転校してきた美少女に僕はヒトメボレ、でも彼女って実はサキュバスらしい!?

釈 余白(しやく)

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優雅な休日は嵐の前触れ

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「ねえ、咲にはなにか夢ってある?
 どんなことでもいいんだけど、なんとなく知っておきたいんだ」

「私の夢?
 変なこと知りたいのね」

 咲は笑いながら僕を見下ろしている。同じソファに座っていながらも、咲の顔はさっきよりも大分遠くにある。それもそのはず、僕の頭は咲の膝の上に乗せられて、小さな子供のように撫でられているところなのだ。

「そんなに変な質問かな?
 知っての通り僕の夢は一流の野球選手になることだった。
 でも今はそれだけじゃない、僕に力を与えてくれている咲と、ずっと一緒にいることってのも加わったのさ。
 だから咲の夢も知っておきたいと思ったんだけどなあ」

「うふふ、キミは一人でも一流になれるわよ。
 私の力なんて関係ないわ」

「それは前にも言ってたからそうなのかもしれないけどさ。
 精神的な支えっていうか…… 僕にとっては結構大きいわけで……」

 どうも咲と話をしているとどうしても主導権を握られてしまう。もともと口が達者なわけではないが、かといって決して言いたいことを言わない性格なわけでもないのに、だ。

 今日もこのままはぐらかされてしまうのだろうか。そう思った矢先、上空から唇が降ってきた。

「ん…… ふふふ」

「ぬあ、な、なんあの急に」

 僕は思いがけない出来事に口を開いたが、ろれつが回らず自分でも何を言ったのかわからない。大体キスをされたこと自体不意打ちだったのに、唇をあわせた瞬間に笑い出すなんていったいどうしたことなのか。

「うふふ、ごめんなさい。
 キミがあまりにもかわいくて、つい、ね」

「もう、そうやっていつもはぐらかして僕を子ども扱いするんだから……
 いいから咲の夢を聞かせてよ」

「あら? 子供はこんな風に愛のこもったキスはしないと思うわよ?
 それともキミは子供だからそんなことはもうしないのかしら?」

 やられた…… これは完全に僕の負けだ。主導権を取り返すつもりがあっさりとひっくり返されてしまった。いや、ひっくり返すも何も初めから僕に主導権が移る気配すらなかった気がする。

「野球なら攻守交代があるのに……」

「なにかご不満でもありまして?」

 咲の微笑みに僕は返す言葉もなく、膝枕のままで首を振った。

「いい子ね、愛しいキミ」

 また子ども扱いしてる、と思ったが、その直後、何も言い返すことのできないよう口をふさがれてしまった。


◇◇◇


 いつのまにか眠ってしまった僕が次に目を覚ましたのは、もう昼を大分回ってからだった。

「おはよう、気持ちよさそうに良く寝てたわよ。
 やっぱり疲れがたまっていたんじゃないかしら」

「そうだったのかもしれないね。
 自分ではそんなことないって思ってたんだけどなあ。
 でもひと眠りしたらなんだかスッキリしたよ、ありがとう」

「キミの頭の重さにもだいぶ慣れたわ。
 紅茶とコーヒーどっちがいいかしら?」

「コーヒーがいいかな。
 正直言うとハーブティーはちょっと苦手かも」

「うふふ、芳香剤の香りみたいだから?
 じゃあカフェ・オレにするわね」

 なんで僕がトイレの芳香剤みたいだって思ったのわかったんだろう…… こういうところがホント不思議なんだよなあ、と思いつつテーブルの上に置き去りにしていたスマホを確認した。

 すると母さんからメッセージが入っていた。

『夕飯は江夏さんちで焼き肉』

 おお、久しぶりの焼肉だ。昨日がんばった甲斐があったというものだ。しかし……

「はい、カフェ・オレおまたせ。
 ぬるくしてあるからすぐ飲めるわよ。
 お昼ご飯なにか食べるかしら?」

「ありがとう。
 そう言えばもうこんな時間だったね。
 小腹がすいたけどどうしようかなあ」

「夜に備えてお腹空かせておきたい?」

「そうなんだよねえ、って……
 もしかしてまた心読んだ!?」

 僕は、たった今確認したばかりのメッセージに目を通してから、もう一度咲へ向かって顔を上げた。

「何おかしなこと言ってるの?
 ついさっきお母様から電話をいただいたのよ。
 予定が無かったら一緒にってね」

 僕はごくりとつばを飲み込んでから咲へ聞き返した。

「そ、それでなんて答えたの?」

「もちろん、喜んでお呼ばれしますって答えたわ。
 いけなかったかしら?」

「いやいやいや、そんなことないよ。
 江夏さんちの焼肉は凄いんだ。
 一緒に行けて嬉しいよ」

「私、焼き肉って初めてだから楽しみよ」

 咲は初めての焼肉ということで無邪気に喜んでいるし、僕も咲と一緒にいられる時間が多くなるから嬉しいに決まってる。

 しかし…… 父さんと江夏さんは…… 酒が入ると二人そろって僕をいじり出すんだよなぁ……

 しかも女性関連で!
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