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第二章 遠征 X ダンジョン + 人気者

19.オモイノホカ

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 大規模な訓練施設であるダンジョンヴァーチャルシミュレーターは、能技大各地方校全てに備わっているわけではない。関東ではこの横須賀校のみに配備されている。

「ほわぁ、これがDVSなんですかぁ。
 でっかい部屋ですけどなにもないや。」

「見た目はただの真っ白な部屋ですのよ?
 HMDRを被ってモンスターとの疑似戦闘や、資源探知の練習ができるのです。
 今日はもう東京湾ダンジョンへ行かれませんから、DVSを試してみませんか?
 流石に手ごたえは得られませんけど雰囲気はなかなかですよ?」

「それじゃ虹子、やらせてもらえよ。
 小型のモンスターならお前の能力で充分倒せるからさ。
 俺を信じて試して見ろって」

「本当なの? リクのことよりも私は自分が一番信じられないよ。
 まあぶっつけ本番よりは大分安心だけどさ……」

 不安そうにする虹子だが、いずれは実践の場でモンスターと対峙することがあるのだ。こんなヴァーチャルごときでビビってられても困る。俺はオペレーターの氷見子へ合図して始めてもらう事にした。俺はそれと同時に通信ユニットを取り出して紗由へと連絡を取った。

「おにい、連絡遅すぎ。
 まだ東京湾ダンジョンへは行ってないの?
 新型での通信負荷テスト、早く試したいんだけどなぁ」

「悪い悪い、今は横須賀校にあるシミュレーターで虹子が練習するとこ。
 一応オペで助けてやってくれよ」

「まったくしょうがないなあ。
 虹子の能力って結構強めだと思うんだけど、使い方は難しそうだよね。
 本人はそのことわかってんのかしら」

 紗由の言っていることはもっともだと俺も大きく頷いた。これから能技大へ入って能力の制御や特性に応じた戦略等を学ぶだろうけど、基礎的なことを教わる前に俺が口出してしまっても構わないんだろうか。もしかしたら俺以外とパーティーを組んで、そいつらと自分の適性を活かす戦略を磨くかもしれない。

 だが虹子は俺たち以外とは組まないと言っているし、今の段階ではそれも本心なのだろう。だが今後ダンジョンでの活動に慣れてきたら、できれば未踏破階層を目指す探索者ではなく、探索記録員まるキや能技大の講師等へ進んでもらいたい。とにかく身内には安全第一でいて欲しいのだ。だが。安全と言ってもさすがに虹子の頭と能力でオペは難しいが……

 装備を整えているうちにDVSの準備が出来たようなので、部屋には虹子だけが残っていよいよ起動となった。どうやら足元の地形だけがデコボコと変化する仕組みらしく、部屋にぽつんと残った姿がフラフラと揺れている。

『それでは始めます。
 シミュ結果として記録されるデータは非公式なので結果は気にせずトライしてみてね。
 それではスタート!』

 氷見子の合図と同時にオペ室のモニタ表示が白い部屋からダンジョン内へと変化した。モニタ上はオール3DCG表示でなかなかリアルだし、虹子のHMDRにはMR複合現実として表示されているはずだ。

 それから一呼吸置いた程度の後、通路にモンスターが現れたが、これはどこにでもいるカピバラみたいなやつだ。それほど好戦的でもなく群れを作る傾向があるので、俺は見かけたら極力放置している。

『虹子、ダンジョンへ入ったらすぐに磁力で砂鉄を集めておくこと。
 こんな風に遭遇する前に対処をはじめないとダメなんだからね。
 こちらから攻撃するときは槍状にして飛ばすの、わかった?』

「う、うん、わかった、やってみる。
 こんな感じでいいかな?」

 紗由に指示されながら虹子はたどたどしく能力を発動させている。周囲から竜巻のように集められた鉄粉が背丈ほどの棒状になり、虹子の周囲を鉄格子のように囲っていった。なるほど、これなら攻防一体となり扱いやすそうで、よく練られた能力の使い方だと言える。

 さすがに練習だからか、カピバラもいきなり飛びかかってくることはなく、明らかに攻撃されるのを待っているようにしか見えない。ようやく気持ちが落ち着いたのか虹子が右手をアレコレ動かすと、鉄格子の一部になっていた鉄棒が数本飛んでいき、カピバラを串刺しにした。

「はーい、お疲れさま。
 初めてのシミュだから緊張したのかな?
 実戦へ出る前にもうちょっと訓練した方がいいかもしれないね」

 まさに練習不足なのが氷見子に言い当てられてしまったが、それでもなかなか実戦向けの能力を見せてもらった俺はとても満足していた。
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