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第二章 遠征 X ダンジョン + 人気者
23.ナントナク
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東京湾ダンジョン探索二日目、船で入り口まで送ってもらうのは新鮮で楽しかったが、二日目は天候がいまいちで快適な船旅とはいかなかった。
「リク…… ぎもぢわるい……
もうムリ、降りる……」
「もうすぐ着くんだし無茶言うなってば。
エレベーター前で少し休めばいいだろ?
今日は二十五階層から潜って行く予定だけど、どうしてもだめなら浅いところでもいいぞ?」
「船下りれば大丈夫だと…… 思う……
う、うくっ、ぼえええ……」
東京でも内陸部に住んでいる俺たちは、船に乗るどころか海をまともに見ることすらほぼ初めてで、虹子に至っては噂に聞いていた船酔いってやつに悩まされていた。船がこんなに揺れるとは想像以上の体験だが、俺は意外にもへっちゃらだった。
この海には東京湾と言う名前がついているだけあって東京に隣接していると言えなくもないが、実際には神奈川と千葉の間にある湾である。東京府接岸部は全て日本軍の基地とその管理水域なので、海と言うものは遠目に眺めるくらいしかできないなじみの無い場所なのだ。
そんな苦労を味わいながらようやくダンジョン入口へたどり着いた俺たちは、昨日と同じようにスノーダイヤモンドの三人が前衛、白湯スープの俺と虹子が後からついていくことにした。先日の襲撃を警戒するために、進行方向へは虹子の磁力制御で鳴子のような検知トラップを作り、後方は金剛による空気壁でガードしながら進んでいく。
だがこれは警戒し過ぎと言うか、スノーダイヤモンドが再び舎人へやって来た際の予行練習である。何と言っても東京湾ダンジョンへ潜るためには船で渡航する必要が有り、その出入りは当然厳重にチェックされている。
他のパーティーを襲おうなんて奴らが軍の記録へ足跡を残してまでやってくるとは考えにくいどころかあり得ないと言いきってもいいだろう。それを油断と言われてしまったら、表を歩くことさえできなくなってしまう。今のところどれくらい警戒すればいいのか悩ましいが、とにかく単独行動はしないことは鉄則だ。
こうして有名パーティーと同行したことで俺たちのような弱小零細パーティーが標的にされることも考えられるし、舎人へ戻ってからは今まで以上に慎重な対応が求められそうだ。
それだけに、この新型であるDLS-HMDRのテストが出来たのは大きかったかもしれない。何と言っても虹子の磁力制御範囲が視線の範囲内のみなので、それ以外の後方死角をセンサでカバーできるのが大きい。しかもどうやらかなり少ない遅延で視覚情報として認識できるようなのだ。
紗由の興味は俺の代わりに表示するアバターを何にしたら視聴者数が増えるか、なのだが、実際に現場で活動する俺たちにとってはクッソどうでもいいことだ。こっちには虹子という初心者もいることだし、余計なことを考えてないで的確な指示を出すことを怠らないでもらいたい。
予定通り二十五階層からダンジョン内へ入ったのでかなり警戒していたのだが、色々と考え事が出来てしまうくらい拍子抜けな探索となっていた。流石にこの階層でも五人は過剰戦力なのだろう。だが二十九階層までやって来たところで、そうお気楽なことを言っていられない相手が現れた。
「ダンジョンビッグベアよ!
前方に一匹、その後ろにもう一匹、つがいなのかしら?
今のところ向ってくる気配がないのは不気味ね」
「アイスは索敵に集中、追加が来たらすぐに教えてね。
氷姫が凍結させたらシックスはすぐ攻撃に移ってちょうだい。
攻撃まではセブンは後ろをカバー、ダイヤライトは突進に備えること!」
「「了解」」
『『了解』』
だが万全の構えも直後空振りに終わった。こちらの人数が多かったからなのか、それとも他に理由があったのかわからないが、熊たちはゆっくりと後ずさりしてから走り去っていってしまった。凶暴なモンスターが何もせずに立ち去って行くことは珍しい。
三十階層手前にしてはモンスター自体の数も少ないし、なにか異変でも起きているのだろうか。だがそれ以上気になることは起きず、俺たちはダンジョンと横須賀を後にして帰路についた。
「リク…… ぎもぢわるい……
もうムリ、降りる……」
「もうすぐ着くんだし無茶言うなってば。
エレベーター前で少し休めばいいだろ?
