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第五章 疑惑 = 希望 + 変貌

65.メザメ

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 紗由の呼びかけに気が付いて目を覚まし、ガバっと起き上がってみると視線の先には巨大なクソザル類人猿が横たわっていた。救命隊の到着はまだのようで、崩落で積み上がった岩もそのままだった。

シックスおにい! 起きなさいって!
 早くしないとサルが目を覚ましちゃうよ!』

「ああすまん、気絶してたみたいだ。
 起こしてくれてありがとな。
 トドメさす前に相打ちで転がっちまったのはマジでヤバかったわ」

『まったくしっかりしなよね。
 関節に電気流したら筋肉運動起こすのなんて常識じゃん!
 なんでそんなバカな事するのよ、油断もいいとこだってば』

「ホントその通りだよ、ちょっとトドメさしてくる。
 骨折が治ってるから五分以上は気絶してたのかな」

『なーにいってんの、軽く十五分は経ってるんだからね。
 サルが目を覚ましてたらアウトだったよ』

 俺は危なかった気持ちを表そうと肩を竦めてみたが、よく考えると紗由には見えてないだろう。でも配信画面には映っていたかもしれないし、それならそれでウケたかもしれないからマヌケな行動もまあアリだ。

 十五分も寝ていた割にはまだ体に痛みが残っておりいまいちやる気が起きないが、ここでクソザルの目が覚めてしまうと大ごとになりかねない。さっそく身体の上に登って手早くトドメを刺した。

「さすがにこれは引き取りを依頼するかな。
 でも三十三階層まで来てもらうと赤字になる可能性もあるからなぁ。
 解体しておいたら救命隊に運んでもらえるかね?」

『それはちょっと無理があるんじゃない?
 追加で大物を狩れば利益は十分出るだろうけど、都合よくいるかなぁ。
 サルはおいしくないからもっと違うの探して欲しいんだけど』

「こないだの猪はうまかったもんなぁ。
 干し肉にしておけば日持ちもするから遭遇できれば大歓迎だぜ」

『それなら三十二階層への通路まで運んで三十階層行けば?
 こないだみたいに罠で猪を誘えばいいじゃないの』

「時間はまだあるからそれも悪くないな。
 配信的にもおいしい感じ?」

『さっきの戦闘は大ウケだったよ。
 もうシックスもすっかり人気配信者の仲間入りって感じ。
 だといいけどなぁ……』

「なんか歯切れ悪いな、なにかあったか?
 どうせまたアンチコメントだろ? ほっとけって」

『ま、細かいことは帰ってきてから話せばいいもんね。
 とりあえずは救命隊を待って猪狩りってことでよろしく』

 こういうときは怪力系の能力を持っている奴を羨ましく思う。戦闘時には跳躍系も欲しいし、炎や冷気の放出系も役立つだろう。しかしそんな贅沢を言っったってなんでも手に入るわけじゃないのが現実だ。

 それでも身体強化系は恵まれている方かもしれない。なんと言っても俺だって超回復に身体硬化、左手の超振動と三つも持っていて恵まれているほうだ。かたや超常現象系だと炎なら炎、冷気なら冷気の能力を一つ持てるだけなのが普通である。虹子の磁力操作ももちろんそれ一つだけだ。

 子供向け娯楽番組では、ビームを出しながら目にもとまらぬ速さで動きまわり空高くジャンプしながらパワフルで打たれ強くて電撃や炎も操る、なんていくつも別系統の能力を使っているのを見かける。

 だが俺は今まで身体強化系能力者が超常現象系を使うところは見たことないし、存在が確認できたと聞いたこともない。まあ世の中そんな都合よくできてはいないと言うことだ。

 ちなみに俺の身体硬化はかなり有用だ。派手さがなく攻撃に直接影響しないせいなのか能力ランキングでは低めに位置しているが、この能力が無かったら俺は今まで何度死んでるかわからない。と言うより、これのせいで死ぬような攻撃を簡単に受けているのかもしれない。

 だが今まではうまくいっているだけで、今後そうではないことが起きたなら俺は二度と目覚めないかもしれない。今日は久しぶりに気絶なんてしたせいで、少しだけそんなことを考えてしまった。
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