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第三章 異変 X 罠 + 新種

32.ヒョウテキ

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 急いで十六階層までやってくると、大量のカピバラに囲まれたさっきの奴らが目に入った。恐らく横須賀校からやって来たパーティーだろう。この状況を仕向けたやつがどこかに潜んでいるのだろうが、辺りを見回せてもそれらしい人影はない。

『おにい、天井に生体反応有り。
 人型三体、恐らくは人間だと思う、とういうか犯人って言った方がいいかな?』

「こちらからの攻撃は届きそうにないな。
 あいつらはどうやってあの状況を作ったんだ?
 水浸しなのはスノーダイヤモンドのときと一緒だと思うけど……」

『横須賀の人たちは『サイドワインダー』ってパーティーだと判明。
 構成は身体強化二人、空気制御一人、雷撃能力一人みたい。
 多分水をかけられたから雷撃が使えないんだと思う』

「あの速度強化たちは攻撃もしないで何してるんだ?
 手助けした方が良さげか? このまま黙ってたら全滅もあり得るぞ」

『さっきおにい用に呼んだ救援要請が功を奏した。
 現在十一階層だから十五分程度で到着の見込み、それまで粘って』

「了解だ、任せとけ。
 オイお前ら! ぼーっとしてないで濡れた場所から離れて距離を取るんだ。
 下がりながら倒していけばいいだろ、じっとしてんじゃねえよ!」

「だれだか知らないが手助け無用だ。
 下手に近づくと君も足を取られるぞ!」

 どうやら水が撒かれているだけでなく、何か滑るものが混ざっているようだ。そのため走って逃げることができないと言うわけか。俺は足場がマシなところから壁にアイボルトを打ち込み壁伝いに進んでいった。

「あんまバカなこと言わないで待っててくれ。
 すぐそこまでたどり着くからな」

 壁を這いながら横向きに進むなんてこと俺にとっては朝飯前だ。こういうときはまだ未発達な自分の身体が便利だと感じる。大人になったら体格は良くなって力は強くなるだろうが、体重が増えて自由が効かなくなるもんだ。

 数分で『サイドワインダー』の四人と合流した俺は、地面に足を付かずに済むようそれぞれの分のアイボルトを打ちこんでやった。そこへ安全帯を掛ければまずは一安心と言ったところか。

「これなら雷撃が使えるだろ?
 一気に始末しちまってくれよ。
 天井まで届くなら上に張り付いてる三人も一緒にな」

「な、なに!? 天井に誰かいるのか?
 それになんて俺の能力を知ってるんだよ。
 お前は一体何者だ?」

「何者って言うか、通りすがりの探索者だよ。
 雷撃の件は水浸しで何もできないなら電気系の能力かなと思っただけさ。
 こう見えても経験だけは豊富なんでね」

 こんな適当な言い訳をうのみにしてくれたこいつは、広範囲の雷撃によって何十体ものカピバラを一掃した。どうやら殺してはいないようなので全部持って帰ることを心配する必要は無さそうでホッとする。

『おにい、天井のやつらは逃げた。
 もう範囲外だからどこに行ったかわからない』

「ちぇっ、それは残念過ぎるな。
 締め上げてこないだとの関連を聞きだしたかったってのに」

「どうも助かりました。
 私は横須賀校所属、サイドワインダーのリーダーをしているエアショーです。
 あなたは一人で行動しているようですが腕は確かなようですね。
 入り口でお見かけした時からそう感じていました」

「俺はこの舎人がホームのシックスです。
 みなさんは横須賀の方々なんですね。
 速度アップとエアクッションかな? あの組み合わせはいいですね。
 雷撃の方も威力抜群でした」

「俺はシノビ、こっちはフリスビー、どっちも二年生だ。
 二人とも身体強化系だけど、俺は筋力系速度アップ、フリスビーは重力操作系だよ。
 肉体自体は当然強化されてないから、落下等の衝撃対策はリーダー任せさ」

「それってあるあるだなぁ。
 ファンタジーアニメだといくら殴られても血を流す程度だったりしてね。
 身長より高く飛んだり、落下しても生きてたりするのは羨ましいなって。
 一体お前はどんな能力もちなんだよって言いたくなりますもん」

「でも君は肉体硬化だから頑丈でいいじゃないか」

「いやいや、固くなるだけで普通に痛いんですって。
 これ結構勘違いされがちなんですけどね。
 それに戦う手段があるわけじゃないから武器や訓練も必要で大変なんスよ」

「なるほどね、いいことばかりじゃないってことか。
 電撃を出せるビリビリマンみたいな方が単純でいいかもな」

「だーれが単純だっての。
 俺だって自分の電気で感電するし、身体能力はごく普通だし苦労してるんだぜ?
 リーダーも似たようなもんだよな?」

「ええ、私も空気をクッションのようにできるだけでその他はなにも。
 みなさんがいないと何もできないんです」

「サイドワインダーはその連携力で上位ランカー入りしてるってわけですか。
 少なくともこうやって誰かに狙われるくらいには」

 その瞬間場が凍りついたようになり、俺は自分の言葉を口の中へ戻したい気分だった。
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