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汗臭さとぞうきんと

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 今日の参加者全員が着替え終わり、グラウンドへ集まって準備運動を始めた時に真弓先生と三谷先生がそろってやってきた。さっき言っていた頼みの事だろう。

「ごめんね、練習はじめたところ悪いけどみんな集まってちょうだい」
「三谷先生から話がるのよ」

 呼ばれた僕達が先生二人の前に集まった。いったい何の話だろう。

「いや、そんなたいそうな話じゃないんだがみんなにお願いがあってな」
「次の美術展のテーマが躍動と言うことになったので、美術部では部活動中の生徒を描くことにしたんだ」

 やはり木戸の予想通り美術部に関することだった。しかしそのためにわざわざ練習を中断するわけにはいかないし、動いているところを描くなんてできるのだろうか。

「みんなはいつも通り練習してもらっていて構わないんだが、美術部の連中がグラウンドの周りでデッサンすることがあると思う」
「気が散るようなら私か岡田先生に言ってもらえたら対応するので、ひとまずは協力してほしいんだ」

「俺は構わないぜ、普段からミタニーには世話になってるしな」
「ただしネットを越えないようにしてもらいたいのと、俺以外に直接話しかけるのは禁止ね」
「なんつったって俺以外の部員は、女子に話しかけられると集中力が途切れるやつばかりだからな」

 そう言って木戸が笑って答えた。まあ集中力云々は確かにそうだが、それよりもへたに近寄ってきて事故につながってはたまらないので安全配慮が主だろう。

「そうね、外野に行かないことと、練習用のネットを越えないでもらえれば安全上は問題ないでしょう」
「ではみんな、協力よろしくね、ありがとう」

「助かるよ、来週からうちの部員がちょこちょこ顔出すと思うからよろしく」
「それと木戸に丸山、例のアレまた用意しとくからな」

「おお、頼むね、楽しみにしてるぜ」

 何のことかわからないが木戸と丸山は喜んでいる様子だ。きっと格闘技に関係あることなんだろう。

 三谷先生は僕らの了承が取れたことに喜んで引き揚げていった。これで練習に戻ろうとしたところで真弓先生が引き続き話し始める。

「もう一点連絡事項ね、あ、二点だわ」
「一つはけんみん放送の取材が次の水曜日に来ると連絡があったわ」

「水曜か、あんまり時間がないなあ、朝からマネちゃんが部室の掃除してくれたけどさ」
「ぶっちゃけ部室の中まで撮ることなくねえ?」

「そうだよな、練習してるとこと集合写真くらいでいいんじゃないか?」
「部室はどうしたって汚れちまうよ」

 木戸と丸山の言うことは一見もっともらしいが、この二人が言うと片付けるのが面倒なだけにしか聞こえない。

「でもまあ部室をきれいに使うことがは悪いことじゃないしさ」
「せめてゴミくらいは散らかさないようにしようぜ」

「僕も賛成だな、全員が気を付けて散らかさなけりゃあんなにごちゃごちゃにはならんだろ」

 僕とハカセはそう言って反論した。別にピカピカでなくてもいいのだ。最低限誰かが入って来ても恥ずかしくないくらいにしていさえすれば十分だろう。

「取材では全員のインタビューをするらしくてね、、椅子と机があった方がいいみたい」
「必ずしも部室に入るかはわからないけど、普段が汚すぎるから片づけはしないさいよ」
「それに部室の中、あまり言いたくないけど…… 結構匂うわよ」

 真弓先生に痛いところを突かれたと言う顔をして、数名の部員たちが自分のユニフォームの匂いを嗅いだりしている。まあ確かに汗臭いことは否定できない。

「じゃあ各自今日の帰りには最低限ロッカーの中は片付けるようにしよう」
「汚れたアンダーシャツとか入れっぱなしのやつも多いだろ」

「名前を書いて出しておいてくれたら私洗いますから!」
「学校の洗濯機使っていいんですって!」

 マネージャーの由布が張り切っている。それを見て真由美先生が頷いた。

「校舎の裏手に洗濯機が二台あるけど、あれってちゃんと動くらしいわ」
「以前は運動部が交代で使っていたようだけど、今は用務員さんがたまに使うくらいなんですって」

「えー、じゃあ雑巾とか洗ってるんじゃないの?」
「雑巾と一緒に洗うのはやだなあ」

 みんなが勝手なことを言っていると真弓先生が突っ込みを入れた。

「雑巾とあなた達のユニフォームとどっちがきれいかしらね」
「汚れたまま放置してるとキノコでも生えてきちゃうわよ、嫌なら持って帰って自分で洗いなさいな」

「放置してなくてもキノコが生えてるんだけ……」

 木戸がそう言いながら自分の下半身を手で隠すような動作をしたので、僕とチビベンは横から肘で突っついて発言を遮った。丸山もついでに木戸の頭を帽子で叩いている。

「バカ野郎、マネージャーもいるんだぞ、自重しろよ」

「あはは、そうだった、油断してると女子がいるのつい忘れちゃうな」

 まったくこいつはほっておくと何言いだすかわからない。真弓先生は呆れて天を仰いでいる。由布は困ったように真下を向いていた。

「まったくこの子は…… ああそれともう一点、河藤君が明日退院ですって」
「来週から登校している予定だけど、練習にすぐ参加できるかはわからないそうよ」

「おっ、ようやくカワは退院できるのか、良かったなあ」

 カワと言うのは僕達と同じ二年生の河藤三郎のことだ。季節外れのインフルエンザで一週間の自宅待機だったのだが、その途中に盲腸になり手術をして入院していた。

 盲腸だと普通は二、三日で退院するのだが、インフルエンザ中だったのが関係したのか入院が長引いていた。

「もうどれくらいだっけ? 十日くらいになるかね?」

「うん、それくらいは休んでるな、練習試合に間に合うかどうかってとこか」
「ここ一番では頼りになるから公式戦までに万全となればまあいいさ」

「じゃあ今日の連絡事項はこのくらいよ、中断させてごめんなさいね」
「今日も怪我と事故に注意して練習頑張ってちょうだい」

「うっす!」
「はい!」
「おいっす!」

 僕達はまたグラウンドへ戻ってストレッチを始めた。今日も体の調子は悪くない。天気も良くていい練習日和だ。

 今日明日と練習を頑張って、週末は咲と二人で野球を見に行ってどこかに飯でも食べにいけたらいいななんて考えていた。

 そういえば野球のチケットを貰ったことをまだ咲へ伝えてなかったとを思い出した。咲にも予定があるかもしれないので夜に確認してみよう。

 そして僕は来るべき楽しみのためにもまずは練習をきっちりこなさないとな、と頭を切り替え、集中力を高めるように念入りにストレッチに励んだ。
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