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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

32.嬉しい発見

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 マーケットはそこそこ混雑している。何をそんなに買い物する必要があるのかとも思ったが、冷蔵庫がないので毎日買い物する必要があるのだろう。そう言えば七海も毎日コンビニへ寄っていた。買うものは主に缶ビールや缶チューハイだったが……

「チカマ? 迷子にならないようにつかまっててね。
 もしもの時はすぐにメッセージするのよ?」

「うん、大丈夫。
 それでももしもの時は北の宿屋へ行くんでしょ?」

「そうそう、ちゃんとわかってるじゃない。
 この調子なら平気そうね。」

「あのさ、ボクはミーヤさまよりも年上なんだから平気。
 逆に心配してるくらいだもの」

 それはその通り。でもつい妹のように思ってしまうのだ。マールはお姉さんのようだったけど、その一つ下のチカマは妹に感じるのだから不思議なものである。もちろんミーヤの実年齢のせいもあるし、出会いがあんな感じだった事もある。それに身体も小柄なので余計にそう思うのだろう。

「買うものはっと――
 ベーコン、干し肉、じゃがいも、念のため調味料もいるとして……」

 次々に買いそろえていくが、肝心なことに気が付いた。鍋やフライパンはあるのだろうか。もし現地まで行ってから調理器具がないことに気づいても手遅れである。ちゃんと確認しておかないと思いレナージュへ連絡を入れる。

 調理器具どころか皿も何もないと言っているので、道具屋で買えるものは揃えてもらい、足りないものを細工屋で購入することにした。

「チカマはなにか好きな物とかある?
 それか嫌いな食べ物あれば教えてね」

「好きなのは…… ベーコン好きだよ。
 あとは果物かなあ」

「そっか、果物も買っておこう。
 何日分とか言ってなかったけど一週間以上は行くと思うんだよね。
 芋と果物は大袋で持って行った方が良さそう」

「入りきらなくなったらボクも持つからね。
 飴玉とかさ」

「あら? 食べたいならちょうだいって言いなさいよー
 まったく、はいどうぞ」

 飴玉を一つ手渡すと、チカマは嬉しそうに受け取ってすぐに口へ入れた。ほっぺたの形が変わるので、口の中で転がしているのがわかる。こういうところが子供っぽいんだよなあ、なんて思いつつも、過剰にお姉さんぶるのは失礼かもしれないなんて考えたりもする。

 マーケットでの買い物がほぼ済んで細工屋へ向かおうとしたその時、ミーヤは一軒の鶏肉店に目を止めた。そこにはなんと、今まで見たことの無かったものが売っていたのだ。

「お兄さん、コレ! もしかして卵じゃないの!?
 これって鳥の卵なの?」

「おう、らっしゃい。
 知っているとはお目が高いねえ。
 これはモウスヤケイって鳥の卵さ」

「じゃあこれを二パックいただくわ。
 この辺では珍しいものなの?」

「いいや、そうでもないがなあ、痛みやすいから食べる習慣がないんだろうな。
 あんまり売れやしねえからオマケしておくよ」

 交渉もなにもしていないのにオマケしてもらえるなんて、まったく美人は得である。卵が手に入ったということは油が欲しくなる。オリーブオイルはあるだろうか。キョロキョロしていると、チカマに袖を引かれたので立ち止まる。

「あんまりよそ見していると人にぶつかるよ?
 それに迷子になったら大変だから気を付けて」

「はい…… ごめんなさい……」

 こういうときは素直に謝るのが一番だ。なんだかんだ言っても今はミーヤのほうが年下だ。チカマにだってプライドはあるだろう。

「それでミーヤさまは何を探してるの?
 一緒に探すから教えて」

「もう! チカマ! 大好き!」

 なんというか、かわいくて仕方がなくなり思わず抱きしめてしまった。大きい角に白目が黒目、瞳が緋色でなんとも個性的だけど、中身は至って普通の女の子なのだ。もしかしてこれがギャップ萌えというやつなのかもしれない。秋葉原のお店で散々語られたことの一つだ。

「それじゃ一緒に探しましょ。
 オリーブオイルって知ってる?
 植物で作った油なんだけど、ジスコにあるのかはわからないの」

「オリーブなら向こうの店にあったから油もあるかも
 いってみよ?」

 さすが、日々食べ物を探してさまよっていただけのことはある。あっという間に見つけてしまった。こうして無事にオリーブオイル、そしてレモンみたいな酸っぱい果実も手に入れることが出来た。残りは細工屋で聞いてみると言うことでマーケットを後にした。


「おじさま、クリノリンすごくいい出来だったわね。
 さすがジスコいちの細工屋だわ!」

「おお、神人様、いらっしゃい。
 気に入ってもらえたなら良かったよ。
 あれは麻の茎の繊維をエポークという木からとった樹脂で固めたものなんだ。
 軽くて柔軟性があるからピッタリだったはずさ」

「そうね、その分お値段がちょっとね……
 でもとても良くできていたから気にならないわ、本当にありがとう」

「いやあ、そう言ってもらえるとうれしいねえ。
 ところで予定より早いけど昨日のアレ、出来てるぜ。
 こんな感じでどうだろな」

 道具屋のおじさんはそう言うと完成品を取り出した。レナージュが説明したとおり、金属でできたじょうろに似た器具は思い通りの形で、ぶら下げるためのフックもついている。この場で試してみたかったが、レナージュとのお楽しみのためここは我慢だ。

 そのレナージュからは、鍋とフライパンは道具屋に無かったと連絡が来ていたので細工屋で取り扱っているかを確認した。するともちろん取り揃えてるとのことなので、程よい大きさのものを何種類か購入することにした。

「それとね、泡だて器が欲しいんだけどあるかしら?
 こうやってシャカシャカ掻き混ぜる調理道具なんだけど」

 しかしどうにもピンと来ていない様子だ。ホイップクリームがあったのだからきっと存在しているはずなのに、もしかしたら形状や名前が違うのか、それとも取り扱っている店が違うのかどちらだろう。

「うーん、食材を掻き混ぜる道具ですかねえ?
 この大きいスプーンじゃだめなんですかい?
 クリーム作るのはみんなこれでやってますぜ」

「そうなの!? 料理スキルがあるならそれでもできるのかなあ。
 でもこういう形が混ぜやすいのよねえ」

 そう言いながら粘土板へ絵を描いてみる。スキルがあると手が勝手に動くこともあるので、道具にこだわる必要はないのかもしれないが、この辺りの感覚がよくわからない

「形は単純なんで作るのはたやすいですがね?
 出来上がりは明日になっちまいますよ。
 掻き混ぜられればいいなら、ハンドルを握ると先っぽが回るってやつならありますけどねえ」

 手動のハンドミキサー!? 何を基準に物を作っているのかと頭が痛くなってくるが、そこはグッとこらえて実物を見せてもらうことにした。

「これなんですけど、持ち手を握ると先が回る構造でしてね。
 ハッキリ言ってこんな大層なもの使わずに、スプーンクルクルでいいですからねえ。
 見た時はこれはすげえと思ったんですが、まったく売れませんからさびちまってて……」

「これはこちらで作ったんじゃないんですね。
 もともと何に使うつもりだったんでしょ?」

「いやあアタシもわかんねえんです。
 王都の商人が錬金の道具と一緒に持ちこんだんで、そっち方面で使うのかもしれねえなあ」

「まあいいわ、これ頂いていくわよ。
 それと内側がツルツルしたお鍋があったら欲しいかな。
 本当はボウルがいいんだけどあるかしら?」

「ああ、ボウルならありますよ。
 木製で構いませんかね?
 金属で似た様なのは鍋になっちまいます」

 考えた末、木製だとハンドミキサーを当てるっと削れてしまいそうなので、薄手の金属鍋で代用することにした。ミーヤは、ああステンレスって偉大だなあとしみじみ感じていたのだった。

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