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二度の練習試合を経て感じたのは、僕たちには確実に力がついてきているということだ。このまま日々の練習にしっかり取り組んでいけばいい結果が出せるに違いない。
練習試合の翌日だというのに今すぐにでも投げたくて仕方がない。力が湧き上がってきているのが自分でもよくわかるし、気持ちも充実している今なら何球でも何連投でも出来そうだ。
「どうしたの?
なにかに追い立てられているような、焦っているように感じるわ」
「えっ、僕が焦ってる?
そんなことないと思うんだけど……
でもなんというのか、力がみなぎってくる感じがあって身体を動かしたくて仕方ないんだ」
今僕は咲の家のリビングにいる。例によって朝のランニングの後に声をかけられて、朝食に誘われたのだった。
「そうなの? やる気があるのは結構なことだけど、きっと今は気持ちと身体が揃っていないのよ。
体は疲れているのに、やる気はみなぎってしまっているから空回りしているように感じるのね」
「自分ではわからないけどそんな風に見えるかな?
昨日は確かに疲れたけど、それでもまだ投げ足りないくらいだけどなあ」
「でもそうやって結局無理することになって、しまいには体を壊してしまう人がいるわけでしょ?
休まなきゃいけないときにはきちんと休息をとらないといけないわ」
咲の言うことはもっともだ。気持ちに任せて無理をすることになったら、何のために連投規制や投球数制限が導入されたのかわからなくなってしまう。僕は咲の言うことはもっともだと思い首を縦に振った。
「うふふ、いい子ね。
さ、紅茶を飲んで気持ちを落ち着けましょ。
ハーブティーにはリラックス効果もあるのよ」
少し冷めてちょうどいい温度になっているカップの紅茶を、一口、もう一口と飲むと段々と落ち着いてくるような気がした。でもそれと反比例するように僕は別のことに心を奪われていく。
隣に座っていた咲がぐっと距離を詰めてくる。その小さな頭を肩へ寄りかからせて来たたあたりで、僕の関心は野球から咲へと移っていた。
カップをテーブルへ置いてから隣へ向き直した僕は、優しく微笑んでいる咲の顔にゆっくりと自分の顔を寄せていく。
すぐ目の前に迫った咲からはハーブティーよりも心地よく落ち着く香りが漂う。正直言うとさっきのラベンダーティーはトイレの芳香剤に近い匂いだったし……
「もっと雰囲気を大切にしないとだめよ?
さ、いらっしゃい」
「うん…… ごめん……」
「なんで謝るのかしら?
大丈夫よ、愛しいキミ」
咲の言葉にはいつも安心させられる。僕は吸い込まれるようにその唇を見据え、そのまま二人は唇を重ねた。
その艶のある唇はほんのりと暖かい。つかず離れずの距離を行ったり来たりしながら何度も重ねあい、お互いを求め合っていく。
僕はたまらず咲を抱きしめた。すると咲がほんの少し顔を浮かして言った。
「もっと優しくね。
痛くしないようお願い」
ごめんとつぶやいてから、また唇をあわせて体を引き寄せる。優しくゆっくりと静かに……
二人がそれぞれの口をふさいでいるせいで時折苦しくなるが、息継ぎをする度にちゅぱとかちゃぷとか音が鳴ってしまうことが恥ずかしかった。
でも咲はそんなこと気にする様子もなく、僕の唇で遊ぶようにキスを繰り返している。そして…… ドサッという音と共に僕はソファへ押し倒された。
「さあ今度は私がいただく番よ。
よく頑張ったキミはとってもおいしそう」
そう言ってから仰向けになった僕にのしかかり体を密着させた。お互いの顔はほんのすれすれまで近づいていて、それはキスをしているときよりも照れくさい。
咲は、僕の肩の下へその細い腕を回してから再び唇を重ねた。その直後、僕の口の中にぬるっとした感触とともに舌が差し入れられてきた。
僕の舌へからめられている咲の舌は、温かいと言うよりも熱いとさえ感じる。頭がおかしくなりそうに興奮して、息遣いが荒くなっていくのが自分でもよくわかる。
「はあ…… 咲…… んうんん……」
「ちゅぱ…… そのまま身を任せていいのよ、愛しいキミ……」
咲にすべてを預けた僕は、そのまま頭の中が真っ白になって、気持ちよさと幸福感が身体中を満たしていく。大体、柔らかい感触を乗せているだけでも危ういのに、意思とは裏腹に咲の体を抱きしめて引き寄せてしまう。
本当は昨日練習試合が終わってから咲と二人きりで過ごしたかったけど、結局小町や一緒に見に来ていた子供たち、それになぜか母さんまでが養護園へ行ってしまった。
おかげで、休日出勤から早めに帰ってきた父さんと僕は、冷蔵庫をあさり発掘した冷凍のナポリタンで夕飯を済ますはめになり、期待外れな晩になっていたのだ。
でも今は咲と二人きりで邪魔はいない。昨日のうっぷんを晴らすかのように夢中で咲を求めてしまう。
「大好きだよ…… 咲……」
「うれしいわ、愛しいキミ……」
最後に覚えているのは咲のいつもの言葉だった。そしてそのまま僕は意識を失ってしまった。
練習試合の翌日だというのに今すぐにでも投げたくて仕方がない。力が湧き上がってきているのが自分でもよくわかるし、気持ちも充実している今なら何球でも何連投でも出来そうだ。
「どうしたの?
