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冷めたホットレモネード
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機嫌がいいのか悪いのか、どちらにせよ今の僕にできることは何もない。目の前にいる咲は先ほどよりも和らいだ表情でこちらを見つめている。
その僕はというと、食べ過ぎて苦しくなりソファへだらしなく横たわっている。まったく恥ずかしいことで、まさに醜態をさらすという字の通り醜い姿だろう。
「そんなに無理して食べなくても良かったのに、おバカさんね」
「無理なんてしてないよ、本当においしくなけりゃそんなには食べられないさ」
「でもちょっとだけ食べ過ぎちゃったみたいだ、苦しくて仕方ないや」
「うふ、うふふ、キミって本当にかわいいわね」
「キミが無理して食べるのも、私が無理して不慣れなものを作るのも同じようなものかしらね」
「どうかな、僕は無理してないし、咲は不慣れでもおいしく作れているじゃないか」
「本当に、本当だよ? すごくおいしかったんだ」
なんだこの言い方は。まるで幼児か小学生かと言ったところで我ながら呆れてしまう。しかし咲を目の前にするとなぜか甘えたくなってしまうのだ。
「食後の飲み物はさっぱりしたものがいいかもしれないわ」
「今淹れてくるから待っていてね」
「こんなだらしない姿を見せてごめんよ、ああ、情けない……」
咲は立ち上がりながら僕の頭を優しく撫で、笑いながらキッチンへ向かった。
しばらくすると、小ぶりのグラスを二つ持って戻ってきた咲がソファの前のテーブルへそれを置いた。
「起き上がれるかしら? 楽になるまでしばらく横になっていてもいいわよ」
「ホットレモネード置いておくわね、甘さは抑えておいたわ」
「ありがとう、そろそろ平気そうだ」
そう言って体を起こし始めると、咲は背中に手をまわしてくれた。そしてそのまま持ち上がっていく僕の顔に咲の顔が近づいていく。いや逆かもしれないがとにかく近づいた。
二人の関係が始まってまだ数日しか経っていないのに、もう数えきれないくらい繰り返しているこの行為は、僕にとって想像したことのないことだった。
ゆっくりと唇を重ねると頭の中が熱くなってくるような感覚だ。レモネードを味見したのだろうか。合わせた唇の間にほんのりとレモンの味がした。
咲は少しだけ唇を浮かすように離し、僕の唇をその温かな舌でなぞるように舐めた。咲の吐き出す息が僕の口の周りに当たっている。と言うことは僕の吐く息も咲に当たっているということになる。
お互いがごく近い空間を共有していると思うと、おなかがいっぱいでお腹が苦しいだけではなく別の場所まで苦しくなってくる。
頭から湯気が出そうだし顔は紅潮しているようで熱くなってたまらない。そんな僕の気持ちを察したのか、咲はまた少しだけ唇の距離を開けてからささやいた。
「キミの正直な気持ち、嬉しいわ、さっきは機嫌悪くしてごめんなさいね」
「でも鈍いキミも悪いのよ? わかって?」
「鈍いってどういう意味? あんまり遠回しな言い方は苦手なんだよ」
「うふふ、そこがまたかわいいのよね、愛しいキミ」
「はぐらかさないで教えてよ、鈍いって僕の何が鈍いのさ」
「だめ、内緒よ」
咲は僕の何かの鈍さに機嫌を損ねたらしいが、結局内容は教えてくれなかった。だがその続きを考える暇もなく僕達はまた唇を合わせた。
ほんの少し混ざり合った唾液は、もう元々どちらものかわからない。でもそれは不快ではなく、どちらかと言うと心地よい、いや気持ちのいいものに感じる。
まさか僕がこんな感覚を持つなんて思ってもみなかった。これはすっかり咲にのぼせ上がっているということなんだろう。
「咲…… 好きだよ…… こんな気持ち初めてなんだ……」
唇同士はまだ接したままだが、僕は思わず声に出してしまった。それはきちんとした言葉にはならずもごもごとしていたが咲には十分伝わったようだ。
その証拠に、背中に回されている咲の手に力が入り僕を強く抱きしめてきた。僕も咲の背中に手を回し、あまり力を入れないようそっと抱き寄せた。
結局、一度起こした僕の体はまたソファへもたれかかることになり、その上には咲の軽い体が圧し掛かってくる。
僕の上に乗っている咲の体から感じる重さは僕の半分くらいしかなさそうだが、二つのふくらみが僕へ押し付けられるには十分な重さだった。
重なった二人の体が動くたびに革製のソファからギシギシとした音がたつ。咲の指先が僕の背中へ突き刺さるように強く抱きしめられると、僕もまた咲の体を強めに抱きしめる。
ソファから落ちないようバランスを取るために僕が足を少し開くと、その間に咲の脚が差し込まれてきた。
ジーンズ越しだがその体温をほんのりと感じていると気がおかしくなりそうだ。僕は段々と息遣いが荒くなり咲の体をさらに引き寄せてしまった。
