上 下
25 / 81
第三章 異変 X 罠 + 新種

25.ダンジョンデート

しおりを挟む
 九月になり虹子は無事に能技大舎人校へと入学を果たした。そのため平日は講義があって探索への参加が難しい。だが今日は入学後初めてフリーの土曜日、久しぶりに探索にやってきていた。

 舎人ダンジョンの中は湿度も気温も低くいつもヒンヤリとしていて心地よい。気温はさほど変わらないはずの東京湾は高い湿気のせいでジメッとしていて快適とは言い難かった。聞く話によれば九十九里もジメジメだそうだ。

 東北方面は冬極寒になるところもあるらしいし、足柄以南は夏そうとう暑いと聞く。環境的には恵まれているこの舎人をホームとして活動できるのは、運がいいと言うか恵まれていると言えるかもしれない。

「なあイモウト紗由よ?
 めっちゃ暑いんだが何とかならないのか?
 まるで風邪で熱でも出してるみたいに頭が蒸れて仕方ねえよ」

『うーん、今ここで言われてもどうもできないよ。
 ふさふさなシックスおにいの頭がはげるまでには対策考えとくから今日はそのまま我慢して。
 探索記録用のストレージチップがそんなに発熱するとは想定外だったんだよね』

「HMDRって普通そんなに熱持たないよね?
 私は快適だけど、シックスの被ってる新型ってのはそんなに違うものなの?」

セブン虹子の被ってる公認HMDRは法定通りの録画なの。
 DLSはそれよりも高画質で録画してるんだよね。
 よく使われているストレージだと容量が足りないから大きいのを取り寄せたんだけどさ……
 予算の都合で据置端末ワークステーション用しか買えなかったんだよねぇ』

「つまり家で使ってる端末と同じ規格のストレージが冷却装置なしに載っていると……
 それってイモウトの部屋にある、ラックに載せてあるやつじゃんか。
 まったく無茶しやがるなぁ」

『ダンジョン内の壁面映像データが取れるまでの辛抱だからさ。
 似たようなデータが十分集まったらそれを元にテクスチャを作るから。
 ま、二十四階層まで行ったら今度はあの青っぽい壁を録画してもらうけど』

「なあ、それって記録用カメラを別に持っていくんじゃダメなのか?
 バックパックのストラップなら発熱も我慢できそうだしさ」

『あー、その考えはなかった。
 ウチが被るわけじゃないから発熱とかどうでも良かったんだもん。
 じゃあ次からはそうしよっかな。
 部屋のどこかに半天球カメラがあったはずだし』

 どうやら帰宅したら紗由の部屋を掃除しないといけないようだ。早いとこカメラを外付けにしてもらわないと頭に汗疹が出来てしまいそうだ。せめて冷却ファンを付けるとか通気性のいいところへ取り付けるとか、装着者を少しくらい労わる設計にしてもらいたい。

 そういや背中のマイクロ発電機も、初期モデルは背中の内側にあって熱くてゴワゴワしていたものだ。今は一番外側についているから発熱が伝わってくることはほぼ無い。なぜかわからないが、最初は人にやさしくない設計にしがちなのは、もしかしてわざとやっているんじゃないかと勘繰ってしまう。

「高科先生に素材多めに集めてと言われたけど、これ以上は難しいな。
 後は部屋に転がしてあるやつを整理した方がいいか」

「私も高科ゼミに入ろうかなぁ。
 あそこって本来は素材研究のはずだよね?
 なんでリクはビーコン打ちなのに高科先生が担当なの?」

「入学直後に連行されたんだけど、親父の知り合いだからだろうなぁ。
 でも未到達区域の探索をメインにしてる研究室は学生も多いからさ。
 そんなところで派手にドンパチする奴らと組まされるよりは良かったよ」

「そっかぁ、そもそもリクは能技大へ入る必要もなかったんだもんね。
 フリーの探索者になるって道もあったわけでしょ?
 そっちのはさらに自由でリク向きな気もするけどなぁ」

「あれって実は全然自由じゃないんだよ。
 総務省のなんとかって部署に属することになるんだけどさ。
 どこのダンジョンに勤務するか決められちゃうし転勤だってある。
 勤務時間も決まっててきっちり交代勤務なんだぜ?」

「えー、全然フリーじゃないじゃん。
 でも配信見ているとたまにフリーの人いるけど?」

「あれは俺みたいな能技大生だけど行動制限が免除されてる学生だよ。
 もしくは叔父さんみたいな講師主体のパーティーだな。
 それ以外だと本当のフリー、つまり法定違反の闇配信ってやつになる。
 パッと見は区別つかないけど、ダンジョン内で会えば識別信号でてないから一発。
 大体は密漁盗掘屋だから、洞窟探索特殊捜査官いぬが取り締まってるってわけさ」

「じゃあもしかしてそいつらが他のパーティー襲うこともある?
 こないだの凍結事件とかさ」

「もちろんあるさ、と言うか、ほぼそうだろ。
 さすがに公認のパーティーが襲ったら識別信号がどこかに残る。
 もしダンジョン内で信号切るような真似したなら、その時点で闇探索者ってことになるしな」

「あ、そっか、私も切っちゃわないように気を付けなきゃダメだね。
 切り方なんて知らないけど、うっかりスイッチに触っちゃうなんてことないよね?」

「ないに決まってんだろ? つーかまだ講義始まってないのか?
 そもそもHMDRにはスイッチなんて一つもないだろうが。
 被ると自動的にON、脱ぐとOFFになるだけさ。
 動作中は常にカメラも動いていて映像を記録しているからな」

「そう言う仕組みなら安心ね。
 講義はまだ法令について数回と、校内の設備説明くらいしか受けてないよ。
 そう言えば十月になったら新しい装備品が支給されるってさ。
 HMDRと作業着一式にバックパックや小物類だって言ってたよ」

「そうか、新しいのが支給されるのは嬉しいな。
 バックパックは今使ってるのをそのまま貸しといてやるよ。
 今更発電機無いと不便でやってられねえだろうし。
 そのジャンプスーツは、戻ってきたら俺が太った時用に仕舞っておくかな」

 俺はまた余計なことを言ってしまい、ダンジョン内に大きな音を響かせる羽目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。

四季 訪
ファンタジー
【第一章完結】十年前に突如として現れたダンジョン。 そしてそれを生業とする探索者。 しかしダンジョンの魔物も探索者もギルドも全てがろくでもない! 失職を機に探索者へと転職した主人公、本堂幸隆がそんな気に食わない奴らをぶん殴って分からせる! こいつ新人の癖にやたらと強いぞ!? 美人な相棒、男装麗人、オタクに優しいギャルにロリっ娘に○○っ娘!? 色々とでたらめな幸隆が、勇名も悪名も掻き立てて、悪意蔓延るダンジョンへと殴り込む! え?食ったものが悪すぎて生えてきたのがエロスキル!? 純愛主義を掲げる幸隆は自分のエロスキルに抗いながら仲間と共にダンジョン深層を目指していく! 本堂 幸隆26歳。 純愛主義を引っ提げて渡る世間を鬼と行く。 エロスキルは1章後半になります。 日間ランキング掲載 週刊ランキング掲載 なろう、カクヨムにも掲載しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

処理中です...