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マネージャー暴走せず
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「はーい、みんな集まってー」
ランニングを終えてストレッチをしていた僕達に真弓先生が大声で集合をかける。
「練習はじめてるとこ悪いんだけど、今日から入部のマネージャーを紹介するわね」
「掛川さん、こっちいらっしゃい」
「はい!」
グラウンド横で練習を見ていた掛川由布が真弓先生のもとへ駆け寄った。
「もうすでに練習へ参加してもらってるのに紹介が遅くなってごめんなさいね」
「では自己紹介してくれる?」
「はい! 今年入学した一年生の掛川由布です!」
「趣味は野球観戦! 得意な科目は体育です!」
真横で聞いていた真弓先生が首を傾けて耳を押さえている。やっぱりどんな時でも声がデカい。
「はい、ありがとう、これからよろしくね」
「不埒な部員がいたらすぐ報告してちょうだい、この子たちよく見てないとすぐ裸でうろうろするんだから」
「センセ、そんなことするのは木戸とマルマンくらいですよ」
そんな真弓先生の言い草にチビベンが口を挟んだ。確かに他の部員はそんなことするほど自分の肉体美に自信を持っていないだろう。
しかしその注意もすでに手遅れだということを、おそるおそる手を挙げた掛川由布が暴露した。
「あ、もうさっき見ちゃいました…… パンツ姿も……」
「なんですって!? あんたたち! いつどこで誰が見ているのかわからないんだからも少しは気を使いなさい!」
「いやいや真弓ちゃん、そりゃ誤解だよ、さっき部室で着替えてた時に由布ちゃんが入ってきちゃったんだってば」
「そうなんです、用具の置き場を聞こうと思って部室へ行ったらドアが開いていたので……」
「でも大丈夫です! パンツは履いてましたから!」
それを聞いた真弓先生は両手で顔を覆い、さらにそれを見て部員たちが大笑いしている。
「笑い事じゃないわよ! 着替える時はドアくらい閉めなさい」
「それとシャワー室の出入りもバスタオル一枚でうろうろしないように!」
「まあまあ、わかったよ真弓ちゃん、そろそろ練習に戻らないと時間もったいないからさ」
「みんなわかったな! 裸でうろうろしないようにしろよ!」
大声で指示した木戸を見てみんな笑っている。それはもちろん対象者が誰なのかわかっているからだ。
「まったくあてにならないわね」
「こうなったら、部外から指摘を受けた部員には、部活前に英語のプリントをやってもらうことにするわ」
「えーそりゃないよー」
「大体野球と英語はかんけいないじゃんさー」
また木戸と真弓先生の掛け合いが始まりつつある。こうなると長くなるからさっさと中断させないといけない。
「まあ指摘されるようなことしなきゃいいんだよ、それより練習やろうぜ」
「お、おう、やるかー、よしストレッチの続きからやるぞ」
「その後の休憩は無しでキャッチボール、ティーバッティングといこう、投手組はバント練習な」
「そういや一年生の足もチェックもしないとだろ、バッティングの前に塁間測っておくか」
「練習試合のスタメンと控えも考えないといけないしな」
思い出したようにハカセが木戸へ進言した。レギュラーやスタメンの選出に関してはハカセがまとめてくれるデータが参考になる。
「あの! データ取りは私やりましょうか!」
「お、マネちゃんできそう?」
「はい! 先輩方のデータはある程度取ってありますけど、一年生のは全くないので私も知りたいです!」
そういえば掛川由布はスタメンの案も持っていたな。見る目は確かだと思うので、まともにやってくれさえすれば戦力になるだろう。
「よーし、じゃあストレッチ後は二、三年がティー打ちで一年生は内野で測定と行こう」
「けがのないように良く体ほぐせよー」
「おーっす」
