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これはゾーン!?
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序盤はお互い静かな立ち上がりとなった。二回を終わってどちらも三者凡退を二度繰り返しただけだ。
「ちくしょう、想定内だと思ってても悔しいな。
でも次の打席はイケそうな気がしてるぜ、なあマルマンよ」
「そうだな、球威はそれほどでもないけど、あの緩急が厄介だわ。
ただ、キャッチャーはそれほどでもねえぜ」
「んだな、配球が単調ってこともねえけど基本的には散らすタイプと見た。
多分決め球がまだあると思うんだけど、マネちゃん、なんかデータないか?」
他のバッターよりも粘りはしたものの、まさか木戸丸山が連続で打ち取られるとは驚いた。相手投手の山尻勝実は速球派ではないが、コントロールが良く緩急のつけ方がうまいようである。
「えっとですね、山尻投手の持ち球は真っ直ぐの他はカーブとスライダー、フォークと言ったところです。
勝負どころではコレ、ということはなく、淡々と投げ込んでいくタイプかと」
「うーん、地区予選とはいえ、それで決勝まで行かれるもんかねえ。
ということはあの遅めの球も真っ直ぐってことなのか。
沈み込んで引っ掛けちまったけど、読みが当たれば打ち頃でもあったんだがな」
「もしかするとそれが相手の思うつぼかもしれんぞ。
打ち頃と思わせておいて強振させるというな」
ベンチ前で素振りを始めていたハカセが面白い分析をした。確かに一理あるかもしれない。なんといってもピッチャーにとって変化もしない遅い球なんて自信がなかったら怖くて投げられない。
「じゃあねらい目と思わせといてそれで打ち取りに来てるってこともあるのか。
そうなると狙いは絞りにくくなるな」
「だからよ、ヤマはるんじゃなくて来た球打てばいいのよ。
さっきは打ち頃だと思って引っ掛けちまったが、全部の打席で抑えられるとは思わねえ」
丸山が言うことはもっともで、木戸と丸山を全打席押さえるのは難しいはずだ。しかし地区予選は七回までなので、下手すると二打席しか回ってこないことになる。
「でもせんぱい? 打線がつながらないと点が入りません……
特に今日は三年生もいませんし、どこかで奇跡の連打が必要です」
「マネちゃん、ずいぶん弱気なこと言うじゃんか。
それは向こうも同じこと、最後に多く点を入れてたらいいだけのことよ。
こっちが一点も取れないうちはカズが一点もやらないさ」
「随分簡単に言ってくれるよ。
さあ、行こうか」
プロテクターをつけ終わった木戸の腹に拳を突き当ててからマウンドへ向かう。それに合わせるように、他のやつらも守備位置へ走っていく。
三球三振で戻ってきた六番の倉片は、少し遅れてから大急ぎでレフトへ走っていった。
◇◇◇
予定通り七、八番を内野ゴロに打って取り、次のバッターは山尻勝実だ。チームの軸となるエースでキャプテン、走好守揃った選手ということなので十分に注意しないといけない。
今日の試合で木戸から出された課題は、投球数六十球以内の完封勝利だ。それは平均三球を下回らなければいけないと言う無理難題である。
そんなことを頭に入れつつも、意識はどこかでバックネット裏を気にしていた。こんなんじゃだめだ、集中しないと押さえきることはできないぞ、と、自分に言い聞かせながら木戸のサインを確認した。
初球はインハイへのストレート、まあ腰が引けるような相手じゃないだろうがやらないよりはいいだろう。縦横に揺さぶって目が慣れる前に終わらせてやる。
僕は目には見えないおでこのお守りに願いを込めた。それは今朝家を出た直後、玄関先で待ち構えていた咲がキスをしてくれた場所だ。きっと僕にいつも以上の力を出させてくれるはず。
息を吸い込みながら大きく振りかぶり第一球を投げ込んだ。今日も調子は最高で一連の動作がすべて軽い。指先に縫い目の感触を残し、スピン量バッチリのボールが木戸のミットめがけて走っていく。
しかし! そのボールが木戸のミットへ収まることは無かった。金属バットの軽い音がグラウンドへ響く。僕は渾身のインハイ、それも初球が打たれるなんて思っていなかったせいかとっさにボールの行方を追うことができなかった。
「オーライ!」
サード方向からオノケンの声が聞こえた。高々と打ちあがったボールはサード線上からやや外側へのファールフライ、グラブに収まりつつあるところを目で追いながら僕は安堵していた。
オノケンが無事にキャッチしてからボールを僕へ返してくる。それをグラブで捕ってからマウンド上へそっと置いた。
深呼吸しながらマウンドからベンチへ戻っていると木戸が声をかけてくる。
「おいカズ、あんなファールフライでなんで驚いてたんだ?
