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11.愛の巻き戻し
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約二年ぶりだった。高波と金子はその変わりっぷりに驚き、どう声を掛けようか悩むくらいだ。しかしここで空気を読まない女が飛び出していく。
「八重ちゃん、ちょっとお願いあるんだけどいいかな?
飯塚先輩にお客さんが来てるから伝えてほしいの」
「あ、サ、道川さん、うん、わかった、伝えてみるね。
センパーイ、飯塚先輩! お客さんらしいですよー!」
高波と金子が何の用で来たのかも特に気にせず、タカシの役に立ちたいと考えただけの美知子が同級生らしき部員へ声をかけた。その八重が桃子へと繋いでくれる。これでようやく桃子まで話が通ったわけだ。
こうして、後輩指導をしていたらしき桃子が、違和感のある他校の制服を着た怪しげな男子二人の前にやって来た。その表情は微妙に嬉しそうで嫌そうで、迷惑そうだった。
「久し振りね、金子君、サイテー君、今日は何しに来たの?
二人とも東高でしょ、よく入れてもらえたわねぇ」
「そりゃオレって人畜無害で賢くて西高にピッタリって感じじゃん?
金ちゃんだってイケメンだし、桃子だって思わずイレたくなっちゃうだろ?」
「ホントさ…… 相変わらずキモすぎ……
ラケットで思い切り引っぱたいていい?
金ちゃんがイケメンなのはそうかもだけど、アンタはイケ猿でしょうが!」
「まあナミタカのバカはほっといてさ、どうしちゃったのその…… さ?
卒業した時はもうちょっとなんつーかいい感じの太ももだったじゃん?」
中学時代の桃子は、やや肉付きがいい金子好みの体型だった。テニスウェアの短いスカートから覗くむっちりとした太ももを頻繁に見学して行って叱られ、よく追い掛け回されたものだ。
それが今は、肉付きは相変わらずいいと言ってもいいが、それは固く引き締まった筋肉だ。柔らかそうだった太ももには筋肉の隆起がはっきり見て取れ、ふくらはぎは上にピンと引き締まり左右を別つ切れ込みが入っているかのようである。
二の腕はいかにも固そうで太く、手首へ向かって細く引き締まっている。胸元は女子らしいおっぱいのふくらみが主張するバストといった印象よりも、アスリートらしい厚い胸板に変貌していた。
唯一顔だけはそれほど変わっておらず、少し大人っぽくなっている程度で済んでいる。眉もきちんと整えていて女子らしいところはちゃんとキープしていて好印象だ。
「ああ、高校入ってから凄い先輩がいて感化されちゃったんだよね。
先輩みたいにプロ目指すのは無理かもしれないけどさ。
全国も国体も十分狙えてるんだから凄いでしょ?」
「ああ、めっちゃすげえよ、そのムキムキボディにはびっくりしたけどな。
後輩彼氏はそれでもいいって言ってくれて、んだのろ?」
金子は思わず言わなくてもいいことを言ってしまったと唇を噛んだ。普段どうでもいい女子相手なら適当なこと言ってヤレリャいいって思えるのに、桃子相手だと昔からうまく行かない。
その理由に自分でも気が付いているが、テニス部の後輩がついて回っていた姿を思い出すと悔しすぎて、人の女を好きになったなんて認めたくなかった。
「後輩? 彼氏? ああ、あの子はとっくにテニス部辞めちゃったよ。
私が本気で取り組んでトレーニングしてたら否定するようなこと言うし……
元々付きまとわれて迷惑してたんだけど、中学の男子テニス部のためにはねぇ。
あの子辞めたら人数足りなくて団体出られなかったから引き留めてたの。
でも高校ではそんなの関係なくなったから本音言ってたら辞めたってわけ」
「えっ? マジで? 付き合ってたんじゃねえの?
あんなにいつも一緒にいたくせによ。
それに卒業式の後、第二ボタンあげてたじゃんか」
「えっ!? 金子君もボタン欲しかったの?
