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34.愛の芽吹き
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西高からほど近いショッピングモールにあるフードコートの丸テーブルにはドリンクが五つ置いてある。部活が終わって合流してきた桃子を加えてお茶をしているところだ。
「それでこちらも同級生?
初めましてだよね、私は飯塚桃子って言うの。
このバカどもとは中学が同じって関係だけどそれくらいは知ってるかな」
「うん、アタシは貞岡久美、今のクラスメートよ。
今日はなんと言うか、ノリ? 勢いかな、でついてきちゃっただけ。
邪魔する気とかは全然ないから気にしないでね」
「それでね、ちゃんと伝えないとって思って気合入れてきたのよ。
でもなんか緊張するわね…… 大勢に見られてるし」
「んじゃオレたちは向こう行ってるよ。
冷やかしに来たわけじゃねえしな」
「いいえ、大丈夫、みんないていいわよ。
ウチの学校の子もいるんだし無関係ってこともないでしょ?
それでね金子君、いいえ、洋介、もう学校へ来ないでほしいの。
高波君の彼女がいるってことはわかってるけどお願い。
少なくとも私を呼び出したりはしないで?」
それを聞いた金子は、この世の終わりがやって来たと言うくらいに呆然と立ちあがった。椅子が背後へ転がったがお構いなしでよろよろと後ずさりする。そのまま椅子につまずいて自分も転んでしまう。
「ちょっと!? なにしてんのよ。
最後までちゃんと聞きなさいってば。
こないだ洋介たちが来てからちょっとした噂になっちゃってさ。
もう恥ずかしいのなんのって……
テニス一筋って感じでやって来たから余計にね」
「え? それじゃ嫌われてはいねえのか?
つーことは俺と付き合ってくれんの?」
「だから最後まで聞きなさいって言ってんのよ!
付き合うとかはよくワカンナイから保留でいいかな?
でもたまに遊び行ったりするのは全然いい、っていうかうれしい、かな。
私はテニスばっかで他のこと知らないからゆっくり仲良くなりたいの」
「おうよ、もう四年も経ってんだから今更ゆっくりでもなんでもいいさ。
まだ付き合ってないからって合コン行ったり他の女とシたりもしねえからな。
メッセは毎日送るから無視しないで返事はしてくれよ?」
「意外にそういうの好きなのね、女の子みたい。
私は家族と部の連絡くらいでしか使ってないからチェックする習慣ないのよね。
でも極力忘れないようにするわよ」
なんだか当たり前のように幸せ話が展開されていて、なんで自分はこの場にいるのだろうと久美は悲しくなっていた。高波は美知子と、金子は桃子と並んで座っていて、久美は美知子と桃子の間に座っている。
一体この絵面はなんなんだろう。こんなところまでついて来てみたけど結局いいことなんて何もなく、むなしさが募るだけだったと後悔していた。それでも自分の気持ちを再確認できたという面では良かったのかもしれない、これですっぱりと諦めることが出来そうだ、そんな考えも頭をよぎる。
だが美知子は追い打ちをかけるように話を振り出しに戻してきた。
「ねえねえ、久美ちゃんはこっちに来なよ。
反対側に来て、こっちこっちタカシの隣にさ。
一緒に写真撮ろ? ねえいいでしょ?」
「そんなむなしいことしたくないわよ。
アタシは先に帰るから、お邪魔して悪かったわね」
「全然邪魔じゃないよ、一緒にあそぼー?
ウチ友達いなかったから嬉しいんだよねー。
飯塚先輩には迷惑かかっちゃうからあんまり近寄れないけどさ」
「えっ? 私? なんで?
別に後輩でも友達になれると思うけど?」
「だってウチ嫌われ者だもん。
同級生にも先輩にもすぐ怒られちゃうし、教科書破かれたり体操服に落書きされたり、だから上履きは毎日持って帰ってるんだー」
「そんな酷いことされてるの?
私がその先輩たちにやめるよう話してあげよっか?
先生たちに言いつけてもいいしさ」
「ううん、ウチが悪いから仕方ないの。
悪気は無かったけど、先輩の彼氏を盗っちゃったことがあってねぇ。
それから色々されるようになっちゃった、えへ」
「まあこいつはサセ子って言われてるしある程度は仕方ねえよ。
オレもガッコでは相当言われてるかんなぁ。
男だから実害はないけどミチが嫌われる理由はわかるわ」
「サセ子ってなに? あだ名?」
真面目で男女の交流経験が少ない久美と桃子には聞きなれない言葉だったのか、それとも死語だからなのかどうも通じていないようだ。それならと、金子が桃子へ耳打ちし、顔を赤くした桃子が久美へと耳打ちする。
「ちょっ、まあそっか、そうだよね……
ミチっていかにもそんな感じだもんねぇ。
ようは女版高波ってことでしょ?
まじめそうにしながら彼氏絶やさない子もいるし、気にしないでいいよ。
でも他人の彼氏は盗らない方がいいと思うわ」
「ちゃんと話をしてシェアすれば良かったんだよね。
彼女に内緒だったから怒られちゃったんだもん」
久美と桃子はため息をつきながら頭を抱えた。
「それでこちらも同級生?