タイミングめちゃくちゃに大振りしただけだったぞ?」
「あ、ああ…… おかしな話だけどさ、投げた時には周りが全く見えてなかったんだ。
自分と…… 木戸のミットだけが存在してて、無心で投げた感じ?
ぼーっとしてたわけじゃないんだけど、なんだかうまく説明できないや」
本当は自分とミットの他に咲の姿も見えていたんだけど、まさかそんなこと言えるはずがない。でもとにかく不思議な感覚で、こんなの今まで感じたことがなかったのは本当だ。
「そうか、それはゾーンってやつかもしれないな。
プロ選手がよく体験するって、聞いたことあるだろ?」
「なるほど、今のがそうなのかな?
でも確かに調子はいいし打たれる気もしないんだけど、もし打たれてたら対処できなかったかもなあ」
「別に打たれたら守ればいいし、点を取られたら取り返せばいいからよ。
でも打球が当たって怪我するとかはかんべんな」
「うん、そうだよな、十分注意するよ。
ていうかさ、人には完封しろって言っといて取られたら取り返すって言うのもおかしいだろ。
それなら変なプレッシャーかけないでくれよ」
僕がそう文句を言うと、木戸は肩をすくめてニヤニヤと笑って返すだけだった。まったくこいつはどこまで本気なんだか計りきれないヤツだ……
僕と木戸がそんな会話をしている最中も当然試合は進むわけで、木尾が三振、ハカセがファーストゴロであっという間にツーアウトだ。
自分の打順をすっかり忘れていた僕は、ハカセが戻ってくるのを見ながら大慌てでヘルメットを手に取る。そして一番近くにあったバットを持って打席へ急いだ。
いつもバッティングは期待されていないし、僕もピッチングほど熱がこもらなくてバッティング練習には身が入らない。かと言って打席に立てばバッターであることは間違いない。
小走りに主審の後ろを通り抜ける際、母さんが両手を小さく振っているのが見えた。なんで見に来たんだろうか。まったく恥ずかしいったらありゃしない。
そして視線をグラウンドへ戻す直前に咲と目があった。いや本当のところはよくわからなかったけど、きっと目があったと思う。
いやいや、今は試合に集中しないと、そう思いながらヘルメットを取って挨拶をする。マウンドの勝実へも会釈をしてからバッターボックスへ入り足元をしっかりと踏み固めた。
打てるかどうかは問題ではない。きっちり球種を見極めてなるべく球数も稼ぎたいところ。それがチーム勝利に繋がるんだから、何もしないで凡退するのだけは避けないといけない。
「よし! こおおおい!」
自分への激か相手への威嚇か、どちらかわからないがこういう時は大きな声を出すものだ。これは現代の高校野球がぬるくなろうと、指導が甘くなろうと続いて行くものなのかもしれない。
声を出してからバットを構えた僕は、いつも使っている軽いのではなく長距離打者用の重いバットを持ってきてしまったことに気が付いた。まあそれでもめいいっぱい振るだけである。
マウンドの勝実が振りかぶるとバットを握る手に力がはいる。初球はきっと真っ直ぐだろう。さっき僕が投げたインハイに投げて来るような気がする。
その読みはドンピシャで、そこそこの速さで真っ直ぐが伸びてきた。ただし読みが当たっていたからといって打てるとは限らないのが悲しいところ。
バットの重さを生かすことのできない平凡なスイングによって僕のバットは空を切り、ボールはミットへ収まっていた。