私、誰からも声かけられなかったからまあいっかって思ってあげちゃったよ。
なんで今になってそんなこと言うのかなぁ…… あのとき……」
いつの間にか金子の横からずいぶん遠くへ移動していた高波と美知子は、いやらしい笑い方をしながら遠巻きに眺めていた。
「なんかいい雰囲気臭くね?
オレだったらこのままキスくらいしちゃうけどなぁ。
金ちゃんは意外に純情っぽいとこあってさ。
桃子にはガチ恋で告白どころか遊びに誘うこともできなかったんだぜ?」
「へえ、なんかカッコいいじゃん。
タカシの周りってもしかしていい男だらけ?
それともいい女だらけなのかな……」
「そりゃどうだろな、友達って呼べる奴はあんまいねぇよ。
金ちゃんとメガッチくらいだ」
「メガッチってなに? ウケルー
メガネ君なの?」
「違う違う、大内だからオオッチって呼んでたんだけどさ。
大盛りとか大容量パケプランでなんかギガとかメガとかいうじゃん?
んで大きいだからメガッチってわけ、いいっしょ?」
「じゃあウチは? タカシにはなんかカワイク呼んでほしいな。
ともだちはサセ子とかみちみちって呼ぶけどイマイチくない?」
「んだなぁ、道川美知子ってなんかそのままでかわいいじゃん。
だからへんにいじらなくてもミチで良くね?」
「タカシがいいならウチもそれがいい。
お友達の話が終わったら遊びいこ?
ウチ、今日はお仕事いかないからさ。
だから今日はずっと一緒にいてほしいの、泊まり行ってもいい?」
「ミチは仕事してんのか、偉いなぁ。
勝手に休んで怒られたりしなきゃいいんだけどよ。
実はオレって家には全然帰って無くてあちこち居候してんだよね。
泊めてもらえるかわかんねえけど聞いてみるよ」
天使は二人の会話を盗み聞きしながら、女神の人選は正しかったが方法は間違っていたことを再確認していた。そして自分が選ばれたこの幸運こそ、魔界の神サタン様の思し召しだと深く感謝するのだった。
「八重ちゃん、ちょっとお願いあるんだけどいいかな?
飯塚先輩にお客さんが来てるから伝えてほしいの」
「あ、サ、道川さん、うん、わかった、伝えてみるね。
センパーイ、飯塚先輩! お客さんらしいですよー!」
高波と金子が何の用で来たのかも特に気にせず、タカシの役に立ちたいと考えただけの美知子が同級生らしき部員へ声をかけた。その八重が桃子へと繋いでくれる。これでようやく桃子まで話が通ったわけだ。
こうして、後輩指導をしていたらしき桃子が、違和感のある他校の制服を着た怪しげな男子二人の前にやって来た。その表情は微妙に嬉しそうで嫌そうで、迷惑そうだった。
「久し振りね、金子君、サイテー君、今日は何しに来たの?
二人とも東高でしょ、よく入れてもらえたわねぇ」
「そりゃオレって人畜無害で賢くて西高にピッタリって感じじゃん?
金ちゃんだってイケメンだし、桃子だって思わずイレたくなっちゃうだろ?」
「ホントさ…… 相変わらずキモすぎ……
ラケットで思い切り引っぱたいていい?
金ちゃんがイケメンなのはそうかもだけど、アンタはイケ猿でしょうが!」
「まあナミタカのバカはほっといてさ、どうしちゃったのその…… さ?