なにかに追い立てられているような、焦っているように感じるわ」
「えっ、僕が焦ってる?
そんなことないと思うんだけど……
でもなんというのか、力がみなぎってくる感じがあって身体を動かしたくて仕方ないんだ」
今僕は咲の家のリビングにいる。例によって朝のランニングの後に声をかけられて、朝食に誘われたのだった。
「そうなの? やる気があるのは結構なことだけど、きっと今は気持ちと身体が揃っていないのよ。
体は疲れているのに、やる気はみなぎってしまっているから空回りしているように感じるのね」
「自分ではわからないけどそんな風に見えるかな?
昨日は確かに疲れたけど、それでもまだ投げ足りないくらいだけどなあ」
「でもそうやって結局無理することになって、しまいには体を壊してしまう人がいるわけでしょ?
休まなきゃいけないときにはきちんと休息をとらないといけないわ」
咲の言うことはもっともだ。気持ちに任せて無理をすることになったら、何のために連投規制や投球数制限が導入されたのかわからなくなってしまう。僕は咲の言うことはもっともだと思い首を縦に振った。
「うふふ、いい子ね。
さ、紅茶を飲んで気持ちを落ち着けましょ。
ハーブティーにはリラックス効果もあるのよ」
少し冷めてちょうどいい温度になっているカップの紅茶を、一口、もう一口と飲むと段々と落ち着いてくるような気がした。でもそれと反比例するように僕は別のことに心を奪われていく。
隣に座っていた咲がぐっと距離を詰めてくる。その小さな頭を肩へ寄りかからせて来たたあたりで、僕の関心は野球から咲へと移っていた。
カップをテーブルへ置いてから隣へ向き直した僕は、優しく微笑んでいる咲の顔にゆっくりと自分の顔を寄せていく。
すぐ目の前に迫った咲からはハーブティーよりも心地よく落ち着く香りが漂う。正直言うとさっきのラベンダーティーはトイレの芳香剤に近い匂いだったし……
「もっと雰囲気を大切にしないとだめよ?
さ、いらっしゃい」
「うん…… ごめん……」
「なんで謝るのかしら?
大丈夫よ、愛しいキミ」
咲の言葉にはいつも安心させられる。僕は吸い込まれるようにその唇を見据え、そのまま二人は唇を重ねた。
その艶のある唇はほんのりと暖かい。つかず離れずの距離を行ったり来たりしながら何度も重ねあい、お互いを求め合っていく。
僕はたまらず咲を抱きしめた。すると咲がほんの少し顔を浮かして言った。
「もっと優しくね。
痛くしないようお願い」
ごめんとつぶやいてから、また唇をあわせて体を引き寄せる。優しくゆっくりと静かに……
二人がそれぞれの口をふさいでいるせいで時折苦しくなるが、息継ぎをする度にちゅぱとかちゃぷとか音が鳴ってしまうことが恥ずかしかった。
でも咲はそんなこと気にする様子もなく、僕の唇で遊ぶようにキスを繰り返している。そして…… ドサッという音と共に僕はソファへ押し倒された。
「さあ今度は私がいただく番よ。
よく頑張ったキミはとってもおいしそう」
そう言ってから仰向けになった僕にのしかかり体を密着させた。お互いの顔はほんのすれすれまで近づいていて、それはキスをしているときよりも照れくさい。
咲は、僕の肩の下へその細い腕を回してから再び唇を重ねた。その直後、僕の口の中にぬるっとした感触とともに舌が差し入れられてきた。
僕の舌へからめられている咲の舌は、温かいと言うよりも熱いとさえ感じる。頭がおかしくなりそうに興奮して、息遣いが荒くなっていくのが自分でもよくわかる。
「はあ…… 咲…… んうんん……」
「ちゅぱ…… そのまま身を任せていいのよ、愛しいキミ……」
咲にすべてを預けた僕は、そのまま頭の中が真っ白になって、気持ちよさと幸福感が身体中を満たしていく。大体、柔らかい感触を乗せているだけでも危ういのに、意思とは裏腹に咲の体を抱きしめて引き寄せてしまう。
本当は昨日練習試合が終わってから咲と二人きりで過ごしたかったけど、結局小町や一緒に見に来ていた子供たち、それになぜか母さんまでが養護園へ行ってしまった。
おかげで、休日出勤から早めに帰ってきた父さんと僕は、冷蔵庫をあさり発掘した冷凍のナポリタンで夕飯を済ますはめになり、期待外れな晩になっていたのだ。
でも今は咲と二人きりで邪魔はいない。昨日のうっぷんを晴らすかのように夢中で咲を求めてしまう。
「大好きだよ…… 咲……」
「うれしいわ、愛しいキミ……」
最後に覚えているのは咲のいつもの言葉だった。そしてそのまま僕は意識を失ってしまった。
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