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第六章 未知の洞窟と新たなる冒険編

114.盗賊のへそくり

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 ケラケラと甲高いヴィッキーの笑い声が狭い洞窟内に響いていた。反響しているせいもあるが、その笑い声は本当に楽しそうで見てるこちらは辛くなってくる。今まで見たことの無いその振る舞い、さすが女王様と言うべきか。いやいや、ビッキーは女王ではなく王女だし、今はそんなバカなことを考えている場合じゃない。

「ちょっとヴィッキー? あまりやり過ぎないようにね。
 それ以上やったら死んでしまうわよ」

「大丈夫、途中で回復(ヒール)掛けてるから問題ないわ。
 いきなり襲いかかってきて返り討ちにあったくせに、何一つしゃべらないなんて生意気よ。
 徹底的に尋問してやるんだからね」

 そうは言っても、叫び声がうるさいと猿轡(さるぐつわ)をしてしまったのだから何も話せるはずがない。それにこれは尋問ではなく拷問と言うのではないだろうか……

 顔はパンパンに腫れあがり、体中鞭打たれ衣服はすでにボロボロになり血が流れている。目隠しをされているのでいつどこからなにをされるのかも分からず必死にもがいているが、そんなことはお構いなしでヴィッキーの『尋問』は続いた。

「あんたなかなか根性あるじゃない。
 これだけ痛めつけても何もしゃべらないなんて大したものだわ。
 いい加減辛いだろうからいったん休憩にしてあげる。
 続きを楽しみにしていなさい」

 いや、だからそうは言っても口を開けてあげないと何も話せない、と言おうとしたところで賊が完全に観念したのか、棒を突っ込まれ縛られた口で何やらもごもご言い始めた。

「何言ってるかわからないしうるさいわよ。
 その前にやることがあるでしょ!」

 ヴィッキーはそう言ってまた鞭で顔面をはたいた。すでにものすごい数のミミズ腫れが出来ているので今打った傷がどれなのかなんて全く分からない。

「ヴアエ……」

 賊が何やら呟くとその手元にスマメが表れた。そうか何かを聞きだす前にスマメを確認するつもりだったということか。表示されたスマメの色はブルー、と言うことは殺人者ではない。ヴィッキーはアレコレと確認し、それから自分のスマメで誰かにメッセージを送った。

「これでよしっと。
 後で警備兵へ突き出すけどいいわよね?
 もし手配されていたら報奨金は全部あげるわ」

 まあ倒したのはミーヤだから当然の権利な気もするが、そんなことよりも普段からあんな拷問をしているのかのほうがよほど気になる。当のヴィッキーは転がっている賊には目もくれず、泉へ鞭を洗いに行った。それにしても地面へ広がった大量の血に失禁した尿が混ざってひどい臭いである。まったく後先考えて行動してもらいたいと思いながらミーヤも泉へ行き鍋に水を汲んだ。

 チカマとレナージュにかわるがわる運んでもらい賊に水をかけて洗い流すが、さすがに手で擦ってあげたりする気は起きないのでただひたすら上からかけるだけだ。その様子をはたから見るとまるで水責めの様で、結局拷問が続いているような気になってきて心が痛んだ。

 それでも大分きれいになり運ぶ準備は出来た。それに回復をかけて怪我も治っているので自分で歩いてもらうこともできるだろう。

「真ん中の道はどうなったんだろうね。
 夜にでも『六鋼』から話が聞けたらいいんだけど」

「あの人たちなら素直に教えてくれそうだもんね。
 チカマの武器を治してくれたのはホント助かったわ」

「おひげのおじさんいい人」

「そうね、夜に会えたら食事をご馳走しましょうか。
 きっと喜んでくれるでしょ」

 そんな風に楽しく会話をしていた一行を想定外の出来事が襲う。良く使われる定型句に家に帰るまでが遠足と言う言葉があるが、ここでもまだ帰った後のことを話すのは早かったようだ。特にミーヤとヴィッキーはもう少し注意を払っておくべきだった。

