上 下
112 / 162
第五章 別れと出会い、旅再び編

103.騒ぎの前触れ

しおりを挟む
 昨日はナウィンの境遇に同情してしまったせいか、冷静な判断が出来なくてノミーへ感情的なメッセージを送ってしまった。しかし未だ返信はなくホッとしながらもドキドキが続いているような、そんな気分で朝を迎えた。

 金のためならということなのか、しっかりと朝起きたイライザが英雄の広場へ向うと言うので、ミーヤたちもついていった。相変わらず人通りの少ない朝の王都だが、広場が近づくと冒険者風の人たちが増えてきた。

「こんなに大勢参加してたのね。
 報酬が後日なのは予想外だけど、こんなに大勢の人をどうやって判別しているのかしら。
 中には、参加してないのに受け取りに来るちゃっかり者がいるかもしれないわよ?」

「あはは、そりゃそうだよな。
 だから引換券があってさ、街の出入りと毎日の野営時に確認してたんだよ。
 最後にその木札と報酬を交換するってわけさ」

「なんだか面倒な事するのねえ。
 でもそれくらいしかできないだろうし、仕方ないんだろうね。
 あ、ということは私とチカマはタダ働きにしかならないのか、残念」

「まあそう言うことになるな。
 正式に参加していたら、チカマには特別報奨出たかもしれないのになあ」

「盗賊の首領を倒したから?
 あの人強かったもんねえ」

 そう言ってからはっとしてチカマを見るが、当人は何とも思っていないようだ。あの時、親であった盗賊のボスがこの世からいなくなったことで憑き物が落ちた様な顔をしていたし、本当に何とも思っていないのだろう。いや、そうであって欲しかった。

 うつむいて考え事をしながら歩いていたミーヤは、急に足を止めたイライザの背中へぶつかった。その勢いで後ろへのけ反りながら見上げると、周囲にはかなりの人数が列をなしていた。

「こりゃ時間がかかりそうだなあ。
 報酬を受け取ったら連絡するよ。
 街を出る前にもう一度会おうな、ミーヤ」

「わかったわ、イライザ、またあとでね。
 私たちはマーケットでも覗いてくるー」

 イライザとレナージュは報酬受け取りの列へ並び、ミーヤとチカマ、それにナウィンの三人はマーケットへ向かった。

「ねえナウィン、養子の件だけどさ、私にはなにもできないと思うの。
 でもその日が来るまでは、一緒に旅でもしながら過ごすってのはどう?」

「はい、えっと、あの……
 お役に立てませんがよろしくお願いします。
 えっと神人様、チカマさま」

「もうそう言うのはいいよ。
 ミーヤとチカマでいいからね。
 さ、何か物色しに行きましょ」

 ミーヤはそう言って二人の手を取って歩き出した。だがナウィンは小さすぎて手を繋ぎながら歩くのが難しい。でも離れたら迷子になってしまうかもしれない。ということで連絡先登録を忘れていたのでしておくことにした。

「これではぐれても安心っと、これからもよろしくね。
 チカマもナウィンもお互い仲良くするのよ?」

「はーい、ミーヤさま」

「あ、えっと、あの……
 はーい、ミーヤさま」

 慣れるまでは仕方ない。呼び方はもう任せることにしてマーケットをぶらつくことにする。昨晩は鳥のクリームシチューにしたから麦の粉が心もとなくなったしここで買い足しておこう。こうやって献立を考えながら二人を連れて買い物をしていると母親にでもなった気分になる。実際にはもうなることはないけど、こうやって雰囲気だけでも味わえるなんて思ってもいなかったので少しうれしい。

 そんなほのぼの気分をかき消すようなメッセージが飛んできた。それはノミーからである。昨日はつい感情的になって、人身売買をしているのか! なんて送ってしまったのだが、そのことについてはもちろん否定した内容である。

 ただ、ナウィンの話とは食い違うのできちんと聞いておきたいところではある。さっそく先のメッセージについてのお詫びと共に、本当のところを聞いてみることにした、のだが、またまた返事が返ってこない。よほど忙しい人なのだろうと諦め顔でいると、今度はレナージュからメッセージだ。

 誰かとやり取りを始めると、途端に他からも送られてくるような気がするが気のせいだろうか。どうやら報酬の受け取りは終わったらしいがひと騒動起きているらしい。とにかく広場へ来いとのことなので急いで向かった。

「だからアンタさ! 適当なこと言わないでよ!
 その腕で一体どうやって倒したって言うのよ!
 あれは私の仲間が倒したんだからさ!
 嘘ついて報酬貰おうなんて都合良過ぎるのよ!!」

 少し離れたところからでも普通に聞こえるくらい、レナージュが怒鳴っているのがわかった。ほんの少し聞いただけで内容がわかるくらい単純な話のようだ。

「おめえこそ何言ってんだあ?
 いったい何を証拠にケチつけてんだよ。
 俺の剣術でスパッとぶった切ったに決まってんだろうが!」

「じゃあアンタの仲間が足止めしたって言うの?
 そのもう一人の貧弱な男がどうやってあの攻撃をかわしてたのよ!
 私のピンタすら避けられなかったじゃない!」

「あ、あれは急に手を出して来たからだ!
 この卑怯者がよ!」

「盗賊は攻撃前にちゃんと教えてくれるんだ?
 へえええ、そりゃ知らなかったわ。
 じゃあ随分戦果をあげたんでしょうね、その割にきれいな鎧着ているみたいだけど?」

 口げんかではレナージュが優勢に見える。さてここからどうすればいいのだろう。するとイライザがミーヤたちに気が付いた。

「おおい、ミーヤとチカマ、こっち来いよ。
 王国戦士団の団長たちに聞かせてやってくれ」

 あの時どういうことがあったのか、見ていた者もいたし攻撃を受けて倒れていたが意識のあったものもいたらしい。しかしはっきりと覚ていたわけでも無いので、いまいち決め手に欠けるとのことだ。

「だれ? ボクの話すればいいの?
 こうやってスパーってやったこと?
 ミーヤさまが針の雨降らせたり、ガブってやってたね」

「そうね…… あんなのに噛みついたなんてちょっと恥ずかしいわ。
 魔法と弓が飛び交ってて大変だったわよ。
 ねえ、あなたもそう思うでしょ?」

 ミーヤは手柄を横取りしようとしている騙り者へ話しかけた。すると男たちはドギマギしながらたどたどしく言い訳をはじめ、あっという間に走り去っていってしまった。

「ほおうらあ!!
 だから言ったでしょ!
 うちのチカマが倒したんだって!
 その直前まで攻撃を防いで犠牲を減らしたのだってミーヤなんだからね!」

「そうだよ、こう見えてもこいつらはすげえんだからな。
 なんてったって、ミーヤなんて神人なんだからさ!」

「ああ、イライザ……」

 この一言で王国戦士団団長は目を丸くして隣の広報官のような事務方へ何か伝えているし、周囲の戦士団員や冒険者たちも騒ぎ始めてしまった。せっかくオカーデン支部長やラディ組合長が気を使ってくれていたというのに……

 ミーヤはイライザの脇腹を肘で突っつきながら、おしゃべりねと言って舌を出した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...