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第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編

68.ブラック再び

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 ああ偉大なるエアコン、紙皿文化、なつかしい……

「ちょっとミーヤ! 何呆けているのよ! はやく焼いて!」

 こっそりとスマメを確認すると十四時回ったところ。もう早朝五時からクレープを焼き続けているミーヤは意識がもうろうとしていた。なんといっても慌ただしいし店内がとにかく暑い。

「二十四番でお待ちのかた~
 マヨ入り目玉焼きクレープ二つできました~
 いなかったらボクが食べちゃうよ~」

「はいはーい、こっち!」

 人使いの荒いフルルに叩き起こされ、ゆで卵を百個作って殻をむき、その後はずっとクレープを焼き続けているのだ。一緒にさらわれてきたチカマも手伝ってくれているが捌ききれず、レナージュは呼んでも来てくれないし返事もない。絶対に逃げられた……

「はい、目玉焼き三つあがり!
 全部マヨ入りね!」

「チカマお待たせ、お願いね」

「はーい、二十五番でお待ちのかた~」

「こっちだ、待ちくたびれたよ」

「茹で卵とムラングは売り切れましたー!
 今日の分はもう終わりですー!」

「はい! オムレツあがり!」

「わかったわ、えっと、これもマヨ付きね。
 なんでこんなに忙しいのかしらね……」

「ミーヤさま、オムレツは全部で四つだよ
 あと一つ足りない」

「ごめんごめん、すぐ作るね。
 はい、お待たせ!」

「二十六番のかた~」


◇◇◇


「はあ…… 疲れた……
 結局何個売れたの?」

「番号札は三周して四週目だっけ?
 三百五十くらいかな、内訳はまだわからないけど」

「そこに茹で卵は含まれていないんだっけ?」

「そうね、その場で手渡してるからこの数はクレープの数ってことになるわ。
 ミーヤ頑張ったわね! チカマも助かったわ!」

「フルル? もう食べるものないの?
 ミーヤさま、なにか作ってえ」

「少しでいいから休ませて……
 それとももういい時間だから酒場へ行こうか。
 レナージュ達もきっといるよ?」

 結局最後まで現れることの無かったレナージュだが、居場所はわかっているのだ。今頃のんきに飲んだくれているに違いない。

「私はこれから後片付けと計算とクレープの練習するからパス。
 もし良ければなにか食べるもの買ってきてくれると嬉しいわ……」

「フルル凄かった。
 目玉焼きもオムレツも作るの早い」

「そうよね、すごい上手になっていてびっくりしたわよ。
 それじゃマーケットで何か買ってきて、ここで食べましょうか」

「悪いわね、面倒だったらここへ泊っていってもいいわよ?
 私は商人長の館からここへ引っ越すことになったから。
 でも、お店だけじゃなくて自分の家まで! なんて喜んでたのは愚かだったわ……」

 泊まっていくのも悪くないが、そうすると何時に起こされるかわからない。五時に迎えに来たということは、フルルはその前から準備していたのだろう。疲れているフルルを一人置いていくのは忍びないが、連れ歩く方が辛そうだしミーヤとチカマだけでマーケットへ向かった。

 食材を購入しフルルの店へ戻ると、フルルは奥の部屋で粘土板に顔を突っ伏していた。どうやら売り上げの計算をしながら寝てしまったらしい。

 フルルの顔から粘土板をはがし、さっそく夕飯の支度を始める。マーケットには今まで気が付かなかったトマトに似た赤い実が有り、試食させてもらったら酸味の強いトマトという感じだったので、これをいくつかと羊の肉、それと根菜類でトマト風シチューを作ろう。

 本当は豆を入れたいけど、ジスコで売っているのは見たことがない。もしかしたら王都から持ちだし禁止なのかもしれない。

 材料をザクザクと乱切りにし、赤い実をつぶしたものと果実酒を入れる。塩で味を調えたら、バターで炒めた麦の粉を練って作ったルーを入れてとろみをつける。弱火にして少し煮込めば完成だ。

「フルル? 起きられそう?
 食事出来たわよ」

「あー、私寝ちゃってたのか……
 昨日の夜眠れなくてさあ、ふわあああ」

「倒れてしまったら大変、これ食べてから寝た方がいいわ。
 疲れた時は体を温めた方がいいんですって」

「ボクも疲れてるから温める。
 ミーヤさま、おかわり」

 いつの間にか食べ始めていて、いつの間にか食べ終わっていたチカマへおかわりをよそい、ミーヤとフルルもようやく食事にありついた。途中でクレープをつまみ食いしたくらいで、結局朝からまともに食べていなかった二人は、シチューをお腹いっぱい食べた。

「チカマはいつご飯食べたの?
 出かけたようには見えなかったわね」

「ボク、ちゃんと並んで注文したもん。
 ずるはしてないよ?」

 なるほど…… 偉いけど余計に忙しくなるからね…… 次からは奥の部屋に用意しておくことを約束し、声をかけてから食べに行ってもいいことにした。

「ねえフルル? 茹で卵は止めた方がいいんじゃないかしら?
 殻をむく手間がかかる割に値段は安いでしょ?」

「でも作り置きできるし、人気もあるんだよね。
 今日だって午前中には予定の百個が売り切れたでしょ?
 でも明日からは五十個にしてもいいかな」

「店を閉めていた間の卵はもう使い切りそう?
 今ある分で全部なら後二十個くらいだけど」

「それで全部だからマヨネーズにしてしまおうかしら。
 朝になったら二百個拾いに行って、それからゆで卵を五十個作るわ。
 明日からは途中で売り切れるから暇になるわよ!」

 フルルは売り上げが下がって暇になることが嬉しそうである。でもそれはミーヤも同じことで、これ以上忙しくなるならもっと従業員が必要だし、そもそもミーヤとチカマは従業員ではない。フルルの店はとんだブラック企業である。

 単価はそれなりに高くて、野外食堂でボリュームのあるものが食べられるくらいの値段だが、それが飛ぶように売れていく。マヨネーズトッピングだって有料でぼったくりなのにほぼ全員が注文する。ブームって恐ろしい。

「茹で卵のことはともかく、オムレツがいっぱい出た方がいいよね。
 卵には限りがあるけど、野菜はいくらでもあるからさ」

「まさか一人前で卵四分の一だなんて思わないでしょ。
 その分野菜が入ってるから原価が安いわけでもないけどね」

 売り上げの計算が終わったフルルと一緒にベッドへ入ったミーヤとチカマは、そんな話をしながらうとうとしていた。

 その間、レナージュから何度もメッセージが来ていたのはわかっていたのだが、ミーヤは無視して寝ることにした。


『ミーヤ、酒場のおばちゃんが呼んでるからすぐ来て!』

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