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第十四章 国王と王妃

66.眠りについた令嬢

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 沿道は大騒ぎで多くの人々が右往左往している。逃げ惑う人たち、なにがあったのかと寄ってくる人たち、そしてそれを整理しようとする兵たち。その喧騒に紛れ一人の女が涙を流し腹を押さえながら消えて行った。

 そんな中、時間が止まったように引き車の上で真っ赤なドレスの愛妻を抱く王がいた。その足元には半分首が落ちかけているフラムスだったものが放置されている。

「良かった、ご無事なのですね……
 何事もなく……」

「なぜ庇ったのだ、我はあんな小者にやられはせぬと言うのに」

「うふふ…… 母が子の凶行を止めたいと願うのは致し方ないことでございます……
 それに、ごふっ、げふぉ、げぶぉ……」

 口から溢れ出すどす黒い血がもう助からないことを示している。

「陛下、私はあなたを慕い、愛し、そして恨んでいるのです……
 ですからいつか陛下が亡くなる時には私こそが最後に刃を突き立てる者でありたい……
 もうそれも叶いませぬ、ふふ、復讐とは難しいものですね……」

「わかった、この命いつでもくれてやる。
 だからそなたが死んではいかん、まだ子たちもこれからなのだぞ」

「あの子たちには、私は狂人に命を奪われたと――
 げふっ、ぼごぉう、陛下…… 愛してお、り、ま――」

 クラウディアは完全に事切れた。自分を貶め辱めに堕とした相手の腕の中で、同じ相手に愛を呟きながら。その表情に悔いはなく、穏やかで幸せそうに見えたと言う。最後まで歪んだ愛を掴み続けた事を本人は知らずに旅だった。

◇◇◇

 その後アーゲンハイム伯爵は自宅で保護された。気が触れた使用人に犯され続け抜け殻のようにやつれていたが、どうやら命に別状は無さそうとのことだ。他にも屋敷には、裸のまま手枷足枷で固定され性奴隷にされていた女が二人、首を跳ねられた裸の女の腐乱死体、そして伯爵の息子二人の遺体が回収され埋葬された。


 新年の祝福を何とか乗り切った王は見る見るうちに老いて行き、次の新年で王位を息子のギルガメスへと譲って隠居した。それからは部屋から一歩も出ず、高齢者ばかりとなった奥御殿の女たちと一緒にただただ大人しく余生を過ごした。


 若くして王位を継いだギルガメスは、アデレイトを妃に迎え良き王として改革を進めた。しかし呪いのような王族の穢れた血による欲求を完全には抑えきれず側室を迎え入れつづけた。だが側室やその子らを物のようには扱わず、教育と職務を与え国の発展に繋がるよう重用した。

 その裏にはもちろんフローリアの知恵が有った。彼女は母の死の直後はひどく落ち込み部屋からなかなか出てこなかったが、数週間で立ち直り国の発展のために父を助け弟を助けた。だがその実、ほぼすべてが彼女の思うままに進められており、いつしか王国は女権主体国家の装いとなっていった。
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