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第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編

74.呪いのエルフ

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 商人長との話で中断していた仕込みも済ませ、いよいよ開店が迫った時間になってフルルが出かけてくると言いだした。

「もうすぐ開店なのにどこへ行くのよ!
 並んでるお客さんどうするの!?」

「少し遅れるって声かけながら行って来るよ。
 それまでクレープでも焼いてて!」

 飛び出していったフルルの後姿を見ながら、並んでいるお客さんの数をざっと確認すると百人以上はいそうである。これなら昨日より早く午前中で閉店かもしれない。入り口に立っていても仕方ないので店内に戻ろうとすると、一人のエルフ女性が立っていた。

「あの? 列はあちらになりますので、一番後ろへ並んでいただけますか?
 もしかしたら順番が来る前に売り切れになるかもしれませんけど……」

「はあ、わかりました……」

 なんだか落ち込んでいる様子をみると、ミーヤが悪いことをした気になってしまう。しかし数に限りがあるから仕方ないのだ。

 フルルが帰ってくるまでの間クレープを焼いていると、外が騒がしくなった。どうやら戻ってきたらしい。すっかり顔を覚えられているフルルは、待っているお客さんに文句を言われている様子だ。

「ただいま! すぐ始めるよ!」

「いやいや他人事みたいにさあ。
 どこへ行ってたのよ」

「ミーヤが悪いんだからね!
 ちゃんと初めに教えておいてくれないからさあ」

 またもや意味不明にミーヤのせいにされている。急に言われても何のことかわからないが、今はお客さんを入れ始めたので話をしている暇がない。注文を受けてから商品を渡すまでが流れ作業的になっている今は番号札も必要なくなっている。そのためミーヤとフルルは次々にお客さんを捌いていく。

 口コミでこれだけの行列はすごいといつも思うのだが、早くブームが過ぎてくれとも思ってしまう。そうこうしているうちにお昼を過ぎて間もなく、売り切れによって閉店となった。

 流石に午前中には終わらなかったが、今日も早く終わってよかった。列にはまだ二十人ほど並んでいたが、文句を言いつつも行儀よく引き上げてくれるのは正直助かる。

 しかし…… さっきのエルフの女性がまだ残っていた。

「あの……」

「ずっと並んでいてくださったんですね。
 でも申し訳ありません、今日の分は売り切れてしまいました。
 また明日にでもお越しくださいませ」

「いえ…… その……」

 どうにも諦めきれないようで帰ってくれない。激高するタイプではないのだろうが、居座られても困ってしまう。どうしたらいいのだろうか。

 その時――

「ハル! 遅かったじゃないの、営業前に来るもんだとばかり思ってたわ。
 店でどういう風にお客さんと対応しているか見た方が絶対よかったのになあ」

「フルル? お知り合いなの?
 そうとは知らず、開店前に並んでもらっちゃったわ」

「あらそうなの?
 まったくハルったら相変わらずねえ。
 自己主張がなさすぎなのよ」

「ごめんなさい……
 どうしていいかわからなくて……」

「謝る必要はないけどさ、ちゃんと言わないと誰にも通じないわよ?
 明日からは開店三十分前には来てよね?」

「は、はい……」

 どうやらこの女性が商人長が送り込んできた店長候補!? こんな性格でお客さん相手が務まるのだろうか。ちょっと不安である。

「フルル、そんなに責めないであげなよ。
 とりあえず中で話さない?
 ほら、人目もあるしさ……」

 こうして全員中へ入っていったのだが、このハルと言う女性、フルルに弱みでも握られているかのように怯えている。いったいどんな関係なのだろうか。

「ハル、これでも飲んでリラックスしてね。
 私はミーヤ、こっちの子はチカマ、よろしくね」

「ありがとうございます……
 先ほどはすいませんでした……」

「謝ることなんて何もないわよ。
 私こそなにも聞かないで並ばせてしまってごめんね」

「いえ、私がちゃんと言わなかったから…… ごめんなさい……」

 ちょっとどころかいくらなんでも気が弱すぎて心配だ。なぜ商人長が彼女を選んだのか、なにか理由があるのだろうか。フルルは何か知っているのだろうか。

「ハルってば、そんなんじゃ何もできないよ?
 いつまでも鳥の世話してるのかわいそうだから推薦してあげたのよ?
 もうちょっとやる気見せてよね」

「鳥の世話って、あの卵の?」

「そうなのよ。
 ハルはおとなしすぎて他の住み込みとうまくやれてなかったの。
 だから鳥の世話係にさせられてたのよ。
 だけどさ、毎日毎日鳥しか話相手がいないんじゃかわいそうじゃない?」

