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夢を見ていると夢は夢のまま
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木戸との真剣勝負を心地よい疲労感で終えた僕は、他の部員相手のシートバッティングで軽いピッチングをこなした。
かなり軽く投げているつもりでも打ち損じる部員が多く、速度がなくてもキレがいいと打者を抑えることが可能なのだと改めて感じる。
数人に投げた後、キャッチャーはチビベンから木戸へ交代していた。一年生と三年生の順番を終えて次は二年生が打席に立つ。
今日はさすがに丸山も真剣勝負しようとは言ってこなかった。いくらなんでも守備の練習がおろそかになるようでは困るとわかっているのだろう。
全員の打撃を終えて僕はマウンドを降りた。その後は走塁練習を少しやって今日のメニューは終了だ。二年生以外は道具の片づけをしながらグラウンドを引き上げる。僕達二年はグラウンド整備をしてから引き上げだ。
「私も部室へ戻って洗濯物をチェックしてきます!」
マネージャーの由布がそう言って部室へ駆けていった。片手にはノートパソコンを持っている。
「ハカセさあ、マネージャーが持ってるのってパソコンでしょ?」
「練習見ながら何かつけるように言っておいたのか?」
「まあね、わかる範囲でスイングや得手不得手なコース、立ち位置や守備の時の動きとかさ、まあ色々だよ」
「できるだけまとめておけば今後の役に立つし、マネージャーも手持無沙汰にならなくていいだろ?」
チビベンとハカセがトンボがけをしながら話していた。木戸と丸山、それに僕はそれを聞きながら黙々とグラウンドを慣らす。
「なあカズよお、今週入ってからやけに調子がいいんだけど何かあったのか?」
「いくらなんでも別人過ぎるだろ」
木戸がふいに口を開いた。それを聞いて丸山が手を止め話しかけてくる。
「確かにカズの球は前からキレがいいけどよ、昨日今日あたりはスピードもキレも何割増しだよって感じだもんなあ」
「なにか秘訣があるなら知りたいぜ」
「うーん、特に何があるってわけじゃないんだけどさ、指のかかりがやけに良くてね」
「縫い目が何個通ったかもわかるくらいさ」
僕はまさか咲とキスをしてから調子がいいなんて言えるわけもなく、答えにならないような言葉を返す。本当にキスのせいなのかはわからないが、変わったのがその日からなのは事実だ。
かといってこのままの調子が続くとは限らないし、能力が上昇し続けるわけもない。それに、咲も言っていたが調子には波があるのが当たり前だ。
「もし今度の練習試合でもあのピッチングができたなら、ベストエイト経験のある矢島実業を抑えることができるんじゃねえの?」
「去年の予選だと県立でトップは与田島のベスト十六だから、少なくともそこは超えていきたいもんだな」
「それならよ、予選前にもう一試合くらい、もっとでもいいけど練習試合組めねえか?」
「いくらカズが完璧に抑えても俺らが打てないんじゃ話にならんしよ」
「木戸は去年もレギュラーだったけど俺は今年からフル出場だし、まあはっきり言えば通用するか不安もあるんだよ」
「丸山でも不安に思うのかあ、お前のバッティングは十分トップクラスで通用すると思うけどな」
「僕は今年のチームだったらベストエイトか、もしかしたらそれ以上も狙えると思ってるんだ」
「おいおい、まだ一試合もやってないのに自信過剰じゃないのか?」
「俺も今年のチームは悪くないと思っているけど、控えの層も薄いし油断はできねえぞ」
「そこなんだよね、一年生も悪くはないんだけど全体的に小粒でまだこれからって感じだろ?」
「だからさ、」
「いや、俺は反対だ、許可しねえよ」
「まだ何も言ってないじゃないか」
「いやいやいや、わかってるよ、三田を呼び戻すって言うんだろ?、あんな奴いらねえわ」
「もし呼び戻したって今のカズのピッチングを見たらまたいじけるだろうし、めんどくせえだけだろ」
「そっか、まあ僕は木戸の見立てに従うよ」
「となるとどっかで木尾に先発してもらわないと厳しいだろうねえ」
「そうだなあ、別に悪くはないし精神的な成長があればすぐにでもイケる球は持ってると思うよ」
