39 / 81
第四章 堅物 X 打算 = 黒猫
39.ツギカラツギ
しおりを挟む
大蛇との戦闘が十三階層、そこから力なく歩いて六階層まで来たところで、ようやく救助隊と合流できた。これでここまで抱えてきた子供を受け渡し身軽になれると思うとホッとする。
「それではいったん地上へ戻りましょう。
詰所で調書を取らせていただきますが時間は平気ですか?
明日出直してもらっても構いません」
「いや、今日は予定より早く引き上げてきたので問題ありません。
先延ばしにしてもいいこと無さそうですしね」
こうして救出した子供をダンジョン入口から数分のところにある、救助隊や機動隊が入っている合同庁舎の救護室へ運び込んだ。未だに目を覚まさない小さな子供はベッドに寝かされ、心電図やら心拍やらの測定器をありったけ繋がれた。
「どうやら体調に問題は無さそうですね。
数字を見る限りまったくの健康、しかし目を覚まさないということは――」
「と、言うことは?」
「薬物や睡眠効果ガスの影響かもしれません。
例えばダンジョンガス、なんてことは考えたくないですがね。
詳しく調べるためにMRIのある能技大へ移送しようと考えています」
「そもそもなんでダンジョンの中に子供がいたんでしょうか。
密漁や盗掘者にしてはなにも装備して無いし、そもそも幼すぎますよね」
「そこは目が覚めてから聞いてみるしかありません。
まったくこんな幼い女の子がダンジョンに一人なんて、何が起きたのでしょうね」
「えっ!? 女の子? あの小汚いガキんちょが!?
俺、無造作に抱えて運んじゃいましたよ……」
「まあ君も子供なんだしあまり深く考えなくても良いだろう?
これも青春、いいな、若さってやつは!」
救命隊員からなんだかよくわからない励ましを受けた俺は、釈然としないまま合同庁舎を出て研究室へと向かった。同時に出発したあの子供も能技大へ移送されるのだろう。俺が歩いているうちに救急車で走り去っていったのが見えた。
そして研究室へ来たころにはすでに報告を受けていたらしい高科先生は、容赦なく俺を嬲るのだった。
「あらあ綾瀬君、せっかくのレアモンスターだったのに残念だったね。
それでもダンジョン内の迷子を救出したんだから大したものだよ。
トゲリクガメは本当に残念だったけどね。
いや、途中までは生け捕り出来ていたと言うのは信じているよ?
それだけに惜しい、もしここまで無事に運べていたらと思うとねぇ」
「いや、もうそれはいいですから…… 傷に塩塗りこまないで下さいよ。
次にいつ出会えるかと思うと気が変になりそうです」
「それは大げさすぎるけど、まあそうとう落胆しているのはわかるよ。
だからきっとそのうちいいこともあるんじゃないかな、多分ね」
「それは励ましなんでしょうか。
一応超レア素材を採取してきたんだし少しくらい褒めてくださいよ……」
「もちろん感謝しているさ。
それになんと言っても尊敬しているし誇りに思っているよ。
何より人命を重視したと言うことをね」
「そりゃどうもありがとうございます。
自分で要求しておいて、いざ褒められると照れますね、へへ」
「うんうん、そんな我が研究室の誇りである君に一つ頼まれごとを引き受けてもらいたい。
なあに、ごく普通の後輩指導だから構えず気楽に引き受けてほしい」
「あ、虹子のことですね。
もちろん任せておいてください」
「綾瀬君なら引き受けてくれると思ったよ。
では紹介しよう、おーい一年生たち入りたまえ」
高科先生の合図で研究室へと入ってきたのは虹子だけではなく、どうやらこの素材研究室の入講希望生らしい。あまりに予想外の出来事に、俺は虹子ともう一人の女子学生を交互に見返すのだった。
「それではいったん地上へ戻りましょう。
詰所で調書を取らせていただきますが時間は平気ですか?
