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第四章 堅物 X 打算 = 黒猫

39.ツギカラツギ

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 大蛇との戦闘が十三階層、そこから力なく歩いて六階層まで来たところで、ようやく救助隊と合流できた。これでここまで抱えてきた子供を受け渡し身軽になれると思うとホッとする。

「それではいったん地上へ戻りましょう。
 詰所で調書を取らせていただきますが時間は平気ですか?
 明日出直してもらっても構いません」

「いや、今日は予定より早く引き上げてきたので問題ありません。
 先延ばしにしてもいいこと無さそうですしね」

 こうして救出した子供をダンジョン入口から数分のところにある、救助隊や機動隊が入っている合同庁舎の救護室へ運び込んだ。未だに目を覚まさない小さな子供はベッドに寝かされ、心電図やら心拍やらの測定器をありったけ繋がれた。

「どうやら体調に問題は無さそうですね。
 数字を見る限りまったくの健康、しかし目を覚まさないということは――」

「と、言うことは?」

「薬物や睡眠効果ガスの影響かもしれません。
 例えばダンジョンガス、なんてことは考えたくないですがね。
 詳しく調べるためにMRIのある能技大へ移送しようと考えています」

「そもそもなんでダンジョンの中に子供がいたんでしょうか。
 密漁や盗掘者にしてはなにも装備して無いし、そもそも幼すぎますよね」

「そこは目が覚めてから聞いてみるしかありません。
 まったくこんな幼い女の子がダンジョンに一人なんて、何が起きたのでしょうね」

「えっ!? 女の子? あの小汚いガキんちょが!?
 俺、無造作に抱えて運んじゃいましたよ……」

「まあ君も子供なんだしあまり深く考えなくても良いだろう?
 これも青春、いいな、若さってやつは!」

 救命隊員からなんだかよくわからない励ましを受けた俺は、釈然としないまま合同庁舎を出て研究室へと向かった。同時に出発したあの子供も能技大へ移送されるのだろう。俺が歩いているうちに救急車で走り去っていったのが見えた。

 そして研究室へ来たころにはすでに報告を受けていたらしい高科先生は、容赦なく俺をなぶるのだった。

「あらあ綾瀬君、せっかくのレアモンスターだったのに残念だったね。
 それでもダンジョン内の迷子を救出したんだから大したものだよ。
 トゲリクガメは本当に残念だったけどね。
 いや、途中までは生け捕り出来ていたと言うのは信じているよ?
 それだけに惜しい、もしここまで無事に運べていたらと思うとねぇ」

「いや、もうそれはいいですから…… 傷に塩塗りこまないで下さいよ。
 次にいつ出会えるかと思うと気が変になりそうです」

「それは大げさすぎるけど、まあそうとう落胆しているのはわかるよ。
 だからきっとそのうちいいこともあるんじゃないかな、多分ね」

「それは励ましなんでしょうか。
 一応超レア素材を採取してきたんだし少しくらい褒めてくださいよ……」

「もちろん感謝しているさ。
 それになんと言っても尊敬しているし誇りに思っているよ。
 何より人命を重視したと言うことをね」

「そりゃどうもありがとうございます。
 自分で要求しておいて、いざ褒められると照れますね、へへ」

「うんうん、そんな我が研究室の誇りである君に一つ頼まれごとを引き受けてもらいたい。
 なあに、ごく普通の後輩指導だから構えず気楽に引き受けてほしい」

「あ、虹子のことですね。
 もちろん任せておいてください」

「綾瀬君なら引き受けてくれると思ったよ。
 では紹介しよう、おーい一年生たち・・入りたまえ」

 高科先生の合図で研究室へと入ってきたのは虹子だけではなく、どうやらこの素材研究室の入講希望生らしい。あまりに予想外の出来事に、俺は虹子ともう一人の女子学生を交互に見返すのだった。
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