「なあチビベンもそう思うだろ?」
少し離れたところにいたチビベンには良く聞こえてないらしく、こちらへ駆け寄ってきた。トンボがけはほぼ終わったので、僕達は用具を片付けながら話を続ける。
「木尾かあ、なんだろね? あの自信の無さっていうの?」
「ピッチャーって大体が過剰なくらい自信持ってるやつが多いと思ってるんだけど、木尾はちょっとメンタル弱そうだよな」
「今日はお前ら二人で柵越え二本打っちゃったしなあ、なんでそういうことすんのさ」
僕は今日の練習で丸山と木戸が木尾を滅多打ちしたことを責めた。しかし二人は悪びれずに言い返してくる。
「練習でチームメイトに打たれたくらいでへこたれるなら公式戦でも使えねえよ」
「でもあいつは大丈夫そうだと感じたけどな」
「俺も同意見だ、キャッチャーのリード次第で力を引き出してやりゃ化けるかもしれねえよ」
「あとは俺とチビベンのどっちと相性がいいかも考えないといけねえか」
「俺はいまいち意思疎通ができる気がしないんだよね」
「それにあのフォークをそらしたらって思うと、勝負所で思い切って投げさせられないかも」
チビベンは木尾の球は受けづらいと言うことだが、それは物事を否定的に言うことの少ないチビベンには意外な発言に思えた。
「じゃあ木尾が投げるときには俺が受けるとして、チビベンには本業のセカンドを頑張ってもらうか」
「打順に関しては一応二通り考えてあるから来週までに煮詰めておくわ」
「今年は攻撃的布陣で行きたいと思ってるんだ」
「攻撃的布陣? たとえばどんな感じ?」
「詳しくはまだ考え中だけど、基本的にいきなりバントはしないとかさ」
「ガンガン振ってガンガン打っていくチームにしたいんだ」
「なるほどな、それは俺にピッタリだぜ」
「ホームラン記録作るつもりでやってやるぜ」
「マルマンには負けてられねえから俺も気合入れていくぜ、ただし大振りは厳禁な」
「もちろんさ、チーム三冠目指すからよ」
グラウンド整備と片づけが終わった僕達は、ほんの少し先の展望を明るい未来と信じ、その目標へ向かって一丸となって走っていく事を語り合った。
それは今はまだ夢のようなことかもしれないが、一人一人が目標に変えていくことができれば十分現実となるように思えた。
かなり軽く投げているつもりでも打ち損じる部員が多く、速度がなくてもキレがいいと打者を抑えることが可能なのだと改めて感じる。
数人に投げた後、キャッチャーはチビベンから木戸へ交代していた。一年生と三年生の順番を終えて次は二年生が打席に立つ。
今日はさすがに丸山も真剣勝負しようとは言ってこなかった。いくらなんでも守備の練習がおろそかになるようでは困るとわかっているのだろう。
全員の打撃を終えて僕はマウンドを降りた。その後は走塁練習を少しやって今日のメニューは終了だ。二年生以外は道具の片づけをしながらグラウンドを引き上げる。僕達二年はグラウンド整備をしてから引き上げだ。
「私も部室へ戻って洗濯物をチェックしてきます!」
マネージャーの由布がそう言って部室へ駆けていった。片手にはノートパソコンを持っている。
「ハカセさあ、マネージャーが持ってるのってパソコンでしょ?」
「練習見ながら何かつけるように言っておいたのか?」
「まあね、わかる範囲でスイングや得手不得手なコース、立ち位置や守備の時の動きとかさ、まあ色々だよ」
「できるだけまとめておけば今後の役に立つし、マネージャーも手持無沙汰にならなくていいだろ?」
チビベンとハカセがトンボがけをしながら話していた。木戸と丸山、それに僕はそれを聞きながら黙々とグラウンドを慣らす。
「なあカズよお、今週入ってからやけに調子がいいんだけど何かあったのか?」
「いくらなんでも別人過ぎるだろ」
木戸がふいに口を開いた。それを聞いて丸山が手を止め話しかけてくる。
「確かにカズの球は前からキレがいいけどよ、昨日今日あたりはスピードもキレも何割増しだよって感じだもんなあ」
「なにか秘訣があるなら知りたいぜ」
「うーん、特に何があるってわけじゃないんだけどさ、指のかかりがやけに良くてね」
「縫い目が何個通ったかもわかるくらいさ」
