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第八章 異世界人の最後
45.神々との戦い
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「いやあああ!!! だめええええ!!!」
俺の背後からジョアンナの叫ぶ声が聞こえる。目の前には光の弾が迫り、おそらくはこれに包まれるとンダバーへ帰ることになるのだろう。
光の弾は俺の周囲をこれ以上ないくらい明るく照らしている。そのまま俺にぶつかりやがて全身を包み込む、はずだった。
俺の右手には愛刀と同じ形状である霊体の刀が握られている。それは光の弾を切り裂いた後、まるで残骸を吸い込んだように白く光っていた。
「なっ!? 聖球を斬っただと!?
お主なにをしたのかわかっているのか?」
「ふふ、お前が俺に何をしようとしたのかを教えてやろう。
神が強大な力をひけらかし、か弱い人間を一方的になぶろうとしたのだ
すなわちそんなことをする奴は邪神と言われても仕方あるまい。
俺は悪を許せぬ義人として邪神を斬る!」
「バカなことを言うでない。
我は神だぞ? 神殺しをするとでも言うのか!」
「神は人のために存在するのではなく、神の体裁や秩序を守るために存在するのだろ?
それであれば人は神のための存在ではない!
己の信念と生きる道のために神とでも戦おうじゃないか」
「いかん、そんなことは赦されんぞ。
神を殺した人間なんぞ過去にも、もちろん未来にも存在してはならぬ!
あってなるものか!」
「言い訳は地獄でするんだな、覚悟しろ!」
俺はまっ白い蛇神の首を斬り落とすつもりで目の前を横薙ぎにした。空間が歪み現実と霊界の狭間を斬ったような不思議な感覚がして歪んだ視界を覗き込んだ。
『―― カキン!』
しかし蛇の首は胴体と繋がったままだった。どうやら本命のお出ましと言うわけか。
「もう、ホント短気で物騒なんだから。
君たちももっと柔軟に対応してくれないと困るよ。
こういうのは相手があるものなんだからねぇ」
そこには白無垢のローブを身に纏った小さな子供が立っており、俺の刃を細い木の枝のような杖で受け止めていた。
「その力、雑魚とは比べ物にならんな。
貴様が統率神だな?」
「さすが百戦錬磨の戦士なだけのことはあるね。
いかにも僕が統率神だよ。
今回はホント混乱を招き迷惑を掛けて悪かったね」
「悪いと思っているならそのままにしておいてくれないか。
俺は力を悪用するつもりはないし、ジョアンナだって俺を利用しようだなんて考えていない。
この世界に適応し、誰にも迷惑を掛けずまっとうに生きていくつもりなんだ」
「うん知ってるよ。
だけどやっぱり異端はそのままにしておけないよ。
いつ事故が起きるかわからないし、ルールにも反してるからね」
「転生のルールと言うやつか。
それは俺の知ったことではない。
今ここに存在していることが全てさ」
「つまり? その存在を認めろって言うのかい?
イレギュラーだとわかっていて見過ごせと?」
「そうだな、それが神のしたことであるのだからなおさらだ。
知っているか? いい上司は部下の尻拭いが出来るものらしいぞ?