卒業した時はもうちょっとなんつーかいい感じの太ももだったじゃん?」
中学時代の桃子は、やや肉付きがいい金子好みの体型だった。テニスウェアの短いスカートから覗くむっちりとした太ももを頻繁に見学して行って叱られ、よく追い掛け回されたものだ。
それが今は、肉付きは相変わらずいいと言ってもいいが、それは固く引き締まった筋肉だ。柔らかそうだった太ももには筋肉の隆起がはっきり見て取れ、ふくらはぎは上にピンと引き締まり左右を別つ切れ込みが入っているかのようである。
二の腕はいかにも固そうで太く、手首へ向かって細く引き締まっている。胸元は女子らしいおっぱいのふくらみが主張するバストといった印象よりも、アスリートらしい厚い胸板に変貌していた。
唯一顔だけはそれほど変わっておらず、少し大人っぽくなっている程度で済んでいる。眉もきちんと整えていて女子らしいところはちゃんとキープしていて好印象だ。
「ああ、高校入ってから凄い先輩がいて感化されちゃったんだよね。
先輩みたいにプロ目指すのは無理かもしれないけどさ。
全国も国体も十分狙えてるんだから凄いでしょ?」
「ああ、めっちゃすげえよ、そのムキムキボディにはびっくりしたけどな。
後輩彼氏はそれでもいいって言ってくれて、んだのろ?」
金子は思わず言わなくてもいいことを言ってしまったと唇を噛んだ。普段どうでもいい女子相手なら適当なこと言ってヤレリャいいって思えるのに、桃子相手だと昔からうまく行かない。
その理由に自分でも気が付いているが、テニス部の後輩がついて回っていた姿を思い出すと悔しすぎて、人の女を好きになったなんて認めたくなかった。
「後輩? 彼氏? ああ、あの子はとっくにテニス部辞めちゃったよ。
私が本気で取り組んでトレーニングしてたら否定するようなこと言うし……
元々付きまとわれて迷惑してたんだけど、中学の男子テニス部のためにはねぇ。
あの子辞めたら人数足りなくて団体出られなかったから引き留めてたの。
でも高校ではそんなの関係なくなったから本音言ってたら辞めたってわけ」
「えっ? マジで? 付き合ってたんじゃねえの?
あんなにいつも一緒にいたくせによ。
それに卒業式の後、第二ボタンあげてたじゃんか」
「えっ!? 金子君もボタン欲しかったの?
私、誰からも声かけられなかったからまあいっかって思ってあげちゃったよ。
なんで今になってそんなこと言うのかなぁ…… あのとき……」
いつの間にか金子の横からずいぶん遠くへ移動していた高波と美知子は、いやらしい笑い方をしながら遠巻きに眺めていた。
「なんかいい雰囲気臭くね?
オレだったらこのままキスくらいしちゃうけどなぁ。
金ちゃんは意外に純情っぽいとこあってさ。
桃子にはガチ恋で告白どころか遊びに誘うこともできなかったんだぜ?」
「へえ、なんかカッコいいじゃん。
タカシの周りってもしかしていい男だらけ?
それともいい女だらけなのかな……」
「そりゃどうだろな、友達って呼べる奴はあんまいねぇよ。
金ちゃんとメガッチくらいだ」
「メガッチってなに? ウケルー
メガネ君なの?」
「違う違う、大内だからオオッチって呼んでたんだけどさ。
大盛りとか大容量パケプランでなんかギガとかメガとかいうじゃん?
んで大きいだからメガッチってわけ、いいっしょ?」
「じゃあウチは? タカシにはなんかカワイク呼んでほしいな。
ともだちはサセ子とかみちみちって呼ぶけどイマイチくない?」
「んだなぁ、道川美知子ってなんかそのままでかわいいじゃん。
だからへんにいじらなくてもミチで良くね?」
「タカシがいいならウチもそれがいい。
お友達の話が終わったら遊びいこ?
ウチ、今日はお仕事いかないからさ。
だから今日はずっと一緒にいてほしいの、泊まり行ってもいい?」
「ミチは仕事してんのか、偉いなぁ。
勝手に休んで怒られたりしなきゃいいんだけどよ。
実はオレって家には全然帰って無くてあちこち居候してんだよね。
泊めてもらえるかわかんねえけど聞いてみるよ」
天使は二人の会話を盗み聞きしながら、女神の人選は正しかったが方法は間違っていたことを再確認していた。そして自分が選ばれたこの幸運こそ、魔界の神サタン様の思し召しだと深く感謝するのだった。
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