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第一章 異世界転生と最初の村編
11.変わりやすい天気
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翌朝ミーヤが目覚めた時、枕元には地図を放り投げたままだった。そう言えば昨日フルルにうまく売りつけられたんだっけ、と商売上手なフルルのことを思い出す。キャラバンの給与体系がどんなものかは知らないが、あれほど一生懸命なのだからきっと能力給が加算されるのだろう。
そんなことよりも、帰ってから食べた夕飯にしっかりとした味がついており、久しぶりに塩気の効いたものをとてもおいしく味わうことが出来た。やはり塩を作る方法を考えついたなら、村にとって相当の貢献になるのは間違いない。
しかし残念ながらミーヤにそんな知識はない。せめてスマメで辞典的なものが検索出来たらいいのにと、どだい無理なことを考えてしまう。塩の取れる果実でもあればいいが、そんなものが存在するなら村人の誰かがとうに見つけているだろう。
あんまり難しいことを考えても答えは出ないので、ミーヤはこれ以上考えることはせず、昨晩のことを振り返り余韻に浸ることにする。マール以外の女の子と出会ったのは初めてで、色々と知らないことを教えてくれたり助言をくれたりと親切な人たちだったし、話していてとても楽しかった。
それに、もっと強くなるためにはウサギばかり追いかけていても仕方がないという指摘には納得だ。別に強くなる必要はないのかもしれないけど、村では近隣に魔獣が出た場合、ジスコの冒険者組合へ討伐依頼を出しているそうだ。その依頼料はそれなりに高額らしいので、ミーヤが強くなって魔獣を倒すことが出来たなら、村の予算をその分節約することができるはず、と考えていたのだ。
もちろんそれは世話になっている村への恩返しではあるのだけど、どちらかと言うと、特別な力を与えられた神人としてこの村に降臨したミーヤの責務なのではないかと考えているのだ。特別な力があるからこそ神人は皆に敬ってもらえるのだし、存在すら怪しげな神々のために神殿まで建てて祭っているのだろう。その考えが正しいのかどうかはわからないが、ミーヤができることであれば努力して村の力になるべきだ、そう決めていた。
ミーヤはこちらの世界に来てから色々と考え、一つの方針を心に秘めるようになっていた。それは、義務責務と言うものは他人から強要強制されたものが正しいとは限らず、自らの意思で行動してこそ取り組む価値があるのではないか、ということだ。
これは七海自身で選んだ就職先で事務職として採用されたはずが、配属先は営業だった生前のことを振り返ってたどり着いた考えだ。やりたくもない仕事を教えられるもうまくできず、毎日強制的に会社から放り出され外回りをする生活は正直つらかった。
かといって事務がやりたかったわけでもなく、ただただ惰性で生き、言われるがままに仕事をしていた日々…… 今はもうそんなことを忘れてもいいし笑い飛ばしても構わない。だってこんな人のいい住民たちに囲まれながら、自分の意思で生きていくことが出来るのだから。
朝から随分アンニュイな気分に『一体どうしちゃったの?』なんて自分自身へ問いかけてみるが答えは返ってこない。なんだかんだ言って前世に多少の未練があるのかもしれない。憂鬱と言うほどでもなく、かといって気分のいい朝と言うほどでもない。いうなれば曇り空のようなものか。でもここにはそんな微妙な寝起きでもすぐに元気になれる魔法がある。
「おはよう、ミーヤ、朝食持って来たわよ。
昨晩の残りがあったからお肉も添えてきたけど食べられるかしら?」
ノックもせずにマールが入ってきた。そもそもほとんどの家にはドアがないし、プライバシー意識もほとんどなく、当然ノックの習慣なんてものはない。朝食の乗ったお盆を両手で持ったマールの顔を見ると気分が急に晴れやかになり機嫌よく返事をすることができる。ミーヤにとって一番最初にできた友達と言うこともあって、全幅の信頼と最大の敬意を持っているのは間違いなかった。
「マール! おはよう!
今朝は目覚めが悪かったけど、マールの顔見たらそんなの消し飛んじゃった!
