上 下
53 / 162
第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

44.予行練習

しおりを挟む
 調理の準備をしているとフルルがやってきた。そろそろベーコンが程よく焼けてきたので、いいタイミングでの到着だ。

「おまたせ、って、なんでこんなところでキャンプしてるのよ。
 店は…… なんかすごい混みようね。
 やっぱり鳥のマヨネーズ焼きのおかげかな?」

「流石フルルね、一発でわかっちゃうんだもの。
 私なんていまだに信じられないわ」

「あれは絶対売れるって思ったわよ。
 だからこそ商人長へ話しておいたんだもの。
 おかげでご褒美の給金がもらえたし、卵の店だって任せてもらえるんだよ?
 夢にまで見た私のお店なんだよー
 ミーヤにはホント感謝してる!」

「フルルって自分の店が持ちたかったの?
 でも料理はできなかったよね?」

「うん、本当は服屋をやるのが夢だったんだけど、自分の店ならなんでもいいよ。
 まあ自分のと言っても雇われてるだけなんだけどね」

 雇われとは言え責任者なのだから、商人長には随分信用されているのだろう。これは気合入れて仕込まなければならない! とは言ってもやることは簡単なので大丈夫なはずだ。

「じゃあフルル、始めようか。
 料理酒造スキルは習って来たの?」

「ブッポム様にお金貰ったからバッチリ習って来たよ!
 どんなの作るのか楽しみよ。
 はいこれ、卵一杯持って来たからね」

 なんで割れないのか不思議なくらいに積み上げられた卵! これなら何種類か作れそうだ。でもなるべく簡単なもので再現しやすいものでないと意味がない。

 ミーヤはスキレットからベーコンを皿へ移し再度加熱した。

「じゃあ行くよ?
 まずはこうやって石に卵をぶつけるの。
 ひびが入るくらいでいいからね。
 そうしたらこうやって指を入れて――」

 最初に作るのは目玉焼きだ。これなら簡単だしきっと誰でも作れるようになるはず。そうしたら卵が売れるだろうと考えたのだ。ジョワーアっと良い音がして白身が震えている。ベーコンの油が程よくしかれているので、油分と一緒に旨みも移って行くだろう。次にコップへ入れておいた水を指先につけて数滴垂らした。すると一気に蒸発して油の香りが辺りに広がっていく。

「うわあ、なんだかもうおいしそうね。
 これって食べられるものなの?」

「もちろんよ、そのために作っているんだから。
 ちょっとだけ蓋をして蒸らすのがポイントね」

 蓋をして火からおろし、数十秒待ってから蓋をあけると、蒸気と共にまた香りが広がる。あとは皿へ移してベーコンエッグの完成である。

「どう? 簡単だったでしょ?
 これならだれでも作れると思うよ」

「わかった! やってみるね!」

 そう言ってフルルが作り始めて卵を石へぶつけていく。割っていく。いく……

「今なん個目?」

「六個かな…… 結構難しいね……」

 なるほど、卵を割る力加減すらレシピとスキルの力が必要になるのか…… おばちゃんは料理スキルが高いから、卵を割るのは難なくできた。でも白身と分けるのは少し手間取っていたのだ。それは初めてだからというわけではなく、スキルによる補助とでもいう神の力が働いていないと難しいことなのだろう。

「やった! できた!」

 七個目にしてようやく卵を割ることが出来たフルルがスキレットへ卵を割り入れた。すると卵は消えてしまった。えっ!? なんで? と思ったが、おそらく黄身が割れてしまったのだろう。

「もっとスキレットに近いところで落としてみて。
 高いところから落としたら卵の黄身が割れてしまうわよ」

 フルルはうなずいて再挑戦を始める。こうして何度も失敗を重ねるうちに何度かの成功を経て、その時は訪れた。繰り返し挑戦した成果が出たようで、レシピの天啓があったとフルルは興奮しながら教えてくれた。

「あ! レシピ! こうやって出来るようになるのね!
 初めてだけどなんか感動したわ!」

 ミーヤにはレシピが降ってきたことが無く、未だわからない体験なのでちょっと羨ましい。でもそのうち何かを作った時に起こるかもしれないのだから今後に期待しておこう。

 フルルがいくつも卵をダメにしながらも、ようやくベーコンエッグが人数分できたので早速食べてみることにする。さすがにそのままでは味が薄すぎるが、醤油がないので塩をかけることにした。

「すごいわね! こんな簡単、でもなかったけど卵料理が出来ちゃった。
 ジスコではまだミーヤと私しか作れないなんてすごいわ!」

「でもこの作り方を広めると、卵がたくさん売れるようになるんだからね。
 まあ目玉焼きを店で作って売るもの悪くないと思うけど」

「そこはブッポム様へ相談してみるわ。
 それにしても初めての味、感動だわ!」

 やはり食べたことないものへの興味はかなり強いらしく、それはフルルに限ったことではなかった。とにかくみんな夢中で食べている姿が微笑ましく嬉しい気持ちが溢れてくる。おかわりをせがまれたので作ろうと思ったが、ここはフルルへ任せるべきと考えて作ってもらった。スキルがまだ低いので何度か失敗を繰り返して人数分を作り、食べながらまた作ってまた食べる。いくらなんでも同じ物ばかり、しかもたかが目玉焼きだ。