密着してまるで一つになったような僕と咲の体は、ソファへ埋まっているような感覚を覚えるくらいに現実味がなく、まるで何かに包まれているような夢心地だ。
だが僕は自分の体の異変に気が付きハッと我に返った。
「大丈夫よ、男の子だもの、自然なこと、気にしなくてもいいわ」
「そのままもっと強く抱きしめてちょうだい」
二人の脚が蔦のように絡まっているのを僕はほどこうとするが咲はそれを許してくれない。それどころかますますきつく絡めるようにその細い脚を僕の脚に巻き付けてくる。
「ダメだよ、こんなの…… 僕ったら……」
「恥ずかしいかしら? うふふ、いいのよ」
「でも今はまだこのくらいまでが限界だから我慢が必要になってしまうわね」
「我慢とかそういう問題じゃなくて…… 咲…… おかしくなっちゃうよ……」
「いいから目を閉じて私に任せて、さあまた抱きしめてちょうだい」
何を任せればいいのかわからないが、僕の頭は混乱するばかりだ。野球なら自分の感情の高ぶりで体がうまく動かなくても気持ちの切り替えで対処することができるが、今の僕は本能が暴走して体を抑えきれなくなりそうになっている。
でも今は咲の言う通りにまず目を閉じた。そしてまた咲を強く抱きしめる。
離れていた唇が再び触れ合った後またすぐに離れていき、咲の頭が僕の首元へもたれかかってきた。
頬よりも後ろ、首と耳の中ほどに先がキスをした。それはくすぐったいけど優しくて心地よいものだ。
咲は背中に回した手を少し動かしている。右手は背中に食い込んだままだが、左手だけが腰のあたりへ移動したようだ。
そのままTシャツの中に滑り込んできた咲の左手が僕の背中へ直接触れた。これじゃ気持ちが落ち着くどころかますます高ぶりそうに思えてならない。
「ダメだ…… このままじゃ僕は……」
僕の懇願はまるで聞いていないように今度は右手が首筋へと移っていき、キスをされている反対側の辺りに陣取ってしまった。
なすすべもなく咲の言いなりになったままの僕にできるのは、言われた通り目を閉じて咲を抱きしめることだけだ。
体温が上がり、心音は高鳴り、そして何より緊張が治まらず勝手なふるまいをする体の一部に恥ずかしい思いをしている僕の耳元で咲がささやいた。
「Gute Nacht,traum was Schones」
なんと言っているのかわからなかったが、それを聞いた直後から僕の意識は段々と薄れていく。
テーブルの上のホットレモネードからはもう湯気は立っていなかった。
その僕はというと、食べ過ぎて苦しくなりソファへだらしなく横たわっている。まったく恥ずかしいことで、まさに醜態をさらすという字の通り醜い姿だろう。
「そんなに無理して食べなくても良かったのに、おバカさんね」
「無理なんてしてないよ、本当においしくなけりゃそんなには食べられないさ」
「でもちょっとだけ食べ過ぎちゃったみたいだ、苦しくて仕方ないや」
「うふ、うふふ、キミって本当にかわいいわね」
「キミが無理して食べるのも、私が無理して不慣れなものを作るのも同じようなものかしらね」
「どうかな、僕は無理してないし、咲は不慣れでもおいしく作れているじゃないか」
「本当に、本当だよ? すごくおいしかったんだ」
なんだこの言い方は。まるで幼児か小学生かと言ったところで我ながら呆れてしまう。しかし咲を目の前にするとなぜか甘えたくなってしまうのだ。
「食後の飲み物はさっぱりしたものがいいかもしれないわ」
「今淹れてくるから待っていてね」
「こんなだらしない姿を見せてごめんよ、ああ、情けない……」
咲は立ち上がりながら僕の頭を優しく撫で、笑いながらキッチンへ向かった。
しばらくすると、小ぶりのグラスを二つ持って戻ってきた咲がソファの前のテーブルへそれを置いた。
「起き上がれるかしら? 楽になるまでしばらく横になっていてもいいわよ」
「ホットレモネード置いておくわね、甘さは抑えておいたわ」
「ありがとう、そろそろ平気そうだ」
そう言って体を起こし始めると、咲は背中に手をまわしてくれた。そしてそのまま持ち上がっていく僕の顔に咲の顔が近づいていく。いや逆かもしれないがとにかく近づいた。
二人の関係が始まってまだ数日しか経っていないのに、もう数えきれないくらい繰り返しているこの行為は、僕にとって想像したことのないことだった。
ゆっくりと唇を重ねると頭の中が熱くなってくるような感覚だ。レモネードを味見したのだろうか。合わせた唇の間にほんのりとレモンの味がした。
咲は少しだけ唇を浮かすように離し、僕の唇をその温かな舌でなぞるように舐めた。咲の吐き出す息が僕の口の周りに当たっている。と言うことは僕の吐く息も咲に当たっているということになる。
