上 下
153 / 162
第八章 魔法と工業の都市編

144.驚きのお供

しおりを挟む
 翌日もまた走り続けていたが荒野の日差しは思いのほか厳しく、ミーヤはとうとうばててしまった。周囲に日陰は見つからず汗だくではあはあ言っているとナウィンがテントを出してくれた。

「ナウィン、ありがとうね。
 氷もありがとう、これでだいぶ楽になったわ」

「流石に馬と一緒に走り続けるのは無茶だったか。
 その辺に馬でもいればいいんだけどなあ。
 草原があるわけじゃないから厳しそうだ」

「でもいい風が吹いて来てるからだいぶ良くなったわ。
 心配かけてごめんなさいね」

「ん? 風なんてまったく吹いていないが?
 何言ってるんだミーヤ、やっぱり具合が悪いんじゃないのか?」

「イライザこそおかしなことを言うわね。
 これ見てよ、私の尻尾の毛がなびいてるじゃないの」

 そう言いながら自分の尻尾を指さしたミーヤは、その先にあるものを見つけ驚いてしまった。確かにイライザの言う通り風なんて吹いていないのかもしれないが、ミーヤにだけ感じられて当然だ。

「あなたったら! ついてきちゃってたの!?
 道理で風が心地よいと思ったわ、今果物出してあげるわね」

「あ、妖精さんついてきてたの。
 ミーヤさまのこと好きなの?」

「まさかこんなところまで来てしまうなんて驚いたわ。
 森から離れてしまって平気なのかしら」

 ミーヤとチカマが話しかけている相手は風の妖精であるシルフだった。イライザは初めて見る妖精の姿に目を丸くして驚いている。超ベテラン冒険者が見ても珍しい存在と言うことだろう。

「ねえミーヤ? それって本当にあのシルフなの?
 噂で聞いたことはあったけど実物を見る時が来るなんてねえ。
 ホント相変わらず驚かせてくれるわ」

「見つけたのはチカマとナウィンなんだけどね。
 なぜか私に懐いちゃったのよ。
 一度助けてもらってるし、これからも一緒にいてくれるなら心強くて頼もしいわ」

 そう言いながらミーヤはポケットから果物を出して切り分けてあげた。その隣で物欲しそうにしているチカマとナウィンにも分けてからイライザたちには干し肉を差し出す。そう言えばあの滝から落ちた時にミーヤを飛ばして助けてくれたんだし、もしかして走りながら浮かべてくれたら楽になるかもしれない。出来るのかどうかはわからないけど一応お願いしてみることにした。

「ねえシルフさん、私のことを浮かせて軽くすることってできるのかしら?
 そうしたら走るのが随分楽になると思うのよねえ」

 ミーヤの願いが通じたのかどうかわからないが、身体も随分と休まったのでそろそろ再出発しようと立ち上がった。するとシルフはミーヤの周りをくるくるっと飛び回った後背中へと飛び乗ってきた。

「いやあ本当に随分と懐いてるもんだな。
 妖精も分類は動物だし、もしかしたら調教できるんじゃねえのか?」

「そんなことできるのかしら。
 でも例えできたとしても妖精の自由を奪うようなことしたらバチが当たりそうよ」

「そんなのどんな動物でも魔物でも同じことだろ。
 結局はそいつらの自由を奪うことにはなるんだからな」

 言われてみればイライザの言う通りではある。ミーヤは過去にペットを飼ったことはなかったが、子供の頃には家で犬を飼っていたことを思い出した。だいたい愛玩動物なんて人間のエゴを表している最たる言葉もあるじゃないか。

「確かに正論だけど、やっぱり気分の問題なのかな。
 まったく人ってわがままよね。
 だから今回は止めておくわ」

「ま、好きにしたらいいんじゃない?。
 使役していれば風精霊術が使い放題らしいのはもったいないけどね」

「私、シルフのこと調教してみるわ!」

 レナージュの言葉でいっぺんに心変わりしたミーヤは、ダメ元でもいいから調教を試してみようと思い立った。もしシルフの能力を自由に使えるようになればあの時のように空を飛ぶこともできるだろう。