ストレッチの後にそれぞれが別れて練習を続けた。僕達は三塁側に立てたバッティングネットでティーバッティングとバント練習、内野では掛川由布が笛を鳴らしながらストップウォッチでタイムを測っている。
グラウンドに夕日が差してきたあたりで木戸が号令をかけた。
「ちょっと小休止してからキャッチボールとピッチングでしめるぞ」
「練習後にミーティングするからハカセとチビベン、カズ、マルマンにマネちゃんは残ってくれ」
「りょーかーい」
「オッケー」
部員たちは、ひと休みしながらお茶を飲んだり顔を洗ったりしている。
すでにタイム計測を終えていた掛川由布はハカセのところへ記録をもっていった。どうやら問題なく他の部員にも馴染めているようだ。
そんな時、周囲を見ながらスポーツドリンクを飲んでいた僕へ木戸が話しかけてきた。
「カズ、今日の調子はどんなもんだ?」
「まだ投げてないからはっきりはわかんないけど体は軽いね」
「キャッチボールした感じだと悪くないと思うよ」
「そうか、あとは疲労の残り具合が気になるところだな」
「今年の夏は連戦になるかもしれねーしよ」
「おっ、強気だな、確かに勝ち進めるにこしたことはないけど、選手層が薄いうちのチームには深刻な問題がついて回るもんな」
「木尾はまだ無理なのか?」
「そうだなあ、投げる方は慣れだろうけどバッティングがどうかな」
「まだまだ怖がってるとこあるから守備も不安が残るねえ」
「そっか、嶋谷はすっかり慣れた風だし、倉片はもともと鈍い感じだから心配いらないかもしれないな」
「あとは河藤と三田が戻ってくればなんとかなるんじゃないか?」
「カワはそろそろ退院すると思うんだけど、三田はもう無理じゃないか?」
「勝手に拗ねて部活に来なくなったくせに退部するわけでもないからメンドクセーわ」
「そういうなよ、復帰すれば戦力にはなるだろ」
「ま、そうだけどよ、んじゃそろそろ始めるか」
そんな会話をした後、木戸がみんなに合図をし練習を再開する。初めに心配していたマネージャーの公私混同や暴走は今のところなく、僕は安心しながらブルペンへ向かった。
ランニングを終えてストレッチをしていた僕達に真弓先生が大声で集合をかける。
「練習はじめてるとこ悪いんだけど、今日から入部のマネージャーを紹介するわね」
「掛川さん、こっちいらっしゃい」
「はい!」
グラウンド横で練習を見ていた掛川由布が真弓先生のもとへ駆け寄った。
「もうすでに練習へ参加してもらってるのに紹介が遅くなってごめんなさいね」
「では自己紹介してくれる?」
「はい! 今年入学した一年生の掛川由布です!」
「趣味は野球観戦! 得意な科目は体育です!」
真横で聞いていた真弓先生が首を傾けて耳を押さえている。やっぱりどんな時でも声がデカい。
「はい、ありがとう、これからよろしくね」
「不埒な部員がいたらすぐ報告してちょうだい、この子たちよく見てないとすぐ裸でうろうろするんだから」
「センセ、そんなことするのは木戸とマルマンくらいですよ」
そんな真弓先生の言い草にチビベンが口を挟んだ。確かに他の部員はそんなことするほど自分の肉体美に自信を持っていないだろう。
しかしその注意もすでに手遅れだということを、おそるおそる手を挙げた掛川由布が暴露した。
「あ、もうさっき見ちゃいました…… パンツ姿も……」
「なんですって!? あんたたち! いつどこで誰が見ているのかわからないんだからも少しは気を使いなさい!」
「いやいや真弓ちゃん、そりゃ誤解だよ、さっき部室で着替えてた時に由布ちゃんが入ってきちゃったんだってば」
「そうなんです、用具の置き場を聞こうと思って部室へ行ったらドアが開いていたので……」
「でも大丈夫です! パンツは履いてましたから!」
それを聞いた真弓先生は両手で顔を覆い、さらにそれを見て部員たちが大笑いしている。
「笑い事じゃないわよ! 着替える時はドアくらい閉めなさい」
「それとシャワー室の出入りもバスタオル一枚でうろうろしないように!」
