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第六章 欲望 X 策謀 = 絶望 + 希望

75.チカホウスイロ

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 俺はダンジョンの出口へ向かいながら樹脂の痕跡を探し続けていた。幸いにも岩肌に消えてしまうことも大きく途切れてしまう場所もなく順調に進んできたのだが、飛鳥山一番隊や調査官たちとすれ違いながらやって来た四階層で異変が起きた。

「途切れてる! 樹脂の痕跡が壁に入るように途切れてやがる!
 紗由、この位置の真上に何があるか調べられるか?
 すぐ近くじゃなくてもいいから地下施設のようなもんないか?」

『そうだね、少しだけ離れてるけど荒川へ向かってる地下放水路があるよ。
 数十年前の施設だけど現役みたいだから調べる価値はありそうだね』

 ダンジョン内に作ったトンネルから地上の関連施設へ運び出したいなら出入り口を使うのはリスクが高すぎる。やぱりどこかに抜け道を作っていたと考えた方が自然だった。

 ここ舎人とねり洞窟のある北足立市北部から、真南へ向って豪雨用の放水路があるらしい。他の地区にもあって洪水を防ぐ仕組みらしいが、その大きさは半端じゃないらしいから人が通るなんて屁でもないだろう。

 行き先は荒川地下貯水池ということは、そこから地上へ出て自分たちのアジトへでも移動できるよう準備を整えていたに違いない。地上の運搬で使った道がある程度絞れれば、紗由の能力で特定に至ることもあり得そうだ。

『おにい、荒川放水路の地上出入り口がわかったから座標送ったよ。
 でもさすがにこっそりってわけにはいかないから捜査本部へも連絡済。
 先に行くつもりなら急いで、そして注意してね!』

「犯人どもは絶対に許さねえ。
 それじゃすぐに調べに行くからな!」

 俺は大急ぎでダンジョンを出てから指定のポイントへと向かった。舎人洞窟の出入り口からだとそれほど遠くなく、どうやら今は朽ちているモノレールの橋脚下にある地下施設がそうらしい。

「こんなところに何かあったなんてなぁ。
 てっきり空気浄化か何かの設備だと思ってたよ」

『非常用発電とか災害時備蓄を入れていたところらしいよ。
 今はずっと非常時みたいなもんだし管理するの嫌気さしたのかもね。
 放水路の管理等までの扉は全部開けてセキュリティも切っちゃったよ』

「さすがだよ、これで一気に近づけるかもしれないな。
 まずは中に入って痕跡の探索だ」

 いぬ共がやってきて騒がしくなったり追い出されたりしては敵わないからさっさと進めないといけない。俺は紗由が示してくれていた通路を通って、がら空きの扉とスカスカのセキュリティに感謝しながら地下へと進んだ。

 やがて放水路の中までやって来たが、それはトンデモなくでっかい土管のような設備だった。洪水になるそうなくらいの大雨災害時には、ここへ水が流れて水害を未然に防いでいたのか。仕組みは単純とは言っても効果はおそらく絶大だろう。

 幸いにもここ数カ月は大雨なんて振っていない。つまり痕跡はバッチリ残っているに違いないのだ。位置情報から考えられるダンジョンとの結合点らしき場所には、放水路内に使われているコンクリートの壁に、明らかに色の違う箇所があった。

 どうやら周囲の壁と同じ物を作り出すと言っても再現度には限界が有り、自然物であればほぼ同じで、そうでない場合にはなにかしらの制限があるようだ。俺は当然のように周辺を掘ってみると、その裏にはやはり岩を切り崩したトンネル通路が見つかった。

「この出口に樹脂のかけらが落ちているな。
 どうやらここを通ったのは間違いなさそうだ。
 引き続き探って追いかけてみる」

『りょうかい、検討を祈るよ!』

 どうやらここからは樹脂でできた担架的なにかは、岩にぶつかるわけではないので樹脂の破片があまり落ちなくなっているようだ。それでもかすかに残った形跡を追っていくと、その道のりはほぼまっすぐで、荒川の地下に向かっているようだ。

 やがていくつかある点検口の一つで痕跡が途切れた。そこから上部を見上げると、梯子が伸びているところに樹脂が残されている。どやららここから地上へ出ていったようだ。

『おにいが足を止めた場所は確認できたよ。
 もう荒川をくぐって荒川市まで行ってるんだからね。
 気が張ってるのかもだけど体は疲れてるはずだから休憩しなよ?』

「いつの間にかそんなとこまで来てたのか。
 地上へ出る前に栄養補給しておくか……」

 俺はいよいよ核心に近づいているような気がしてしっかりと心身を引き締め、据え付けの梯子に残る樹脂の削れた痕跡をにらみついた。虹子をこんな目に合わせたやつらは絶対に許さない。

 気を引き締め直した後、梯子をゆっくりと登って行き、その先にある点検口の扉をゆっくりと開けた。
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