俺がこの世界へ来て学んだことの一つだ」
「なるほどね、そう言われると一理あると言わざるを得ない。
でもね、部下の失敗の責任を取るのも上司の仕事なのさ」
「ならば仕方ない、貴様を斬って終わらせるとしよう。
神であろうと敵対するものに従うようなやわな心は持たんのでな」
「ちょっとうみんちゅ、やりすぎだよ。
神様倒すとかムリムリだし、出来たとしてもずっと業を背負うことになるんじゃない?」
「構わん、俺には俺の信念がある。
こいつらに俺の、俺たちの邪魔をする権利はない!」
「でもうみんちゅがこの世からいなくなっちゃう方がもっとヤダよ。
元の世界へ帰っても生きてるならそれでいいからさ……
だからここで死んだりして欲しくないの」
「俺は死なんさ、生きてここで共に暮らそうじゃないか。
神のいない世界も悪くないと思うぞ?」
正直勝ち目があるかと問われたら答えようがない。何しろ相手はこの世のすべてをつかさどる存在なのだ。人間なんてちっぽけな存在が勝ち負けを争えるような存在であるはずがない。
だがやるしかない。今を護るためには戦うしかないのだ。勝てばそれでよし、負ければ存在が消えてなくなり、ジョアンナの記憶からも抹消されるだろうから大人しく帰ったのと結果は同じこと。悔いが残るかどうかと俺の覚悟の問題だけだ。
右手に念を込め霊体の刀をしっかりと握る。先ほどはか細い杖で俺の一刀を止められてしまったのだ。次も同じ結果になることは目に見えていた。だがやらないわけにはいかない。
今にも斬りかかろうとしたその瞬間、ンダバーの神が叫んだ。
「統率神様! お待ちください!
ワシがすべて悪いのです、だから二人を許してやってください!
ンダバーの武力均衡に関しましては私がなんとかします!」
「ふうん、それでいったいどうするつもり?
まさか人間の諍いが起きるたびに介入するなんて言わないよね?」
「もちろんです。
ワシが神の座を降り、グライブとして蘇りたいと思います。
同じ働きはできなくとも存在を示すだけで充分抑止力となりますゆえ効果はあるかと。
ですからこの二人を引き離すのはおやめいただけませんか?」
「なんで一人の人間にそこまで肩入れするの?
自分が殺しちゃったから?」
「もちろんそれもありますが、この二人には運命的な絆を感じるのです。
この娘の前にグライブが現れたのは全くの偶然でした。
ですがすぐに労わる優しき心を持っていました。
そしてお互いの境遇が似ていたとはいえ、信頼感がここまで早く芽生えたことも想定外です。
神である立場で運命などと言うのはおかしいかもしれません。
それでもこの二人にはまだまだ共に歩んでもらいたいと感じるのです」
「まあそこまで言うなら考えなくもないけどさ。
今後どうなるかはわからないよ?
人間なんてすぐにくっついたり別れたりするもんだしね。
しかも君だって神を降りたら二度と様子を知ることはできないじゃないの」
「ワシが知る必要はありませぬ。
この二人ならきっとお互いを尊重し合って助け合い生きていくことでしょう。
それが永遠に続かなくてもそれはそれですから後悔はしません」
「そこまで肩入れするのも不自然だよね。
君はまだなにか隠してるんじゃない?
例えば百五十年くらい前のことにこだわってるとかさ」
そう言えばこの海人と言う少年の体は水神の知り合いだったと聞いた。だがンダバーの神も知り合いだったとは聞いていない。いったいどういうことだろうか。
「それは…… 無関係とは申しませんが、もはや別人ですから……」
「でも君ってあの少年のこと好いてたでしょ?
それくらいはわかってるんだけどな」
「な、なんですって!?
この神様ったらお爺さんなのに男色家なの!?」
「こら! 相変わらず無礼なやつじゃの。
ワシはれっきとした女性、つまり女神じゃぞ!」
「嘘でしょ…… 全然そんな風に見えないんだけど……
もしかしてンダバーの女性ってみんなこんな感じなの?」
「バカ言うな、そんなわけなかろう。
年老いてこいつみたいになった女もいなくはないが稀だろうよ。
それにしても自ら女神と口にするとはなぁ。
老婆心ながら忠告しておくが、とてもじゃないが女神には見えんよ。
さながら老婆神といったところか、ぶわっはっは」
「ちっ、随分とツマラン冗談を言うのう。
ワシはどちらかと言うと貴様らの味方をしてやっていると言うのになんという扱いじゃ。
それともやはりンダバーへ帰るか?」
「いや帰らん、絶対に!
