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第1章
第13話、回復魔法ベ・イヴベェ
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少女と目が合う。
一応振り返り俺の周りを見てみるが、他にお兄さんと呼べる人はいない。
「えーと、キミは? 」
「私はルルカ、うちの親は刀鍛冶マサの隣で仕立て屋をしてるよ」
「ああ、うん」
名乗る時に身内の事を言うなんて、よっぽど両親の事が好きなのかな?
「それで俺たちに、なにか用なのかな? 」
「私、冒険者になりたての人に、ダンジョンの情報を売ってます! どうですか? 」
「どうと言われても——」
ダンジョンに関してなら、俺より真琴が直接話した方がいいだろう。
真琴の顔を見てみるとちょうどこちらを見ており、俺の考えを察したようで一度頷いてみせてからその口を開く。
「ルルカ、キミが故意で嘘の情報をボクたちに掴ませた時や、嘘じゃなくても間違った情報を教えてくれた時にも、それが元でボクたちは命を危険に晒すかも知れないんだ。
それは理解出来るかな? 」
「はっ、はい! 」
「そしたらキミは、今からここで嘘を言わない事を証明できるかな? 」
なるほど、たしかに情報はあったほうが良いけど、それが間違いの情報の可能性は無きにしも非ず。
まぁ普通子供の言うことなら大目に見るもんだけど、真琴はおそらくルルカに対して対等に接しているがゆえの対応なんだろう。
でも子供が嘘を言わない証明なんて簡単に出来るものなのかな?
ちょっと意地悪をしているのかなと真琴の顔を見てみるが、その横顔は涼しいものである。
そして悩んでいたルルカが、なにか閃いたような顔つきになる。
「あの、そしたら私のソウルリストを見てもいいから、確認して下さい! 」
言われて見てみると、『小さな天使の癒し手』と言うのを感じとった。
「どうですか? 」
聞いてくるルルカであるが、その顔には自信のようなものが見て取れる。
うーん。
と言うか、比べるものがない以前に普通がどうなのかさえわからないので、正直なんとも言えないです。
「どうなんだろ? 」
するとルルカが『えー! 』と驚きの声を上げた。
「なんて出てるの? 」
一人置いてけぼりを喰らっていた真琴が聞いてきたので、ルルカのソウルリストを伝えると、真琴も腕を組んで考え込む。
それを見たルルカが、食ってかかるようにして口を開く。
「悪いワードがないどころか、天使、天使が入ってるんですよ! 」
天使って、そんなに凄いのかな?
いやでも言われてみれば、天使ってなんか凄そうである。
でもどうしたら天使ってつくんだろう?
簡単に習得できたり仮にソウルリストが魔法的な何かで買えたりするなら、価値が低かったり信憑性がなくなってくるわけだけど。
憤慨しているルルカに視線を戻してみる。
ただここまで自慢気に言うあたり、価値があるって事になるんだろうけど。
駄目だ、いくら考えても考えが纏まらない。
どうしよう?
そうだ!