「それはそうかもしれないけど、やりたくもない客商売もかわいそうじゃない?」

「でもキャラバンに憧れてジスコへやってきたのよ?
 ハルはビス湖のエルフ集落に来たキャラバンみたいに旅がしたいって付いて来たの。
 でも人とうまく話せないから無理だって言われて追い出されたわけよ」

 ビス湖へ行っているキャラバンとはスガーテル副会長のキャラバンのことだった。そこを追い出されたのを不憫に思って会長であるブッポム商人長が拾ってくれたらしい。でも結局そこでもキャラバン帯同はできず、今に至るということだ。

「そんなことがあったのね。
 きっと商人長もあなたが変わって、キャラバンの一員になる日が来るのを願っているんだわ。
 だから頑張ろうって思えないかしら?」

「それは…… でも……」

「でももそれもないのよ! ハルだってこのままじゃいやでしょ?
 自分で変わろうとしなかったらいつまでも同じなのよ!
 私だって怠け者でも良かったけど、チャンスがあったから自分を変えようと頑張ったんだから!
 あなたも自分のために何とかしなさいよ!」

「でも私はフルルみたいにはなれないよ……
 だって私は……」

「バカらしい! 呪いなんてあるわけないでしょ!
 そんなの妬みに決まってるじゃない、気にしなくていいのよ!」

「呪いって?」

「この子の髪、緑色でしょ?
 緑の髪は呪いのエルフだって言われて育ったらしいのよ。
 だから余計に村を出たかったらしいわ」

 髪色の違いで同族から嫌悪されて育ったなんてかわいそうだ。色が違うくらいなんてことない。ミーヤみたいな獣人なんて、全く違う種を元にしている人たちがたくさんいるわけだし。

「エルフは本来金髪なの……
 でも私だけ緑色の髪で産まれてきた…… 呪いのせいで……」

「その呪いで何か起きたの?
 何もないなら呪いなんて迷信じゃない?」

「そうよ、ミーヤの言う通りよ。
 呪いとか馬鹿らしい、だいたい誰が呪いなんてかけられるの?
 それに誠実の神の色は緑よ? なんの問題もないわ!」

「じゃあ本当に呪いの髪色なのか他のエルフに聞いてみましょうよ!
 いくらなんでももう起きてるでしょ」

 フルルはそう言ってレナージュへ連絡した。どうやらここへ呼ぶらしい。レナージュがどれだけエルフの事情に詳しいかは知らないが、話をうまく合わせるくらいできるだろう。

「その間にもう一度聞くわよ?
 ハル自身はやる気あるわけ? はっきり言って忙しいけどやりがいはあるわよ?
 なんてったって神人様がついてるんだからね!」

「えっ? 神人様……?
 どういうことなの?」

「あなたの目の前にいるこのミーヤが神人様なのよ。
 そのミーヤが教えてくれたレシピでこの店をやってるってこと。
 毎朝卵取りに行ってるときに話したじゃないの」

「そう言う意味だったのね……
 供物か何かの話をしているのかと思ってたわ。
 だってフルルったら、急に来て早口で何か言ったと思ったらすぐに行ってしまうんだもの……」

「そうだっけ? そんなの忘れたわ!
 でもそんなのはどうでもいいのよ。
 私はハルのやる気が聞きたいのよ」

 やっぱりフルルは大雑把で強引で自分勝手だ。でもハルにとって何かきっかけを与えられる存在になるかもしれない。ミーヤは二人のやり取りを見ているとそんな風に感じるのだった。

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