明日出直してもらっても構いません」
「いや、今日は予定より早く引き上げてきたので問題ありません。
先延ばしにしてもいいこと無さそうですしね」
こうして救出した子供をダンジョン入口から数分のところにある、救助隊や機動隊が入っている合同庁舎の救護室へ運び込んだ。未だに目を覚まさない小さな子供はベッドに寝かされ、心電図やら心拍やらの測定器をありったけ繋がれた。
「どうやら体調に問題は無さそうですね。
数字を見る限りまったくの健康、しかし目を覚まさないということは――」
「と、言うことは?」
「薬物や睡眠効果ガスの影響かもしれません。
例えばダンジョンガス、なんてことは考えたくないですがね。
詳しく調べるためにMRIのある能技大へ移送しようと考えています」
「そもそもなんでダンジョンの中に子供がいたんでしょうか。
密漁や盗掘者にしてはなにも装備して無いし、そもそも幼すぎますよね」
「そこは目が覚めてから聞いてみるしかありません。
まったくこんな幼い女の子がダンジョンに一人なんて、何が起きたのでしょうね」
「えっ!? 女の子? あの小汚いガキんちょが!?
俺、無造作に抱えて運んじゃいましたよ……」
「まあ君も子供なんだしあまり深く考えなくても良いだろう?
これも青春、いいな、若さってやつは!」
救命隊員からなんだかよくわからない励ましを受けた俺は、釈然としないまま合同庁舎を出て研究室へと向かった。同時に出発したあの子供も能技大へ移送されるのだろう。俺が歩いているうちに救急車で走り去っていったのが見えた。
そして研究室へ来たころにはすでに報告を受けていたらしい高科先生は、容赦なく俺を嬲るのだった。
「あらあ綾瀬君、せっかくのレアモンスターだったのに残念だったね。
それでもダンジョン内の迷子を救出したんだから大したものだよ。
トゲリクガメは本当に残念だったけどね。
いや、途中までは生け捕り出来ていたと言うのは信じているよ?
それだけに惜しい、もしここまで無事に運べていたらと思うとねぇ」
「いや、もうそれはいいですから…… 傷に塩塗りこまないで下さいよ。
次にいつ出会えるかと思うと気が変になりそうです」
「それは大げさすぎるけど、まあそうとう落胆しているのはわかるよ。
だからきっとそのうちいいこともあるんじゃないかな、多分ね」
「それは励ましなんでしょうか。
一応超レア素材を採取してきたんだし少しくらい褒めてくださいよ……」
「もちろん感謝しているさ。
それになんと言っても尊敬しているし誇りに思っているよ。
何より人命を重視したと言うことをね」
「そりゃどうもありがとうございます。
自分で要求しておいて、いざ褒められると照れますね、へへ」
「うんうん、そんな我が研究室の誇りである君に一つ頼まれごとを引き受けてもらいたい。
なあに、ごく普通の後輩指導だから構えず気楽に引き受けてほしい」
「あ、虹子のことですね。
もちろん任せておいてください」
「綾瀬君なら引き受けてくれると思ったよ。
では紹介しよう、おーい一年生たち入りたまえ」
高科先生の合図で研究室へと入ってきたのは虹子だけではなく、どうやらこの素材研究室の入講希望生らしい。あまりに予想外の出来事に、俺は虹子ともう一人の女子学生を交互に見返すのだった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。
四季 訪
ファンタジー
【第一章完結】十年前に突如として現れたダンジョン。
そしてそれを生業とする探索者。
しかしダンジョンの魔物も探索者もギルドも全てがろくでもない!
失職を機に探索者へと転職した主人公、本堂幸隆がそんな気に食わない奴らをぶん殴って分からせる!
こいつ新人の癖にやたらと強いぞ!?
美人な相棒、男装麗人、オタクに優しいギャルにロリっ娘に○○っ娘!?
色々とでたらめな幸隆が、勇名も悪名も掻き立てて、悪意蔓延るダンジョンへと殴り込む!
え?食ったものが悪すぎて生えてきたのがエロスキル!?
純愛主義を掲げる幸隆は自分のエロスキルに抗いながら仲間と共にダンジョン深層を目指していく!
本堂 幸隆26歳。
純愛主義を引っ提げて渡る世間を鬼と行く。
エロスキルは1章後半になります。
日間ランキング掲載
週刊ランキング掲載
なろう、カクヨムにも掲載しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる