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第二章 変動
28話 不穏な産声
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別視点です。
※※※※※※※※※
英雄の後継者が誕生していた頃、旧リンガル帝国の帝都跡。紫がかった雲が覆い尽くしている地には、滅びた城があった。所々の壁にひび割れがあり、今にも崩れそうになっている。人が生活していくことは出来ないだろうが、それ以外の者たちならば関係はない。そう、魔族ならば。
城跡の地下深く。マグマが猛っている側に、その姿はあった。
『コォォォ・・・』
「・・・そろそろ、かのう」
「モルデオ、魔王陛下の様子は?」
「クックックッ、漸くじゃ・・・滅ぼされてから、五百年。永い時を費やしたものよ・・・じゃが、まもなく力は満ちるじゃろう。待ち切れなんだか、スイよ」
見かけは人と変わらないが、二人ともその肌は黒、瞳は真っ赤。魔族の特徴的な姿だ。まるで老人のような風貌をしているのがモルデオ。その種族は、妖魔。もう一人は女性の姿。耳は尖っており歯の一部は鋭い牙がある。サキュバスと呼ばれる種族のスイだ。
見た目からはわからないが、二人とも五百年以上を生き抜いている。
「待ちきれない・・・確かにそうね。ずっとずっと、待ち焦がれていた瞬間がもうすぐ来ると思うと、動悸が止まらないわ」
「フォフォ、じゃろうな」
「・・・この日をずっと待っていた。あの人間に・・・妾に屈辱を味合わせた人間を必ずこの手で殺してやるわ」
頬を火照らせ微笑むスイ。唇を舌で舐め、薄く空いた口から牙が覗きだす。
「愛憎しという奴じゃな・・・恐ろしい女よ」
「うふふ」
その瞬間、マグマが雄叫びを上げるようにうねる。バッとモルデオもスイも、マグマを見上げた。
力を蓄えた存在は、紫色の焔となってその形を現してくる。焔の中から創られた姿。その背には6枚の羽。人形に良く似た形で、羽を広げ地に降り立つ。
圧倒的な力を感じ、モルデオとスイは膝を折る。
「・・・お待ちしておりました、我らが魔王陛下」
「我が君、よくぞ再び・・・」
「ふん、久しいな・・・モルデオ、スイ」
頭には2つの角。燃えるような赤い髪に、赤い瞳。口の隙間から見える鋭い牙。がっしりとした体躯の周囲には、紫色の魔力を纏っている。スイとモルデオは、頭をあげその姿を目の当たりにすると、恍惚な表情を見せていた。
「フッフッフッ・・・どうやら人間どもは我を完全に滅することは出来なかったようだな。あれからどのくらいだ?」
「五百年、でございます麗しき魔王陛下」
「そうか・・・五百年。随分と空気も変わったと思ったが、それほどに時間がかかったか。流石だな・・・あの人間は。だが・・・人間とは老いるもの。もうあれほどの人間は居るまい」
人間の寿命は、魔族よりも遥かに短い。五百年もすれば、記憶さえも失われているだろう。だが、魔族は違う。しかと覚えているのだ。
「・・・モルデオ、同胞たちはどうしている?」
「多くは滅しましたが、それでも細々と力を拡げて参りました。魔物らも陛下の復活に影響され、暴れだしておるところです」
「なるほど・・・まぁよい。では、景気祝いと行きたいところだ。忌々しいリンガルの力はない。ならば、女神とやらを信じている愚かな神官どもを血祭りにあげてみようか」
過去に己を追い詰めた者たちは、先に始末しなければならない。既に死者であったとしても、その繋ぎをした女神の力は厄介なものだった。ならば、攻める場所は決まっている。
「決起祝いと行くか・・・スイ、行くか」
「勿論でございますわ。妾も是非この手で葬って差し上げたいですから」
「ふっ、変わらぬな・・・では、留守を頼む」
「畏まりました」
頭を下げるモルデオに満足したのか、魔王は不適な笑みを見せる。その背にある羽を羽ばたかせると、魔力を纏わせて上空へ飛び上がった。スイもそれに続く。空を飛ぶことは、魔族が得意とする魔法の一つだ。その身に宿す膨大な力が可能にしている。
「あくまで小手調べだ。我を楽しませてくれるものはいるだろうな、人間どもよ」
「我が君、神官どもの国は南西ですわ」
「・・・変わっていない、か。さぁ、行くとしよう」