 突然泉に水柱が上がり何かが飛び出してきた。突然の出来事に対処が遅れたミーヤとヴィッキーの二人はもちろん水浸しである。だが拭っている暇もなく水中から現れた何者かがミーヤへ向かって飛びかかってきた。相手の正体もわからぬままにミーヤは拳を突き上げ攻撃を繰り出した。しかし手ごたえ無くかわされてしまう。そしてこの感触には覚えがあった。

「これ水竜でしょ!
 チカマお願い!」

 そう言ったか言わないかのうちにチカマはミーヤの元へ駆け寄っていて、水際へ着地した魔獣化している大口水竜(オオサンショウウオ)へ切りかかり、あっと言う間の一撃で輪切りにしてしまった。

『チャポン』

 大口水竜が消滅したと同時に現れた魔鉱は、残念ながら泉の中へ落ちそのまま沈んでいってしまった。その水底を覗き込むと底のほうで何かがきらめいているのが見える。もしかして魔鉱がいくつも沈んでいるのかもしれない。

「ミーヤさま大丈夫だった?
 ボク偉かった?」

「ありがとうチカマ、もちろん偉かったわよ。
 よく助けてくれたわね、すごいわ」

「えへへ、探索で水の中からなにか来るのわかったから。
 でも青いのは落ちていちゃったね」

 確かに魔鉱はもったいなかったが、大した大きさではなかったのでまあいいだろう。そう思っていたところにヴィッキーが何かを発見したと言っている。

「ねえ、ここにロープがかけてあるわよ。
 水の中に沈めているみたいだけど引き上げちゃっていいかしら」

「別に構わないんじゃない?
 罠でも仕掛けてあるのかしらねえ」

 レナージュもやってきて興味津々といったところだ。ただ一人、猿轡をしていて何を言っているかわからない縛られた男だけは、もごもごともがきながら何かを訴えようとしている。

 ロープの先には何かがついているようでかなり重いらしく、レナージュとヴィッキーが二人がかりで引き上げていた。そして水上へ近づくにつれてロープの先の何かがはっきりと見えて来てミーヤたちの表情は驚きの笑顔へと変わっていく。

「ちょっとこれはすごいわね。
 結構な量だわ」

「さっきの賊はこれを取りに来たのかもしれないわ。
 まったく欲深いったらありゃしない」

 なんと、ロープの先には籠が付けてあり、その中には相当量の魔鉱が蓄えられていたのだ。それにしても一体どういう仕組みなのだろう。

「ここってもしかして、大口水竜が無限湧きする場所なんじゃないかしら。
 魔獣って基本的に大気中マナが多い場所に発生するって言われてるじゃない?
 たとえばローメンデル山の岩場に出る石巨人もそうよ」

「でもそんなの大体の場所で同じことじゃないの?
 この泉特有ってわけじゃないでしょ」

「そうでもないわ。
 狭ければそれだけ待機中マナが貯まりやすいかもしれないじゃない。
 そしてこの狭い場所に大口水竜が何匹も発生したとしたらどうなると思う?」

「うーん、まさか共喰いするとか?」

「それ! つまり次々に倒しあって魔鉱は水の中へ落ちていくってわけよ。
 水の中へ籠を入れてあったのはそれを受けて定期的に回収するためでしょうね」

 レナージュの推察を裏付けるように、縛られた男が必死にもがいている。

「良くできた仕組みねえ。
 盗賊たちがこの場所を収入源にしてたってことかしら」

「多分そうでしょうね。
 強盗や誘拐だけじゃなくこんなことまでしてるなんて驚きだわ。
 むしろ悪いことなんてしなくてもそこそこ収入になりそうだしね」

 確かにそれはそうだ。でも悪人が改心してまっとうに生きていくのは相当難しいだろう。楽して生きることを覚えてもいいことはない、改めてそう考えるミーヤだった。

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