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第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編

84.絆

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 チカマは想像してたよりももっとミーヤを慕ってくれていて、さらにはとてもヤキモチ焼きだとわかったのは大きな収穫だった。いや、別に収穫と言っても何かの役に立つわけではなく、あくまでミーヤの気持ちが安らぐとかその程度のことであるが。

 つい先ほどそんな嬉しい気持ちを得たばかりだが、今は現実的なことを考えなければならない。時間は常に流れているのだから。

「そう言えば商人長? ノミー様との間でどのような契約を交わしたんですか?
 私のところへ入ってくる分だけで構いませんが、教えていただけますか?」

「おお、そうでした、全て勝手に決めてしまいまして申し訳ございません。
 だが決して悪い条件ではありませんよ?
 この店と同じ二割のバックですからね」

「あら、良くそれで納得しましたね。
 ジョイポンには私がいるわけではないので、直接お手伝いできないのに。
 それで私の取り分はどれくらいになりますか?」

「ですから二割です。
 私の分は気にしないでください。
 塩の取引価格を、従来よりだいぶ下げて提供してもらうことで合意しておりますのでね」

「なるほど、それは素晴らしいですね。
 ジョイポンでの売れ行きが良ければテレポートのお代を早くお返しできるかも。
 評判が良くなることを期待して待つことにします」

「その件ですが、テレポートの巻物の代金は取られませんでした。
 そのかわり、いつの日かジョイポンへ神人様を連れてくるようにと約束させられましたがね。
 もちろん無理に連れていくと言う意味ではございませんよ?」

「何から何までお世話になってしまって、なんだか申し訳ないですね。
 このご恩はいつかお返ししたいものです」

「いえいえ、世の中持ちつ持たれつですよ。
 それにおそらく今月ひと月分で分離器と発酵器の代金も返却いただけると思います」

 一台当たり十数万と言っていたはずなのにひと月で返済可能!? たかが卵を売っているだけで? そんなバカな事があるのだろうか。

「そんなに信じられない数字でしょうか?
 今現在一日の売り上げは20万前後で、利益がおよそ三割、そのうち二割が神人様の取り分ですよ?
 どうですか? 全然不思議でもなんでもない数字です。
 これはもちろんこの店だけの数字ですから、野外食堂の分とノミー殿の分が加わりまして――」

「わかりました! 大丈夫です! 納得しました!
 思っていたよりもはるかに多くて戸惑ってしまいました……
 ちょっと貰いすぎかもしれませんね」

「そんなことはありませんよ。
 私の手元にはきちんと八割入ってくるのですからね。
 今までは物を買い付け他方へ販売して差益を得ることが主業務でした。
 しかしこれからは、店を経営すると言う新たな商売をはじめました」

「商人長ほどのお方ならいつでも出来たんじゃありませんか?
 もし興味があったのなら、それをしてこなかったのはなぜです?」

「私は臆病な男ですからね。
 成功が見えていないものには手を出したくないのですよ。
 飲食はよほどのことがない限り収入は安定しません。
 野外食堂の店舗群も入れ替わりが激しく、大変な競争をしていますからね」

 野外食堂にはラーメンや味噌焼き等、珍しい食べ物を出す店も多く、定番のパン類やフルーツクリーム店のような甘味もある。バリエーション豊かに取り揃えられていると思っていたが、意外にも入れ替わりはあると言うことらしい。

「そこへ降ってわいたような卵料理のお話です。
 知っての通り、私は引き取ってきた鳥を持て余していましてね。
 キャラバン見習いの者たちに、牧羊養殖スキルの修行がてら面倒を任せていました。
 マーケットへ出しても卵は売れませんし、廃棄も手間がかかって仕方ない。
 それが今や足りなくなるほどに売れています」

「運が良かった、という話ではなさそうですね。
 食べてみたら卵料理がおいしかったからでしょうか」

「もちろんそれもありますが、一番大きいのは神人様の看板です。
 ジスコでは未知の味は好まれますが、未知の物自体はそうでもありません。
 しかし神人様が関わっているとなれば話は別で、皆がそれにあやかりたいと思うのですよ」

「そんなものなんですねえ。
 でも私がお役に立てたのなら光栄です。
 商人長にはとても良くしてもらってますからね」

 これは本心である。もちろん商人長だけではなくフルルも含んでなのは言うまでもなく、レナージュと引き合わせてくれたということも大切な恩だと考えていた。

「私は悟ったのですよ。
 商売は初動に失敗しなければうまくいくものであるとね。
 その初動が勿論大変で大切なのですが、私どもの提供する商品には付加価値がある。
 神人様のレシピという付加価値は、大切な初動を成功へと導いてくれました」

「まあ、大げさですね。
 あんまり褒められ過ぎても照れてしまいます」

「いえいえ、決して持ち上げているわけではなく事実を申し上げているだけ。
 現在の大成功はすべて神人様のおかげなのです。
 成功体験は人に欲を植え付けますが、それは私とて同じこと
 ただし私の場合は金ではなく、さらなる成功体験を味わいたいと言う欲です」

「つまり成功してお金を稼ぐ、儲かったというのは二の次。
 成功することこそが目的だと?」

「その通りです。
 ですから私の抱えている者たちが潤う程度の金が入れば良く、儲けすぎる必要はありません。
 と言いながらもちろん利益は追及するのですがね」

「素晴らしいお考えですね。
 私は欲深いですから、商人長のような考え方にはとてもたどり着けません」

 横で聞いているフルルが誇らしげなのか面白いが、そうしたくなるくらい慕っており尊敬しているのだろう。もちろんハルやモウブも尊敬しているに違いない。それに商人長も従業員たちを大切に思い、愛しているのだと言うこともわかった。血のつながりと言うものがないこの異世界にも家族愛があるのだろう。そう思うとなんだか胸が熱くなる。

 この優しい商人長を尊敬しながらブラック体質になってしまったフルルには謎が多いが、もしかしたら元々の性格によるだけかもしれない。そしてそんなことよりも今は店をどうするか考えなければならないのだ。

 ところがフルルが思いがけないことを言いだした。

「ブッポム様、私少しだけ諦めかけました。
 いくら頑張っても人を変えることなんてできないって思ってしまったんです。
 でもそれは違うんだと気付けました。
 人を変えるんじゃなくて、その人が持っているものを引き出すことが大切なんだと!
 自分の利益、つまり手柄ばかり考えていた自分が恥ずかしいです」

「ちゃんと自分で気付けたことは財産ですよ、フルル。
 あなたならきっと二人を導いてうまくできますとも。
 たとえ道中に失敗があっても、最後に結果が残ればそれでいいのですから恐れないで。
 お客様を皆を自分を大切に頑張りましょうね」

「はい…… ありがとうございます……」

 商人長へ今の気持ちをぶちまけたあげく、優しい言葉を返されたフルルは泣き出してしまった。いつも強気なフルルが泣くところなんて初めて見たので驚いた。ハルはどのタイミングかわからないがとっくに泣いていたし、モウブは相変わらず無表情で突っ立っている。これほどまでに三者三様と言う言葉通りの光景を目の当たりにしたのは始めてである。

 案外似ていない方がうまくいくのかもしれないし、そうなってほしいと言う商人長の人選かもしれない。まあただ余ってた人を割り当てた可能性もあるけど……

 どちらにせよ、明日は今日よりもきっとうまくいく、そんな未来を感じるミーヤだった。

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