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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

14.都会を目指して

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 何もない街道を馬車が連なって進んでいる。カナイ村を訪れていたキャラバンがジスコへ帰っているところである。荷馬車が六台も並んでいるその様はなかなか壮観だ。近隣の森などへ狩りに出かける以外に初めて村を出たミーヤは始めこそ緊張していたものの、今は何もすることがなく手持無沙汰だった。退屈しのぎと言っても飴玉を口へ放り込んでその甘さを楽しむくらしかやることがない。

「レナージュ? ずっとこんな感じで暇なのかしら?
 景色はいつまでも変わらないし、動物も遠巻きに眺めるくらいで逃げちゃうしね。
 ホントに暇で仕方ないわ」

「まあ旅なんてこんなものよ?
 何かが襲って来たり、馬車が壊れたりしない限りは、ね。
 それとも何か事件でも起きてほしいわけ?」

「別にそう言うわけじゃないけどね。
 修行みたいなものがあるかと思ってたから拍子抜けしてるとこ」

 実際、馬車の荷台に乗っているだけなのだからなにができるわけでもない。そんなのはわかっているのだがそれにしたって暇すぎる。修行っぽいことと言えば、召喚術で水を出して飲むくらいしかなさそうだ。

 その時、護衛の男性冒険者一人が口を開いた。

「初めて村を出るのにはしゃいだりしないんだな。
 馬車に乗るとそれだけで大騒ぎするやつもいるってのに、アンタは肝が据わってら。
 でもな、夜になったら野営の見張りを交互にやるんだから、昼間寝ておくのも大事だぜ?」

「なるほどね、寝るのは得意だから今のうちに休んでおくことにするわ。
 あなた、顔に似合わず優しいのね」

 無精ひげの男は、顔に似合わずは余計だと言ってから寝に入った。もちろんミーヤもレナージュも壁にもたれかかり休んでおくことにした。

 次に目を覚ますと辺りはすっかり暗くなっていた。しかし馬車隊はまだ走り続けている。手元が暗くてなにも見えないので光の精霊晶を呼び出して照らしてもらうと、レナージュも同じように光を呼び出した。

「レナージュも召喚術が使えるのね!
 村では誰も使ってなかったから仲間を見つけた気分でなんだかうれしい!」

「エルフの村ではみんな使えるから珍しくないんだけどね。
 人間の村での生活にはそれほど必要じゃないのかもしれない
 でも獣人で召喚術は珍しいと思うわよ? どちらかと言うと近接戦闘する人が多いもの」

「やっぱりそうなんだ?
 私は戦うことってあんまり考えてなかったからなあ。
 本当は猫でも飼ってのんびり暮らしたいと思っているのよ」

「狐が猫を飼うなんてちょっと面白いわ。
 あ、ごめんなさい、侮辱するつもりじゃないのよ?」

「大丈夫、そんなのわかってるから問題ないよ。
 それよりもこの馬車いつまで走り続けるつもり?
 こんなに真っ暗なのに怖くないのかしら?」

「街道を進んでいくと、大体一日分の移動距離に合わせて大きな木が立っているのよ。
 そうすると日程の目安になるし、何かあって救援を呼んだ時に目印になるでしょ?
 だから多分そこまでは行くと思う」

「へえ、商人や旅人の知恵ってことか。
 色々と考えてあるんだねえ」

 ミーヤは素直に感心していた。まさか救援を呼ぶことまで考えて旅をするものとは想像もしていなかったからだ。それにしてもどうやって救援を呼ぶのだろう。疑問に思ったことはすぐに聞いて明らかにする、それが一番であることは生前学んで良かったことの一つだ。

「ねえ、救援ってどうやって呼ぶの?
 誰かに連絡するってことでしょ?」

「キャラバンだと、通常はキャラバン長が冒険者組合や王国戦士団への連絡手段を持ってるわ。
 向こうの担当者へメッセージを送って場所を知らせるって手順ね」

「王国戦士団なんてものがあるのか。
 なんだか強そうな響きね」

「いやいや、全然よ。
 あいつらったら働いても働かなくても賃金は一緒だから、命を賭けることなんてないもの。
 ただ相手が盗賊とかなら向こうも死にたくはないし、一定の抑止力にはなるけどね。
 王国ではそうやって治安を守る名目で税金を取っているってわけ」

「税金なんてあるんだね。
 村でそんな話聞いたことなかったな」

「税金を取っているのは大きい都市だけよ。
 周辺の村は近くの都市から物を買うでしょ?
 そこに上乗せされているって仕組みよ」

 結局は末端が負担することになるなんてまるで消費税である。どのくらい乗せられているのかはモノや売り手次第で決まった税率は無いらしい。そして売り手を抱えている都市が王国へ税金を納めると言う流れだそうだ。

 ただ、権威的なことを別にすれば、王国で一番大切に扱われているのは農作業や林業などに従事している者たちで、商人はその次、冒険者は食い詰め者扱いで、下手をすると盗賊とあまり変わらないと思われる場合もあるらしい。

