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第十二章 姉弟の探検
51.書庫の秘密
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王城地下には宝物庫があり、さらに奥には書庫とフローリアの研究室があった。本棚にある書物の向こう側の壁に、文字と言うには見覚えの無い紋様が彫られていることに気が付いたのは随分前で、確か七歳くらいの頃だったように記憶している。
石壁に彫ってある紋様はただの意匠で、本棚と書物が置かれた後には見えることもない。だがある時気が付いた。収められている書物を種類別に並べると産まれる書同士の間、隙間と言ってもいいが、そこには同じ紋様が示されるのだ。同様に文字順に並べても結果は同じで別の紋様が揃う仕組みとなっていた。この事実にたどり着くまでに二年かかり、次はその紋様だか文字が意味することの研究に没頭した。
そこから二年かけてようやくあの紋様は我々が知り得る文字とは異なる未知の文字を表しているとの結論に達した。そして出入り口の真反対に位置する壁に据えられた台に丸い突起があり、これも同じことを表す意匠である可能性が高い。だがそれがどうだと言うのだ。この書庫を作った時に流行っていた紋様と言うだけの可能性もある。
とりあえずわかったことだけでも忘れてしまわぬようろう石板へ書き写していったのだが、ここでもう一つ閃いて本棚へと戻った。そう、まだ色別があった。書の背表紙にはいくつかの色種しかない。それを全て色別に並べ替えると―― やはり同じようにこれまでとは別の同じ紋様が覗いた。
『ろう石版』へ記録した三つの紋様だか文字のようなもの、縦と横の棒七か所を組み合わせただけの簡素な記号的なものなので、この形だけで文字として成立させるには無理があると考えられる。とすると数学的なもの、たとえば数字や記号と言った類のものではなかろうか。それなら十分に間に合うだろし、今我々が使っている丸と縦棒の数で表す数字よりも合理的かもしれない。
わかりやすくしようとろう石板へ全通りをを書き出そうとするが数が多すぎて書ききれない。一か所の棒を書くか書かないかだから一つに付き二通り、それが七つ組だから二を七回掛けて…… すると百二十八通りとなり、すべて無記述は文字として成立しないから抜くとすると合計百二十七通りと言うことになる!
どこかにこの法則を記した書物があればあの模様が文字や数字であることが証明できるはず。何かないだろうか、なにか、どこかに―― それにしてもこの七つの棒で囲った紋様はどこかで見た気がする。書庫にある書物は全て目を通しているが、主に語学に関する研究の為だったので中身までしっかり読んでいない書も多数ある。まずは探しやすいように種類別へと並べ替えて戻しておこう。
こうして整理し終わってから食事をしに地上へ戻り、数時間後に再び書庫を訪れた時に気が付いた。この七つの棒で作られた紋様は本棚の枠と同じような図形に見える。そして入り口から俯瞰して見ると本棚の枠に微妙な艶があり灯りに照らされて光っていた。本棚は全部で十六架並んでいるのだが、その枠それぞれ違う箇所が磨かれ別の紋様を表している。
「えーっと、つまりは…… どちらが最初なのか…… 右か左か
おそらくは数字ね、いえ、間違いないわ!
と言うことは単純なほうから始まっていると考えられる……
ふむふむ、なるほど、全部で十六種類?
