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第一章 平凡兄 X 幼馴染 X 天才妹

3.コクサク

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 日本にダンジョンが発生してから一番人気の職業と言えばダンジョン探索配信者である。能力に自信のある者たちはこぞってダンジョンへ潜り、探索の様子をリアルタイム配信していた。そしてそれは誰もが憧れる花形職業として長い間ランキングの頂点に君臨していたのだった。

 目的は財宝目的であったり強さを誇示したり人気を得ようとしたりと様々だが、結局のところダンジョン探索配信は稼げるし女の子にはモテるし、有名になればメディア出演やコラボアイテム販売での副収入も期待できる。

 得てして人はそんな風に光のあたる部分だけを見てしまうものだ。しかし人が増えれば当然トラブルは起きるもので、人気を得ようと目立つための利己的で非常識な振る舞い、金目の物の取り合いや足の引っ張り合いは日常茶飯事だし、けが人が増えるだけでなく二度と戻らない者も増えていった。

 そうなると当然行政による規制が行われることとなり、ダンジョン探索は許可制、さらには専用の国家資格を要する登録制へと移り変わっていった、そのような経緯を経て、現在ダンジョンや立ち入り制限区画へ立ち入ることができるのは、国家公務員である警察庁特殊機動隊所属の洞窟探索特殊捜査官いぬ、資源調査を行う資源エネルギー庁特別資源調査課分局所属の洞窟探索記録員まるキ、地方公務員では消防庁特別区域救命隊員など限られた職務の者である。

 それに加えて、自衛隊の外郭組織の特別公務員として配備されることになったのが国家公認の探索者である。洞窟探索の国営化に伴い探索は資源探索が主目的となり、やがて探索者育成のための教育機関や適性者を早めに育成するための飛び級制度、不正や横領対策の記録装置の開発等々、世の中はダンジョンの存在に適合するよう変化していった。

 探索隊を率いるには国家資格の洞窟探索制限解除検定一級(索検:さくけん)と洞窟資源取扱管理選任者(資取管:しとりかん)を取得することが条件で年齢制限はない。一般的には高校卒業までに三級を取ってから能力開発技術研究特別大学校(能技大:のうぎだい)へ進み一級を目指すのだが、ほとんどの受験生は飛び級生なので入学時の年齢は様々である。

 国主導での洞窟探索はおよそ五十年前に基本制度が制定され、いくつかの改訂を経てから現在に至るのだが、探索者になれる者はなんらかの特殊な能力を持って生まれた者だけだ。洞窟ダンジョン近辺に噴出している毒ガスに耐えられる呼吸器官はもちろんのこと、内部を徘徊する異形生物モンスターに対抗できる手段も必要となる。

 こうして選別された者たちが能技大へ進み、法令や生物学、地学等々を学んでから探索者への道を歩むこととなる。能技大で十分に学んだ者たちで探索隊、つまりダンジョンに潜るパーティーを組み、国益のための資源探索員として地下へおもむくと言うわけだ。

 当然のように、国営のダンジョン探索において採掘資源の見落としや探索者による不正取得がないか等を管理するためには映像記録が必須である。そのための装備品が、HMDRヘッドマウントディスプレイレコーダーというゴーグル形状の複合現実MRヘッドセットである。

 これにはダンジョン内に設置されたビーコンを検知しての位置情報送受信、探索情景記録とAIによる資源調査補助、そして緊急通報の必須三機能をワンパッケージとして、シースルーモニター内に各種情報を複合現実表示可能な完成品が経産省主導で開発され、能技大経由で貸与されている。

 HMDRは必須三機能さえ備わっていればカスタマイズが許されており、必要部品だけを購入することもできる。しかし公認の完成品以外でトラブルがあった場合は自己責任となり査定ポイントがマイナスされる決まりがありリスクが高いため、九割以上の探索者は標準HMDRを使用している。ちなみにトラブルにおけるマイナス査定はボーナスに直結する。

 そしてこのHMDRに備わっている探索情景記録機能を活かして外貨を獲得しようと言うのが国営の動画配信サイトである。開設当初、海外では児童虐待だとか青少年兵だとか非難殺到だったらしいが、特殊な能力を持つ国民はみなし成人とする法律が制定されうやむやにしようとした歴史がある。それでも国際的合意にいたることはなく、最終的に日本は国連脱退と半鎖国政策を取ることになった。

 最大の障壁だと思われたエネルギー問題は、ダンジョン出現と共に無限噴出する毒ガスからエネルギーを取り出す技術が産まれたことで解決し、資源と食糧問題は人口の減少で急速に改善していった。こうして日本各地で起きた異変が切っ掛けとなって日本は完全独立国として再出発することとなったのだ。

「―― っておい! 聞いてんのかよ、虹子ってばよ、寝てんのか!?」
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