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第十四章 国王と王妃

60.暗躍(閑話)

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 クラウディアの背に堕とされた刻印の消去は困難を極めた。人工皮膚を作るための材料が足りないらしく、捜索にも時間がかかるようだ。アサクサ曰く、建物の修理に使う材料や、フローリアへ出しているお茶を生成するための材料は代替品を探してきて人工的に生成しているとのことだった。

 この四年ほどで学んだ内容はおおむね理解は出来ているつもりのフローリアには、始祖の遺産である宇宙船に残されたとてつもない技術力の高さは十分に理解できている。その技術力を持ってしても、さすがに無から有は生み出せないわけで、何かしらの物質を材料に用いて元素分解や再結合することで近い物質を作っていた。宇宙船の動力もそう言った方法で作り出していたが、現在は地下にある高温のマグマから熱を取り入れて地表との温度差による地熱発電で賄(まかな)っているようだ。

 本当は電気を城中へ引いてしまえば色々と楽が出来るし、産業も発展し人口も増え国力は増大するに違いない。そこまでわかっていながら今まで同様ゆっくりとした発展のままにしているのは、当然のように地球の過去に学んだからである。環境破壊の進んだ星を棄てた者たちの子孫であるフローリアが、過去の失敗と同じことを繰り返すのは愚の骨頂だと考えたのだ。だがそうは言っても便利には違いないので部分部分取り入れたりはしているのだが。

 結局、現在入手可能な材料で人工皮膚を作るのは困難だとの結論に達したフローリアとアサクサは、万能細胞から培養皮膚を作ることにした。パリーニを抱き込み採取させたクラウディアの一部から培養した万能細胞と、フローリアから取り出した皮膚を合わせ必要な大きさの移植用皮膚を作り施術を施したのだった。とは言えフローリアがやったことは皮膚の提供くらいのものである。


 アサクサと出会ってから取り組んだことがもう一つあった。それは自分たちに刻み込まれた遺伝子操作の効果を弱めるものだ。女には日常生活で困るような作用も副作用もないのだが、男の場合は色々と困ることが起きる。主に周囲の女性に、だが。かと言って自分には残したままギルガメスの力だけ取り上げるのはフェアではないし、国を護る上でまだ武力は必要であることも考慮する必要が有った。だが未来永劫ハーレムを必要とするのでは子孫たちが困ってしまうだろう。

 とりあえずは研究してみようと、こっそり眠らせた実験体(ギルガメス)から組織を採取し遺伝子の異常部分を調べたり、こっそりとサンプル(ギルガメス)を観察しその作用や副作用を記録していった。その結果、必ずしも性衝動が肉体増強に繋がっているわけではないことがわかったのだ。確かに二つはリンクはしているのだが、自慰行動を取っていない場合にも極端な肉体増強が見られることがわかったのはわずかだが前進と言える。

 そのわかったことと言うのは、興奮状態と満足感の組み合わせによる相互作用だった。ギルガメスが騎士と剣の訓練を行い気持ちが高ぶった後、相手に勝つことで得られた満足感や快感、この両方が続けて起こった場合に肉体が強化されていた。それは身体を動かす訓練ならば当然得られる成果であるため、今まで見過ごされてきたと思われる。

 この仮説を証明するためにフローリアが取った行動はゲームだった。自らが考案したことにして国中へ普及し流行っているゲーム、リバーシでギルガメスと勝負し、何回も負かして興奮させた後にそれとわからないようわざと負けてみる、と言うのを何度かやってみたところ、やはり勝って快感を感じた後に筋肉をはじめとする肉体に僅かな成長が見られたのだ。

 身体を動かしていない為か増強量は少ないが間違いなく効果はある。しかしここからどうやって性衝動を抑えるように持っていくかで悩んでいた。この四年ほどでギルガメスが行った自慰行為は九百回を超えている。これはおよそ二日に一度のペースを大きく超えていて危険水域だ。医学的に危険なわけではないが、王族男子にとっては性衝動が促進され、むやみに女を襲うのではないかと考え心配していた。

 あれからギルガメスも大分逞しく大人らしく成長しているので王位を継ぐことには賛成のフローリアだが、国王による独裁制では無くなったこの国で今まで同様の振る舞いは許されないと考えていた。それだけに両親が手を打つことに期待しているのだが、これまでそんな素振りを見せることはなく、かといってハーレムを用意している様子もなかった。

 だがあと二回の年明けを経(へ)るとギルガメスは十六歳となり大人の仲間入りである。それは従来の慣習に従えば自分のハーレムを持ち子作りを始める年齢なのだ。とは言え、今まで姉が弟をこっそり監視し記録を取っていたことを明らかにして、本人へ進言、助言するなど出来るはずがない。残された道は両親へ相談し、今後ハーレムをどうするのか確認するしかないと考えていた。
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