今日は二十五階層から潜って行く予定だけど、どうしてもだめなら浅いところでもいいぞ?」
「船下りれば大丈夫だと…… 思う……
う、うくっ、ぼえええ……」
東京でも内陸部に住んでいる俺たちは、船に乗るどころか海をまともに見ることすらほぼ初めてで、虹子に至っては噂に聞いていた船酔いってやつに悩まされていた。船がこんなに揺れるとは想像以上の体験だが、俺は意外にもへっちゃらだった。
この海には東京湾と言う名前がついているだけあって東京に隣接していると言えなくもないが、実際には神奈川と千葉の間にある湾である。東京府接岸部は全て日本軍の基地とその管理水域なので、海と言うものは遠目に眺めるくらいしかできないなじみの無い場所なのだ。
そんな苦労を味わいながらようやくダンジョン入口へたどり着いた俺たちは、昨日と同じようにスノーダイヤモンドの三人が前衛、白湯スープの俺と虹子が後からついていくことにした。先日の襲撃を警戒するために、進行方向へは虹子の磁力制御で鳴子のような検知トラップを作り、後方は金剛による空気壁でガードしながら進んでいく。
だがこれは警戒し過ぎと言うか、スノーダイヤモンドが再び舎人へやって来た際の予行練習である。何と言っても東京湾ダンジョンへ潜るためには船で渡航する必要が有り、その出入りは当然厳重にチェックされている。
他のパーティーを襲おうなんて奴らが軍の記録へ足跡を残してまでやってくるとは考えにくいどころかあり得ないと言いきってもいいだろう。それを油断と言われてしまったら、表を歩くことさえできなくなってしまう。今のところどれくらい警戒すればいいのか悩ましいが、とにかく単独行動はしないことは鉄則だ。
こうして有名パーティーと同行したことで俺たちのような弱小零細パーティーが標的にされることも考えられるし、舎人へ戻ってからは今まで以上に慎重な対応が求められそうだ。
それだけに、この新型であるDLS-HMDRのテストが出来たのは大きかったかもしれない。何と言っても虹子の磁力制御範囲が視線の範囲内のみなので、それ以外の後方死角をセンサでカバーできるのが大きい。しかもどうやらかなり少ない遅延で視覚情報として認識できるようなのだ。
紗由の興味は俺の代わりに表示するアバターを何にしたら視聴者数が増えるか、なのだが、実際に現場で活動する俺たちにとってはクッソどうでもいいことだ。こっちには虹子という初心者もいることだし、余計なことを考えてないで的確な指示を出すことを怠らないでもらいたい。
予定通り二十五階層からダンジョン内へ入ったのでかなり警戒していたのだが、色々と考え事が出来てしまうくらい拍子抜けな探索となっていた。流石にこの階層でも五人は過剰戦力なのだろう。だが二十九階層までやって来たところで、そうお気楽なことを言っていられない相手が現れた。
「ダンジョンビッグベアよ!
前方に一匹、その後ろにもう一匹、つがいなのかしら?
今のところ向ってくる気配がないのは不気味ね」
「アイスは索敵に集中、追加が来たらすぐに教えてね。
氷姫が凍結させたらシックスはすぐ攻撃に移ってちょうだい。
攻撃まではセブンは後ろをカバー、ダイヤライトは突進に備えること!」
「「了解」」
『『了解』』
だが万全の構えも直後空振りに終わった。こちらの人数が多かったからなのか、それとも他に理由があったのかわからないが、熊たちはゆっくりと後ずさりしてから走り去っていってしまった。凶暴なモンスターが何もせずに立ち去って行くことは珍しい。
三十階層手前にしてはモンスター自体の数も少ないし、なにか異変でも起きているのだろうか。だがそれ以上気になることは起きず、俺たちはダンジョンと横須賀を後にして帰路についた。
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