いつもありがとう、大好きよ!」
「な、なにを突然…… 照れるわ……
さあ、朝ごはんをどうぞ」
顔を赤くしたマールは、その黒髪とのコントラストによってより一層かわいく見える。田舎娘とは言えやっぱり女の子、かわいいと言われること自体は嬉しいのだろう。そしてミーヤは、自分がこんな素直に感情を言葉に表せることをもう驚かなくなっていた。環境が人を変えるということをもう十分に理解してるからだ。
だから少し油断してしまったのかもしれない。
「ねえマール? 実はキャラバンの人たちが、一緒にジスコへ行かないかって言ってくれてるの。
それからローメンデル山へ行って修行をつけてくれるんだって。
どう思う……?」
マールの顔が少し曇ったように見える。だが彼女の口からは反対の言葉は出ず、困ったような顔をしてからホンのわずかな沈黙の後、一言だけ発した。
「ごめんなさい、私には判断できないわ」
「そう…… じゃあ村長さんへ相談してみるね。
変なこと言ってごめんなさい。
でもこの村を出て行くってことじゃないの。
あくまで、もっと強くなって村の力になりたいだけなのよ」
しかしマールは少しだけうつむいて首を横に振るだけだった。その表情を見たミーヤは、相談するならまずはマールへと考えていたのは、必ずしも正解ではなかったのかもしれないと感じ後悔していた。
朝食を済ませ食器を洗ってから時間を見るともう10時になるところだった。ミーヤは急いで身支度を整える。昨日買ったばかりの革鎧を一人で身につけられるか心配だったが、案外あっけなく着替えることが出来て拍子抜けである。
昨晩は細かいところまで見ていなかったので気付かなかったが、この前開きの革ブラは胸全体を包むようにできていない。なんと言えばいいのか、乳房の下が見える程度にカットされており、屈んでもコルセットと干渉しないような造りになっていた。もちろん肌着を着ているので、そこから胸が見えてしまうわけではないが、かなり羞恥心をあおる構造ではある。背中も丸見えだし、せめて肌着ではなくシャツを着たほうが良さそうだ。
表にはモックが迎えに来てくれていた。別に入っててくれて構わなかったけど、女性が肌着でうろうろしている所へなんて入っていけないと言うのだ。その素朴な見た目でそう言われると、紳士的と言うよりは純情な青年と言うほうがピッタリだろう。
「モック、お待たせ。
この革鎧どうかな? 村人に見せるのはモックが始めてなんだからね。
ちゃんと感想を聞かせてよ?」
「いや、えっと、良く似合ってるよ。
なかなか良さそうに見えるし、気にいるのが売っていて良かったね」
まあ当たり障りのない褒め言葉か。それよりも、モックの視線がコルセットで強調された胸部のふくらみに囚われていたことに、ミーヤは気づかない振りをしてあげた。
「トク爺、お待たせー!