僕はまさか咲とキスをしてから調子がいいなんて言えるわけもなく、答えにならないような言葉を返す。本当にキスのせいなのかはわからないが、変わったのがその日からなのは事実だ。
かといってこのままの調子が続くとは限らないし、能力が上昇し続けるわけもない。それに、咲も言っていたが調子には波があるのが当たり前だ。
「もし今度の練習試合でもあのピッチングができたなら、ベストエイト経験のある矢島実業を抑えることができるんじゃねえの?」
「去年の予選だと県立でトップは与田島のベスト十六だから、少なくともそこは超えていきたいもんだな」
「それならよ、予選前にもう一試合くらい、もっとでもいいけど練習試合組めねえか?」
「いくらカズが完璧に抑えても俺らが打てないんじゃ話にならんしよ」
「木戸は去年もレギュラーだったけど俺は今年からフル出場だし、まあはっきり言えば通用するか不安もあるんだよ」
「丸山でも不安に思うのかあ、お前のバッティングは十分トップクラスで通用すると思うけどな」
「僕は今年のチームだったらベストエイトか、もしかしたらそれ以上も狙えると思ってるんだ」
「おいおい、まだ一試合もやってないのに自信過剰じゃないのか?」
「俺も今年のチームは悪くないと思っているけど、控えの層も薄いし油断はできねえぞ」
「そこなんだよね、一年生も悪くはないんだけど全体的に小粒でまだこれからって感じだろ?」
「だからさ、」
「いや、俺は反対だ、許可しねえよ」
「まだ何も言ってないじゃないか」
「いやいやいや、わかってるよ、三田を呼び戻すって言うんだろ?、あんな奴いらねえわ」
「もし呼び戻したって今のカズのピッチングを見たらまたいじけるだろうし、めんどくせえだけだろ」
「そっか、まあ僕は木戸の見立てに従うよ」
「となるとどっかで木尾に先発してもらわないと厳しいだろうねえ」
「そうだなあ、別に悪くはないし精神的な成長があればすぐにでもイケる球は持ってると思うよ」
「なあチビベンもそう思うだろ?」
少し離れたところにいたチビベンには良く聞こえてないらしく、こちらへ駆け寄ってきた。トンボがけはほぼ終わったので、僕達は用具を片付けながら話を続ける。
「木尾かあ、なんだろね? あの自信の無さっていうの?」
「ピッチャーって大体が過剰なくらい自信持ってるやつが多いと思ってるんだけど、木尾はちょっとメンタル弱そうだよな」
「今日はお前ら二人で柵越え二本打っちゃったしなあ、なんでそういうことすんのさ」
僕は今日の練習で丸山と木戸が木尾を滅多打ちしたことを責めた。しかし二人は悪びれずに言い返してくる。
「練習でチームメイトに打たれたくらいでへこたれるなら公式戦でも使えねえよ」
「でもあいつは大丈夫そうだと感じたけどな」
「俺も同意見だ、キャッチャーのリード次第で力を引き出してやりゃ化けるかもしれねえよ」
「あとは俺とチビベンのどっちと相性がいいかも考えないといけねえか」
「俺はいまいち意思疎通ができる気がしないんだよね」
「それにあのフォークをそらしたらって思うと、勝負所で思い切って投げさせられないかも」
チビベンは木尾の球は受けづらいと言うことだが、それは物事を否定的に言うことの少ないチビベンには意外な発言に思えた。
「じゃあ木尾が投げるときには俺が受けるとして、チビベンには本業のセカンドを頑張ってもらうか」
「打順に関しては一応二通り考えてあるから来週までに煮詰めておくわ」
「今年は攻撃的布陣で行きたいと思ってるんだ」
「攻撃的布陣? たとえばどんな感じ?」
「詳しくはまだ考え中だけど、基本的にいきなりバントはしないとかさ」
「ガンガン振ってガンガン打っていくチームにしたいんだ」
「なるほどな、それは俺にピッタリだぜ」
「ホームラン記録作るつもりでやってやるぜ」
「マルマンには負けてられねえから俺も気合入れていくぜ、ただし大振りは厳禁な」
「もちろんさ、チーム三冠目指すからよ」
グラウンド整備と片づけが終わった僕達は、ほんの少し先の展望を明るい未来と信じ、その目標へ向かって一丸となって走っていく事を語り合った。
それは今はまだ夢のようなことかもしれないが、一人一人が目標に変えていくことができれば十分現実となるように思えた。
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