二球目は木戸たちが言っていた遅めのストレートだった。チェンジアップのように球威がないわけじゃなくて、キレを保ったまま速度だけ抑えたボールだ。
外側に沈んでいったそのボールには手が出ず、これでツーストライクと追い込まれた。次は何を投げる?木戸なら、僕ならどうするだろうか。
いったんボックスを外してから素振りをした。深呼吸をしてからバットを構えなおしマウンドを見据える。マウンド上の勝実はそれほど大きく見えないし見下ろされているようにも感じない。
マウンドの高さは約二十五センチメートルあるし、ピッチャーからのプレッシャーが強ければバッターは見下ろされていると感じるものだ。
しかし今の僕にそんなプレッシャーはない。リラックスできているのか集中できているのか、その両方かもしれない。
そんな時、また突然グラウンドの内外問わず自分と咲しかいないような感覚に陥った。
後ろにいる咲は僕の事を見ているだろう。振り返りたくなる衝動を抑えつつマウンド方向を見ていると、ボールだけが空中で回っているように見える。やがてそのボールは、勝実が右手を伸ばしたであろう位置からこちらに向かって放たれた。
昔、ボールが止まって見えたとか、縫い目が見えたとか言ったプロ野球選手がいたなんて話を聞いたことがあったけど、まさかそれを体験することとなるとは……
インサイドやや低めに投げ込まれたボールがスローモーションのように見える。僕はそのボールに向かっていつもより重いバットを渾身の力で振った。
『カキーン!』
金属バットの気持ちいい音が鳴り響き、打球は天高く飛んでいった。
「ちくしょう、想定内だと思ってても悔しいな。
でも次の打席はイケそうな気がしてるぜ、なあマルマンよ」
「そうだな、球威はそれほどでもないけど、あの緩急が厄介だわ。
ただ、キャッチャーはそれほどでもねえぜ」
「んだな、配球が単調ってこともねえけど基本的には散らすタイプと見た。
多分決め球がまだあると思うんだけど、マネちゃん、なんかデータないか?」
他のバッターよりも粘りはしたものの、まさか木戸丸山が連続で打ち取られるとは驚いた。相手投手の山尻勝実は速球派ではないが、コントロールが良く緩急のつけ方がうまいようである。
「えっとですね、山尻投手の持ち球は真っ直ぐの他はカーブとスライダー、フォークと言ったところです。
勝負どころではコレ、ということはなく、淡々と投げ込んでいくタイプかと」
「うーん、地区予選とはいえ、それで決勝まで行かれるもんかねえ。
ということはあの遅めの球も真っ直ぐってことなのか。
沈み込んで引っ掛けちまったけど、読みが当たれば打ち頃でもあったんだがな」
「もしかするとそれが相手の思うつぼかもしれんぞ。
打ち頃と思わせておいて強振させるというな」
ベンチ前で素振りを始めていたハカセが面白い分析をした。確かに一理あるかもしれない。なんといってもピッチャーにとって変化もしない遅い球なんて自信がなかったら怖くて投げられない。
「じゃあねらい目と思わせといてそれで打ち取りに来てるってこともあるのか。
そうなると狙いは絞りにくくなるな」
「だからよ、ヤマはるんじゃなくて来た球打てばいいのよ。
さっきは打ち頃だと思って引っ掛けちまったが、全部の打席で抑えられるとは思わねえ」