ちょっとだけ着替えに手間取っちゃった。」
本当はすんなり着ることが出来ていたのだが、モックの前で一回転したり、構造を説明していて遅くなったのだ。置いていかれなくて助かったけど、調子に乗っていて迷惑をかけてしまったのは申し訳ない。着た直後は恥ずかしい…… なんて思っていたけど、モックに会ったら彼をからかう事に意識が向かってしまったのだった。
「ほほう、お嬢によく似合ってるな。
とくにこの辺なんて、野郎どもが狩りに集中できなくなっちまう」
狩りのリーダーであるトク爺は、そう言いながら髭モジャのの顔を大ききく歪ませてガハハと笑った。短い手足とガッチリした体躯がまるでドワーフだと言われているが、本人いわくれっきとした人間だそうだ。ミーヤはドワーフを見たことがないので本当のことなのかはわからないが、人間族にひとりだけ混ざった獣人族のミーヤにとっては種族の違いなんてどうでもいいことだった。
今日も狩場は分担せず、牡鹿を探しに行くこととなった。キャラバンが来ているうちに仕留めれば即現金化できるし、現在は鹿の角が特買品という高価買取品に指定されているのだから狙わない理由がない。
こうして全グループで森へ入っていったのだが、その背後の草原にミーヤへの試練が待っていることを、今は誰も気が付いていなかった。
そんなことよりも、帰ってから食べた夕飯にしっかりとした味がついており、久しぶりに塩気の効いたものをとてもおいしく味わうことが出来た。やはり塩を作る方法を考えついたなら、村にとって相当の貢献になるのは間違いない。
しかし残念ながらミーヤにそんな知識はない。せめてスマメで辞典的なものが検索出来たらいいのにと、どだい無理なことを考えてしまう。塩の取れる果実でもあればいいが、そんなものが存在するなら村人の誰かがとうに見つけているだろう。
あんまり難しいことを考えても答えは出ないので、ミーヤはこれ以上考えることはせず、昨晩のことを振り返り余韻に浸ることにする。マール以外の女の子と出会ったのは初めてで、色々と知らないことを教えてくれたり助言をくれたりと親切な人たちだったし、話していてとても楽しかった。
それに、もっと強くなるためにはウサギばかり追いかけていても仕方がないという指摘には納得だ。別に強くなる必要はないのかもしれないけど、村では近隣に魔獣が出た場合、ジスコの冒険者組合へ討伐依頼を出しているそうだ。その依頼料はそれなりに高額らしいので、ミーヤが強くなって魔獣を倒すことが出来たなら、村の予算をその分節約することができるはず、と考えていたのだ。
もちろんそれは世話になっている村への恩返しではあるのだけど、どちらかと言うと、特別な力を与えられた神人としてこの村に降臨したミーヤの責務なのではないかと考えているのだ。特別な力があるからこそ神人は皆に敬ってもらえるのだし、存在すら怪しげな神々のために神殿まで建てて祭っているのだろう。その考えが正しいのかどうかはわからないが、ミーヤができることであれば努力して村の力になるべきだ、そう決めていた。
ミーヤはこちらの世界に来てから色々と考え、一つの方針を心に秘めるようになっていた。それは、義務責務と言うものは他人から強要強制されたものが正しいとは限らず、自らの意思で行動してこそ取り組む価値があるのではないか、ということだ。
これは七海自身で選んだ就職先で事務職として採用されたはずが、配属先は営業だった生前のことを振り返ってたどり着いた考えだ。やりたくもない仕事を教えられるもうまくできず、毎日強制的に会社から放り出され外回りをする生活は正直つらかった。
かといって事務がやりたかったわけでもなく、ただただ惰性で生き、言われるがままに仕事をしていた日々…… 今はもうそんなことを忘れてもいいし笑い飛ばしても構わない。だってこんな人のいい住民たちに囲まれながら、自分の意思で生きていくことが出来るのだから。
朝から随分アンニュイな気分に『一体どうしちゃったの?』なんて自分自身へ問いかけてみるが答えは返ってこない。なんだかんだ言って前世に多少の未練があるのかもしれない。憂鬱と言うほどでもなく、かといって気分のいい朝と言うほどでもない。いうなれば曇り空のようなものか。でもここにはそんな微妙な寝起きでもすぐに元気になれる魔法がある。
「おはよう、ミーヤ、朝食持って来たわよ。
昨晩の残りがあったからお肉も添えてきたけど食べられるかしら?」
ノックもせずにマールが入ってきた。そもそもほとんどの家にはドアがないし、プライバシー意識もほとんどなく、当然ノックの習慣なんてものはない。朝食の乗ったお盆を両手で持ったマールの顔を見ると気分が急に晴れやかになり機嫌よく返事をすることができる。ミーヤにとって一番最初にできた友達と言うこともあって、全幅の信頼と最大の敬意を持っているのは間違いなかった。
「マール! おはよう!
今朝は目覚めが悪かったけど、マールの顔見たらそんなの消し飛んじゃった!
いつもありがとう、大好きよ!」
「な、なにを突然…… 照れるわ……
さあ、朝ごはんをどうぞ」
顔を赤くしたマールは、その黒髪とのコントラストによってより一層かわいく見える。田舎娘とは言えやっぱり女の子、かわいいと言われること自体は嬉しいのだろう。そしてミーヤは、自分がこんな素直に感情を言葉に表せることをもう驚かなくなっていた。環境が人を変えるということをもう十分に理解してるからだ。
だから少し油断してしまったのかもしれない。
「ねえマール? 実はキャラバンの人たちが、一緒にジスコへ行かないかって言ってくれてるの。
それからローメンデル山へ行って修行をつけてくれるんだって。
どう思う……?」
マールの顔が少し曇ったように見える。だが彼女の口からは反対の言葉は出ず、困ったような顔をしてからホンのわずかな沈黙の後、一言だけ発した。
「ごめんなさい、私には判断できないわ」
「そう…… じゃあ村長さんへ相談してみるね。
変なこと言ってごめんなさい。
でもこの村を出て行くってことじゃないの。
あくまで、もっと強くなって村の力になりたいだけなのよ」
しかしマールは少しだけうつむいて首を横に振るだけだった。その表情を見たミーヤは、相談するならまずはマールへと考えていたのは、必ずしも正解ではなかったのかもしれないと感じ後悔していた。
朝食を済ませ食器を洗ってから時間を見るともう10時になるところだった。ミーヤは急いで身支度を整える。昨日買ったばかりの革鎧を一人で身につけられるか心配だったが、案外あっけなく着替えることが出来て拍子抜けである。
昨晩は細かいところまで見ていなかったので気付かなかったが、この前開きの革ブラは胸全体を包むようにできていない。なんと言えばいいのか、乳房の下が見える程度にカットされており、屈んでもコルセットと干渉しないような造りになっていた。もちろん肌着を着ているので、そこから胸が見えてしまうわけではないが、かなり羞恥心をあおる構造ではある。背中も丸見えだし、せめて肌着ではなくシャツを着たほうが良さそうだ。
表にはモックが迎えに来てくれていた。別に入っててくれて構わなかったけど、女性が肌着でうろうろしている所へなんて入っていけないと言うのだ。その素朴な見た目でそう言われると、紳士的と言うよりは純情な青年と言うほうがピッタリだろう。
「モック、お待たせ。
この革鎧どうかな? 村人に見せるのはモックが始めてなんだからね。
ちゃんと感想を聞かせてよ?」
「いや、えっと、良く似合ってるよ。
なかなか良さそうに見えるし、気にいるのが売っていて良かったね」
まあ当たり障りのない褒め言葉か。それよりも、モックの視線がコルセットで強調された胸部のふくらみに囚われていたことに、ミーヤは気づかない振りをしてあげた。
「トク爺、お待たせー!
ちょっとだけ着替えに手間取っちゃった。」
本当はすんなり着ることが出来ていたのだが、モックの前で一回転したり、構造を説明していて遅くなったのだ。置いていかれなくて助かったけど、調子に乗っていて迷惑をかけてしまったのは申し訳ない。着た直後は恥ずかしい…… なんて思っていたけど、モックに会ったら彼をからかう事に意識が向かってしまったのだった。
「ほほう、お嬢によく似合ってるな。
とくにこの辺なんて、野郎どもが狩りに集中できなくなっちまう」
狩りのリーダーであるトク爺は、そう言いながら髭モジャのの顔を大ききく歪ませてガハハと笑った。短い手足とガッチリした体躯がまるでドワーフだと言われているが、本人いわくれっきとした人間だそうだ。ミーヤはドワーフを見たことがないので本当のことなのかはわからないが、人間族にひとりだけ混ざった獣人族のミーヤにとっては種族の違いなんてどうでもいいことだった。
今日も狩場は分担せず、牡鹿を探しに行くこととなった。キャラバンが来ているうちに仕留めれば即現金化できるし、現在は鹿の角が特買品という高価買取品に指定されているのだから狙わない理由がない。
こうして全グループで森へ入っていったのだが、その背後の草原にミーヤへの試練が待っていることを、今は誰も気が付いていなかった。
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