65 / 66
第十四章 国王と王妃
66.眠りについた令嬢
しおりを挟む
沿道は大騒ぎで多くの人々が右往左往している。逃げ惑う人たち、なにがあったのかと寄ってくる人たち、そしてそれを整理しようとする兵たち。その喧騒に紛れ一人の女が涙を流し腹を押さえながら消えて行った。
そんな中、時間が止まったように引き車の上で真っ赤なドレスの愛妻を抱く王がいた。その足元には半分首が落ちかけているフラムスだったものが放置されている。
「良かった、ご無事なのですね……
何事もなく……」
「なぜ庇ったのだ、我はあんな小者にやられはせぬと言うのに」
「うふふ…… 母が子の凶行を止めたいと願うのは致し方ないことでございます……
それに、ごふっ、げふぉ、げぶぉ……」
口から溢れ出すどす黒い血がもう助からないことを示している。
「陛下、私はあなたを慕い、愛し、そして恨んでいるのです……
ですからいつか陛下が亡くなる時には私こそが最後に刃を突き立てる者でありたい……
もうそれも叶いませぬ、ふふ、復讐とは難しいものですね……」
「わかった、この命いつでもくれてやる。
だからそなたが死んではいかん、まだ子たちもこれからなのだぞ」
「あの子たちには、私は狂人に命を奪われたと――
げふっ、ぼごぉう、陛下…… 愛してお、り、ま――」
クラウディアは完全に事切れた。自分を貶め辱めに堕とした相手の腕の中で、同じ相手に愛を呟きながら。その表情に悔いはなく、穏やかで幸せそうに見えたと言う。最後まで歪んだ愛を掴み続けた事を本人は知らずに旅だった。
◇◇◇
その後アーゲンハイム伯爵は自宅で保護された。気が触れた使用人に犯され続け抜け殻のようにやつれていたが、どうやら命に別状は無さそうとのことだ。他にも屋敷には、裸のまま手枷足枷で固定され性奴隷にされていた女が二人、首を跳ねられた裸の女の腐乱死体、そして伯爵の息子二人の遺体が回収され埋葬された。
新年の祝福を何とか乗り切った王は見る見るうちに老いて行き、次の新年で王位を息子のギルガメスへと譲って隠居した。それからは部屋から一歩も出ず、高齢者ばかりとなった奥御殿の女たちと一緒にただただ大人しく余生を過ごした。
若くして王位を継いだギルガメスは、アデレイトを妃に迎え良き王として改革を進めた。しかし呪いのような王族の穢れた血による欲求を完全には抑えきれず側室を迎え入れつづけた。だが側室やその子らを物のようには扱わず、教育と職務を与え国の発展に繋がるよう重用した。
その裏にはもちろんフローリアの知恵が有った。彼女は母の死の直後はひどく落ち込み部屋からなかなか出てこなかったが、数週間で立ち直り国の発展のために父を助け弟を助けた。だがその実、ほぼすべてが彼女の思うままに進められており、いつしか王国は女権主体国家の装いとなっていった。
そんな中、時間が止まったように引き車の上で真っ赤なドレスの愛妻を抱く王がいた。その足元には半分首が落ちかけているフラムスだったものが放置されている。
「良かった、ご無事なのですね……
何事もなく……」
「なぜ庇ったのだ、我はあんな小者にやられはせぬと言うのに」
「うふふ…… 母が子の凶行を止めたいと願うのは致し方ないことでございます……
それに、ごふっ、げふぉ、げぶぉ……」
口から溢れ出すどす黒い血がもう助からないことを示している。
「陛下、私はあなたを慕い、愛し、そして恨んでいるのです……
ですからいつか陛下が亡くなる時には私こそが最後に刃を突き立てる者でありたい……
もうそれも叶いませぬ、ふふ、復讐とは難しいものですね……」
「わかった、この命いつでもくれてやる。
だからそなたが死んではいかん、まだ子たちもこれからなのだぞ」
「あの子たちには、私は狂人に命を奪われたと――
げふっ、ぼごぉう、陛下…… 愛してお、り、ま――」
クラウディアは完全に事切れた。自分を貶め辱めに堕とした相手の腕の中で、同じ相手に愛を呟きながら。その表情に悔いはなく、穏やかで幸せそうに見えたと言う。最後まで歪んだ愛を掴み続けた事を本人は知らずに旅だった。
◇◇◇
その後アーゲンハイム伯爵は自宅で保護された。気が触れた使用人に犯され続け抜け殻のようにやつれていたが、どうやら命に別状は無さそうとのことだ。他にも屋敷には、裸のまま手枷足枷で固定され性奴隷にされていた女が二人、首を跳ねられた裸の女の腐乱死体、そして伯爵の息子二人の遺体が回収され埋葬された。
新年の祝福を何とか乗り切った王は見る見るうちに老いて行き、次の新年で王位を息子のギルガメスへと譲って隠居した。それからは部屋から一歩も出ず、高齢者ばかりとなった奥御殿の女たちと一緒にただただ大人しく余生を過ごした。
若くして王位を継いだギルガメスは、アデレイトを妃に迎え良き王として改革を進めた。しかし呪いのような王族の穢れた血による欲求を完全には抑えきれず側室を迎え入れつづけた。だが側室やその子らを物のようには扱わず、教育と職務を与え国の発展に繋がるよう重用した。
その裏にはもちろんフローリアの知恵が有った。彼女は母の死の直後はひどく落ち込み部屋からなかなか出てこなかったが、数週間で立ち直り国の発展のために父を助け弟を助けた。だがその実、ほぼすべてが彼女の思うままに進められており、いつしか王国は女権主体国家の装いとなっていった。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
命短し乙女の花は情熱の瞳に手折られる〜皇女アライシャの恋
Lise.K(星野藍月)
恋愛
精いっぱい生きるその命が儚いなんて誰が言えるだろう。
今年も王宮に夏がやって来た。
あと何回、この夏を、この花を見られるだろうか。
~・~・~
皇帝の第二皇女アライシャ。十八歳。二十歳までの余命宣告。 命短し皇女とそんな彼女を密かに慕う王子の恋物語。
王子は皇帝にアライシャを妻に娶りたいと申し出る。そのためなら王位継承権も捨てると言う。驚愕する皇帝とアライシャ。
「妻として娶っても、あなたには指一本触れないと誓います」
🔹登場人物
・皇帝アルスタ四世
アライシャの父
・アライシャ・エグゼルスタ
主人公
皇帝の第二皇女
・エルランド・ゴルト・ギルレイ
ギルレイ家第一王子
・ギリアス
アライシャの護衛官兼教育担当官
・エミリア
アライシャお付きの女官頭
⭐️表紙および挿絵はオリジナル(AIイラスト)です。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
転生したら前世チートで無双する
ゆる弥
ファンタジー
殺し屋をしていた男が人を殺すのに躊躇いを覚えるようになった。
だが、組織はその男のことを手放さなかった。
ある日その男は死ぬ事を選んだのだった。
ビルから飛び降りた。
そこからこの話は始まる。
気付けばテンプレの白い空間。
「お前に罪を償う機会を与えよう」
「何をすればいい?」
「私の指定する世界に転生してくれるだけでいい。それで償いになる。好きに生きよ」
「それで償いになるのならば」
異世界で二十歳の体で生まれ変わった。
突如悲鳴が聞こえた。
好きに生きれるのか?
この世界?
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる