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ひとつに……
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まるで水の中にいるみたいだ。何かに包まれているような…… いったい今何が起きているのか。夢なのか現実なのかもわからない。でも苦しくは無くむしろ心地よさを感じる。
たしか咲にマッサージをしてもらっているはず。全身の毛穴が開いて汗が噴き出し、1週間分の疲労が吐き出されていき、身体がリセットされていくのがわかる。しかし僕の全身を包んでいる物は何なのだろう。
咲はどこにいるんだろう。まだ僕の上に乗っているような気もするけど重さは感じない。お互いの唇が触れ合っている感覚もあるけど目の前にはいない。どちらかというと……
そうだ、これはまるで僕自身が咲の中に取り込まれているような夢心地だ。全身をつつむ安堵感は間違いなく咲の感覚で、自分でもよくわからないが、僕は全身まるごと食べられてしまっているように感じる。
このまま全て咲の中に溶けていってしまいたい。いや、すでにもう溶かされて一つになっているのかもしれない。僕の身体も精神も咲の中で液体のようになって彼女の中に沁みこんでいき、そのまま一つになれるならこれ以上ない幸せだろう。
何が何だかわからないまま意識はもうろうとしてきて、それでいて不快感は全くなく、永遠にこのままでいたいとさえ感じる。今この状況が幸せなら、どれくらいの時間が過ぎていて何がどうなっているのかなんてどうでもいいのかもしれない。
意識はあるものの体は動かない。そもそも肉体が存在している感覚すらない。それでもなんとか口は動かすことができそうなので、力を振り絞って力いっぱい叫んだ。
「咲…… 咲……」
しかし大声で叫んだつもりが蚊の鳴くような声しか出なかった。一体どうしてしまったのか。いや、どうかしているのは明らかで、わからないのは今どうすればいいかということだ。
かといって不快なわけでも危険を感じているわけでもないし、もうこのままこの幸福感に身を任せていればいいのかもしれない。どう考えてもこの状況は咲が作り出しているに違いないし、危険なことはないだろう。
そうさ、危険はない…… 危険? どういう状況になったら危険なんだ? 好きな女の子になすがままにされているこの状況、もし男女逆で考えたなら危険と考えるに違いない。
そう考え始めた僕の心を読んだのか察したのか、今まで何も聞こえなかったはずなのに、突然頭の中に咲の声が流れてきた。
「大丈夫、そのまま楽にしていていいのよ。
私の愛しいキミ。
もう少し終わるからそれまで目を閉じていてね」
もう少しで終わるとはなんだ? いったい何をされているんだろう。考えるだけ無駄だとわかっているが、気になるものは仕方ない。でも体は動かないし視界もはっきりしない。この液体、いや大気だろうか。とにかくよくわからないものに包まれながら成り行きに身を任せていた。
そしてその咲の言葉通り、まもなく終わりはやってきた。
「さあ目を閉じて。
キミは私のことだけ考えていればいいのよ。
私がキミを求めるように、キミは私を求める、そのほかにはなにもいらないわ」
考える? いったいどうやって? もうすっかり身体の感覚は無くなっているし、声を出すこともできそうにない。咲の中に溶け込んでいるような感覚はそのままだけど、でもそれは自分の夢の中のようにも感じる。
なんでも思い通りになるような夢の中。その実、なにも思い通りにならず、ただ風景が過ぎていくような、今はそんな夢の世界みたいだ。
「さ、しっかりと私を抱き寄せておいてね。
うふふ、心地よいかしら?
そのまますべてを、キミの全部を私の中へ、ね」
そう言われた直後、僕の中の何かがはじけ飛び、急に実体化したかのように体の感覚が戻ってきた。そしてその僕の向かい側には咲の姿がはっきりと視認できた。
僕の両腕は咲の背中へ回されていて、それはもうしっかりと抱きしめている。それは咲に言われていたからじゃなく、僕がそうしていたいからだとはっきりと分かった。
なんという幸福感、昂揚感、そして快感が僕の全身を駆け巡った後、ようやく口から言葉を発することが出来た。
「うれしいよ、咲。
これは夢なんかじゃないよね?」
そんなバカなことを言った僕に向かって咲は優しく微笑んだ。そしてお互いの顔をゆっくりと近づけてキスをする。それはとても柔らかくて軽いキスだった。
ほんの一瞬ふれたくらいで咲は唇を離し、聞こえるか聞こえないかくらいの声で囁いた。
「これは夢よ、あなたの夢。
私も嬉しかったわ、愛しいキミ」
考えてもいなかった衝撃的なその言葉に、僕は頭の中が真っ白になって、そのまま気を失った。
たしか咲にマッサージをしてもらっているはず。全身の毛穴が開いて汗が噴き出し、1週間分の疲労が吐き出されていき、身体がリセットされていくのがわかる。しかし僕の全身を包んでいる物は何なのだろう。
咲はどこにいるんだろう。まだ僕の上に乗っているような気もするけど重さは感じない。お互いの唇が触れ合っている感覚もあるけど目の前にはいない。どちらかというと……
そうだ、これはまるで僕自身が咲の中に取り込まれているような夢心地だ。全身をつつむ安堵感は間違いなく咲の感覚で、自分でもよくわからないが、僕は全身まるごと食べられてしまっているように感じる。
このまま全て咲の中に溶けていってしまいたい。いや、すでにもう溶かされて一つになっているのかもしれない。僕の身体も精神も咲の中で液体のようになって彼女の中に沁みこんでいき、そのまま一つになれるならこれ以上ない幸せだろう。
何が何だかわからないまま意識はもうろうとしてきて、それでいて不快感は全くなく、永遠にこのままでいたいとさえ感じる。今この状況が幸せなら、どれくらいの時間が過ぎていて何がどうなっているのかなんてどうでもいいのかもしれない。
意識はあるものの体は動かない。そもそも肉体が存在している感覚すらない。それでもなんとか口は動かすことができそうなので、力を振り絞って力いっぱい叫んだ。
「咲…… 咲……」
しかし大声で叫んだつもりが蚊の鳴くような声しか出なかった。一体どうしてしまったのか。いや、どうかしているのは明らかで、わからないのは今どうすればいいかということだ。
かといって不快なわけでも危険を感じているわけでもないし、もうこのままこの幸福感に身を任せていればいいのかもしれない。どう考えてもこの状況は咲が作り出しているに違いないし、危険なことはないだろう。
そうさ、危険はない…… 危険? どういう状況になったら危険なんだ? 好きな女の子になすがままにされているこの状況、もし男女逆で考えたなら危険と考えるに違いない。
そう考え始めた僕の心を読んだのか察したのか、今まで何も聞こえなかったはずなのに、突然頭の中に咲の声が流れてきた。
「大丈夫、そのまま楽にしていていいのよ。
私の愛しいキミ。
もう少し終わるからそれまで目を閉じていてね」
もう少しで終わるとはなんだ? いったい何をされているんだろう。考えるだけ無駄だとわかっているが、気になるものは仕方ない。でも体は動かないし視界もはっきりしない。この液体、いや大気だろうか。とにかくよくわからないものに包まれながら成り行きに身を任せていた。
そしてその咲の言葉通り、まもなく終わりはやってきた。
「さあ目を閉じて。
キミは私のことだけ考えていればいいのよ。
私がキミを求めるように、キミは私を求める、そのほかにはなにもいらないわ」
考える? いったいどうやって? もうすっかり身体の感覚は無くなっているし、声を出すこともできそうにない。咲の中に溶け込んでいるような感覚はそのままだけど、でもそれは自分の夢の中のようにも感じる。
なんでも思い通りになるような夢の中。その実、なにも思い通りにならず、ただ風景が過ぎていくような、今はそんな夢の世界みたいだ。
「さ、しっかりと私を抱き寄せておいてね。
うふふ、心地よいかしら?
そのまますべてを、キミの全部を私の中へ、ね」
そう言われた直後、僕の中の何かがはじけ飛び、急に実体化したかのように体の感覚が戻ってきた。そしてその僕の向かい側には咲の姿がはっきりと視認できた。
僕の両腕は咲の背中へ回されていて、それはもうしっかりと抱きしめている。それは咲に言われていたからじゃなく、僕がそうしていたいからだとはっきりと分かった。
なんという幸福感、昂揚感、そして快感が僕の全身を駆け巡った後、ようやく口から言葉を発することが出来た。
「うれしいよ、咲。
これは夢なんかじゃないよね?」
そんなバカなことを言った僕に向かって咲は優しく微笑んだ。そしてお互いの顔をゆっくりと近づけてキスをする。それはとても柔らかくて軽いキスだった。
ほんの一瞬ふれたくらいで咲は唇を離し、聞こえるか聞こえないかくらいの声で囁いた。
「これは夢よ、あなたの夢。
私も嬉しかったわ、愛しいキミ」
考えてもいなかった衝撃的なその言葉に、僕は頭の中が真っ白になって、そのまま気を失った。
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