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第八章 魔法と工業の都市編

150.よくばり計画

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 ノミーとの約束により現在の塩工場のすぐ近くにミーヤ所有の塩水揚水設備を設置することになり、三日後には魔鉱燃料を用いる揚水ポンプを設置した作業小屋の建築が終わっていた。

「ジョイポンの街中から馬で一日なら利便性は悪くないと言えるわね。
 私のポケットの空きだと二十五樽前後くらいかしら。
 できれば一度に八十樽くらいは運びたいわ。
 テレポートの巻物を作る成功率がもっと高くなれば気楽なんだけどね」

「ねえミーヤさま? ボクなら八十樽運べるよ。
 ポケットには水飴とかお菓子とか着替えとかが少し入ってるだけだもん」

「えー!? チカマったら荷物そんなに少ないの?
 私なんて調理道具と食器類だけで四十はあるわ。
 それと食材含めたら六十は超えてしまうのよね……
 冒険用の装備を含めたまま買い物行ったらはみ出ることあるし」

「じゃあ運ぶのはボクの役目できまりだね。
 ミーヤさまのやくにたてるのすっごく嬉しいし楽しみだー」

「でもねチカマ? ここで汲みあげた塩水はカナイ村へ運ぶのよ。
 あなたはまだカナイ村へ行ったことないから運べないのよねぇ。
 だからまずはどこかのタイミングでカナイ村へ連れていきたいわ」

「ぶー、なんかわからないけどチクチクする……
 ミーヤさまったらカナイ村とかの話するときすごく楽しそう」

 あきらかに拗ねた様子のチカマを見ながらミーヤは心の中で微笑んでいた。毎度のことだがヤキモチを焼いているところがかわいくて仕方ない。そうならないために早めにカナイ村へ行ってマールと会わせて仲良くなって、と当たり前のことを考えてみるが、それとは別の考えも頭をよぎってしまう。チカマのヤキモチがあまりにもかわいすぎて、この状況をなるべく長く楽しみたいなんてひどいことを思いついてしまったのだ。

 それにしても、ノミーを疑ってみたりチカマがヤキモチを焼くことを喜んでみたり、お金儲けが好きだったりと、我ながらとても神人だなんて持て囃される存在とは言えそうにない。まあ豊穣の女神が送り出してくれた時には楽しめと言ったくらいで清く正しく生きるようになんてことは言われなかった。今のところはミーヤにとって楽しい人生を送っているのだから、きっと女神の思惑通り、だと思うことにしよう。

 とは言えもちろんチカマに意地悪するつもりだなんて毛頭なく、ミーヤの中にあるほんの少しのいたずら心がそうさせているだけだ。言うなれば好きな子につい意地悪してしまう子供のような行動である。

 そんなじゃれ合いをしながらも、これから塩作りを行う準備は整った。書術の修行次第ではあるが、ある程度自由に行き来することもできるし、ジョイポンでの目的は果たせたと言える。ただまあナウィンたち職人を囲う件に関してはなにもわからないままではあった。


「ところで神人様? 小屋の管理はいかがなさいますか?
 無人でも困りはしないと思いますが、こちらで人を付けることはもちろん可能です。
 稼働までしばらく時間がかかるのであれば週一くらいで清掃しておきましょうか?」

「そうしていただけると助かります。
 お手入れにかかる人件費はきちんとお支払いしますので、場所代と一緒に請求してください

「かしこまりました。
 とは言っても、屋台の権利手数料から引いてもまだこちらが支払うほうが多いですな。
 今後はさらに拡張し、屋台から大型店舗へ移行するつもりです」

「ジョイポンはあまり観光に力を入れていないと聞いてます。
 それなのに大型店舗に投資して採算採れるのでしょうか?」

「力を入れていないと言っても訪れる者はおります。
 ですがこの街には王都などと違って野外食堂がありません。
 その代わりとしての機能も果たせるような造りにするのです。
 いずれはマーケットを含めた大型施設にしたいと考えております」

 なるほど、地方都市には欠かせない大型スーパーの建設が目標と言うことらしい。近代日本だと小さな商店が壊滅する要因になったりして、必ずしも地元に歓迎されるものではなかったが、ここジョイポンには被害を受ける個人商店のような物はない。正確には存在するが被害はこうむらないと言うことだ。

 そんな大型商業施設が出来るなら、オープンと同時にテナント入りさせて貰えたらなかなかいい稼ぎになりそうだ。それまでにはカナイ村で特産品を開発できているだろうし、そのくらいはできていないと快く送り出してくれたマールを初めとする村の人たちに顔向けできない。

 というわけで――

「とても興味深いお話ですね。
 その大型施設実現の際にはぜひ私もお店を出したいものです。
 ノミー様ならきっとお誘いくださると信じてお待ちしておりますね」

「これはこれは、願ったりでございます。
 必ずや神人様の店をご用意して開業の目玉にさせていただきます。
 まさに持ちつ持たれつ、どちらにとってもいい話となるでしょう」

 どうやらノミーも乗ってくれそうな手ごたえを感じる。カナイ村の特産品にできそうなものもいくつか考えてあるし、うまくすれば地方自治体のアンテナショップにできそうだ。こう言ったことを考えていると早く実現に向けて動きたくて仕方がない。

「なんだか今すぐにでも動き出したい気分で本当に楽しみです。
 そう言えば随分と街を離れてしまったけど、レナージュ達はちゃんとやってるかしらね」

「ボクのよそう、毎日酔っぱらって昼過ぎまでねてる。
 レナージュとイライザがそろったらだれにも止められない」

「さすがねチカマ、賢くていい子だわ。
 私も同じ意見だしきっとトンピシャで大当たりよ?」

 これはちょっと付き合いがある者ならだれでもわかる簡単なことだし、むしろ知らない方がおかしいくらいに毎度酔いつぶれている。ジスコでもトコストでも、バタバ村でもそうだったし、しっかり自制できてるはずの遠征中でも隙あらば飲んだくれるくらいだ。

 と言うわけで、その飲んだくれ達と合流するために、塩工場のある海岸をあとにしてジョイポンへ戻ることにした。なんと言っても自分の塩工場ならぬ海水汲みあげ所を設置できたのがとても大きな収穫だ。塩を直接買い付けて運んでも十分な成果は得られただろうが、ジョイポンで製造しているのは焼き塩だし、国内に流通しているのも全てジョイポン製の塩だ。

 だが海水を運んでカナイ村で製造すれば同時ににがりも製造できる。今のところカナイ村で生産しようと考えている農作物は、米や綿花の他に大豆が確定している。つまりにがりがあれば豆腐を作るめどが立つと言うことだ。さすがに豆腐は出荷できないとしても、乾燥させた湯葉なら十分可能で名物にもなり得るだろう。

 うーん、楽しみすぎて今夜は眠れなくなりそうだ。なんて考えながら馬車に乗ったミーヤは、コトコトと心地よい揺れにあっさりと眠りにつき、目が覚めたのは最初の野営地についたころだった。
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