丸山が言うことはもっともで、木戸と丸山を全打席押さえるのは難しいはずだ。しかし地区予選は七回までなので、下手すると二打席しか回ってこないことになる。
「でもせんぱい? 打線がつながらないと点が入りません……
特に今日は三年生もいませんし、どこかで奇跡の連打が必要です」
「マネちゃん、ずいぶん弱気なこと言うじゃんか。
それは向こうも同じこと、最後に多く点を入れてたらいいだけのことよ。
こっちが一点も取れないうちはカズが一点もやらないさ」
「随分簡単に言ってくれるよ。
さあ、行こうか」
プロテクターをつけ終わった木戸の腹に拳を突き当ててからマウンドへ向かう。それに合わせるように、他のやつらも守備位置へ走っていく。
三球三振で戻ってきた六番の倉片は、少し遅れてから大急ぎでレフトへ走っていった。
◇◇◇
予定通り七、八番を内野ゴロに打って取り、次のバッターは山尻勝実だ。チームの軸となるエースでキャプテン、走好守揃った選手ということなので十分に注意しないといけない。
今日の試合で木戸から出された課題は、投球数六十球以内の完封勝利だ。それは平均三球を下回らなければいけないと言う無理難題である。
そんなことを頭に入れつつも、意識はどこかでバックネット裏を気にしていた。こんなんじゃだめだ、集中しないと押さえきることはできないぞ、と、自分に言い聞かせながら木戸のサインを確認した。
初球はインハイへのストレート、まあ腰が引けるような相手じゃないだろうがやらないよりはいいだろう。縦横に揺さぶって目が慣れる前に終わらせてやる。
僕は目には見えないおでこのお守りに願いを込めた。それは今朝家を出た直後、玄関先で待ち構えていた咲がキスをしてくれた場所だ。きっと僕にいつも以上の力を出させてくれるはず。
息を吸い込みながら大きく振りかぶり第一球を投げ込んだ。今日も調子は最高で一連の動作がすべて軽い。指先に縫い目の感触を残し、スピン量バッチリのボールが木戸のミットめがけて走っていく。
しかし! そのボールが木戸のミットへ収まることは無かった。金属バットの軽い音がグラウンドへ響く。僕は渾身のインハイ、それも初球が打たれるなんて思っていなかったせいかとっさにボールの行方を追うことができなかった。
「オーライ!」
サード方向からオノケンの声が聞こえた。高々と打ちあがったボールはサード線上からやや外側へのファールフライ、グラブに収まりつつあるところを目で追いながら僕は安堵していた。
オノケンが無事にキャッチしてからボールを僕へ返してくる。それをグラブで捕ってからマウンド上へそっと置いた。
深呼吸しながらマウンドからベンチへ戻っていると木戸が声をかけてくる。
「おいカズ、あんなファールフライでなんで驚いてたんだ?
タイミングめちゃくちゃに大振りしただけだったぞ?」
「あ、ああ…… おかしな話だけどさ、投げた時には周りが全く見えてなかったんだ。
自分と…… 木戸のミットだけが存在してて、無心で投げた感じ?
ぼーっとしてたわけじゃないんだけど、なんだかうまく説明できないや」
本当は自分とミットの他に咲の姿も見えていたんだけど、まさかそんなこと言えるはずがない。でもとにかく不思議な感覚で、こんなの今まで感じたことがなかったのは本当だ。
「そうか、それはゾーンってやつかもしれないな。
プロ選手がよく体験するって、聞いたことあるだろ?」
「なるほど、今のがそうなのかな?
