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第二章 遠征 X ダンジョン + 人気者

20.イツモドオリ

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 虹子の能力解析をやっている間に俺も少し試させてもらう事にした。というか、紗由がデータ取りたいからやれとうるさいのだ。妹には逆らえないと諦めた俺は、ちょっと気恥ずかしいが明らかに市販品や公認品ではないHMDRヘッドマウントディスプレイレコーダーを取り出した。

 大多数の探索者が使用している公認HMDRは目立たないよう艶消し黒一色なのだが、俺の使うDLS-HMDRという紗由の新型は所々に蛍光色が含まれている。前モデルはオールピンクだったのでそれよりかはマシなのだが、それでもかなり目立つ代物だ。

「すごいわね、そのHMDR、一体どういうコンセプトなのかしら。
 見たところオリジナル品で間違いないと思うけど、どんな機能が備わっているの?」

「うーん、色は3Dプリントマテリアルの値段優先でこうなったはず……
 作ってるのは妹なんだけど、詳細な仕様は俺ではわからないんだ。
 でも公認よりは高性能だと思って間違いないよ。
 色々なセンサが内蔵されていて、五感を補助してくれるんだよね」

「へえ、それはすごそうだけど、あまり補助が多すぎても持て余しそう。
 できることが増えすぎて疲れてしまわないのかしら?
 綾瀬君は優秀なのね」

 年上美少女の雪南に褒められると悪い気はしないが、実際に高度な処理をしてくれるのは、オペ室と言う名の自宅に籠りっきりの妹と、あいつが開発した探索支援AIであり、俺はそのフィードバックを元に働かされてる・・・・・・ようなものだった。しかしそんなこととても明かせるはずもなく、強張った笑顔で濁すのが精いっぱいだった。

『それじゃスタートするわね。
 綾瀬君はベテランだから最初から飛ばし気味でもいいわよね?』

「ま、まあ、お手柔らかに」

 氷見子の声がDVSルームへ響くとHMDRに地形が映し出された。紗由からはどう見えているのかわからないが、恐らくは実体の無い周辺を正確にセンシングしているのだから、真四角な部屋に立っている姿が映っているのだろう。

 すぐにモンスターが追加され、先ほどと同じカピバラが前に三体、背後からは大ムカデが忍び寄ってきている。まずはバックステップでカピバラから距離を取りつつ大ムカデへと近寄り、すぐ近くまで来たところで振り向きざまに頭を踏んづけてスタンガンで気絶させた。

 次にそのムカデを掴んでからカピバラへ向かって放り投げると、その獲物を取り合おうとしてこちらから視線を逸らした前方の二匹にスタンガンを喰らわせた。出遅れた最後の一匹はいつも通りにするならば持ち帰るので、気絶させた後にナイフでとどめを刺しておく。

 もしかしたらオペの氷見子や他のメンバーは俺の能力を見たかったのかもしれないが、胸を張って見せるほど価値のある能力ではない。あえて隠していると思われても困るが、まあ聞かれたら答えることにしよう。

「綾瀬君、お見事です。
 とても手際よく無力化するのですね。
 訓練ですから倒してしまっても良かったのに、普段通りと言う事かしら?」

「ま、背伸びしない自然体が一番ってことですよ、
 舎人はエレベーターとかないので運搬が大変だから最小限にね、
 牛や猪系のモンスターなら引き取りを呼んでも割に合うけどネズミじゃ無理だし。
 それに俺の専門はビーコン打ちなんですよ」

「その年齢でビーコン打ちを専門にするなんてすごいですね。
 今までは未踏破階層をお一人で進んでいたの?
 友利さんが加わったのは最近なのよね?」

「そうですね、コイツが一級になるまでは未踏破階層へ行くのは休止かな。
 その代り未発見領域を探したり欠損ビーコンを打ち直したりと、別の楽しみもあるから」

 俺たちの探索隊、白湯スープには明確な目的や目標は無い。しかし俺の師匠でもある親父の兄貴は未踏破階層を探索しマッピングや安全確保のために働いていた。だから俺も自然と同じ方向へ進んでいる。叔父さんのオペは、当時所属していた舎人校で誰とも組めず未所属のままで暇を持て余している学生たちを使っていた。それが彼らの勉強にもなるからだ。

 俺もそのつもりだったのだが、紗由が六歳になる頃には能力が完全に開花し、その影響で他人との交流を完全に絶つようになってしまった。そんなこともあって俺のオペは紗由にやってもらう事になり、紗由は独学でオペを学びあっというまに優秀すぎる超有能オペレーターへと成長し、二人で探索隊『白湯スープ』を結成したのだ。

 ちなみに紗由が会話できるのは両親と叔父さんに俺、そして虹子だけなので、こうして遠征に来ているからといっても外部通信はシャットアウトしたままである。
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