不思議な数え方だけどそういう文化だったのかも…… きっとこうね」
『0、I,2,ヨ,4,5,6,7,8,9、A、b、C、d、E、F』
こうしてフローリアは全てを書き出し照らし合わせることに成功した。今まで知られてきたのは十や十二で桁の変わる数え方だったが、これは十六で繰り上がるものだと考えられる。一番左から一(いち)なのかとも考えたが縦棒一本が一であると考えた方が説得力がある。つまり一番左は無でそこからいち、に、さん―― じゅう、じゅういち? じゅうに? ―― 十五までの十六種類だが読み方がわからない。
桁が上がって『I0』になったら『十六』なのか『一無』なのかどちらだろう。だがそれは今どうでも良かった。別にこの数字を今すぐ国中で使うわけではないのだから。今は記録した三文字を向こうの壁にある入力装置のようなものへと示して見ることだ。
東西南北二つの南北部分を重ねて縦につなげた様な七つの突起、先ほど解読したのが数字だとすると八の紋様と、その下にある明らかに異種であろう長四角の突起がある。これは彫りあげられたものではなく台座とは別に彫られた石が嵌め込まれている。つまりは判明した数字の通りにこれを押し込むことで何かが起きるのではなかろうか。
フローリアは胸を高鳴らせ流行る気持ちを抑えてまずは長四角を押下した。すると何の手ごたえも無くスカスカと戻ってくるのみである。しかし動くものだと言うのはわかったので丸い部分へ手をやりゴクリと生唾を呑んだ。
『8』『5』『b』
突起を押し込むと台座にめり込んだままになるのだが、数字を一つ作るたびに長四角を押すと突起が戻ってくる。それを三度繰り返して入力を終えてみたが特に何も起きなかった。もう一度最初からやってみようともう一度『8』を入力し長四角を押す。するとその段階で全ての突起が固定されてビクともしなくなってしまった。
「なによこれ! ふざけるんじゃないわよ!
絶対何か秘密が隠されていると思ったのに!
…… でも四つ目までで押せなくなってしまったと言うことは……
そうか、正解は四桁の数字ってことね!
そうだわ、そうに決まってる! あと一つの数字を探せばいいのだわ!」
だがその時にはすでに時間が夜半過ぎ、夕飯も食べず夢中になり過ぎて世話係が迎えに来たくらいである。仕方なくこの日は諦めて部屋へと戻って食事を取った。
その後床についてはみたものの、どうにも気になって仕方がない。こっそりと灯りを手に再び書庫へ訪れてみると、突起はまた押せるようになっている。おそらくは間違えると続けての入力が出来なくなり、時間が経つと再び押せるようになると言う仕掛けだろう。
そう算段を付けたフローリアは、夜中にも拘らず書をあれこれと並べ替えたり、すべて出して紋様を記録したりを繰り返しながらそのまま寝入ってしまった。結局明け方になり世話係が探しに来るまで地下の寒い書庫で寝ていたため体調を崩し、時間を余計に無駄にする羽目になったことを悔しがるのだった。
石壁に彫ってある紋様はただの意匠で、本棚と書物が置かれた後には見えることもない。だがある時気が付いた。収められている書物を種類別に並べると産まれる書同士の間、隙間と言ってもいいが、そこには同じ紋様が示されるのだ。同様に文字順に並べても結果は同じで別の紋様が揃う仕組みとなっていた。この事実にたどり着くまでに二年かかり、次はその紋様だか文字が意味することの研究に没頭した。
そこから二年かけてようやくあの紋様は我々が知り得る文字とは異なる未知の文字を表しているとの結論に達した。そして出入り口の真反対に位置する壁に据えられた台に丸い突起があり、これも同じことを表す意匠である可能性が高い。だがそれがどうだと言うのだ。この書庫を作った時に流行っていた紋様と言うだけの可能性もある。
とりあえずわかったことだけでも忘れてしまわぬようろう石板へ書き写していったのだが、ここでもう一つ閃いて本棚へと戻った。そう、まだ色別があった。書の背表紙にはいくつかの色種しかない。それを全て色別に並べ替えると―― やはり同じようにこれまでとは別の同じ紋様が覗いた。
『ろう石版』へ記録した三つの紋様だか文字のようなもの、縦と横の棒七か所を組み合わせただけの簡素な記号的なものなので、この形だけで文字として成立させるには無理があると考えられる。とすると数学的なもの、たとえば数字や記号と言った類のものではなかろうか。それなら十分に間に合うだろし、今我々が使っている丸と縦棒の数で表す数字よりも合理的かもしれない。
わかりやすくしようとろう石板へ全通りをを書き出そうとするが数が多すぎて書ききれない。一か所の棒を書くか書かないかだから一つに付き二通り、それが七つ組だから二を七回掛けて…… すると百二十八通りとなり、すべて無記述は文字として成立しないから抜くとすると合計百二十七通りと言うことになる!