初めましてだよね、私は飯塚桃子って言うの。
このバカどもとは中学が同じって関係だけどそれくらいは知ってるかな」
「うん、アタシは貞岡久美、今のクラスメートよ。
今日はなんと言うか、ノリ? 勢いかな、でついてきちゃっただけ。
邪魔する気とかは全然ないから気にしないでね」
「それでね、ちゃんと伝えないとって思って気合入れてきたのよ。
でもなんか緊張するわね…… 大勢に見られてるし」
「んじゃオレたちは向こう行ってるよ。
冷やかしに来たわけじゃねえしな」
「いいえ、大丈夫、みんないていいわよ。
ウチの学校の子もいるんだし無関係ってこともないでしょ?
それでね金子君、いいえ、洋介、もう学校へ来ないでほしいの。
高波君の彼女がいるってことはわかってるけどお願い。
少なくとも私を呼び出したりはしないで?」
それを聞いた金子は、この世の終わりがやって来たと言うくらいに呆然と立ちあがった。椅子が背後へ転がったがお構いなしでよろよろと後ずさりする。そのまま椅子につまずいて自分も転んでしまう。
「ちょっと!? なにしてんのよ。
最後までちゃんと聞きなさいってば。
こないだ洋介たちが来てからちょっとした噂になっちゃってさ。
もう恥ずかしいのなんのって……
テニス一筋って感じでやって来たから余計にね」
「え? それじゃ嫌われてはいねえのか?
つーことは俺と付き合ってくれんの?」
「だから最後まで聞きなさいって言ってんのよ!
付き合うとかはよくワカンナイから保留でいいかな?
でもたまに遊び行ったりするのは全然いい、っていうかうれしい、かな。
私はテニスばっかで他のこと知らないからゆっくり仲良くなりたいの」
「おうよ、もう四年も経ってんだから今更ゆっくりでもなんでもいいさ。
まだ付き合ってないからって合コン行ったり他の女とシたりもしねえからな。
メッセは毎日送るから無視しないで返事はしてくれよ?」
「意外にそういうの好きなのね、女の子みたい。
私は家族と部の連絡くらいでしか使ってないからチェックする習慣ないのよね。
でも極力忘れないようにするわよ」
なんだか当たり前のように幸せ話が展開されていて、なんで自分はこの場にいるのだろうと久美は悲しくなっていた。高波は美知子と、金子は桃子と並んで座っていて、久美は美知子と桃子の間に座っている。
一体この絵面はなんなんだろう。こんなところまでついて来てみたけど結局いいことなんて何もなく、むなしさが募るだけだったと後悔していた。それでも自分の気持ちを再確認できたという面では良かったのかもしれない、これですっぱりと諦めることが出来そうだ、そんな考えも頭をよぎる。
だが美知子は追い打ちをかけるように話を振り出しに戻してきた。
「ねえねえ、久美ちゃんはこっちに来なよ。
反対側に来て、こっちこっちタカシの隣にさ。
一緒に写真撮ろ? ねえいいでしょ?」
「そんなむなしいことしたくないわよ。
アタシは先に帰るから、お邪魔して悪かったわね」
「全然邪魔じゃないよ、一緒にあそぼー?
ウチ友達いなかったから嬉しいんだよねー。
飯塚先輩には迷惑かかっちゃうからあんまり近寄れないけどさ」
「えっ? 私? なんで?
別に後輩でも友達になれると思うけど?」
「だってウチ嫌われ者だもん。
同級生にも先輩にもすぐ怒られちゃうし、教科書破かれたり体操服に落書きされたり、だから上履きは毎日持って帰ってるんだー」
「そんな酷いことされてるの?
私がその先輩たちにやめるよう話してあげよっか?
先生たちに言いつけてもいいしさ」
「ううん、ウチが悪いから仕方ないの。
悪気は無かったけど、先輩の彼氏を盗っちゃったことがあってねぇ。
それから色々されるようになっちゃった、えへ」
「まあこいつはサセ子って言われてるしある程度は仕方ねえよ。
オレもガッコでは相当言われてるかんなぁ。
男だから実害はないけどミチが嫌われる理由はわかるわ」
「サセ子ってなに? あだ名?」
真面目で男女の交流経験が少ない久美と桃子には聞きなれない言葉だったのか、それとも死語だからなのかどうも通じていないようだ。それならと、金子が桃子へ耳打ちし、顔を赤くした桃子が久美へと耳打ちする。
「ちょっ、まあそっか、そうだよね……
ミチっていかにもそんな感じだもんねぇ。
ようは女版高波ってことでしょ?
まじめそうにしながら彼氏絶やさない子もいるし、気にしないでいいよ。
でも他人の彼氏は盗らない方がいいと思うわ」
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彼女に内緒だったから怒られちゃったんだもん」
久美と桃子はため息をつきながら頭を抱えた。
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