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二人が一つになる時

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 ここはどこだろう。僕は何をしているんだろう。体が軽くてまるで水に浮いているような感覚を覚える。

 咲の家で夕飯を食べ過ぎてソファへ横になり、その後抱き合ってキスをしたことは覚えている。

「大丈夫よ、怯えないで、安心して心を開いていいのよ」
「心が閉じていると何も見えないわ」

「どういうこと? どこにいるのさ、なにも見えないんだ」
「僕は今どこにいるの? 咲はどこにいるの?」

「形だけ目を開いても、耳を澄ましても、何も見えないし何も聞こえないのよ」
「さあ私を信じて心を開いてちょうだい」

「どうすればいいのかわからないんだ、教えてよ、咲」
「真っ暗で何も見えない、ここはいったいどこなんだ?」

 そこは薄暗いとか良く見えないなんて暗さではなく、自分の存在さえ確認できない本当に漆黒の空間だった。

 咲は心を開けと言っているが具体的な方法は示してくれない。いったいここで何をどうすればいいのだろう。

「キミは今私の中にいるわ、二人は一つになっているの」
「何かを見ようとしないで私の存在を感じるようにするのよ」

「そんなこと言われても…… どうすればいいかわからないよ」
「それに咲の中ってどういう意味なのさ……」

「まずは心を落ち着けて、ゆっくりでいいわ、何も考えなくていいのよ」
「キミを包んでいる空間こそが私そのものなの」

 咲は抽象的で難しいことを言うばかりでどこにいるのかさえ分からない。本当にこの空間は咲の中なのかもしれない。

 それでも僕は言われた通り頭をからっぽにしてゆったりとその場に身を任せるようにした。すると自分の体がそこになく意識だけが漂っていることへの不安は少なくなってくる。

「なんだかいい気持だよ、僕は咲の中に取り込まれているのかな」
「自分が自分でないみたいな気分になってくるよ」

「そうね、キミが私の中へ入ってきて私と一体になっているわ」
「そのまま身を任せたままにしていれば頭も体も心地よくなれるのよ」

「うん、わかったよ、姿が見えなくて不安だったけど、目に見えることが大切なわけじゃないんだね」
「咲…… とてもいい心地だよ」

「私もいい気持よ、もうすぐ完全に一つになれるわ」

 咲が言う完全な一つと言うのがどういうことなのかはわからないが、今のこの状態が気持ちよい心地なのは確かだ。

 こんな感覚、こんな体験、今までしたことなかった。いったいどういう状況なんだろう。

 それから数秒後、もしくは数分後かわからない、完全な一つなのかもわからないが、これまでの感覚に終わりの時がやってきた。

「わっ、なんだ!?」
「まさか…… そっか、こういうことだったのか……」

 僕は自分のベッドで目を覚まし、布団の中で冷たく濡れている下半身に気が付いた。まったくなんて夢を見ていたんだろう。

 自分の事が情けないと感じながらもすごすごと風呂場へ行き、汚れたパンツを脱いで風呂場へ向かって投げ捨てた。

 時間はまだ四時を回ったところだから洗濯機を回すわけにもいかない。仕方なく風呂場のシャワーをひねりお湯を出す。

 着ているスウェットの残りも脱いで洗濯籠へ入れ、頭から熱いシャワーを浴びながら昨晩のことを思い出す。

 昨日も散々抱き合ってキスした後、温かいうちにレモネードを飲んだ。それから土曜のことについて少し話をしてたけど、さすがに二十二時近くになって眠くなり、掴めるほど長いわけじゃないが後ろ髪引かれる思いで帰宅したのだ。

 その後自室に入った後は、夢うつつのまま咲にメールしてそのまま寝てしまったようだ。風呂も入ってなかったのに部屋着には着替えていたがその辺りの記憶ははっきりしない。

 風呂場から出てタオルを巻いただけの格好で部屋に戻った僕は、いつもよりはまだだいぶ早い時間だけどジャージに着替えた。もう一時間は寝られたはずだけど、もう一度寝たら寝坊しそうなのでこのまま起きていよう。

 ふとスマホを見ると通知ランプが点滅している。送信者を確認すると咲からだった。どうやら寝る前に届いたメールを見ないで眠りについていたようだ。

「おやすみ、愛しいキミ、続きは夢の中でね」

 メールにはそう書いてあった。僕はこれを今見たのに夢では咲と一緒にいた。いったいどうしてこうなったんだろうか。

 さっきの夢は僕の欲望が映し出されたものなのか、それとも咲が僕に見せたものなのだろうか。そんなことを考えつつ、先ほどの事実を思い返しまた恥ずかしくなってきた。

 現実的に考えれば人に夢を見せるなんてことができるわけないが、咲ならできるような気もしてくる。でも結局は僕が咲を求めているだけの事なんだろう。

 結局僕もごく普通の男子だったわけで、本能と直結している感情を持っていないわけがなかったのだ。

 僕はあんなことで起きたばかりなのに、夢で見た二人が一つになることを想像し気分がおかしくなってきた。そしてベッドに横になったまま欲望をティシューに吐き出した。
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