「まあまあ、わかったよ真弓ちゃん、そろそろ練習に戻らないと時間もったいないからさ」
「みんなわかったな! 裸でうろうろしないようにしろよ!」
大声で指示した木戸を見てみんな笑っている。それはもちろん対象者が誰なのかわかっているからだ。
「まったくあてにならないわね」
「こうなったら、部外から指摘を受けた部員には、部活前に英語のプリントをやってもらうことにするわ」
「えーそりゃないよー」
「大体野球と英語はかんけいないじゃんさー」
また木戸と真弓先生の掛け合いが始まりつつある。こうなると長くなるからさっさと中断させないといけない。
「まあ指摘されるようなことしなきゃいいんだよ、それより練習やろうぜ」
「お、おう、やるかー、よしストレッチの続きからやるぞ」
「その後の休憩は無しでキャッチボール、ティーバッティングといこう、投手組はバント練習な」
「そういや一年生の足もチェックもしないとだろ、バッティングの前に塁間測っておくか」
「練習試合のスタメンと控えも考えないといけないしな」
思い出したようにハカセが木戸へ進言した。レギュラーやスタメンの選出に関してはハカセがまとめてくれるデータが参考になる。
「あの! データ取りは私やりましょうか!」
「お、マネちゃんできそう?」
「はい! 先輩方のデータはある程度取ってありますけど、一年生のは全くないので私も知りたいです!」
そういえば掛川由布はスタメンの案も持っていたな。見る目は確かだと思うので、まともにやってくれさえすれば戦力になるだろう。
「よーし、じゃあストレッチ後は二、三年がティー打ちで一年生は内野で測定と行こう」
「けがのないように良く体ほぐせよー」
「おーっす」
ストレッチの後にそれぞれが別れて練習を続けた。僕達は三塁側に立てたバッティングネットでティーバッティングとバント練習、内野では掛川由布が笛を鳴らしながらストップウォッチでタイムを測っている。
グラウンドに夕日が差してきたあたりで木戸が号令をかけた。
「ちょっと小休止してからキャッチボールとピッチングでしめるぞ」
「練習後にミーティングするからハカセとチビベン、カズ、マルマンにマネちゃんは残ってくれ」
「りょーかーい」
「オッケー」
部員たちは、ひと休みしながらお茶を飲んだり顔を洗ったりしている。
すでにタイム計測を終えていた掛川由布はハカセのところへ記録をもっていった。どうやら問題なく他の部員にも馴染めているようだ。
そんな時、周囲を見ながらスポーツドリンクを飲んでいた僕へ木戸が話しかけてきた。
「カズ、今日の調子はどんなもんだ?」
「まだ投げてないからはっきりはわかんないけど体は軽いね」
「キャッチボールした感じだと悪くないと思うよ」
「そうか、あとは疲労の残り具合が気になるところだな」
「今年の夏は連戦になるかもしれねーしよ」
「おっ、強気だな、確かに勝ち進めるにこしたことはないけど、選手層が薄いうちのチームには深刻な問題がついて回るもんな」
「木尾はまだ無理なのか?」
「そうだなあ、投げる方は慣れだろうけどバッティングがどうかな」
「まだまだ怖がってるとこあるから守備も不安が残るねえ」
「そっか、嶋谷はすっかり慣れた風だし、倉片はもともと鈍い感じだから心配いらないかもしれないな」
「あとは河藤と三田が戻ってくればなんとかなるんじゃないか?」
「カワはそろそろ退院すると思うんだけど、三田はもう無理じゃないか?」
「勝手に拗ねて部活に来なくなったくせに退部するわけでもないからメンドクセーわ」
「そういうなよ、復帰すれば戦力にはなるだろ」
「ま、そうだけどよ、んじゃそろそろ始めるか」
そんな会話をした後、木戸がみんなに合図をし練習を再開する。初めに心配していたマネージャーの公私混同や暴走は今のところなく、僕は安心しながらブルペンへ向かった。
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