どこかにこの法則を記した書物があればあの模様が文字や数字であることが証明できるはず。何かないだろうか、なにか、どこかに―― それにしてもこの七つの棒で囲った紋様はどこかで見た気がする。書庫にある書物は全て目を通しているが、主に語学に関する研究の為だったので中身までしっかり読んでいない書も多数ある。まずは探しやすいように種類別へと並べ替えて戻しておこう。
こうして整理し終わってから食事をしに地上へ戻り、数時間後に再び書庫を訪れた時に気が付いた。この七つの棒で作られた紋様は本棚の枠と同じような図形に見える。そして入り口から俯瞰して見ると本棚の枠に微妙な艶があり灯りに照らされて光っていた。本棚は全部で十六架並んでいるのだが、その枠それぞれ違う箇所が磨かれ別の紋様を表している。
「えーっと、つまりは…… どちらが最初なのか…… 右か左か
おそらくは数字ね、いえ、間違いないわ!
と言うことは単純なほうから始まっていると考えられる……
ふむふむ、なるほど、全部で十六種類?
不思議な数え方だけどそういう文化だったのかも…… きっとこうね」
『0、I,2,ヨ,4,5,6,7,8,9、A、b、C、d、E、F』
こうしてフローリアは全てを書き出し照らし合わせることに成功した。今まで知られてきたのは十や十二で桁の変わる数え方だったが、これは十六で繰り上がるものだと考えられる。一番左から一(いち)なのかとも考えたが縦棒一本が一であると考えた方が説得力がある。つまり一番左は無でそこからいち、に、さん―― じゅう、じゅういち? じゅうに? ―― 十五までの十六種類だが読み方がわからない。
桁が上がって『I0』になったら『十六』なのか『一無』なのかどちらだろう。だがそれは今どうでも良かった。別にこの数字を今すぐ国中で使うわけではないのだから。今は記録した三文字を向こうの壁にある入力装置のようなものへと示して見ることだ。
東西南北二つの南北部分を重ねて縦につなげた様な七つの突起、先ほど解読したのが数字だとすると八の紋様と、その下にある明らかに異種であろう長四角の突起がある。これは彫りあげられたものではなく台座とは別に彫られた石が嵌め込まれている。つまりは判明した数字の通りにこれを押し込むことで何かが起きるのではなかろうか。
フローリアは胸を高鳴らせ流行る気持ちを抑えてまずは長四角を押下した。すると何の手ごたえも無くスカスカと戻ってくるのみである。しかし動くものだと言うのはわかったので丸い部分へ手をやりゴクリと生唾を呑んだ。
『8』『5』『b』
突起を押し込むと台座にめり込んだままになるのだが、数字を一つ作るたびに長四角を押すと突起が戻ってくる。それを三度繰り返して入力を終えてみたが特に何も起きなかった。もう一度最初からやってみようともう一度『8』を入力し長四角を押す。するとその段階で全ての突起が固定されてビクともしなくなってしまった。
「なによこれ! ふざけるんじゃないわよ!
絶対何か秘密が隠されていると思ったのに!
…… でも四つ目までで押せなくなってしまったと言うことは……
そうか、正解は四桁の数字ってことね!
そうだわ、そうに決まってる! あと一つの数字を探せばいいのだわ!」
だがその時にはすでに時間が夜半過ぎ、夕飯も食べず夢中になり過ぎて世話係が迎えに来たくらいである。仕方なくこの日は諦めて部屋へと戻って食事を取った。
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そう算段を付けたフローリアは、夜中にも拘らず書をあれこれと並べ替えたり、すべて出して紋様を記録したりを繰り返しながらそのまま寝入ってしまった。結局明け方になり世話係が探しに来るまで地下の寒い書庫で寝ていたため体調を崩し、時間を余計に無駄にする羽目になったことを悔しがるのだった。
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