「御意にございます」
2つの大きな力が南西へと向かって飛んでいった。
※※※※※※※※※
英雄の後継者が誕生していた頃、旧リンガル帝国の帝都跡。紫がかった雲が覆い尽くしている地には、滅びた城があった。所々の壁にひび割れがあり、今にも崩れそうになっている。人が生活していくことは出来ないだろうが、それ以外の者たちならば関係はない。そう、魔族ならば。
城跡の地下深く。マグマが猛っている側に、その姿はあった。
『コォォォ・・・』
「・・・そろそろ、かのう」
「モルデオ、魔王陛下の様子は?」
「クックックッ、漸くじゃ・・・滅ぼされてから、五百年。永い時を費やしたものよ・・・じゃが、まもなく力は満ちるじゃろう。待ち切れなんだか、スイよ」
見かけは人と変わらないが、二人ともその肌は黒、瞳は真っ赤。魔族の特徴的な姿だ。まるで老人のような風貌をしているのがモルデオ。その種族は、妖魔。もう一人は女性の姿。耳は尖っており歯の一部は鋭い牙がある。サキュバスと呼ばれる種族のスイだ。
見た目からはわからないが、二人とも五百年以上を生き抜いている。
「待ちきれない・・・確かにそうね。ずっとずっと、待ち焦がれていた瞬間がもうすぐ来ると思うと、動悸が止まらないわ」
「フォフォ、じゃろうな」
「・・・この日をずっと待っていた。あの人間に・・・妾に屈辱を味合わせた人間を必ずこの手で殺してやるわ」
頬を火照らせ微笑むスイ。唇を舌で舐め、薄く空いた口から牙が覗きだす。
「愛憎しという奴じゃな・・・恐ろしい女よ」
「うふふ」
その瞬間、マグマが雄叫びを上げるようにうねる。バッとモルデオもスイも、マグマを見上げた。
力を蓄えた存在は、紫色の焔となってその形を現してくる。焔の中から創られた姿。その背には6枚の羽。人形に良く似た形で、羽を広げ地に降り立つ。
圧倒的な力を感じ、モルデオとスイは膝を折る。
「・・・お待ちしておりました、我らが魔王陛下」
「我が君、よくぞ再び・・・」
「ふん、久しいな・・・モルデオ、スイ」
頭には2つの角。燃えるような赤い髪に、赤い瞳。口の隙間から見える鋭い牙。がっしりとした体躯の周囲には、紫色の魔力を纏っている。スイとモルデオは、頭をあげその姿を目の当たりにすると、恍惚な表情を見せていた。
「フッフッフッ・・・どうやら人間どもは我を完全に滅することは出来なかったようだな。あれからどのくらいだ?」
「五百年、でございます麗しき魔王陛下」
「そうか・・・五百年。随分と空気も変わったと思ったが、それほどに時間がかかったか。流石だな・・・あの人間は。だが・・・人間とは老いるもの。もうあれほどの人間は居るまい」
人間の寿命は、魔族よりも遥かに短い。五百年もすれば、記憶さえも失われているだろう。だが、魔族は違う。しかと覚えているのだ。
「・・・モルデオ、同胞たちはどうしている?」
「多くは滅しましたが、それでも細々と力を拡げて参りました。魔物らも陛下の復活に影響され、暴れだしておるところです」
「なるほど・・・まぁよい。では、景気祝いと行きたいところだ。忌々しいリンガルの力はない。ならば、女神とやらを信じている愚かな神官どもを血祭りにあげてみようか」
過去に己を追い詰めた者たちは、先に始末しなければならない。既に死者であったとしても、その繋ぎをした女神の力は厄介なものだった。ならば、攻める場所は決まっている。
「決起祝いと行くか・・・スイ、行くか」
「勿論でございますわ。妾も是非この手で葬って差し上げたいですから」
「ふっ、変わらぬな・・・では、留守を頼む」
「畏まりました」
頭を下げるモルデオに満足したのか、魔王は不適な笑みを見せる。その背にある羽を羽ばたかせると、魔力を纏わせて上空へ飛び上がった。スイもそれに続く。空を飛ぶことは、魔族が得意とする魔法の一つだ。その身に宿す膨大な力が可能にしている。
「あくまで小手調べだ。我を楽しませてくれるものはいるだろうな、人間どもよ」
「我が君、神官どもの国は南西ですわ」
「・・・変わっていない、か。さぁ、行くとしよう」
「御意にございます」
2つの大きな力が南西へと向かって飛んでいった。
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