 それじゃ今度はもっと簡単な茹で卵を作ってみることにした。この世界では水を潤沢に使うことを嫌うようで、茹でるという調理方法はあまり行わない。そのため蒸して作れるならそのほうがいいし、我が家流のゆで卵は蒸して作るので丁度良かった。煮込み用の鍋と蒸し器を用意して水を入れる。まずは火にかけて湯を沸かした。

「ちょっとまって! まだ何か作るの!?
 ちゃんと覚えないとブッポム様に叱られちゃうわ!」

 フルルは相当やる気になっているようだ。ぜひ覚えて帰ってほしいものだ。そう言えばやけに静かだなと、黙々と食べている様子のレナージュ達をふと見ると、手元にコップが置かれている。嫌な予感がして声をかけてみると……

「いや、これはさ、水だよ、ただの水」

「でもなんだか色がついてるように見えるわよ?
 ちょっと貸しなさい!」

「だめだめ、水だから、本当に水だからさ!」

「ミーヤさま、それお酒だよ。
 ボクも飲んだ」

「なんでチカマまで飲んでるのよ!
 まったくあなた達ってば懲りないんだから!
 こうなったら私にもついでちょうだいよ?」

 もうこうなったらヤケだ。少しだけなら平気だろうし、ほんの少しだけ、舐める程度、ちょっとだけ飲むことにしよう。

 そんなことしている間に湯が沸いたので、蒸し器に卵をセットしてから鍋の上に置いた。蒸し時間は今まで通りなら時間は七分三十秒だ。スマメを取り出してから時計とにらめっこしながら時間を正確に測る。フルルが作る時も同じ時間にすれば成功するはずだからだ。

「よし、時間ね。
 後はこれを剥いていくだけよ、その前に――」

 ミーヤは蒸し器全体に水をかけて冷やしてから、さらに水を張った鍋に茹で終わった卵を入れて冷やしていく。氷水でもいいが、工程を複雑にすると再現が難しくなってしまうのが悩みどころである。

 どうやら時間は完璧だったようだ。かなり柔らかくて剥きにくいが、それでも白身はきちんと茹っていて、割ってみると黄身はほぼ生でとろとろしていた。

 手元にマヨネーズがないので塩で食べてみるがおいしい! 割った半分をチカマへ渡すと臆せずに食べてくれて、しかもおいしいと言ってくれた。やっぱりこれが一番うれしいことだ。誰かに自分のかけた手間を喜んでもらえる幸せはなにものにも代えがたい。

 だがしかし、やはりフルルは茹で卵を何個も消失させてしまう。どうやら剥くのが難しいようだ。それならもう少し固く茹でることにして、まずはミーヤが八分蒸してから剥いていく。黄身は半分ほど固くなっているが十分半熟の域である。

 次にフルルが八分蒸してから剥いていくと今度はほぼ全部成功して、またレシピが降ってきたらしい。その間に先ほど作った茹で卵はすべてレナージュとイライザ、そしてチカマのお腹へ収められていた。

「これなら蒸し芋と同時に作ってもいいわね。
 両方一緒に売ればもっと儲かるかもしれないわよ?」

「それはいいかも!
 蒸し芋は通常レシピだからすぐ作れるわ。
 後は味付けだけど、マヨネーズは覚えるの難しそうよねえ」

「塩で充分だと思うわよ。
 あんまりつけすぎてもしょっぱいから少しだけでいいし、塩水にくぐらせてから渡してもいいわね。
 肉を煮た煮汁に何時間も漬け込んだ味玉や、燻製にした燻玉というのもあるわよ?」

「うわー、卵ひとつで色々なものが出来るのね。
 私、料理に目覚めそうよ」

「それは良かったわね。
 きっとこれから忙しくて楽しくなるわよ!」

 我先にとマヨネーズ料理を求めて途切れない列を見ながら、ミーヤはそんな予感を感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~

島風
ファンタジー
とある貴族の次男として生まれたアルベルトは魔法の才能がないと蔑まれ、冷遇されていた。 そして、16歳のときに女神より贈られる天恵、才能魔法 が『出来損ない』だと判明し、家を追放されてしまう。 「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」と実家を追放されるのだが……『お前らの方が困ると思うのだが』構わない、実家に戻るくらいなら辺境の地でたくましく生き抜ぬこう。 冷静に生きるアルだった……が、彼のハズレスキルはぶっ壊れだった。。 そして唯一の救いだった幼馴染を救い、大活躍するアルを尻目に没落していく実家……やがて毎日もやしを食べて生活することになる。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...