ルルカに直接色々と聞いてみる手があった。
それにはここは取り敢えず、俺たちの現状を伝えとく必要があるな。
ただ全て正直に言って驚かれるのも面倒なので、可能性としてありそうな物として、嘘も交じえた上で。
「実は俺たち、記憶がないんだ」
「え? 」
「記憶喪失なんだよ。で、お互いの名前しか知らなくてさ、だから色々とごめんね」
「そうなんですね、……それは大変です」
ルルカはフムフム頷きながら俺の言った事を疑う事なく信じているようだけど、しっかりして見えてもやはり子供というか、まだまだ純粋なんだろうな。
「お兄さん、ちょっと手を貸して下さい」
言われて右手を差し出すと、ルルカが両手で俺の手の平を握る。
そして——
「砂塵の影を彷徨いし魔神よ、月下を従えし女神を招き入れ、汝らの奇跡の片鱗を一つの軌跡として、我が理の最中にその恵みを与えん事を! 」
するとルルカの握る手がとても温かく感じ出したかと思うと、薄らと光を放ち始める。
「ベ・イヴベェ」
ルルカが呪文名を唱えると、その手から素手で救い上げたぐらいの量の水球が現われた。
それはルルカの手の平上に浮かんでおり、彼女がそのまま俺の方に歩み寄る事により俺の右手を包み込む。
「これはテクニカル回復魔法のベ・イヴベェです。
少量の魔力で発動するのですが、使う人の優しさで回復効果も変わっちゃう特殊な魔法です。
あと少しでも負のオーラを持ってたら全く回復をしない事からも、唯一のテクニカル魔法の分類に入ってる魔法でもあります」
へぇー、たしかにベ・イヴベェの水に包まれていると、優しさに包まれているというか、穏やかな気持ちになってくる。
そしてなるほど、その説明で回復効果があるから信用に値すると。
……でもルルカ、それだけじゃ信用に値するかどうかの判断を、記憶がない設定である俺たちがわかる事なんて出来ないんですけど。
さて困った、どう対応しようかな。
とその時、少し指を動かしてしまう。
すると手を包んでいた水球がパシャンッと音を立てて崩れ、テーブルの上を濡らした。
「あっ、ごめん! 」
「大丈夫です。魔法の水は少しの衝撃で壊れてしまいますし、壊れたらすぐに消えてなくなるので拭く必要もないです」
「へぇー、それは便利だね」
そこでふと思う。
魔法の練習をしておこうと。
それとここはベ・イヴベェを初めて知った風にしておいた方が良いよね。
「ルルカ、その魔法を使うのって、なにかコツがあったりするの? 」
「魔力がカラじゃない限り、呪文を唱えたらだれでも使えますよ」
呪文はさっきので完全に覚えた!
「砂塵の影を彷徨いし魔神よ、月下を従えし女神を招き入れ、汝らの奇跡の片鱗を一つの軌跡として、我が理の最中にその恵みを与えん事を。
ベ・イヴベェ! 」
呪文を唱えると、俺の手の平上に水球が現われた。
やった、今度こそ魔法が使えた!
これで真琴とダンジョンに入るときは、只の足手まといにならずに済むかも。
「お兄さん、記憶力凄いんですね!
それよりそのお水、なんかサイズが大きいですし白く濁ってるような……」
たしかに俺の手の平上に浮いている水球は、大きさはバスケットボールくらいはあり、色もルルカみたいに透明ではなくて牛乳みたいに白く濁っている。
そこでジッと見ていたルルカが、その白濁の回復液に両手を伸ばすと、水球に手首までを突っ込み一掬いを手に取ってみる。
俺が出した白濁液の一部は、ルルカの手の上でゼリーのようにプルプルと震えていた。
「なんですかこれ?
掬い取ったと言うのに壊れないどころか、このスライムみたいな弾力のある感触。
しかもこのドンドン癒される感じ、回復効果が私よりたくさんありそう!?
あっ、少しこぼれ落ちちゃいました」
「どっ、どれどれ」
今度は真琴が、人差し指で白濁の水球にちょんちょんと触ってみる。
「たしかにこれ、ルルカのと比べてみると壊れ辛いみたいだね」
続いてその人差し指を第一関節まで水球に突っ込むと、指を曲げて抜き取る。
そうする事によって真琴の人差し指の腹には、外気に触れた白濁ゼリーがプルプル震えた。
「臭いはしないみたいだけど——」
真琴はそれを目線の位置まで持ってくると、親指で上から一気に押しつぶした。
すると離した指と指の間には、糸のような橋が出来上がった。
「粘り気がある……」
そう言いながら真琴の瞳がぐるぐると渦を巻き始めたかと思えば、それから固まってしまい動かなくなってしまう。
その隣では手に残っていた白濁ゼリーを、同じく潰したルルカが感嘆の息を吐いた。
「この回復水、多少なり粘着性があるという事は、傷ついた患部に塗って固定できるって事で——」
手の平上で絶賛ネバネバしている白い回復液を見つめるルルカは、わなわなと震えながらに口を開く。
「あの、お兄さんのソウルリストを見てもいいですか? 」
その言葉はもっとも旬であり、今年の言葉で断トツで聞きたくない言葉でもあった。
一応振り返り俺の周りを見てみるが、他にお兄さんと呼べる人はいない。
「えーと、キミは? 」
「私はルルカ、うちの親は刀鍛冶マサの隣で仕立て屋をしてるよ」
「ああ、うん」
名乗る時に身内の事を言うなんて、よっぽど両親の事が好きなのかな?
「それで俺たちに、なにか用なのかな? 」
「私、冒険者になりたての人に、ダンジョンの情報を売ってます! どうですか? 」
「どうと言われても——」
ダンジョンに関してなら、俺より真琴が直接話した方がいいだろう。
真琴の顔を見てみるとちょうどこちらを見ており、俺の考えを察したようで一度頷いてみせてからその口を開く。
「ルルカ、キミが故意で嘘の情報をボクたちに掴ませた時や、嘘じゃなくても間違った情報を教えてくれた時にも、それが元でボクたちは命を危険に晒すかも知れないんだ。
それは理解出来るかな? 」
「はっ、はい! 」
「そしたらキミは、今からここで嘘を言わない事を証明できるかな? 」
なるほど、たしかに情報はあったほうが良いけど、それが間違いの情報の可能性は無きにしも非ず。
まぁ普通子供の言うことなら大目に見るもんだけど、真琴はおそらくルルカに対して対等に接しているがゆえの対応なんだろう。
でも子供が嘘を言わない証明なんて簡単に出来るものなのかな?
ちょっと意地悪をしているのかなと真琴の顔を見てみるが、その横顔は涼しいものである。
そして悩んでいたルルカが、なにか閃いたような顔つきになる。
「あの、そしたら私のソウルリストを見てもいいから、確認して下さい! 」
言われて見てみると、『小さな天使の癒し手』と言うのを感じとった。
「どうですか? 」
聞いてくるルルカであるが、その顔には自信のようなものが見て取れる。
うーん。
と言うか、比べるものがない以前に普通がどうなのかさえわからないので、正直なんとも言えないです。
「どうなんだろ? 」
するとルルカが『えー! 』と驚きの声を上げた。
「なんて出てるの? 」
一人置いてけぼりを喰らっていた真琴が聞いてきたので、ルルカのソウルリストを伝えると、真琴も腕を組んで考え込む。
それを見たルルカが、食ってかかるようにして口を開く。
「悪いワードがないどころか、天使、天使が入ってるんですよ! 」
天使って、そんなに凄いのかな?
いやでも言われてみれば、天使ってなんか凄そうである。
でもどうしたら天使ってつくんだろう?
簡単に習得できたり仮にソウルリストが魔法的な何かで買えたりするなら、価値が低かったり信憑性がなくなってくるわけだけど。
憤慨しているルルカに視線を戻してみる。
ただここまで自慢気に言うあたり、価値があるって事になるんだろうけど。
駄目だ、いくら考えても考えが纏まらない。
どうしよう?
そうだ!
ルルカに直接色々と聞いてみる手があった。
それにはここは取り敢えず、俺たちの現状を伝えとく必要があるな。
ただ全て正直に言って驚かれるのも面倒なので、可能性としてありそうな物として、嘘も交じえた上で。
「実は俺たち、記憶がないんだ」
「え? 」
「記憶喪失なんだよ。で、お互いの名前しか知らなくてさ、だから色々とごめんね」
「そうなんですね、……それは大変です」
ルルカはフムフム頷きながら俺の言った事を疑う事なく信じているようだけど、しっかりして見えてもやはり子供というか、まだまだ純粋なんだろうな。
「お兄さん、ちょっと手を貸して下さい」
言われて右手を差し出すと、ルルカが両手で俺の手の平を握る。
そして——
「砂塵の影を彷徨いし魔神よ、月下を従えし女神を招き入れ、汝らの奇跡の片鱗を一つの軌跡として、我が理の最中にその恵みを与えん事を! 」
するとルルカの握る手がとても温かく感じ出したかと思うと、薄らと光を放ち始める。
「ベ・イヴベェ」
ルルカが呪文名を唱えると、その手から素手で救い上げたぐらいの量の水球が現われた。
それはルルカの手の平上に浮かんでおり、彼女がそのまま俺の方に歩み寄る事により俺の右手を包み込む。
「これはテクニカル回復魔法のベ・イヴベェです。
少量の魔力で発動するのですが、使う人の優しさで回復効果も変わっちゃう特殊な魔法です。
あと少しでも負のオーラを持ってたら全く回復をしない事からも、唯一のテクニカル魔法の分類に入ってる魔法でもあります」
へぇー、たしかにベ・イヴベェの水に包まれていると、優しさに包まれているというか、穏やかな気持ちになってくる。
そしてなるほど、その説明で回復効果があるから信用に値すると。
……でもルルカ、それだけじゃ信用に値するかどうかの判断を、記憶がない設定である俺たちがわかる事なんて出来ないんですけど。
さて困った、どう対応しようかな。
とその時、少し指を動かしてしまう。
すると手を包んでいた水球がパシャンッと音を立てて崩れ、テーブルの上を濡らした。
「あっ、ごめん! 」
「大丈夫です。魔法の水は少しの衝撃で壊れてしまいますし、壊れたらすぐに消えてなくなるので拭く必要もないです」
「へぇー、それは便利だね」
そこでふと思う。
魔法の練習をしておこうと。
それとここはベ・イヴベェを初めて知った風にしておいた方が良いよね。
「ルルカ、その魔法を使うのって、なにかコツがあったりするの? 」
「魔力がカラじゃない限り、呪文を唱えたらだれでも使えますよ」
呪文はさっきので完全に覚えた!
「砂塵の影を彷徨いし魔神よ、月下を従えし女神を招き入れ、汝らの奇跡の片鱗を一つの軌跡として、我が理の最中にその恵みを与えん事を。
ベ・イヴベェ! 」
呪文を唱えると、俺の手の平上に水球が現われた。
やった、今度こそ魔法が使えた!
これで真琴とダンジョンに入るときは、只の足手まといにならずに済むかも。
「お兄さん、記憶力凄いんですね!
それよりそのお水、なんかサイズが大きいですし白く濁ってるような……」
たしかに俺の手の平上に浮いている水球は、大きさはバスケットボールくらいはあり、色もルルカみたいに透明ではなくて牛乳みたいに白く濁っている。
そこでジッと見ていたルルカが、その白濁の回復液に両手を伸ばすと、水球に手首までを突っ込み一掬いを手に取ってみる。
俺が出した白濁液の一部は、ルルカの手の上でゼリーのようにプルプルと震えていた。
「なんですかこれ?
掬い取ったと言うのに壊れないどころか、このスライムみたいな弾力のある感触。
しかもこのドンドン癒される感じ、回復効果が私よりたくさんありそう!?
あっ、少しこぼれ落ちちゃいました」
「どっ、どれどれ」
今度は真琴が、人差し指で白濁の水球にちょんちょんと触ってみる。
「たしかにこれ、ルルカのと比べてみると壊れ辛いみたいだね」
続いてその人差し指を第一関節まで水球に突っ込むと、指を曲げて抜き取る。
そうする事によって真琴の人差し指の腹には、外気に触れた白濁ゼリーがプルプル震えた。
「臭いはしないみたいだけど——」
真琴はそれを目線の位置まで持ってくると、親指で上から一気に押しつぶした。
すると離した指と指の間には、糸のような橋が出来上がった。
「粘り気がある……」
そう言いながら真琴の瞳がぐるぐると渦を巻き始めたかと思えば、それから固まってしまい動かなくなってしまう。
その隣では手に残っていた白濁ゼリーを、同じく潰したルルカが感嘆の息を吐いた。
「この回復水、多少なり粘着性があるという事は、傷ついた患部に塗って固定できるって事で——」
手の平上で絶賛ネバネバしている白い回復液を見つめるルルカは、わなわなと震えながらに口を開く。
「あの、お兄さんのソウルリストを見てもいいですか? 」
その言葉はもっとも旬であり、今年の言葉で断トツで聞きたくない言葉でもあった。
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