「だからさ、冒険者が多いジュクシンは住みやすいってことなんだよね。
 そうすると、そこにはまた冒険者が集まってくるわけ。
 でもさ、国を作った昔の国王も、今のジスコ領主も元冒険者なのよ?
 なんか同族嫌悪なのかしらね」

「へえ、冒険者ってすごいのね。
 レナージュ達も結構強いの?」

「私はまだまだね、とはいっても熊に負けるようなことはないわよ?
 中型の魔獣ならなんとか一人で倒せるかな。
 ナードなら、あ、ナードって言うのはジュクシンの迷宮なんだけど地下三階まであるのよ?
 そこの地下二階までなら余裕ってくらいね」

「へえ、全然わからないけど、熊を怖がっているようじゃ話にならなそうね。
 私も強くなれるのかなあ」

「だってまだレベル1なんでしょ?
 それなのに猪受け止めて倒したんだから大したものよ。
 普通はそんな馬鹿げたことしないけどね」

 そういってレナージュに笑われてしまった。まああの時は事情があったにせよ我ながらどうかしていた。今考えれば後ろにいた村人を抱えて避けることもできた気がする。そういった状況判断もこの先大切になってくるのかもしれない。

 やがて馬車は進むのをやめ街道沿いに列をなして止まった。やれやれようやく休憩か、と、ミーヤはお尻をさすって大事な革鎧のスカートががすり減っていないかを思わず確認しまった。

「みんな、遅くまでご苦労さん、明日は早目に出発するから十分に休息してくれ。
 護衛のみんなは野営の番をよろしく頼むよ」

 並べた馬車の前に商人長が立ち、みんなへねぎらいの言葉をかけた。ミーヤがふと目印の大木を見ると、そこには金属製の板が打ちつけてありこう彫ってあった。

『ジスコ-カナイ 4』

 なるほど、何かあったらこの標識を伝えればすぐに場所が特定できるということか。4と言うのはジスコから見て四番目ということのようだ。簡単に考えれば住所と言うだけで、特にすごい発明でも不思議な仕組みでもなく、こんな事すら見るまで気づかない自分の頭がいかに有効活用されていないのか思い知らされる。

 商人長が指示を出した後、木の周りを囲むように野営の支度をした一行は各々で食事をとる。どうやらキャラバンには料理人がいないので、ミーヤもマールが持たせてくれたペタンコのパンと干し肉をお腹へ押し込んで空腹を満たした。

 野営中では交代で見張りをすると言っていたが、不慣れなミーヤは作法がわからないので指示を仰いだ。すると、一回寝てから起こされるのは慣れていないと辛いから最初がいいと言われ、レナージュと共に見張りをすることになった。

「平坦な道のりだったけどもう村が見えないんだね。
 こんな遠くまで来たの、私初めてだよ」

「知ってる? 地面って少し丸いんだよ?
 だから遠くなると見えなくなるんだってさ。
 でもずっとまっすぐ進んでいったら、元の場所へ戻ってくるなんて信じられないよ」

 レナージュの言い分で、地表が亀の上に乗っていて周りはすべて滝になっている、なんて考えが常識ではないことに感動してしまった。でも星が動いていないのになんでそんなことがわかるのだろう。科学が発展しているのかしていないのかが全く読めないこの異世界、不便だとか料理の味が薄いとか言ってる割には結構楽しんでいる。

「そうだ、ただ見張りしているだけじゃつまらないし、少し練習しようよ。
 召喚術が使えるならこう言うこともできるよ」

 レナージュはそう言うと光の精霊晶を呼び出した。彼女の手の上に小さな光の球が浮かんでいる。見ててね、と言ってからそのまま放り投げると、空中を飛んで行きながら周囲を明るく照らし、まるで流れ星のようだ。

「すごい! これって投げても消えないのね。
 落ちたところでまだ光ってる!」

「時間が経つと消えるけど投げたくらいじゃ消えないよ。
 矢じりに乗せて打つともっと遠くまで正確に飛ばせるんだから。
 でもミーヤの場合は投げるしかないかな」

 見よう見まねで放り投げてみると、初めてのミーヤでもあっさりできた。まあ呼びだした精霊晶をそのまま握って投げるだけなので難しいことではない。

「水を出して顔を洗うだけが使い道じゃないってこと。
 顔の目の前で光を出せば目くらましにもなるから覚えておくといいよ。
 もしかしたら猪だってびっくりして止まるかもしれないしね」

 そう言いながらレナージュは下をペロッと出しながら笑った。それを見たミーヤは恥ずかしくなってしまい、思わずレナージュへ飛びついててしまう。

「ちょっとレナージュ! 何回も言わないでよ、恥ずかしいでしょー
 今度同じようなことがあったらもっとうまくやってみせるんだからね」

「わかったわかった、期待してるからさ。
 ちょっとー、あはは、くすぐったいったら。
 ミーヤったらもう、お返ししちゃうぞー」
 
 人間化しているとは言え、顔の周りには体毛が遠慮なく生えている。それがレナージュにはくすぐったかったらしく、ミーヤに押し倒されながらケタケタと笑っていた。そして今度はミーヤの脇の下へ向かって反撃ののろしを上げた。
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