートパンツの隙間から塗り込んでいると、すぐに吸収されなくなり、ヌルヌルとした感触が絶え間なく続くようになった。
 ここはもう大丈夫そうだ。
 そこで塗る箇所を、また上へと上げていく。
 そうして脇腹に到達した。

「そっ、そこはくすぐったいかも。
 ……あははははっ! 」

 身をよじらせ声を上げる真琴。
 しかしその箇所の吸収率は結構高かった。

「黙って、塗らないと治らないよ」

 この箇所でかなりの量の白濁水を使ったため、途中で再度魔法を発動させて白濁球に液の補充を行い、それから何度も何度も塗っていく。
 そしてその箇所が終わる頃には、真琴は笑いすぎて目に涙を浮かべながら荒い息を吐いていた。

 時間は有限だ。
 それにここは危険なダンジョン内。
 俺は休むことなく、手を滑らせて他の場所の治療も行っていく。
 次は背中方面にいこう。
 思った通り、こちらの吸収率もそこそこある。

 ちなみに正面から手を回して塗っているため、俺の腕の中に真琴の身体がすっぽりおさまっている形である。
 その腕の中で、真琴は時折跳ねるようにして身体を震わした。
 よし、ここもヌチョヌチョになったな。
 そこで手を滑らせ正面に移動していっていると、指に少しだけ柔らかな感触が。

「んっ」

 真琴が声を噛み殺した。

 ここってもしかして。
 意識を指先から離す。
 そして直接見えなくても服の膨らみでわかった。
 まだ真琴の身体の中でも直接触れた事がない場所の一つ、である。

「ご、ごめん」

 謝罪をして服に突っ込んでいた両手を抜き取る。
 そこで気が付く。
 少し離れたところで、ルルカが顔を真っ赤にさせてこちらを見ていることに。

「こ、これは回復魔法だからね! 」

「はっ、はい、回復魔法です! 」

 とりあえず落ち着くため、俺たちは水分補給休憩を行なった。

 それから暫くして冒険を再開させると、ダウジングに従い歩を進めていく。
 しかし先ほどのハイゴブリン、あれは普通のゴブリンと明らかに違っていた。
 それにこの異質なフロアである。

 ここには、この先には絶対なにかある。

 それとどうやらルルカのお姉さん、極力モンスターとは遭遇しないように物陰を進んでいたようだ。
 まぁ初心者なら当たり前の話か。
 あのハイゴブリン、強さ的にみて盗賊冒険者であるガーレンと同等ぐらいの力があるように感じたし。

 そして恐らく、お姉さんはあのハイゴブリンのようなモンスターに見つかって……。

「あれ? 」

 ルルカが声を漏らした。

「どうかした? 」

「……その、気配が途切れました」

 そう言うと焦ってテンパってるのか、ロッドを持つルルカがその場でぐるぐる回り始める。

 お姉さんの魂の痕跡が無くなった?
 それって——

「ルルカ、言いにくいんだけど、そこでお姉さんが亡くなったとかではないのかな? 」

「あのですね、もしそうだとすると、お姉ちゃんの魂を強く感じるはずなんです。
 でもまだ薄く引き伸ばしたような感じで……」

 なるほど、でもそれならどういうことなんだろう?

 ルルカがウロウロしている辺りを注意深く見ていく。
 あれ、ルルカがいる付近って、壁に向かって少し地面が下がっているような?
 その時、ルルカが石畳にある小さな穴につまずいた。

 近くにいた俺は手を伸ばし、なんとかルルカを掴んだ!
 そして手を引こうとするが、無理な体勢で手を伸ばしていたのと、床が坂になっていたためそのまま持っていかれてしまう。

 このままだと壁にぶつかってしまう!
 ルルカを抱きよせると、俺の背中から壁に衝突する姿勢に変えた。

 しかし——

 なっ!
 あるはずと思った衝撃がない。
 そのためまだ重力に引かれている。
 これって、壁をすり抜けた!?

 予想外の展開に血の気が一気に引く。

 それに不味い、背中から倒れていっている!
 咄嗟にルルカの頭を守るよう抱きしめなおす。
 そして身体が上下逆さまになってきたあたりで背中に衝撃、そのまま傾斜のあるトンネルを滑るようにして落ちていく。

 滑る摩擦で身体が固まってしまう中、どうすることも出来ずに視線だけをキョロキョロ動かすだけになってしまっていると、俺たちが通り抜けた壁から真琴の顔が見えた。

 そして真琴はこちらを確認すると、なんのためらいも見せずに俺たちのあとを追って飛び込んできた。
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