この統率神を倒してでも帰ってなるものか」
すっかり興が削がれた気もするが、ここで諦めるわけにはいかない。俺は改めて剣を握りしめ少年のような姿をした統率神へと向き合ったのだった。
俺の背後からジョアンナの叫ぶ声が聞こえる。目の前には光の弾が迫り、おそらくはこれに包まれるとンダバーへ帰ることになるのだろう。
光の弾は俺の周囲をこれ以上ないくらい明るく照らしている。そのまま俺にぶつかりやがて全身を包み込む、はずだった。
俺の右手には愛刀と同じ形状である霊体の刀が握られている。それは光の弾を切り裂いた後、まるで残骸を吸い込んだように白く光っていた。
「なっ!? 聖球を斬っただと!?
お主なにをしたのかわかっているのか?」
「ふふ、お前が俺に何をしようとしたのかを教えてやろう。
神が強大な力をひけらかし、か弱い人間を一方的になぶろうとしたのだ
すなわちそんなことをする奴は邪神と言われても仕方あるまい。
俺は悪を許せぬ義人として邪神を斬る!」
「バカなことを言うでない。
我は神だぞ? 神殺しをするとでも言うのか!」
「神は人のために存在するのではなく、神の体裁や秩序を守るために存在するのだろ?
それであれば人は神のための存在ではない!
己の信念と生きる道のために神とでも戦おうじゃないか」
「いかん、そんなことは赦されんぞ。
神を殺した人間なんぞ過去にも、もちろん未来にも存在してはならぬ!
あってなるものか!」
「言い訳は地獄でするんだな、覚悟しろ!」
俺はまっ白い蛇神の首を斬り落とすつもりで目の前を横薙ぎにした。空間が歪み現実と霊界の狭間を斬ったような不思議な感覚がして歪んだ視界を覗き込んだ。
『―― カキン!』
しかし蛇の首は胴体と繋がったままだった。どうやら本命のお出ましと言うわけか。
「もう、ホント短気で物騒なんだから。
君たちももっと柔軟に対応してくれないと困るよ。
こういうのは相手があるものなんだからねぇ」
そこには白無垢のローブを身に纏った小さな子供が立っており、俺の刃を細い木の枝のような杖で受け止めていた。
「その力、雑魚とは比べ物にならんな。
貴様が統率神だな?」
「さすが百戦錬磨の戦士なだけのことはあるね。
いかにも僕が統率神だよ。
今回はホント混乱を招き迷惑を掛けて悪かったね」
「悪いと思っているならそのままにしておいてくれないか。
俺は力を悪用するつもりはないし、ジョアンナだって俺を利用しようだなんて考えていない。
この世界に適応し、誰にも迷惑を掛けずまっとうに生きていくつもりなんだ」
「うん知ってるよ。
だけどやっぱり異端はそのままにしておけないよ。
いつ事故が起きるかわからないし、ルールにも反してるからね」
「転生のルールと言うやつか。
それは俺の知ったことではない。
今ここに存在していることが全てさ」
「つまり? その存在を認めろって言うのかい?
イレギュラーだとわかっていて見過ごせと?」
「そうだな、それが神のしたことであるのだからなおさらだ。
知っているか? いい上司は部下の尻拭いが出来るものらしいぞ?