「さ、こっちへいらっしゃい。
 一緒に旅をしましょうね。
 大丈夫よ、怖くないから仲良くしましょ?」

 丁寧に優しく声をかけた後、狙い澄ましたように笛を吹くとあっけなくテイムすることが出来た。あまりのあっけなさに拍子抜けしてしまったくらいだ。

「やっぱり出来たじゃねえか。
 調教しなくても懐いてるくらいだから出来て当然と思ったよ」

「やってみるものね、これで本当に風精霊術が使い放題なら嬉しいわ。
 手始めに飛んでみようかしらね」

 普通は手のひらに風を起こすだけであまり使い道のない風の精霊晶だが、身体全体をを包むことが出来るくらい出せればきっと体を浮かせることもできるだろう。確かあの時は足元に浮き上がる風がくっついたイメージだった。

 さっそくシルフを呼び寄せてから両手で包み込みイメージを膨らませてみると、足元に渦を巻く風の流れが出来ていくことが感じられる。そのまま体を浮かせるくらいに強めてから後ろへ向かって風を送り込むと浮き上がった体が進み始めたではないか。

「すごい! ちゃんと空を飛んでるわ!
 これなら走らずに済んで楽が出来そうね!」

「いや、だけどよ……
 いくらなんでもそれは厳しくないか?」

 イライザの指摘はもっともで、確かに宙を浮いて進むことが出来てはいるのだがその速度はかなり遅く、歩いているのとほぼ同じくらいの速度しか出ていなかった。これではジョイポンへいつたどり着くかわからない。

「どうやらチカマみたいに自由自在とはいかないわね。
 それなら体を浮かせるだけにして、進むのは自分の足にすればいいかしら」

 名前を出されて褒められたつもりなのか、誇らしげなチカマを眺めながら、今度は足元ではなくお腹の辺りに風を貯めるようなイメージを持ってみる。すると段々と体が軽くなったのでそのまま歩いてみる。

「うんうん、これならいけそうよ。
 足に重さを感じないから、きっとこれなら疲れ知らずね」

「なんだか便利そうでいいわねえ。
 私も手のひら以外から風を出せたらいいのに」

「やっぱりレナージュも手のひら以外からは出せないのね。
 私が下手なだけかもって思ってたけどそんなこと無いみたいで安心したわ」

 そんな話をしながら休憩を終え再び走り始めた一行は順調に旅路を進めて行く。シルフの助けは思ってたよりも大きな効果が有り、予定よりも少し早目にジョイポンの外周付近までたどり着くことが出来た。

「思ったより楽についたわね。
 もし道に迷ったらどうしようと考えてたけど杞憂だったわ」

「そうね、まだ時間も早いし宿を取ってから街をぶらっと見てみましょうよ。
 なにかおいしいものとお酒があれば嬉しいわね」

「だな、のどが渇いてるからまずはエールをきゅっといきたいもんだ。
 ジョイポンは魚が豊富らしいから楽しみだぜ」

 レナージュとイライザの二人が一緒になるということは、どうあがいても酒抜きでは済まないわけで、それは時間や場所は関係ない。今更それを咎める気もないし、せっかくの観光旅行なんだから精いっぱい楽しみたいものである。

「知り合いの商人に連絡したら宿を手配してくれるみたい。
 私はまずその人のところへ顔を出しに行くわ。
 チカマと二人で行ってくるからどこか目印になりそうな場所で待っていてくれる?」

「それじゃあそこにある屋台で待ってるわ。
 随分人が並んでるからきっとなにかおいしいものよ」

「わかったわ、それじゃ行ってくるわね」

 規模は小さいが、ジスコ同様野外食堂的な屋台街がある様子だ。そして否が応でも目につく行列には心当たりのあるミーヤだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...