お互いがごく近い空間を共有していると思うと、おなかがいっぱいでお腹が苦しいだけではなく別の場所まで苦しくなってくる。
頭から湯気が出そうだし顔は紅潮しているようで熱くなってたまらない。そんな僕の気持ちを察したのか、咲はまた少しだけ唇の距離を開けてからささやいた。
「キミの正直な気持ち、嬉しいわ、さっきは機嫌悪くしてごめんなさいね」
「でも鈍いキミも悪いのよ? わかって?」
「鈍いってどういう意味? あんまり遠回しな言い方は苦手なんだよ」
「うふふ、そこがまたかわいいのよね、愛しいキミ」
「はぐらかさないで教えてよ、鈍いって僕の何が鈍いのさ」
「だめ、内緒よ」
咲は僕の何かの鈍さに機嫌を損ねたらしいが、結局内容は教えてくれなかった。だがその続きを考える暇もなく僕達はまた唇を合わせた。
ほんの少し混ざり合った唾液は、もう元々どちらものかわからない。でもそれは不快ではなく、どちらかと言うと心地よい、いや気持ちのいいものに感じる。
まさか僕がこんな感覚を持つなんて思ってもみなかった。これはすっかり咲にのぼせ上がっているということなんだろう。
「咲…… 好きだよ…… こんな気持ち初めてなんだ……」
唇同士はまだ接したままだが、僕は思わず声に出してしまった。それはきちんとした言葉にはならずもごもごとしていたが咲には十分伝わったようだ。
その証拠に、背中に回されている咲の手に力が入り僕を強く抱きしめてきた。僕も咲の背中に手を回し、あまり力を入れないようそっと抱き寄せた。
結局、一度起こした僕の体はまたソファへもたれかかることになり、その上には咲の軽い体が圧し掛かってくる。
僕の上に乗っている咲の体から感じる重さは僕の半分くらいしかなさそうだが、二つのふくらみが僕へ押し付けられるには十分な重さだった。
重なった二人の体が動くたびに革製のソファからギシギシとした音がたつ。咲の指先が僕の背中へ突き刺さるように強く抱きしめられると、僕もまた咲の体を強めに抱きしめる。
ソファから落ちないようバランスを取るために僕が足を少し開くと、その間に咲の脚が差し込まれてきた。
ジーンズ越しだがその体温をほんのりと感じていると気がおかしくなりそうだ。僕は段々と息遣いが荒くなり咲の体をさらに引き寄せてしまった。
密着してまるで一つになったような僕と咲の体は、ソファへ埋まっているような感覚を覚えるくらいに現実味がなく、まるで何かに包まれているような夢心地だ。
だが僕は自分の体の異変に気が付きハッと我に返った。
「大丈夫よ、男の子だもの、自然なこと、気にしなくてもいいわ」
「そのままもっと強く抱きしめてちょうだい」
二人の脚が蔦のように絡まっているのを僕はほどこうとするが咲はそれを許してくれない。それどころかますますきつく絡めるようにその細い脚を僕の脚に巻き付けてくる。
「ダメだよ、こんなの…… 僕ったら……」
「恥ずかしいかしら? うふふ、いいのよ」
「でも今はまだこのくらいまでが限界だから我慢が必要になってしまうわね」
「我慢とかそういう問題じゃなくて…… 咲…… おかしくなっちゃうよ……」
「いいから目を閉じて私に任せて、さあまた抱きしめてちょうだい」
何を任せればいいのかわからないが、僕の頭は混乱するばかりだ。野球なら自分の感情の高ぶりで体がうまく動かなくても気持ちの切り替えで対処することができるが、今の僕は本能が暴走して体を抑えきれなくなりそうになっている。
でも今は咲の言う通りにまず目を閉じた。そしてまた咲を強く抱きしめる。
離れていた唇が再び触れ合った後またすぐに離れていき、咲の頭が僕の首元へもたれかかってきた。
頬よりも後ろ、首と耳の中ほどに先がキスをした。それはくすぐったいけど優しくて心地よいものだ。
咲は背中に回した手を少し動かしている。右手は背中に食い込んだままだが、左手だけが腰のあたりへ移動したようだ。
そのままTシャツの中に滑り込んできた咲の左手が僕の背中へ直接触れた。これじゃ気持ちが落ち着くどころかますます高ぶりそうに思えてならない。
「ダメだ…… このままじゃ僕は……」
僕の懇願はまるで聞いていないように今度は右手が首筋へと移っていき、キスをされている反対側の辺りに陣取ってしまった。
なすすべもなく咲の言いなりになったままの僕にできるのは、言われた通り目を閉じて咲を抱きしめることだけだ。
体温が上がり、心音は高鳴り、そして何より緊張が治まらず勝手なふるまいをする体の一部に恥ずかしい思いをしている僕の耳元で咲がささやいた。
「Gute Nacht,traum was Schones」
なんと言っているのかわからなかったが、それを聞いた直後から僕の意識は段々と薄れていく。
テーブルの上のホットレモネードからはもう湯気は立っていなかった。
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