俺がこの世界へ来て学んだことの一つだ」
「なるほどね、そう言われると一理あると言わざるを得ない。
でもね、部下の失敗の責任を取るのも上司の仕事なのさ」
「ならば仕方ない、貴様を斬って終わらせるとしよう。
神であろうと敵対するものに従うようなやわな心は持たんのでな」
「ちょっとうみんちゅ、やりすぎだよ。
神様倒すとかムリムリだし、出来たとしてもずっと業を背負うことになるんじゃない?」
「構わん、俺には俺の信念がある。
こいつらに俺の、俺たちの邪魔をする権利はない!」
「でもうみんちゅがこの世からいなくなっちゃう方がもっとヤダよ。
元の世界へ帰っても生きてるならそれでいいからさ……
だからここで死んだりして欲しくないの」
「俺は死なんさ、生きてここで共に暮らそうじゃないか。
神のいない世界も悪くないと思うぞ?」
正直勝ち目があるかと問われたら答えようがない。何しろ相手はこの世のすべてをつかさどる存在なのだ。人間なんてちっぽけな存在が勝ち負けを争えるような存在であるはずがない。
だがやるしかない。今を護るためには戦うしかないのだ。勝てばそれでよし、負ければ存在が消えてなくなり、ジョアンナの記憶からも抹消されるだろうから大人しく帰ったのと結果は同じこと。悔いが残るかどうかと俺の覚悟の問題だけだ。
右手に念を込め霊体の刀をしっかりと握る。先ほどはか細い杖で俺の一刀を止められてしまったのだ。次も同じ結果になることは目に見えていた。だがやらないわけにはいかない。
今にも斬りかかろうとしたその瞬間、ンダバーの神が叫んだ。
「統率神様! お待ちください!
ワシがすべて悪いのです、だから二人を許してやってください!
ンダバーの武力均衡に関しましては私がなんとかします!」
「ふうん、それでいったいどうするつもり?
まさか人間の諍いが起きるたびに介入するなんて言わないよね?」
「もちろんです。
ワシが神の座を降り、グライブとして蘇りたいと思います。
同じ働きはできなくとも存在を示すだけで充分抑止力となりますゆえ効果はあるかと。
ですからこの二人を引き離すのはおやめいただけませんか?」
「なんで一人の人間にそこまで肩入れするの?
自分が殺しちゃったから?」
「もちろんそれもありますが、この二人には運命的な絆を感じるのです。
この娘の前にグライブが現れたのは全くの偶然でした。
ですがすぐに労わる優しき心を持っていました。
そしてお互いの境遇が似ていたとはいえ、信頼感がここまで早く芽生えたことも想定外です。
神である立場で運命などと言うのはおかしいかもしれません。
それでもこの二人にはまだまだ共に歩んでもらいたいと感じるのです」
「まあそこまで言うなら考えなくもないけどさ。
今後どうなるかはわからないよ?
人間なんてすぐにくっついたり別れたりするもんだしね。
しかも君だって神を降りたら二度と様子を知ることはできないじゃないの」
「ワシが知る必要はありませぬ。
この二人ならきっとお互いを尊重し合って助け合い生きていくことでしょう。
それが永遠に続かなくてもそれはそれですから後悔はしません」
「そこまで肩入れするのも不自然だよね。
君はまだなにか隠してるんじゃない?
例えば百五十年くらい前のことにこだわってるとかさ」
そう言えばこの海人と言う少年の体は水神の知り合いだったと聞いた。だがンダバーの神も知り合いだったとは聞いていない。いったいどういうことだろうか。
「それは…… 無関係とは申しませんが、もはや別人ですから……」
「でも君ってあの少年のこと好いてたでしょ?
それくらいはわかってるんだけどな」
「な、なんですって!?
この神様ったらお爺さんなのに男色家なの!?」
「こら! 相変わらず無礼なやつじゃの。
ワシはれっきとした女性、つまり女神じゃぞ!」
「嘘でしょ…… 全然そんな風に見えないんだけど……
もしかしてンダバーの女性ってみんなこんな感じなの?」
「バカ言うな、そんなわけなかろう。
年老いてこいつみたいになった女もいなくはないが稀だろうよ。
それにしても自ら女神と口にするとはなぁ。
老婆心ながら忠告しておくが、とてもじゃないが女神には見えんよ。
さながら老婆神といったところか、ぶわっはっは」
「ちっ、随分とツマラン冗談を言うのう。
ワシはどちらかと言うと貴様らの味方をしてやっていると言うのになんという扱いじゃ。
それともやはりンダバーへ帰るか?」
「いや帰らん、絶対に!
この統率神を倒してでも帰ってなるものか」
すっかり興が削がれた気もするが、ここで諦めるわけにはいかない。俺は改めて剣を握りしめ少年のような姿をした統率神へと向き合ったのだった。
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