でも確かに調子はいいし打たれる気もしないんだけど、もし打たれてたら対処できなかったかもなあ」
「別に打たれたら守ればいいし、点を取られたら取り返せばいいからよ。
でも打球が当たって怪我するとかはかんべんな」
「うん、そうだよな、十分注意するよ。
ていうかさ、人には完封しろって言っといて取られたら取り返すって言うのもおかしいだろ。
それなら変なプレッシャーかけないでくれよ」
僕がそう文句を言うと、木戸は肩をすくめてニヤニヤと笑って返すだけだった。まったくこいつはどこまで本気なんだか計りきれないヤツだ……
僕と木戸がそんな会話をしている最中も当然試合は進むわけで、木尾が三振、ハカセがファーストゴロであっという間にツーアウトだ。
自分の打順をすっかり忘れていた僕は、ハカセが戻ってくるのを見ながら大慌てでヘルメットを手に取る。そして一番近くにあったバットを持って打席へ急いだ。
いつもバッティングは期待されていないし、僕もピッチングほど熱がこもらなくてバッティング練習には身が入らない。かと言って打席に立てばバッターであることは間違いない。
小走りに主審の後ろを通り抜ける際、母さんが両手を小さく振っているのが見えた。なんで見に来たんだろうか。まったく恥ずかしいったらありゃしない。
そして視線をグラウンドへ戻す直前に咲と目があった。いや本当のところはよくわからなかったけど、きっと目があったと思う。
いやいや、今は試合に集中しないと、そう思いながらヘルメットを取って挨拶をする。マウンドの勝実へも会釈をしてからバッターボックスへ入り足元をしっかりと踏み固めた。
打てるかどうかは問題ではない。きっちり球種を見極めてなるべく球数も稼ぎたいところ。それがチーム勝利に繋がるんだから、何もしないで凡退するのだけは避けないといけない。
「よし! こおおおい!」
自分への激か相手への威嚇か、どちらかわからないがこういう時は大きな声を出すものだ。これは現代の高校野球がぬるくなろうと、指導が甘くなろうと続いて行くものなのかもしれない。
声を出してからバットを構えた僕は、いつも使っている軽いのではなく長距離打者用の重いバットを持ってきてしまったことに気が付いた。まあそれでもめいいっぱい振るだけである。
マウンドの勝実が振りかぶるとバットを握る手に力がはいる。初球はきっと真っ直ぐだろう。さっき僕が投げたインハイに投げて来るような気がする。
その読みはドンピシャで、そこそこの速さで真っ直ぐが伸びてきた。ただし読みが当たっていたからといって打てるとは限らないのが悲しいところ。
バットの重さを生かすことのできない平凡なスイングによって僕のバットは空を切り、ボールはミットへ収まっていた。
二球目は木戸たちが言っていた遅めのストレートだった。チェンジアップのように球威がないわけじゃなくて、キレを保ったまま速度だけ抑えたボールだ。
外側に沈んでいったそのボールには手が出ず、これでツーストライクと追い込まれた。次は何を投げる?木戸なら、僕ならどうするだろうか。
いったんボックスを外してから素振りをした。深呼吸をしてからバットを構えなおしマウンドを見据える。マウンド上の勝実はそれほど大きく見えないし見下ろされているようにも感じない。
マウンドの高さは約二十五センチメートルあるし、ピッチャーからのプレッシャーが強ければバッターは見下ろされていると感じるものだ。
しかし今の僕にそんなプレッシャーはない。リラックスできているのか集中できているのか、その両方かもしれない。
そんな時、また突然グラウンドの内外問わず自分と咲しかいないような感覚に陥った。
後ろにいる咲は僕の事を見ているだろう。振り返りたくなる衝動を抑えつつマウンド方向を見ていると、ボールだけが空中で回っているように見える。やがてそのボールは、勝実が右手を伸ばしたであろう位置からこちらに向かって放たれた。
昔、ボールが止まって見えたとか、縫い目が見えたとか言ったプロ野球選手がいたなんて話を聞いたことがあったけど、まさかそれを体験することとなるとは……
インサイドやや低めに投げ込まれたボールがスローモーションのように見える。僕はそのボールに向かっていつもより重いバットを渾身の力で振った。
『カキーン!』
金属バットの気持ちいい音が鳴り響き、打球は天高く飛んでいった。
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