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第四章 迷える令嬢

16.乳母の帰還

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 身体に掛かる重さに耐えかねて目を覚ましたモタラは混乱した頭を働かせ思い出してみるが、囚われていたところを少年の通報で助け出されたと記憶している。だからこそこうして今別の場所にいると言うことなのだが、その場所は村でも親子の家でもなかった。誰かが駆けつけ救いの手が差し伸べられたと思っていた乳母にとって、両腕を拘束された状態で吊るされ立たされている今の状態をすぐに受け入れることは難しい。だが目の前に立っている見慣れた顔を見ておおよその見当はついた。

「随分と久しぶりですね。
 あなたの姿を見た時は驚きました、元気にしていましたか?
 まさか生きていたなんて、とは言いません。
 どうやって生き延びていたのかは気になるところですがね」

「し、城女長(しろめちょう)様!?
 なぜここにいらっしゃるのです!?」

「それはこちらが言いたい台詞ですよ。
 だってここは城付き棟なのですから。
 とは言っても、あなたがいた部屋ではなく地下の作業場ですがね」

 地下の作業場と聞いてモタラは狼狽した。ここは城付き奴隷が住まう城付き棟の自助組織である城女衆(しろめしゅう)が、奴隷に粗相があった際に処罰を加えるために使う言わば拷問部屋なのだ。幸いにもモタラは優秀な愛奴であり元王子の乳母に任命された数名のうちの一人だったため縁は無く、それがまさか十数年後になってここへ来ることになろうとは考えもしなかった。

「あの醜い子が追放された直後にあなたがいなくなったことは忘れていません。
 そしてその後もあの子供が生き続けていたこともね。
 もちろん王妃様にもお考えがあったのでしょう。
 追及するなと達しが出ていたそうですからね。
 だがわたくしはここから無断で逃げて行った者を赦すほど甘くはない」

 モタラはこの瞬間、自らの命を絶とうと舌を噛もうとした。しかしそれは許されず、すぐ横の城女から頬を殴られて妨害されてしまった。それだけではなく、筒状に加工した木の棒を口へと差し込まれ頭の後ろまで回された留め具でしっかりと固定されてしまった。息はできるが口は開けたままとなるので非常に不快である。

「さて、あなたなら当然知っているでしょう?
 先日あの醜い子供、いやもう成長していたので醜い男ですね。
 あれが王城へと侵入し狼藉を働いたため処刑されました。
 まさかあなたが焚きつけたのではないでしょうね?」

 囚われて口枷を付けられていては返事もできないが、それでもモタラは懸命に首を振って否定する。それを見た城女長は満足そうに笑うと他の城女へ目配せをする。何かの準備をさせているようだが、おそらくまともなものではなく、これからモタラに起きる悪い出来事のためのものだろう。

「泉の監視小屋にはタクローシュ王子殿下の元婚約者もいたはず。
 しかし直後に調査へ赴いた騎士団からはもぬけの殻と報告があったそうです。
 その女も親の罪によりすでに奴隷とされているはずが野放しのままなので逃亡済み?
 一体どこへ消えたのでしょう、あなたが国外への逃亡を企てていたことと無関係?」

 なにも知らないと懸命に言葉を吐きだすが、当人でさえも何を言っているのか聞き取れない。口の中には唾液が溜まるが、空いたままの口では飲みこむことも難しい。その息苦しさから逃れるために下を向くと、筒の中からは唾液が溢れ出し足元へぼたぼたと垂れて行った。それと同時に、視線の先には床でうごめく何かが見えた。

 ゴロゴロと規則的な音を立てながら動いている横向きになった柱のような物は何だろうか。まるで風車小屋で回る粉ひきの石臼のようなものを動かすための装置にも見える。そこへ先ほど出て行った城女が戻ってきた。その後ろに引かれて運ばれてきたのは丸太で出来た木馬のようである。鐙(あぶみ)の位置には足枷があり鞍までついていることから使用方法は一目瞭然である。

「さ、準備が出来ましたね。
 あなたにはこれからゆっくりと今までの時間を振り返っていただきましょう。
 これがなんだかわかりますか?」

 城女長が目の前にかざした物は十人に聞いたら十人ともが同じように答えるであろう代物だった。禍々しい奇形でありながら全体的な形は間違いなく男性そのものである。そしてもう一本はほぼ同じ形ながらもっと細長く根元に向かって太くなっている。どう使うのかは誰に言われるまでもなく明らかだが、運び込まれてきた木馬とはどのような関連はまだわからない。

 城女長が命じると二人の城女がやってきてその手から一本ずつの男性を手に取った。さらにもう一人がモタラの両足を棒で叩き広げるように命じてから両手の枷(かせ)に繋がっている鎖が徐々に降ろされていく。やがて地べたへと顔が付き、両足と三点で自重を支えるような体勢にされると、考えていた通り尻の穴へと先ほど見せられた男性の一つが押し付けられていく。

 この歳までアルベルトのために、そしてわが身のために働き続けているモタラの女性自身は、痛みや尊厳とはすでに無縁である。そう考えていたのだが、さすがにもう一つ、男女共通の部分に関してはわずかな羞恥と多少の痛みを刻み込みながら初めて偽りの男性を受け入れるのだった。続いて己の女の中にも同じように差し入れられると、腹の中で何かが暴れているような、両の通路が繋がってしまったかのような激しい違和感を覚える。

 二人の城女は中年女が咥えこんだ偽男性(ディルド)を不規則に回しながら前後に動かしていく。するととうに感情など消え失せていると考えていた弛んだ身体が引き締まり機敏な反応を見せた。激しく溢れ出る快感と、今まで感じたことの無い辱めの羞恥心が女の下半身から多量の涙を流させる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……
 あ゛え゛え゛、あ゛う゛お゛お゛……」

 もはや人の声とは思えない奇声を発しながら、痛み苦しみ、もがきながらも悶える中年女をみて城女長は満足そうに笑みを浮かべる。もはや自身を支えられなくなった両の足は膝をついてうずくまる。しかし笑いを浮かべた老女はそれを許さずに女を吊し上げると、城女に銘じて無理やり歩かせた。そして木馬へと連れて行きその鞍へと座らせるのだった。

 木馬の鞍には偽の男性がはめ込まれるよう溝が切って有り、そこへはめ込むようにして拷問の対象を座らせる。すると女の中へ差し込まれた物はますます奥へと導かれ、痛みや快楽を増していく。もはや母としての機能は果たせず形のみが残っている体内奥底の宮殿にまでその醜い偽りの男性は届いている。

「では始めなさい。
 あなたがどうやって生き延びて来たか、なにを見て来たのか教えてもらいましょう。
 その先にお礼をさせてもらうからたくさん味わいなさいな」

 城女長が命ずると、床でうごめいていた柱のような物が木馬へと繋がれる。すると木馬は細かく振動をはじめ、鞍上(あんじょう)に固定されている中年女は先ほどとは比べ物にならないほど大声で叫び、悶え、うめき声を上げ始めた。
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