58 / 81
第五章 疑惑 = 希望 + 変貌
58.ミテルミテナイ
しおりを挟む
予定通り火曜の夕方になって研究室で合流した俺たちは、美菜実を連れて帰宅することになった。家に帰りつくと当然のように紗由が待ち構えていたというか、監視カメラの人感センサで検知されたらしく先に声をかけられてしまった。
『おにいと理恵だけ入りなさい。
虹子とトマトはそこで待つように』
四つも年下の子供にこんなことを言われても、腹を立てず大人しく待っていようとするだけで悪い奴じゃないと思えるような気がするが、とにかく自分の感性しか信じない紗由にとっては何の判断材料にもならないようだ。
「二人ともおかえり。
それじゃ理恵はこっちきてこのモニター見といて。
トマトが映ってるのわかるよね?」
「トマトって美菜実おねえちゃん? 見えるよ。
虹おねえちゃんも見える」
「虹子はどうでもいいの。
それじゃトマトを見ている誰かがいるか確認してみて。
いつも練習してるようにやってくれればいいんだからね」
いつも練習? もしかして俺が探索へ出ている間に理恵の能力で何かをしているのか? その推測は当たっているようで、理恵は紗由の言葉に頷いてから目を閉じてわずかにうつむいた。俺が紗由へ目をやると、紗由は口に指を当てて黙っているようにという仕草をする。
「理恵、どう? 誰か見てる様子ある?
もし何か感じたらすぐに教えるんだからね?」
「んとね、いま美菜実おねえちゃんを見てる人は虹おねえちゃんしかいないみたい。
それもキョロキョロしてるからとぎれとぎれだけど」
「そっか、もういいよ、ありがと。
ひとまず今は平気みたいだけど完全には安心できないし、少し泳がせておこうかな。
おにいは完全に信用してるの?」
「完全にとは言い切れないから多少は疑ってる、隠してることがあるかもくらいかな。
家系的に産業スパイが絡んでることは無さそうだけど、外部接触疑ったらキリがないしさ。
かと言って俺個人に興味持つとも思えないよ」
「虹子が言うにはそれが全てって感じみたいじゃん?
確かに高い戦闘力や派手な能力を持たないおにいを参考にってキモチは理解できるよ。
あの子の能力はおにいと近いもんね」
「意外にもそんなに悪く言わないんだな。
だったらなんでそんなに警戒してるんだ?
理恵に何させたのかわかんないけど、なにかを調べたんだろ?」
「それはもう説明したでしょ?
最初に偽って近づいてきたからだったば。
明らかに裏がありますって言ってるようなもんじゃん!
だからおにいや虹子に近づきつつ誰かがそれを監視してるか確認したの」
「ええっ!? 理恵はインターフォン越しでも能力使えんの?
それで誰も美菜実さんのことを見張ってないことがわかったってことか」
「おにいのDLS-HMDRについてるリアカメラあるでしょ?
あそこで撮ってる虹子をオペレーターモニタに映して試したら出来たっぽかったの。
ダンジョン内からの送信映像でできるんだからインターフォンなんて余裕でしょ」
なんかすごいことを考えるもんだ。本当にうまくできているのかどうかは理恵の申告次第だが、何度もテストして確認して信じられるだけの確信を得ているのだろう。賢いのか悪知恵なのか判断しづらいところだが、ひとまず美菜実への疑いが晴れたのなら良かった。
だけどさっき紗由はおかしなことを言っていた。確か『泳がせておこう』だったか? つまり完全に信じたわけではなく、今後も監視を続けると言う意味で間違いない。
「そんでさ? 結局美菜実さんの指導はどうすりゃいいわけ?
泳がせるってことは――」
「ちゃんとわかってるじゃん。
見極めるには材料が足りないから継続ってこと。
それでもいいならこれからもおにいが面倒見てあげなよ。
完全に信用されてないのは嫌だっていうならバイバイね」
そんな厳しい物言いに反論したい気もするのだが紗由の研究が盗まれでもしたら大ごとだし、そもそも俺は妹相手に強く反論できるほど肝が据わっていない。あとのことは虹子へ任せてしまおうかなどと情けないことを考えながら腕を組んで考え込んでいた。
『おにいと理恵だけ入りなさい。
虹子とトマトはそこで待つように』
四つも年下の子供にこんなことを言われても、腹を立てず大人しく待っていようとするだけで悪い奴じゃないと思えるような気がするが、とにかく自分の感性しか信じない紗由にとっては何の判断材料にもならないようだ。
「二人ともおかえり。
それじゃ理恵はこっちきてこのモニター見といて。
トマトが映ってるのわかるよね?」
「トマトって美菜実おねえちゃん? 見えるよ。
虹おねえちゃんも見える」
「虹子はどうでもいいの。
それじゃトマトを見ている誰かがいるか確認してみて。
いつも練習してるようにやってくれればいいんだからね」
いつも練習? もしかして俺が探索へ出ている間に理恵の能力で何かをしているのか? その推測は当たっているようで、理恵は紗由の言葉に頷いてから目を閉じてわずかにうつむいた。俺が紗由へ目をやると、紗由は口に指を当てて黙っているようにという仕草をする。
「理恵、どう? 誰か見てる様子ある?
もし何か感じたらすぐに教えるんだからね?」
「んとね、いま美菜実おねえちゃんを見てる人は虹おねえちゃんしかいないみたい。
それもキョロキョロしてるからとぎれとぎれだけど」
「そっか、もういいよ、ありがと。
ひとまず今は平気みたいだけど完全には安心できないし、少し泳がせておこうかな。
おにいは完全に信用してるの?」
「完全にとは言い切れないから多少は疑ってる、隠してることがあるかもくらいかな。
家系的に産業スパイが絡んでることは無さそうだけど、外部接触疑ったらキリがないしさ。
かと言って俺個人に興味持つとも思えないよ」
「虹子が言うにはそれが全てって感じみたいじゃん?
確かに高い戦闘力や派手な能力を持たないおにいを参考にってキモチは理解できるよ。
あの子の能力はおにいと近いもんね」
「意外にもそんなに悪く言わないんだな。
だったらなんでそんなに警戒してるんだ?
理恵に何させたのかわかんないけど、なにかを調べたんだろ?」
「それはもう説明したでしょ?
最初に偽って近づいてきたからだったば。
明らかに裏がありますって言ってるようなもんじゃん!
だからおにいや虹子に近づきつつ誰かがそれを監視してるか確認したの」
「ええっ!? 理恵はインターフォン越しでも能力使えんの?
それで誰も美菜実さんのことを見張ってないことがわかったってことか」
「おにいのDLS-HMDRについてるリアカメラあるでしょ?
あそこで撮ってる虹子をオペレーターモニタに映して試したら出来たっぽかったの。
ダンジョン内からの送信映像でできるんだからインターフォンなんて余裕でしょ」
なんかすごいことを考えるもんだ。本当にうまくできているのかどうかは理恵の申告次第だが、何度もテストして確認して信じられるだけの確信を得ているのだろう。賢いのか悪知恵なのか判断しづらいところだが、ひとまず美菜実への疑いが晴れたのなら良かった。
だけどさっき紗由はおかしなことを言っていた。確か『泳がせておこう』だったか? つまり完全に信じたわけではなく、今後も監視を続けると言う意味で間違いない。
「そんでさ? 結局美菜実さんの指導はどうすりゃいいわけ?
泳がせるってことは――」
「ちゃんとわかってるじゃん。
見極めるには材料が足りないから継続ってこと。
それでもいいならこれからもおにいが面倒見てあげなよ。
完全に信用されてないのは嫌だっていうならバイバイね」
そんな厳しい物言いに反論したい気もするのだが紗由の研究が盗まれでもしたら大ごとだし、そもそも俺は妹相手に強く反論できるほど肝が据わっていない。あとのことは虹子へ任せてしまおうかなどと情けないことを考えながら腕を組んで考え込んでいた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる